表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千の線  作者: 七海トモマル
64/151

夢の傷跡

「ネネ!」

うねる風の音に混じって、七海の声がする。

半ば怒鳴っているだろう。

「ただいまから朝凪の町に着陸する」

「わかった!」

ネネも怒鳴る。

身を少し起こす。

前の席で七海が親指を立てて見せた。

「それじゃ、行くぞ!」

七海は戦闘機を操縦する。

ノイズの無い轟々とした風の中を、

戦闘機大和が閃く。


ネネの耳がおかしくなる。

高度の関係なのだろうが、どうもたまったものではない。

ネネは唾液を飲んだりして耐える。

「身体丸めろ!」

七海から怒号が飛ぶ。

ネネは反射的に身体を丸めた。

瞬間、下にすごい衝撃が来た。

地鳴りとか地震みたいな。

ネネは戦闘機が、もう、だめだろうとさえ思った。

じっとしていると、やがて、音がなくなったように感じた。

ネネはそれでもじっとしている。

『ネネ』

ドライブの声で、ネネは動き出した。

『着陸したらしいです』

ネネは身を起こす。

そこは見慣れた、朝凪の町の国道だ。

「ネネ、大丈夫か?」

七海の声がちゃんと聞こえる。

ノイズも無いし、うなる風もない。

ここは朝凪の町の国道の上だ。

ネネはそこまで認識すると、大きくため息をついた。

すごく緊張の連続だった。

「周りが見れなかっただろう」

七海が笑いながら言ってくる。

「うん、すごいノイズだったのは聞こえたけど」

「凪ぎでないと出るんだ。夢の傷跡って呼ばれてる」

「夢の傷跡?」

「夢を見たものが、夢をかなえられずに挫折して」

「挫折」

「うん、それで傷になった嘆きとかが、あの雲に溜まるんだ」

それを聞いて、ネネは思う。

なんて悲しい嘆きなんだろう。

夢をかなえられないって、とても悲しいことだとネネは思った。

ネネにはかなえたい夢の確たるものはない。

それでも、傷跡の叫びは切なく感じた。

ある種夢をかなえつつある、昭和島の流山を取り込むように、

凪ぎでない雲の中に、嘆きが吸い寄せられるのだろう。

「ネネは夢があるかい?」

「わかんない」

ネネは答える。

「小さな夢でもいいさ。持っていたら飲み込まれない」

「七海も夢がある?」

「世界一の戦闘機乗りさ」

七海が笑った気がした。

昭和島でぴかぴかの戦闘機を持っていて、

嘆きの中すら飛べる戦闘機乗り。

どんなノイズも七海にはきかないのだろう。

だって七海は世界一を目指しているのだから。

ネネには夢があるだろうか。

何か小さなものをネネのそこに持っている気がする。

なんだろうか。

『ネネ』

ドライブが話しかける。

「うん?」

『勇者』

ドライブの一言で、ネネの心に映像が出来た気がした。

小さなネネが泣いている。

勇者になりたかったと泣いている。

「あたしの夢かな」

小さなネネは泣き止まない。

勇者になりたいそれが、歪んでいても夢になって、

嘆きの傷跡から守ってくれた。

どんなノイズにも負けない夢で、それは同時に悲しい。

「勇者になりたい」

ネネは言葉に出してみる。

「かっこいいな」

七海が手放しでほめる。

ネネはうなずく。

「勇者になって、大事なものを守るんだ」

夢。多分ネネの夢。

それが心の中にある限り、

かっこ悪くてもネネは生きていける気がした。

「夢があれば生きていけるさ。腹すかせて、かっこ悪くてもな」

「そうかな」

「勇者じゃ腹は膨れないけど、自分に嘘はつかないだろ」

「多分」

「そういうの、俺は好きだな」

七海の言葉にネネはうなずく。

心の中の小さなネネは泣き止まない。

いつか泣き止むときも来る。

ネネはそう願った。


ネネは戦闘機のふたになっているところを開ける。

空気が違う。

ネネの慣れた朝凪の町の空気なのに、

なんだか新鮮に感じた。

ネネは深呼吸をする。

嘆きは感じられなかった。

傷跡は遠くの空に、まだあるのかもしれないが、

朝凪の町はいつものように静かだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