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5話 当てにならない

「あのね。私ね、痛いの。」


「………。」


「すごくね、痛くて。辛い。どうしたら良いのかな。」


「………。……ツライ? イタイ?」


「……?」


「…タイ………コロシタイ?」


「コロシタイ。」


「いや…殺したいだなんて…そんなこと言ってはだめでしょう。でも。いなくなってくれたら…どれだけ楽になるんだろう。」


「シン、で、欲しい?」


「死んでほしいとかじゃ…あ、いや…うん。」


() ()() ()() ()() ()() ()()




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


         


 土曜日、繁華街で越野のことを聞いてから、私は2人のことを考え、胸が締め付けられる思いで日曜日を過ごした。そして、あっという間に月曜日を迎えた。私は重い足取りで学校に向かった。


           月曜日


 今日、黒井さんが珍しく欠席していた。今日は大事な模試があるというのに、なぜだろう。そして、相変わらず澤野 ミホは姿を現さない。もちろん…1組では、越野の姿も見当たらない。理事長に、越野とミホの関係性や、2人同時に行方がわからなくなっていて、今一緒に居る可能性が高いということを話しておいた方がいいよね。ちゃんと話、聞いてくれるだろうか。 そんなことを考えているうちに、1人の生徒が私に話しかけてきた。


「せんせ、あの…黒井さんについて、ちょっと話したいことがあって…。」


黒井さんについて?何のことだろう。

「ええ。彼女今日は珍しく休んでるわね。彼女が何か?」


「実は…私、黒井さんと家が近くて、よく学校外で見かけることがあるんです。それで…その…。前までは、普通にお互い見かけたら挨拶してたっていうか。」


あぁ、そういえば、黒井さんの家は学校よりもさらに山奥にあると聞いたことがある。この学校よりも山奥といえば、今にも崩れそうな古民家がちらほら見られるだけで、そのほとんどが空き家か老人の棲家だ。それに、ここの学校の生徒のほとんどが山を下った先にある住宅街からスクールバスで来ているから、この山近辺から歩いて通学しているのは黒井さんと彼女くらいだとも聞いた。


「あら、黒井さんと家が近いのね。…それで、黒井さんがどうかした?」


「……。最近あの子変なんです。この前…猫を…いじめてた。」


「へ?どういうこと?」


「この近くに…廃校があるんです。あ…近くといっても、ここから大体15分くらい山奥に進んだところだけど。この学校ができる以前の山ノ上中学校です。お化けが出るって噂もあってか、町内の人ですら近づかないようなとこだし、だいぶ山奥なんで、通学路としては黒井さんしか通らないような場所なんですけど。そこ、以前から野良猫が住みついてて。私の家とは一本違う道にあるんですけど、猫好きなんでよく覗いてたんです。それでこの前…約2週間前かな、夜中の1時くらいに、涼みに外をぶらついてたら…。猫の鳴き声が聞こえて。咄嗟に廃校へ向かったんです。そしたら…。暗くてよく見えなかったけど…背が低くて猫背、ボブくらいの髪型で、明らかに黒井さんっぽい人が猫の尻尾を握り掴んでぶらぶらさせてたんです。猫は…私が見た時、すでにぐったりしていました。黒井さんがそんなわけないって、何度も思ったけど、でも、あの時間にあの場所に気軽に行けて、尚且つあのシルエットの感じときたら…。黒井さんしか考えられなくって。私、怖くて怖くて。どうしたらいいのかわかんなくなって。次の日の朝、登校前にもう一度確認しに廃校に寄ってみたら、猫は…。バラバラになって…ぅプ…か、カラスが目玉を突いてて…。」


