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(紅葉ヶ原 鬼の口)1

 『鬼の口』は巨石で封じられていた。

巨石がどうやって運ばれて来たのか、それは伝えられていない。

巨石に加えて結界も張られ、あらゆる者の出入りを阻んでいた。

その結界に関しても伝えられていない。

誰もが推測するのはただ一人、役小角。


 山伏の長老、常陸は考えた末に指示をした。

「洞窟へ向かう。

警戒して進め。

ただし、危ういと思ったら足を止めろ」

 健脚の山伏達が駆け出した。

それを残りが追う。

紅葉ヶ原の中ほどの所で異変を感じた。

健脚達が足を止めた。

これまで見た事の無い光景が広がっていた。

小さな岩が辺り一帯に散乱していた。

追い付いた常陸が岩の一つに触れた。

「結界の残滓がある。

おそらく洞窟を封じていた岩だ。

こちらに散乱して・・・、洞窟内から壊されたのか」

「それは」

「『鬼の口』と呼ばれてるから、おそらくは鬼だ」

 それぞれ思うところが有るようで、互いに顔を見合わせた。

「「「鬼が出たのですか」」」


 一人が言う。

「『鬼の口』の方角から何やら聞こえます」

 別の一人が言う。

「泣いているような、唸っているような」

 常陸が耳を澄ませた。

頷いて言う。

「確かに、尋常でない声だな。

これよりは慎重に進む。

円也、先を行け」

「おう」

 腕っぷしではこの中では一番。

元が武士だけに戦いにも長けていた。

その円也を先頭にして、一団二十七名が紅葉ヶ原の奥へ向かった。


 散乱する岩に躓かぬように一団は進んだ。

常陸は、声の様子から複数と判断した。

暫しすると、「鬼の口」が見える所で円也が足を止めた。

洞窟の前を指し示した。

「あれは・・・、大きい。

あの大きさは人では有り得ません。

確かに鬼ですな」

 常陸が円也に並んだ。

月明かりが、人の二倍ほどの者達を照らしていた。

数は三体。

実に異様な者達だ。

毛深く、額に角も見えた。

半裸に近い恰好で、何やら言い争っている様子。

常陸はその奥の「鬼の口」に視線を転じた。

洞窟を封じていた巨石は欠片もなかった。

やはり内から破壊された、そう判断しても間違いないだろう。


 常陸は健脚の一人を呼び寄せた。

「お主、宿坊へ戻り、見たままを報告しろ」

「承知」

 その者が駆け去ると、円也を含めた二十一名に指示した。

「すまぬが、あれらを屠ってくれ。

出来るか、出来ぬなら引き下がるが」

 円也が即答した。

「誰に言っておる。

任せろ。

鬼退治をするだけだ」

 二十名が頷いた。

常陸を含めた年寄り五名は後方へ下がった。


 円也が仲間達を三組に分けた。

一体につき七名。

退治する段取りを説明し終えると三方に別れた。

遠巻きに包囲し、しだいに絞って行く予定でいた。


 鬼の一体が一際大きな声を上げた。

周囲を見回した。

包囲する気配を感じたのか、山伏たちの臭いか。

残り二体も応じた。

これまた周囲を見回した。

焦れたのか、一体が月を見上げながら咆哮した。

驚いた獣達が一斉に逃げ出した。

鳥達は夜空に飛び立った。


 黒猫ヤマトは前方から来る人影に気付いて草陰に身を伏せた。

山伏達がバラバラに現われた。

白い頭巾を失い、白い装束を鮮血に染めていた。

擦れ違う全員が顔色を失っていた。

逃げるので精一杯なのだろう。

足下を見ていない数人が転んだ。

 ヤマトは身を起こした。

彼等が逃げて来た方向を見遣った。

どうやら戦いはまだ続けられている模様。

怒鳴り声と悲鳴が聞こえて来た。


 ヤマトは飛ぶように先を急いた。

紅葉ヶ原に入った。

途中から、散乱していた小岩から小岩へ跳ぶ。

そして、前方にそれを見た。

額に角を生やした毛深きもの。

二本足である事から鬼の種・・・、なのだろうか。

太い棍棒を振り回して山伏達と遣り合っていた。


 山伏達は形勢が悪かった。

途中で擦れ違った者達の様子でも分かるが、

力任せの三体に押されていた。

実際、目の前で一人が棍棒でぶちのめされた。

とっ、ぶちのめした側は一瞥するのみで、仕留めようとはしない。

放置し、次の山伏を相手にした。

もしかして、遊んでいる・・・。


 ヤマトは【始祖龍の加護】《サーチ》を起動した。

視た。

山伏達のスキルはハッキリ視えた。

武士にも負けぬ腕前ばかり。

中でも一番強いのは円也。


「名前、円也。

種別、人族。

年齢、28才。

現状、普通。

性別、雄。

出身地、紀伊。

住所、山城。

職業、山伏。

ランク、C。

HP、75/125。

MP、0/5。

スキル、錫杖術上級、薙刀術上級。

ユニークスキル、なし。

加護、なし」


 ところが鬼らしき三体は何の表示もされない。

何故だ何故だ。


 ヤマトの脳内で音がした。

ピロロ~ン、ピロロ~ン。

続いて声がした。

「始祖龍の叡智を一部開放します」

 途端、ヤマトは頭に痛みを感じた。

叡智の一部が流れ込んで来たのだ。

我慢できずに倒れ伏し、草地を転がった。

ゴロニャン、ゴロニャン、ゴロニャン。

 脳内に叡智の一部が収まり、痛みが消えた。

ヤマトは警戒しながら、ゆるりと起き上がった。

再度サーチした。

今度は視えた。


「名前、バギオ。

種別、オーガ族。

年齢、35才。

現状、神隠し。

性別、雄。

出身地、ルメール。

住所、山城。

職業、戦士。

ランク、A。

HP、113/175。

MP、19/35。

スキル、身体強化上級、棍棒術中級。

ユニークスキル、なし。

加護、なし」

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