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千の線  作者: 七海トモマル
114/151

荒野に咲く花

ネネと勇者は国道までやってくる。

風が強く吹いている。

何もない国道は、なんとなくではあるが、

アスファルトの荒野のような気がした。

『ネネ』

今までだまっていたドライブが声をかける。

「なに?」

『時間時間』

「ああ…」

戻らなければいけない時間だ。

野暮ったい端末を見ると、赤表示になっている。

「行かなくちゃね」

勇者も端末を確認するようなそぶりをする。

多分勇者もどこかの世界に帰るのだ。

「ネネ」

勇者がネネの名を呼ぶ。

「なに?」

「明日また逢いましょう」

「うん、明日の朝焼けの時間に」

ネネは端末のエンターキーを押す。

光の扉が現れる。

「またね」

勇者はうなずき、ネネは光の扉を開ける感覚を持った。


勇者も帰れただろうか。

勇者は荒野でひとり戦っている、

そんなイメージをネネは持った。

その荒野の花になれないだろうかとネネはイメージする。

花は何もしない、

けれど花は勇者を応援する。

こんな荒野でもあたしは咲けるの。

覚えていて、あたしのこと。

荒野にだって花は咲くのだと。

勇者は多分花を摘まない。

優しくなでてくれるはず。

そしてまた、荒野を歩くのだろう。

胸に花の記憶を抱いて。

花のイメージのネネは、勇者を見送る。

花は枯れ、種になり、わずかな水でまた花になる。

何度も繰り返して、また勇者に逢いたい。

この広い荒野の中で、勇者に逢うために続く、

願いの連鎖。

逢いたいよ。元気かな。あたしは咲いてるよ。

願いは種になり、風に乗って荒野をさまよう。

勇者の心に花束を。

抱えきれないほどの花束を贈ろう。

花になったあたしが勇者の心にそっと根付いて、

勇者を癒してあげたい。

ネネの意識はそこでいったん途切れた。


指が重く感じた。

ネネはいつものように、ベッドに突っ伏していた。

風に乗っていた感覚が思い出せる。

ドライブの突風でなく、

荒野を行く勇者の風に乗って。

勇者は独りぼっちだ。

ネネは花になって勇者のそばにいた。

種になってネネの意識が拡散した。

たくさんのネネになった感覚。

説明がつくものじゃないが、

ネネはそれが心地よいことだったと思う。

『ネネ』

ドライブがそっと声をかけてくる。

『いいイメージに逢いましたね』

「イメージに逢った?」

『はい、多分何かと交差して生まれたものです』

「そうなんだ」

ネネは指を手繰り寄せる。

種だった頃に比べて、重い。

ネネは全体的に重くなった感じがする。

夢はそのうち忘れてしまうだろうか。

ネネは忘れたくないと思った。

勇者の胸に咲く花になったというイメージを、

忘れたくないと思った。


『ネネ』

ドライブが声をかける。

『忘れてもいいんですよ』

「やだよ」

『また、はじめればいいんです』

「それでいいのかな」

『いいんです』

ネネはゆっくり起き上がった。

ベッドの上でドライブがちょこんと鎮座している。

『いいんです。いつでもはじめられますよ』

「勇者はどうかな」

『勇者も、きっとそうですよ』

「どうして」

『ネネが優しいと見抜いた人だからです』

「そっか」

ネネはドライブをつつく。

「そっか、優しいんだね」

『そうなんですよ』

「ドライブは勇者のこと、どう思った?」

『うーん』

ドライブは考え、はなしだす。

『境遇が違えば、友人になれたかもしれません』

「ドライブと?」

『はい』

「なんでまた?今じゃないの?」

『今はだめです』

「そうなんだ」

『そうなんです』

ネネはまた、ドライブをつつく。

「なんでだめなの?」

『説明しづらいですけど、境遇なのです』

「説明になってない」

『言えないことと思ってください』

「ちぇ」


ネネは立ち上がり、カーテンを開ける。

明るい日差しが差し込んでくる。

日曜日の朝だ。


「さて、どうしようね」

ネネは気分だけ新しくした気がした。

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