私は何が何だかよく話が整理出来ぬまま相槌を打った。

「お、落ち着いて。大丈夫だから。それで…黒井さんには何か聞いたの?」


「い…いや、聞けてないです。怖くて。それ以降、廃校にも近づいてない…。」


うーん。色々ありすぎて話聞いてるこっちが疲れてきた。この子は夢でもみたんじゃないのか。そう思いながら話を締めくくろうとした。

「そっか…。ありがとう。今日も大事な模試なのに休んでるし、黒井さん、ストレスが溜まっているのかも。私が話聞いとくね?」


その時だった。


「待ってください。大事な話、あるんです。」


彼女は真剣な眼差しで、震えかけた唇を一生懸命に軋ませて言った。


「さっき話した廃校、元は山ノ上中学校の校舎だった…から、澤野家が所有してるんです。それで…ミホちゃんはよく…その、男の人連れて、中に入ってたりして。学校帰りとか、廃校方面に向かってくの見たことあって。多分ミホちゃん、そこの鍵持ってるから、校舎内に入ったりして、遊んでるんだと思う。」


私はなぜか嫌な予感を感じ始めた。ブラウスが汗で徐々に皮膚に張り付いていく感覚に、悪寒しながら、聞いた。


「そ、その男の人って、毎回一緒?隣のクラスの越野くんって子だったりする?」


すると、彼女は言った。


「はい。それで…ミホちゃんが学校来なくなった日の前日の放課後、私は2人が廃校の方に向かってくの、見たんです。それで…その日以降、越野さんも学校に来なくなったんですよね?私…なんか嫌な予感がして…。ちなみにその日、黒井さんは終礼後急ぎ足でクラスを出て行きました。」


私はすかさず、聞いた。


「え。つまり、あなたは2人の失踪に黒井さんが関わっているんじゃないか…と思うわけ?そんなので黒井さんが疑われちゃ、かわいそうよ。」


「先生。気づいてたでしょ。黒井さん、いじめられてたんだよ。ミホちゃんに。しかも、前に体育のクラスで、越野くんにボールぶつけられてた。みんなにクスクス笑われて、あんなの私だったら耐えらんないよ。そんな2人に、復讐しようと考えてたら?猫殺して、おかしくなって…。何するかわかんない。しかもあそこんち、シングルマザーで肝心の母親は毎日夜勤だから夜は自由だし。」


「それにね、私、ほんとに怖いんです。黒井さん…。いじめられるようになって、しばらく経った頃から、何かおかしくって。夜中、廃校の周りを徘徊してるのはそうなんですけど…話が通じないっていうか…。挨拶しても、ずっと笑ってて。顔つきも、何だか学校にいる時とは違くって。なんかもう…。耐えらんない…。」


正直、私には彼女のいうことがあまり想像つかなかった。なぜなら、外見の気味の悪さは以前からあるが、内面的にはおとなしく、基本的にいじめられても感情を表に出すようなところはみたことがないからだ。だから、黒井さんの何を恐れているのか、本当に理解できなかった。ただし、彼女の強張った表情からは、嘘をついているとも思えなかった。


ただし、そんな彼女の発言に、とても引っかかるところが見つかった。

『行方不明になる直前、2人は廃校に向かっていた』

これは、これまでの話と辻褄があう。

付き合っていることを周りに極力知られないようにしてきた2人。授業後、生徒のほとんどが校門から出るスクールバスで下山する。繁華街やショッピングモールがあるのも無論、山の下であるから、放課後にわざわざ学校付近にとどまるものなどいない。そんな中で、2人が他の生徒たちにバレぬよう、一目につかないところで遊ぶ、となると、学校を離れるのではなく、むしろ学校近くの山に残っている方が良い。そこで、ミホと越野は、サワノ家の所有物である廃校で、2人きりの時間を楽しむ。


…だとしたら、その後2人はどこへ?そこが問題なのだ。

彼女のいう、「黒井さんが怪しい」というのは全く当てにならないので置いといて…。そもそも廃校を秘密基地がわりに使っている、という可能性も?


よし、決めた。今日の放課後、廃校に行ってみよう。


あ、その前に、大事な模試を休んだ黒井さんに、電話をしなくては。

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