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千の線  作者: 七海トモマル
142/151

許せない

ネネは中空を浮かぶタミの向かって飛ぶ。

水を吸って身体が重い。

「覚悟!」

ネネが鋏を振り回す。

線はぜんぜん切れずに、ネネはバランスを崩して落っこちる。

光の池の水がたくさんあるところに、

ネネはまた落ちる。

ぶくぶくとして、また上がる。

タミが勇者を吹き飛ばしている。

勇者の鎧がぼろぼろになっている。

勇者がすべる。

ネネは勇者の荒い呼吸を感じる。

それでも勇者は立ち上がる。

それでもネネは立ち上がる。

二人同時に踏み込む。

タミは両手を振ると、また、二人を吹き飛ばして、

壁に叩きつける。

ネネは衝撃で目の前が一瞬暗くなる。

心の中の泣き声が、ネネを立ち上がらせる。

壁に叩きつけられようとも、

こんなの痛みに入らない。

「どうして邪魔をするの?」

タミが問いかける。

「許しちゃいけないからだよ」

ネネは肩で息をしながら答える。

「千の線になったそいつを、許しちゃいけないからだよ」

タミがびくりと震える。

「うるさいうるさいうるさい!」

タミの頬に、まだ傷がある。

滴る血は涙のように。

ネネは鋏を握る。

勇者は剣を構える。

「これだけあしらわれているのを、わかっているのに」

タミが手を振る。

それだけでネネは叩きつけられる。

「どうして何度も向かってくる!」

「何度だって向かうさ!」

ネネは叫ぶ。

「何度だって立ち上がる。何度だって立ち向かう」

「無駄なことだと、どうしてわからない!」

「佐川さんは救われていない!」

ネネは言い切る。

感じたことだ。

「理の器を得られれば、救われる!」

ネネは心に感じることがある。

タミの声に似た、小さな子。

「佐川、さん」

ネネは呼びかける。荒い息をついて。

「佐川さんは捻じ曲げようとしているんだ」

タミはネネをにらむ。

「佐川さんは過去を捻じ曲げようとしているんだ」

「だまれ!」

タミが片手を振る。

ネネはまた、壁に叩きつけられた。

「…泣いていた過去を、親のいない過去を、捻じ曲げようとしているんだ」

「だまれだまれだまれ!」

タミが頭を振る。

ネネは立ち上がる。

すぐにバランスを崩してしまう。

「理を変えることを欲していたのは、過去を変えたいからなんだ」

ネネの心の表で、小さな子が泣いている。


「そういうことか」

流山の声がする。

「だから理の器が欲しかったのか」

タミは何も答えない。

「持って行きなさい。それであなたが救われるなら」

流山が動き出す。

光の池に、流山がたどり着く。

「だめだよ流山さん」

七海が抗議する。

「いいんだ」

流山が微笑む。

「子どもが生きていれば、このくらいだろう」

流山が光の池に手を入れる。

「父親らしいことをさせてくれないか」

七海は頭を振る。

「だめだよ。映画を見せるって言ってたじゃないか」

「子どもが救われることのほうが大事だ」

流山はうなずく。

「理の器よ、きたれ」

流山が静かに呼び出す。

光の池がぶるぶると震える。

光がざわめく。

光がたくさんの線を描く。

ネネはうずくまったまま、その様子を見ている。

勇者もうずくまっている。

生きているだろうか。


『ネネ』

ドライブが声をかける。

『理の器を、千の線に持たせてはいけません』

「わかってる」

ネネはつぶやく。

タミは過去を変えたい。

過去を変えることは理に反する。

それすら捻じ曲げようとしている。

タミそのものが消えるかもしれないものだ。

『千の線は、自分の過去を変えようとしています』

「だろうね」

『彼女が器を取りに降りるところを、狙って』

「うん」

ネネは答える。

身体が痛いし重いし、

正直その瞬間を狙えるかはわからない。

でも、やらなければ、めちゃめちゃにされるかもしれないのだ。

ネネは鋏を握った。

タミがゆっくりと降りてきている。

瞬間はすぐだ。

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