(転生しました)5
ジョニー達は屋敷の裏口から参歩に出た。
仮父は使用人であるから、出退勤は裏口からなのだ。
「おとうさん、どこへゆくの」
「今日のところはこの辺りの散歩だな。
どういう所に住んでいるのか、ジョニーに見て覚えて欲しいな」
「わかった」
この辺りは一言で言うと、金満住宅街。
平民の富裕層が住む区画だった。
その中を散歩して回った。
我が家より大きい屋敷も幾つか。
小さな屋敷も当然あった。
共通してるのは警備員を雇用していたこと。
アレックス父さんが言う。
「この区画は安全だけど、油断はいけないよ。
色んな人がいるからね。
だから、危ないと思ったら大声で助けを求めること。
分ったかい、息子よ」
「はい、おとうさん」
後ろを付いて来るソフィアの明るい笑い声が聞こえた。
「うっふっふ」
「ねえさん、おおきくくちをあけてわらうと、むしがはいるよ」
散歩に慣れて来ると、母から新たな指示が為された。
ソフィアに。
「ソフィア、散歩前にジョニーの朝の座学を頼みますね」
「私で宜しいのですか」
「まだ五才だから、貴女でも大丈夫よ。
読み書き、それに足し算引き算。
それくらいよ、頼みますね」
「はい、お任せください」
母はアレックスにも指示した。
「この辺りを覚えたのなら、少し足を延ばしてもいいわ。
商店街とか市場街とか、ね。
市場街の食堂での昼食もいいわね」
「奥様の工房は」
「まだ子供には早いわ。
色々な物があるから怪我させたくないの」
「それもそうですね」
座学は問題なかった。
何故なら事前に学習済みだったから。
お師匠様が始祖龍の叡智から、抜粋ではあるが、
この世界の文明文化を教えてくれた。
それも睡眠学習で。
ジョニーの《並列処理》を活用しての睡眠学習。
小憎らしいことに、一切漏れなく大脳に刻み込んでくれた。
勿論、その事実は口にはしない、
教えてくれるソフィァに、素知らぬ顔で付き合った。
あくまでも無垢な五才児を演じた。
「ねえソフィア、このかきかたでいいの」
足を延ばした商店街は雑多の一言。
布地店、家具店、ポーション店、薬師店、パン店、道具店等々。
様々な店が軒を並べていた。
なかでも一番多いのはリサイクル専業の店。
中古服専門店、中古武具店、古本店等々。
それぞれの店の売り子が競うように声を上げていた。
「本日は一割引きです」
「それならうちは二割引きです」
「吟味した物だけを並べています」
市場街は商店街をさらに猥雑にしたもの。
見える範囲、屋台や露店ばかり。
まるで蚤の市。
フリーマーケットや泥棒市を思わせた。
一角では農家が新鮮な野菜や果物が並べていた。
アレックスやソフィアは慣れてるようで、気軽に声をかけた。
「この煙草はどこのだ」
「バナナの季節なのね」
昼食はアレックスの提案で市場街の真ん中にある広場に移動した。
途中、鼻を擽る好い香りが漂って来た。
焼肉、カレー、ラーメン、ケバブ。
着いた広場はフリースペースになっていた。
多目的広場で、休憩可、飲食可であった。
椅子とテーブルが乱雑に置かれていた。
その一つに着いた。
アレックスが言う。
「何か食べたい物があるか」
「ぼくははじめてだから、おまかせで」
「私はケバブです」
アレックスが買いに行った。
それを見送り、ソフィアがジョニーに尋ねた。
「ジョニー、疲れてないの」
「ねえさん、ぼくわかいからだいじょうぶだよ」
「あら、私は年寄りだと言いたいの」
「まさか、ねえさんはわかいよ。
それにきれいだし」
「まあ、この正直者。
ご褒美にケバブを分けて上げる」
ジョニーはソフィアの相手をしながら、《サーチ》を起動した。
足裏から地を介して、気になった者達を視た。
冒険者の一団。
四人組のAランクパーティ。
それぞれスキルを持っていたが、数で両親を超える者はいなかった。
やはりうちの両親はおかしかった。
アレックスが戻って来た。
大きなお盆に三人分を載せていた。
ジョニーにはカレーとジュース。
ソフィアにはケバブとジュース。
本人は焼肉とライス、ジュース。
ジョニーはカレーは初めてだった。
それを知ってるソフィアが言う。
「ちょっと辛いけど、この店のは美味しいわよ」
さっそく、スプーンで一口。
本当に辛い、けど我慢できる辛さ。
そして後から来る、旨味。
んー、癖になりそう。
屋敷には裏口から戻った。
アレックスと分れ、ソフィアを連れて本館に入った。
廊下で妹とメイドに遭遇した。
マリナがリリーを抱いていた。
擦れ違った際にマリナの鼻がピクピク。
カレーやケバブの匂いに気付いた様子。
でも何も尋ねない。
ところがリリーは違った。
ジョニーの服を掴んだ。
ジョニーが立ち止まると、顔を寄せて来た。
否、鼻を寄せて来た。
ジョニーの口元に鼻を寄せて、クンクンと嗅いだ。
何やら嬉しそうな顔。
いきなりジョニーの口元をペロリペロリ。
穏やかな日々が続いた。
ジョニー、六才の春に母が弟を生んだ。
名前はトム。
付けられたメイドはヒラリー。
執事、ダミアンの縁戚の娘だ。
目出度い筈なんだが、何だか様子がおかしい。
母も父も、執事夫妻も。




