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千の線  作者: 七海トモマル
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荒れた手の記憶

鼻がくすぐったい。

ネネは大きくくしゃみをした。

『ネネ』

頭の中に声がする。ドライブだ。

「おはよう」

『おはようなのです』

ネネは頭をかく。

ぼさぼさの野暮な髪がまとわりつく。

「ドライブは何か夢を見た?」

ネネがベッドを降りながらたずねる。

『さぁ?』

「手が荒れた人の夢とか、わかる?」

『そんな夢を見たのですか?』

「うん、見たんだけど何がなんだか」

『手が荒れた人に心当たりは?』

「親かなと思ったけど、違うかもしれない」

『ふーむ。頭の中を読んでいないのでわからないのです』

「読む?」

『はいなのです』

ネネは夢のつかみどころのない記憶を引っ張り出す。

手が荒れている誰かがいること、空にまた行くということ。

ネネはサーカスの踊り子をイメージする。

線を辿るのはネネの舞台のような気がすること。

イメージしてドライブに伝える。

『どうもなのです』

「なにかわかった?」

『うーん』

ドライブはうなる。

『ネネが無意識でこの人の手が荒れていると、知っている人』

「無意識か」

『そして、ネネを導いている人ですね』

「導く」

『そのくらいしか、今はわかりませんね』

「そっか」

ネネはネネなりに納得する。

ドライブが全部わかるわけではないのだ。


ネネは制服に着替える。

日曜日だけど、気分的な問題だ。

髪をとかしてまとめる。

ポケットに折りたたんだタミの解答。

腕に野暮な端末をつける。

足にはいつもの渡り靴。

その間にドライブが、帽子の寝床を片付ける。

ネネは鏡に立ってみる。

野暮な女子高校生。

決しておしゃれじゃない。

スカートもちょっと長めだし、化粧もしない。

『それでいいんですよ』

「そうかなぁ」

『きれいな自分を演出したくなってからでいいのです』

「そんなものなのか」

『そんなものですよ』


ネネはドライブに手を差し出す。

ドライブはネネの腕を伝って肩に落ち着く。

「それじゃ、行こうか」

『はいなのです』

ネネは端末のエンターキーを押した。

光が放たれる。

吹き付ける光とは違う感じの光。

光の扉が現れる。

ネネは慎重に光の扉を開いた感覚を持った。

そして、扉をくぐる。


かくんと空を歩く感じがする。

わたわたと、もがく感じがする。

すとんとネネは落ちる。

そこは、木の上だ。

光に拒絶されて落ちた木の上に違いない。

葉の生い茂った木は、ネネの姿を隠しているに違いない。

「戦闘区域なんだよね」

ネネは確認する。

『はいなのです』

「どうすれば安全かな」

『銃声が遠いときに動くべきなのかもです』

ネネは目を閉じて感覚を耳に集中する。

たたたん、たたたん

遠い銃声。

戦っているのだ。多分遠くで。

この近くに火薬のにおいがないような気がする。

ネネはうなずく。降りてみよう。


ネネは足元を確認しながら、木を降りる。

どこかの庭に来ていたらしい。

ネネは庭を見る。銃弾の丸く穿たれた跡がいくつも。

ここも戦闘になりうるのだ。

ネネはステップを踏む。

かんかんかん!

銃声が聞こえなくても、危険なのだ。

ネネは庭から出ようとする。

庭から出れば見渡しのいい通り。

そっとネネは通りに出る。

身の隠し場所はない。けれど、逃げるにはどうにかなるかもしれない。

左右を見て、学校の方向を確かめる。

左だ。

ネネは駆け出す。

かんかんと足音がなっている。

危険上等。構うものか。

ネネは学校に向けて走る。息が乱れない。

導いてくれた荒れた手の人は、学校にいるだろうか。

ぬくもりだけ残して、夢から消えてしまった人。

また、失うのだろうか。


(後悔したくないよ)

ネネは心で言ってみる。

(失いたくないよ)

ネネは断片的にそう思う。

ネネは線を辿る。ロープを走るように。

疾走するネネに風が吹く。

風はネネの野暮な髪を辿る。

学校は目の前まで迫っていた。

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