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千の線  作者: 七海トモマル
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無垢

こぶしくらいの大きさの、

小さな赤ん坊のような粘土細工。

小さくワァワァと騒いでいる。

粘土細工師は仕掛けだという。

ここから出られない仕掛けだという。

意味のあることを、騒いでいるわけではないだろう。

でも、ネネは粘土細工の小さなものが、

何かを悲しんでいるように聞こえた。

命とは仕掛け。

でも、その仕掛けが、悲しみを宿すことはあるだろうか。

ネネにはよくわからない。

「外に出られないんですね」

ネネはつぶやいた。

粘土細工師はうなずいた。

「さよう、ここで生きていく仕掛けだ」

粘土細工がざわめく。

かすかな声がこだまする。

木々がざわめく。

ネネには木の感情を読み取ることが出来ない。

普通出来ないと思うが、

ネネは木々にも何かしらの感情みたいなものがあるように思われた。

何かを伝えようとしている。

そんな気がした。


ネネは木を一つ見た。

何千年も生きているように見える木だ。

土の上に根を張って、

雄雄しく優しくそこにいる。

ネネはその木に近づく。

そっと触れてみる。

ネネの手から、何かが伝わる気がする

その木からネネへ、何かが流れ込むような気がした。

ネネはそっと目を閉じる。

命を宿した水のような感じ。

ネネの海の中に、一滴水が入ってきて、

その水が波紋を広げていくような気がした。

ざわざわざわ。

木々が揺れる。

ネネの海の中が清いもので満ちた感じ。

浄化されたような気がした。


ネネは目を開いた。

変わらず木がそこにある。

「ありがとう」

ネネは木に語りかけた。

風が吹いて、木々がざわざわと鳴った。

やっぱり木の感情はわからないが、

人間の言葉で、どういたしましてと、そんなことに近い気がした。


「木の心を分けてもらったか」

粘土細工師がたずねる。

ネネはうなずいた。

「心を開けば何も怖くはない」

「心を開く」

「一つところではなく、どんどん心を開くがいいだろう」

ネネはうなずく。

心を開いたから、木は心に一滴の水をくれたのだ。

「私の粘土細工は心を開きすぎている」

「そうなんだ」

「だから、ここを出ると、自分を失ってしまう」

「うん…」

ネネはなんとなくわかる気がした。

うまく説明できないが、

守られていないと自分を保てないのだと思う。

小さくて弱い命なのだ。


「そなたには、心を開いても折れない強さがある」

ネネはわからない。

ネネはこの小さな命と同じように、

何かのきっかけで折れてしまう心だと思う。

「心を開いていきなさい」

粘土細工師が言う。

ネネはうなずく。

存在を受け入れること。

あるべき姿で受け入れること。

それはとても大切な気がした。

足元で粘土細工がざわめく。


「そういえば」

粘土細工師が話を変える。

「解体屋から仕掛けの噂を聞いたか?」

「仕掛けの噂?」

多分聞いていないとネネは思う。

「噂が風に乗って届いた。どこかに線を切り替える仕掛けがあるという」

「切り替える」

「そうだ」

ネネはどこかでそんなことを聞いた気がする。

解体屋が言っていたのではなく、

今朝方あたりで何か聞いた気がする。

装置といっていただろうか。

もやもやして思い出せない。

「線を切り替えることは運命を変えることにもなる」

「そんなものが本当にあるのかな」

「理屈ではあるだろう。しかし」

「しかし?」

「出会う確率は、とても低いだろう」

ネネはなんとなくわかる。

そんな特別が逢いに来てくれでもしない限り、

多分一生求めても得られないものだ。


「粘土細工師さん」

ネネは呼びかける。

「線を切り替えることが出来たら、何をしたいですか」

「なにもない」

「なにも?」

「なにも」

粘土細工師は、ネネを透き通った目で見つめる。

透き通った目は、なんだか赤ん坊の目のようにきれいだと思った。

ネネは思う。

だから粘土細工に命が宿るのだし、

だから粘土細工は赤ん坊のようなのだと。


風が通り過ぎていく。

無垢とはこういうことかとネネは思った。

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