その正体に気付いて
さて、霧散した、と表現したが今しがた姿を消したこの勇者さんらしき人物は表現通り霧のように体が塵となって眼前から消えたのを目撃した。
恐ろしいことに、今回の勇者さんは足音がほとんど聞こえず気配も無い。そのうえ体を塵のように細かくして視認出来なくしてしまえるようで、これでは勇者と言うよりニンジャだ。
あの目立つ見た目をこんな手法で隠して侵入しているとは思わず、城の中を走り回っていたが、もしかしたら最初から背中を追われていたのかもしれない。
目の前に居ながら見失ってしまうほど卓越した透過能力であるならば、背後を取られ例え気配を察知して振り返っても気付けやしないだろう。
しかしエンカウントするのがわたしで本当に良かったと心から思う。
仮に魔王さまが勇者さんの侵入に気付いていたとしても、音も気配も姿も見えない相手に攻撃されたら避けようがない。
そして魔王さまは今現在この勇者さんの情報を何も知らずに今も中庭で優雅なひとときを過ごしている。魔王さまの安息の時間を邪魔させるわけにはいかない!
わたしは魔王さまに情報を伝えようと走り出そうとしたまさにそのときだった。
目の前の空間がかすかにおかしな光の反射をした。
それはまるでそこに何かが居るような、輪郭を浮き上がらせるような光の揺らぎ。
舞い上がる埃のなかにわずかでも確かな異変を感じたわたしはハッと気付いて周りの空気に流れをつくり周囲の埃を舞わせた。
霊体だから念を送れば、ほんのわずかではあるものの、そよ風を吹かす程度は出来るのを確認済みだったため、それを活かす時は今しかないと思った。というか扇風機より弱いから役に立てない!
しかしこの条件の中なら話は違う。
相手は霧のように体を分散して隠れたように見えたけれど、実際にはそんなことなかったのである。
舞い上がる埃が広い廊下の何もないところで確かな人の輪郭を象り、姿を隠した勇者さんの正体を露にするのだった。
「そこですね。お覚悟!」
正体を見破ったわたしは即座に跳びかかり心臓めがけて手を伸ばした。
姿を隠していたにも関わらず居場所がバレたことに気付いた勇者さんは慌てるように再び飛び退こうとしたのだが、体勢を崩してしまったのか足を滑らせる。
胸に手を伸ばしていたわたしも空振りして勢い余って前のめりに倒れてしまった。
バタバタっと響く二つの音。わたしは勇者さんを押し倒した形で二人仲良く重なってしまった。
いたたた、と幽霊なのに痛いような声をついつい出してしまいながらどこか怪我していないか、これもまたクセで手や膝を見ようとした。
フニ。
不意に指になにやら柔らかな肌触りを感じた。
見てみれば、倒れ来んだ際に空ぶった右手は相手の胸をハズし、勇者さんの股間に添えられていた。
ワーオ、これはとんだラッキースケベだ。あ、いやいやこれはとんだ役得だ。いろいろ違う、コイツは僥倖だ。
人体の真ん中はだいたい急所であり股間もまた同様。というかデリケートなゾーンだ。
勇者さんには悪いけれど今回は生かして帰すわけにはいきません。このような暗殺に特化した能力、放っておけば次は必ず魔王さまの首を取られてしまうだろう。
そんなことを許せるはずありません。わたしの大切な魔王さまを害する者は、例え正義を掲げる勇者さんだろうと平和を愛する聖者だろうと刃をみせれば全て敵。老若男女関係ない。
そしてどんな敵でも急所を突いた以上わたしは離しません。絶対にここで息の根を止めてアッでもちょっとお触りするくらいは良いかも。こんなフニフニの感触、しかも美しい女性の。
魔王さまへの背信となってしまうかもしれませんがわたくし黒兼白子はこの不徳を我慢出来ない性分。どうか、どうか瞬きの間の背徳に目を瞑って頂きたいのです。
たとえ魔王さまの前でも盛り上がってしまった理性でこの柔肌を揉む手を止められようものか。否!断じて否!これは不可抗力なのです!
揉みしだく度に肉体を無くしたこの魂の有りもしない心臓の高鳴る思いが一層興奮を促し手つきも艶かしく、熱く盛り上がった昂るそれを擦りあげるように「ん?」
アレ?んん?なんだこの感触。最初は柔らかかったハズの手触りが、あれ?えっ?なにこの感触わたし知らない。
自分のと全然違うし、やたら熱いし固いし、ビクビクして・・・あ、でもこっちは知ってる形・・・。
困惑し混乱する頭でわたしは自分が握っているそれがなんなのか、相手の前掛けのような布をめくりあげ、そこにあるモノを確認した。
わたしはそんなモノ知らなかった。触れたことも擦ったことも。ただ見慣れたモノもありはした。
凸も凹もあった。
「・・・愛隷烙印」
それを握ったまま相手の鼠径部に精神を隷属させる烙印を施した。
ほぼ無意識だった。
★WINNER 白子☆
「おお、戻った・・・また勇者を捕まえてきたのか、貴様というやつは。
我は討ち滅ぼせと命じたのに何故貴様はそう何度も持ち帰って来るのだ。オイ聞いているのか?
そもそも仕事を与えるとは言えソイツらと我は勇者と魔王。敵同士であろう。それを下僕として使役するなど悪魔的ではないか。
まあ今回も?貴様の従者として捕まえて来たのだろうから、飯炊きだろうと清掃員だろうと勝手にやれば良かろう。我は関係ないもんね。
・・・・・・オイ、本当に聞いているのか貴様?顔真っ赤だし、鼻血も出てるではないか」
魔王さまのもとに、もどった。元勇者さん連れてきた。わたしも元勇者さんも顔真っ赤だった。宇宙は頭の中にあった。
★終劇☆




