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魔王守護者のハーレム★ちょっとまってね勇者さん☆  作者: マルポ02
魔王さまに呼ばれて
4/12

ティータイムは静寂の中で

 ある晴れた午後の昼下がり。昨日さくじつ新たに仕えることになった新米コックの振る舞う昼食を食べ終え魔王さまも腹鼓はらつづみし、食後の休憩として訪れた魔王城の中庭に設けられた小さな庭園。その中央に建てられたガゼボの下。


 テーブルもイスも白で統一され清楚な感じの、いかにも西洋庭園を思わせる風景の中、テーブルに運ばれて来たカップに注がれたやさしい紅茶の香りを堪能して頬を緩め一口飲む。

 紅茶の香りが鼻を抜けていく後味を感じながらどこからか聞こえる小鳥のさえずりや草花の揺らぐ音に耳を澄まし、ひとときの平穏を謳歌し堪能する魔王さま。


フワリと広がる赤黒いゴスロリドレスから伸びる白く綺麗な手足。普段結ばれているツインテールをほどいてサラリと流れる長い黒髪を風が優しく撫でて靡かせる。

 絵物語の中から出てきたようなその美しい佇まいに見惚れるばかりのわたしは黒兼白子くろがねしろこ。今日は彼女のティータイムに同席させていただいています。


 魔王さまの向いの席に座り彼女の優雅にくつろぐ姿をうっとりと見ていた。

 わたし自身の体が霊体のために飲食することが出来ないし、空腹感や食欲も死んでからまったくと言って良いほど沸いてこないため、人の三大欲求のうち食欲だけが欠落している。しかし不思議なもので、睡眠はしっかり出来るのだ。

 

 そのためわたしはティータイムでも紅茶を飲むことなく、代わりに魔王さまと一緒に過ごすこの静かなひとときを満喫して心を癒していた。


 ま、いつだって魔王さまのお顔を見ていればわたしの心は癒されるんですけれどね。

 ホッソリとした指先でカップを持つ手と、腕を上げた時にチラリと見える袖の中の腕。

 カップに口を付けて口の中に紅茶を迎え入れる時に目を閉じて香りに集中し、口に含んだあとの細く開かれた目。

 液体が喉を通る際にかすかに上下する細い喉。小さく漏れる吐息が通る薄い桃色の唇。

 魔王さまの一挙手一投足を見逃さず、その仕草の中に時折垣間見れる年相応の少女らしい面をマジマジと見ていた。


 飲み干したカップをテーブルに置くと、近くで控えていた元焔の勇者さんであり現魔王城に勤めるコックのリタが静かに近寄る。



「紅茶のおかわりはいりますか?」


「ああ、もう一杯もらおう」



 魔王さまの返事を聞くとすぐにティーポットから新たに紅茶をカップへと注ぐ。

 彼女の給仕の振る舞いは様になってきており、装いを魔術師を思わせる身形からわたしのリクエストで清潔感のあるクラシカルなメイド衣装に変えたことで、最初こそこ粗忽な所作をみせていた彼女も教育を行うことでその見た目に相応しい振る舞いを出来るようになった。

 ちなみに厨房で料理を作る際にはコック用の衣服を着用している。



「ずいぶんと様になりましたねリタ。気配りもキチンと出来て偉いよ」



 こうして出来た時にはちゃんと褒めてあげる優秀な上司の教育の賜物だろう。いちいち叱咤するより出来たことを褒めて伸ばせば他の部分も引かれて成長していく。人は褒められて成長するものなのですよ。


 リタは小さくはにかむと頭をペコリと下げ、わたしはその頭を撫でた。

 本当は少し褒められるともっと、もっと、とせがまれるのだが今は魔王さまの前。TPOをわきまえて我慢しているのだろう。我慢した分、あとでお部屋でいっぱい可愛がってあげるとしよう。



「・・・っ、で、ではお夕食の仕込みもあるのでっ、しつれいします」



 一礼してその場を去っていくリタ。彼女の仕事は紅茶を淹れるだけではなく朝昼夕の食事の他、ティータイムに食べれるお菓子も作ったりと大忙しである。

 


「よく働くものだな」


「ええ、ほんとうに。あの娘なりに魔王さまのためになろうと頑張っているんです」


「我ではなく、貴様に。だろう?」



 魔王さまはリタが居る時には控えていたのか、あからさまに不機嫌そうにへの字口でそう言った。

 


「貴様の調略でこちら側に回っただけに過ぎん。

 我への忠誠だって、死にたくない一心で媚びへつらってるだに違いないだろう」


「まあまあ。魔王さま、そう言ってあげないでください。

 あの娘、作った料理を褒められると本当によろこんで、また頑張ってくれるんですよ。お昼だって、デザートまで用意してくれて」


「ふ、ふん。デザートなど、我頼んでないもん。勝手にあの小娘が作っただけだもん」


「ふ~~ん?そのわりには嬉しそうにイチゴムース食べてましたよね」



 ギクリと分かりやすく反応する魔王さま。本当に美味しかっただろうに、わざわざ言い訳してまでリタを邪険に扱うこともないと思いつつ、敵対していた勇者さんをすぐに信用することは出来ないことも理解出来る。

 しかし自分へ向けられた誠意を無下にも出来ない魔王さまの不器用さもまた愛らしく。こうしてことのあとにわたしに小言を言ってリタ本人へ直接当たり強く接しないようにしている。

 わたしにクッションとしてもたれかかっているように感じられて、わたしは大変満足しておりますいやもうダイレクトに寄りかかっていただいても良いんですけどねっ!!!


