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千の線  作者: 七海トモマル
143/151

おとうさん

流山が、光の池の中から器を取り出す。

それはきらきらと輝き、水をたたえている。

タミがゆっくり降りてくる。

絵画の中のようなワンシーン。

ネネは自分の身体をむちゃくちゃに動かす。

この瞬間を逃すな!

ネネが駆け出す。

タミの反応が遅れる。

まさに器を手にしようとしていたその手で、

タミはネネを吹き飛ばしにかかる。

ネネは突っ込む。

勇者が駆け出す。

タミは勇者を吹き飛ばしにかかる。

どちらつかずになる。

そこをネネは狙う。

勇者は剣を振り下ろす。

ネネは、タミにめがけて鋏を振る。


ジャッ!


小気味いい音が聞こえる。

瞬間、全ての音が止まる。

光の池の水音すら遠ざかる。

タミの周りで何かがばらばらになるような感じがする。

断ったのだ、千の線を。

流山が器を手にしたまま呆然としている。

七海がその場から動けずにいる。

勇者は倒れた。壁に何度も叩きつけられたダメージだろう。

ネネもバランスを崩した。

タミは、何かが落ちたようにへたり込んだ。

バシャン

池の周りで水だらけのその場所で、

ネネが倒れこむ。

「うえっ、ひっく、うえっ」

ネネは倒れたまま、顔だけどうにか上げる。

ネネが心の表に持っている、小さな子の泣き声。

心でないところから聞こえる。

「おかあさん、おかあさん」

聞き覚えのあるそれは、教主とも呼ばれたタミが発していた。

「おかあさん、おかあさん」

ひたすら母を求めて嘆く。

流山がすっとタミのもとへと動く。

「お母さんは、ここにはいないよ」

「おじさんは、誰?」

「おじさんはおじさんだけど、お父さんの代わりになれないかな」

「おとうさん」

「これを持ちなさい」

流山が器を渡そうとする。

理の器だ。

ネネの心にあるレッドラムの線が弱弱しく響いている。

ネネが吸い込んだ千の線の一部に、

古い占い師のうらみの声がする。

(そこまで誰が育ててやったと思うのだ)

(私がいなければ、お前はここに来なかった)

(私を裏切るのか、私に器を与えないのか)

(聞け、佐川タミよ)

ネネは小さく響くその声に、心の声で答える。

(だまれ負け犬)

小さく響く千の線の声は、だんだん小さくなっていく。

(このままでは終わらんぞ)

小さくそういい残すと、声はどこかに消えた。


「器を持ちなさい、そう、手を重ねて」

流山がタミに指示する。

「そうだ、そうそう」

流山はうれしそうだ。

タミは戸惑っている。

「この器持ち主変えることにより、新たな所有者の願いをかなえるものなり」

流山が唱える。

「願い?」

「そうだ、心から願ってることだ」

流山がうなずく。

タミもうなずく。


「お父さんに会いたい。流山さんみたいな、お父さんが欲しい」


『聞き届けよう』

ピーンと何かが響くような声がする。

何か、線の様なものをはじいたような音。

弦楽器のような声。

『変えることは何もない。流山シンジは佐川タミの父親だ』

理の器が宣言する。

タミの目が大きく見開かれる。

見開かれた目から、大粒の涙。

「おとう、さん」

「うん」

「おとうさん、おとうさん」

タミはわっと泣き崩れた。

「ここにいたんだ、お父さんはここにいたんだ」


勇者が立ち上がる。

よたよたとネネのもとにやってくる。

七海もネネのもとにやってくる。

「びっくりですね」

最初に言い出したのは七海だ。

「流山さんの、お子さんだったんですね」

勇者がうなずく。

「映画監督の流山シンジの伝説は、聞いていたけれども」

「けれども?」

「こんな形で関わるとは思ってもみなかった」

「でしょうねぇ」

ネネはどうにか起き上がる。

きっと痣だらけだろうと勝手に思う。

それにしても気になることがある。

千の線はこのままでは終わらない。

何かやらかすつもりだ。

タミが救われて終わりじゃない。

まだ、何かが終わっていない。

ネネはそう感じた。

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