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千の線  作者: 七海トモマル
140/151

わからない

勇者がタミに向かって跳躍する。

タミは片手を振って、勇者の跳躍方向を変える。

勇者が光の池のそばまでやってくる。

きらきら光る光の池で、

中空に浮いたタミと、勇者が対峙する。

「流山さん」

勇者が声をかける。

「早く逃げてください」

流山は頭を振る。

「けりをつけないまま、逃げたくはないよ」

流山は弱弱しく言う。

昭和にかける情熱が見えなくなるほど。


ネネが立ち上がる。

ポケットの鋏を握る。

「流山のおじさん」

ネネは言ってみる。

「もしかして、自分の子どもだったらと考えてない?」

流山はピクリと反応する。

「だったら、どうなんだい?」

「わからない」

ネネはポツリと答える。

「流山のおじさんのすることも正しいかもしれない、けど」

「けど?」

「あたしは線を断たなくちゃ」

ネネは前を見据える。

タミが片手を振って、勇者の剣の向きを変えた。

「あたしは勇者じゃない」

「君は君だ」

「勇者じゃないけど、ここまで来た」

「ご苦労なことだ」

「あたしもそう思うよ。ご苦労なことだって」

ネネは苦笑いを浮かべる。

「でもね、あたしもけりをつけたいんだ」

ネネの心の表で、小さな二人が泣いている。

小さなネネと、小さな子。

「泣いているね」

流山がつぶやく。

ネネはうなずく。

七海がわからないという風に二人を見比べる。

「ネネの心の浅いところに、泣いている子どもがいるよ」

流山が説明する。

七海は、泣き声が聞こえないようだ。

「流山のおじさん」

「なんだい?」

「自分の子どもが泣いていたらどうする?」

「わからないよ」

流山はつぶやく。

「子どもの扱いはぜんぜんわからないよ。生まれてすぐに離婚をしたからね」

「抱きしめるだけでもいいんですよ」

「強く抱きしめてもいいだろうか」

「気持ちのままに」


タミが勇者を吹き飛ばす。

相変わらず片手だけであしらわれている。

「流山のおじさん」

ネネが声をかける。

「勇者も流山シンジを知っていましたよ」

流山が驚きの表情になる。

「いってきます」

ネネは一言つぶやくと、タミに向けて駆け出した。

鋏を構える。

突風はこの空間では使えない。

ネネの線と、タミの千の線がごちゃごちゃになっていて、

光の中で異様な空間になっている。

(自分の線まで断つかもしれない)

ネネは踏み込みきれない。

そこをタミに吹き飛ばされる。

勇者とネネをあしらうのは、片手では追いつかないらしい。

(おびえよ、去れ)

ネネは心に語りかける。

(自分の線を断ってもいい、タミの千の線を断て)

飛ばされたネネは立ち上がる。

目に力を持たせる感じ。

千の線を身体に入れた、タミが浮かび上がる。

(断て!)

ネネは中空に浮かぶタミへと飛び掛る。

勇者も飛び掛る。

同時に飛ばされる。

勇者の剣の切っ先がタミのほほに当たったらしい。

タミのほほから涙のように血がにじむ。

「何であたしの邪魔をするのよ!」

タミは叫ぶ。

血が滴る。

「未来を限定してきて、未来を奪ってきたこと」

勇者が語る。

「占い師として、未来を奪ってきたことは、許せないことです」

「限定された未来を、皆は喜んだ!」

「代価も取っていた」

「信憑性があると喜んだ!」

「力を得て、捻じ曲げようとしている」

「力を持っているものの特権!」

「特権かもしれないけれど、許されないことです」

勇者は剣を構える。

ネネも鋏を構える。

小さな鋏だけれど、ネネの唯一つの武器だ。

「勇者として、佐川タミを倒します」

勇者が走る。

ネネも走る。

同時に跳躍する。

タミが空間を捻じ曲げる。

再び、嘆きのノイズ。

ネネの目の前が真っ暗になる。

(何で夢がかなわないの)

(おかあさん、おかあさん)

ネネの心の表で泣いている。

その声は佐川タミの声によく似ていた。

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