 こうしたぎこちない関係も時が解決する問題ではありますし、そこにわたしが可干渉してお互いの本心のノイズになってはいけませんからね。わたしは壁、わたしは天井、わたしは空気。

 伝わらない部分のフォローだけをして険悪にならないよう、あとはゆっくりと信頼し合えることを祈るだけです。


 あーでもでも、わたしを差し置いて仲良ししちゃうのはジェラシー感じてしまうので、わたし自身もしっかりと両者との関係を構築していかないと。目指すはハーレム女の花園。



「とにかく、我はまだあの小娘を信じたわけではないからな。歯向かった時は容赦しないから覚えておけ」


「そんなことにはならないと思いますけど・・・」



 そう言いながらリタが去っていったあとを見る。

 彼女が通ったガーデンタイルは薄い土埃が被って汚れており、その両脇を彩るはずの花壇は花を差し置いてどこからか運ばれてきたであろう背の低い木が生えており、それに絡まるようにツタが伸びきっている。


 わたしたちがくつろいでいるガゼボだって柱の表面塗装が剥げかけているしテーブルとイスも埃を拭き取ってから使っている。


 やはり屋内と同じようにこの城全体に手が行き届いてないようだ。


 リタにも使う範囲で清掃を任せているものの、厨房と自室以外の場所はコックとして働いているとどうしても限界がある。


 この城にはやはりわたしと魔王さまとリタ以外の人が居なく、そのわりに施設は充実している。

 かつては多くの使用人が仕え、多くの来客があったのだろうか。客室や住み込みの部屋も用意されている。


 彼らはどこへ行ってしまったのだろうか。何故魔王さまはこの広い魔王城に一人で暮らしていたのだろうか。


 一人で居て、魔王さまは寂しくはなかったのだろうか。



「どうした。やはりあの小娘が心配か?」


「えっ、いえいえ、そういうのじゃないんですが・・・」



 ずっとわき見をしていたせいか魔王さまはフンスと聞いてきた。

 わたしもこの城のことは直接魔王さまに聞かなければならないだろうと思い、意を決して問い質してみようとした時だった。


 魔王さまの面持ちが神妙になり何かを感じ取ったようで、わたしは嫌な予感が過った。



「・・・勇者さん、ですか?」



 魔王さまはコクリと頷いて返した。


 わたしはすぐに立ち上がり魔王さまに指示を仰いだ。

 魔王さまは静かに紅茶を飲んでいた。



「勇者を見付け出して討滅せよ」








★勇者襲来☆






 わたしはそれから中庭を出ると屋内を探し回った。

 玄関の大広間や各階の廊下、部屋の中、別館。しかしそこのどこにも勇者さんは見当たらなかった。


 わたしは一度立ち止まり、おかしいな、魔王さまの直感が外れたのかな?と首を捻った。

 そのときだった。



トッ



 背後で足音のような廊下を蹴る音が聞こえてわたしは後ろを振り返った。



 しかしそこにはなんの影もなく、廊下の景色は変わらずたまった埃が舞い上がっていた。



 気のせいか、と思い正面に向き直った。するとそこには先程と違う光景があった。


 いつのまにか自分の少し先の場所には人影がうずくまっていた。


 全身を白の衣服で身を包んだ人物で、白く美しい髪が舞い上がった埃と共に差し込む光によってキラキラと光を反射して、まるでダイヤモンドダストのように輝いていた。



「・・・だれですか・・・勇者さん、ですか?」



 おそるおそる声をかけるとそのうずくまっていた人物は体勢をそのままに、ゆっくりとこちらに振り返った。


 フワリと揺れる白い髪の向こう。振り返ったその人の姿を見て、思わずわたしは口から息が漏れた。


 その人物は漆黒の肌をしていて髪の隙間から飛び出た長い耳の中頃にクリスタルの耳飾りを刺しており、青く深い瞳にわたしは生唾を飲んだ。


 だがその人物はわたしの問いかけには答える様子がなく、わたしを見て幽霊でも見るような顔でわたしの顔を凝視していた。


 わたしは何かをこの人を驚かすようなことをしただろうか、と思い近付いて聞いてみることにした。


 すると振り返ってから動かなかったその人は後ろに飛び退いて距離を取った。その時何かが光を反射しながらわたしを通り抜けていき、背後でカッと何かが刺さる音がした。


 今度はわたしがゆっくりと振り返りながら廊下の先の壁を見ると、そこには銀のナイフが刺さっていた。


 動きはほぼ見えていなかった。

 しかしそこに明確な殺意が込められていることがわかるとわたしは正面に向き直り、続けて声をかけようとした。

 しかしその人物は目の前にいたにも関わらず霧のように霧散して姿を消したのだった。


 




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