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転生したら没落貴族だったので、【呪言】を極めて家族を救います  作者: メソポ・たみあ
第4章 偽物

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第51話 どうか安らかに


『ウ……アアァ……』


 ボリヴィオ伯爵を飲み込んだ【呪霊】は、ゆっくりと僕の方へ振り向く。


 まるで冬眠から目覚めたヒグマみたいに、のっそりと、重々しく。


 仮面を着けた、巨大な紫色の影。

 おぞましい〝呪詛〟の塊。


 ――そっくりだ。


 三年前にフォレストエンド領で会った、あの【呪霊】と。


 見る者に恐怖を植え付ける、この世のモノとは思えない異物感。


 全身に鳥肌が立ち、寒気がする。


 その異様な出で立ちは、まさしく特級の【呪霊】と呼ぶに相応しい。


 ――だけど、だ。


 僕は三年前より、恐怖や圧迫感を感じなかった。


 【呪霊】に慣れたから?

 それとも身体や精神が成長したから?


 ……ううん、違う。


 これは――


『ア…………ア…………』


 ズルリ、ズルリと床を這って僕に近付いて来る【呪霊】。


 その動きはあまりにも緩慢で――なんだか酷く弱っている(・・・・・)ように見えた。


「キミは……」


 ――憔悴している。

 いや、消耗している。


 特級の階位であるなら、本来であれば莫大な魔力を持っているはず。


 なのに、それがほとんど感じられない。


 まるでボリヴィオ伯爵を襲って、最後の力を使い果たしたと言わんばかりだ。


 ……僕は直感的にわかった。


 これは【呪物】の魔力源として、散々魔力を消費させられた結果なのだと。


 【呪霊】を脅威たらしめる、激しい憎悪や怒り、そしてこの世への未練。


 それら負のエネルギーすら風前の灯火になってしまうほど……使って使って使い潰された、その末の姿なのだと。


 ……そういえば、街の人たちが教えてくれたよね。


 グレガーが来てから火事が多くなったり、変な病気が流行ったり色々あったって。


 きっと、その悪行の数々に無理矢理魔力を使わされ続けたのだ。


 あるいはそれ以外にも、色んな場面で魔力を使わされてきたのかもしれない。


 そうやって徐々に徐々に魔力を擦り減らしていって――もはや見る影もないほど、衰弱してしまったのだろう。


「……」


 僕は【呪霊】が近付いてくるのを待つ。


 そして弱々しくも〝呪詛〟に塗れた手が僕に触れる直前――喉の〝刻印〟に魔力を込めた。


『――【〝ルドヴィーク〟】【〝僕の声が聞こえる?〟】』


『ア……――』


 ピタリ、と【呪霊】の腕が止まる。


『――【〝本当につらかったね〟】【〝今まで助けてあげられなくて、ごめんよ〟】』


『ァ……アァ……――』


「――【〝僕にできることは、もうあまりないかもしれない〟】【〝でも最後に、キミの過去を見せてほしいんだ〟】』


『……――』


『――【〝キミの無念は〟】【〝僕が受け継ぐよ〟】』


 僕は言う。


 ――【呪霊(ルドヴィーク)】は人差し指を伸ばし、ゆっくりと僕の額に指先を付ける。


 直後、頭の中に景色(・・)が見えてきた。


『どうして教えたことができないんだ! この親不孝者めが!』


 貴族の男性――なんとなくボリヴィオ伯爵に似ているだろうか?


 もしかすると、何代も前のグズバシャ家の先祖かもしれない。


 そのボリヴィオ伯爵似の貴族は、僕に暴力を振るってくる。


 いや――これは僕ではなく〝ルドヴィーク〟の視点か。


『お前には魔術の才能があるんだ! 言われた通りにできないなど認めぬぞ! 教育! 教育!』


『お前は、グズバシャ家の権力をもっと大きくできる可能性を持っているのだ! 何故それがわからん!』


『いずれはグズバシャ家の全てを与えてやると言っているのに、なにがそんなに不服なのだ!? 生意気なガキめ!』


 何度も〝ルドヴィーク〟の顔が殴られる。


 彼のすすり泣く声が、僕の頭の中に響いてくる。


『……母、だと? フン、お前の母などとっくに追い出してやったわ。妾のくせに、グズバシャ家の教育に口を出そうとしおって』


『なっ……父親に逆らうというのか! このガキ、優しくしていればつけ上がりおって!』


 ゴキッ、という鈍い音がする。


 殴った拍子になにか(・・・)が折れた音だ。


『うっ……!? し、しまった、やってしまった……! ワシは悪くない! コイツが言うことを聞かなかったのが悪いんだ!』


『ル、ルドヴィーク……!? お前、死んだのでは――うわあああぁぁぁッ!!!』


 ――景色(・・)は、ここで終わる。


 そうか……ルドヴィーク、キミが【呪霊】となった理由がよくわかったよ。


 グズバシャ家の妾の子として生まれたせいで、母親から引き離され、毒親の父からは暴力を振るわれた末に命を落とした。


 やっぱり……キミも被害者だったんだね。


 こんなの、死んでも死に切れなくて当然だ。


『ア……アァ……』


 まるで泣いているように呻き声を上げる【呪霊(ルドヴィーク)】。


 ……魔力がどんどん弱まってる。

 まるで心臓の鼓動が弱くなっていくみたいに。


 たぶん彼はもう、長く現界してはいられない。


『――【〝最期に、なにか聞いてあげられることはある?〟】』


 僕は尋ねる。


 すると、仮面にピシッとヒビが入る。


 そして完全に砕け散って、【呪霊】の全身がザアッと塵のように消滅。


 中から、一人の少年が現れた。


 年齢はおそらく六~七歳。

 僕よりも少し背の高い、優し気な顔の少年が。


『……お母さんに……大好きって……伝えて……』


『――【〝わかった〟】【〝必ず伝えるよ〟】』


『ありがとう……』


 ルドヴィークはそう言い残し、ゆっくりと消えていく。


 そして一匹の光り輝く蝶になり、どこかへと飛んで行った。


 きっと天国に向かうんだろう。

 三年前に会った、あの子と同じように。


「……ルドヴィーク、どうか安らかに」


 この一件が終わったら……彼のお母さんを探さなきゃ、ね。

 仮に、それがお墓(・・)だったとしても。


 蝶が消えるのを見届けた僕は、屋敷の奥をキッと睨む。


「――クーちゃんの後を、追わなきゃ」



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[一言] この世界呪霊いっぱい生まれてそうだな…
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