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千の線  作者: 七海トモマル
123/151

予感

ネネはトートバッグにパンフレットを入れる。

「どうする?」

ネネはハヤトに尋ねた。

「佐川が気になるけれど、どうしようもないと思う」

「やっぱり気になる?」

「何が起きているのか、知りたい」

それはネネも似たようなことを思っている。

一瞬見えた線の化け物。

ネネの妄想かもしれない。

イメージから出てきた幻かもしれない。

あの化け物が代価を食っている。

ネネはそんなイメージを持つ。


「友井」

「なに?」

「朝凪の町にいたのは、他に思い出せるか?」

「他に?」

ネネは考える、そして、一人思い出す。

「辻さん」

「つじ?」

「クラスメイトだよ。家族まで代価にした人」

「いたなぁ…」

「現代国語の時間に悲鳴上げた人」

「いた。そこまでは覚えてる」

「朝凪の町のことは?」

「さっぱりだ。すまん」

「まぁそうだろうね」

ネネは別段気にしない。

「その辻は、どういうことをしていた?」

「新しい名前を持って、朝凪の町のバーバに引き取られた」

「そうか」

ハヤトはうなずく。

「よく覚えていないけど、それなら大丈夫だろう」

「そうだね」

ネネもうなずいた。


ネネは人ごみに目を向ける。

「何をしなくても、いてもいいと思えるって、ありかな」

「なにをしなくても、か」

ハヤトが復唱して、答える。

「それは花だな」

「花?」

「誰に命じられたわけでもなく、花は咲く」

「そうかもしれないけど、違うかもしれない」

「花が美しいのは、何もしていないからだ」

「そうなのかな」

ネネはハヤトを見る。

ハヤトの黒い目が澄んでいるような気がする。

この目で美しいものを見たり、

美しいものを描いたりしているのだろうか。

いろいろな色彩を見て、いろいろなイメージを見て、

混ざっている、それすら飲み込んだ黒い色。

「何もしなくてもいていい。友井がそうであるように、花もそうなんだ」

「なにも」

「占いに導かれることもなく、何をしなければいけない、というもなく」

「うん」

「花のように生きられれば、何もしなくても、きれいだと思う」

「そうなんだ」

「それでいいと俺は思う」

ハヤトがじっとネネを見る。

あまりじっと見たことのない、真っ黒の瞳。

ネネもじっとハヤトの瞳を見る。

ネネが小さく映っているのだろうか。

雑音が遠くに行く。

ハヤトとネネだけの世界。

近づこうとして、ハヤトが目をそらした。

「すまん」

ハヤトが視線をそらしたまま、頭をかく。

「じろじろ見て、すまない」

「あー、別に構わないけど」

ネネもなんだか照れくさい。

お互い見詰め合っていたと思うと、なんだか恥ずかしい。

拡声器の声がまだ響いている。

雑音が戻ってきている。

占いの行列は相変わらずで、

並んでくださいと拡声器が騒いでいる。


「友井は、これからどうする?」

「雑貨でも見るかなと思ってる」

「そうか」

ネネは雑貨を買う気はない。

なんとなく見るだけだ。

「俺も少し見る」

「部屋が散らかってるんじゃなかった?」

「買う気はないけど、見ていると面白い」

「ふぅん」

ネネは思う。一緒だと。

そういうときに限って、面白そうなものを見つけたりする気がする。

ネネは歩き出す。

ハヤトが続く。

不意に、ネネの耳に違和感。

何かが聞こえる。

雑音に混じって聞き取りにくいけれど、ネネの心にざわめき。

ネネが歩く。

かん、かん、

警報だ。

ネネは立ち止まる。

ハヤトも立ち止まり、ネネを不思議そうに見る。

「友井、どうした?」

「よくないことが起きる気がする」

「わかるのか?」

「占いじゃないけど、危ない」

ネネはあたりを見回す。

普通の駅前広場。何が変わっているわけでもない。

何かが起きてしまう。

ネネの耳に、大型の車の走る音が聞こえる。

普段は聞き逃すその音が、なぜか不吉に聞こえた。

音は近づいてくる。

人ごみに向かって。

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