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千の線  作者: 七海トモマル
145/151

素顔の勇者

「私は嫌です」

勇者は嫌がる。

「心中する気もない、でしょ?」

「ネネと心中するなら、それでもいいです」

「え?」

ネネは思わず聞き返す。

「ネネは大切な人なんです。ネネとなら、心中してもいいです」

「変な事言うんじゃないの」

「まじめです」

勇者のくぐもった声が答える。

ネネは勇者のガントレットを握った。

きつく、きつく。

「そんなことをしても変わりません」

「でも、変だよ」

「ネネは大切な人です」

「どうしてそう思うの?」

「そう思うから、そう思うんです」

ネネはぼんやりと勇者の輪郭を見るような気がする。

なぜだろう、なんだか勇者をずっと知っている気がする。


ぽんとネネの肩を叩かれる。

「ありがとう、友井さん」

タミが微笑んでいる。

「お父さんに導いてくれて、ありがとう」

「一つの結果に過ぎないよ」

「それでも、ありがとう」

タミが微笑む。

「もう、思い残すことないよ」

「え?」

「ありがとう、この場所が最後の場所になってよかった」

ネネの視界がぼやける。

「なんで、みんな」

ネネは言葉にならない気持ちを伝えようとする。

うまく言葉にならない。

「みんな、しあわせに、したいのに、なんで」

ネネはガントレットを握り締める。

タミがその手にそっと触れる。

「あたしは幸せだよ」

「私も幸せです」

「死ぬことは幸せじゃないよ。生きて生きて生き抜いてこそ幸せじゃないか」

ネネは頭を振る。

「生き抜いてここにいるんだもん」

タミが微笑む。

「奪った代価は大きいから、これでチャラに出来ないかと考えてるけどね」

タミはあかんべをした。

ようやく人間らしさをもてたのに、

何でタミがここで失われなくちゃいけないんだ。

戦闘機の音が外から聞こえる。

『こちら七海、ただいま流山さんと一緒に脱出』

がらんがらんと崩れる音がする。

昭和島の中心の、光の池まであと少しだろう。

「お願い、逃げてよ」

ネネは懇願する。

答えない二人を見て、わっとネネは泣き出す。

タミがネネを包む。

勇者がネネを包む。

ネネはみっともないほど泣いている。

こんなにみっともなく泣いたのは、いつ以来だろう。

勇者になれないということより、

これはとても悲しくて、とてもだめなことだ。

ネネは泣いた。泣けばどうなるわけでもないのに、泣いた。


ガラガラと崩れる音が近づいてきている。

ネネは嗚咽の合間で話し出す。

「ドライブ」

『はい』

「そばにいてくれないかな」

『はい』

ドライブはちょこんとネネの肩に鎮座する。

「勇者」

ネネは勇者に声をかける。

「はい」

「ガントレットじゃない勇者の手を見せて」

「はい」

ネネには予感がある。

漠然とした予感。

勇者はガントレットを外す。

そこに表れた荒れた手。

剣を扱うものとは明らかに違う手。

ネネはそっとその手を握る。

わかっていた。

うすうす感づいてた。

「約束守れないかな」

「お互い無理だろうな」

勇者の口調が明らかに変わる。

ぼそぼそとつぶやく。

ネネは荒れた手に頬を当てる。

涙がとめどなくあふれる。

「昔、勇者になれないなんて言って悪かった」

「ああ…」

あれは彼だったのか。

「ずっと謝りたかった」

「時効だよ」

だから彼を知っている気がしたのか。

だから彼が関わってきたのか。

ずっと謝りたかったのだろう。

それが今になってしまったのだろう。

「何でこうなっちゃうんだろうね」

「みんな不器用だからだろうな」

ガラガラと光の池が崩れだす。

ネネが、タミが、勇者が足場を失い崩れる。

落ちるその瞬間ネネは見る。

勇者の兜が壊れるのを、

その下から、よく見た顔が現れること。

「いやだ!」


久我川ハヤトが微笑んでいる。

勇者の鎧をまとったまま、落ちていく。


「いやだいやだいやだ!」

ネネが叫んだその瞬間、

全ての音が止まった。

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