第50話 変わらないことに安心する勇者
日差しがもう暑い。冷房はまだなくてもいけるかも知れない。
いや、だめだ。26度でも室内はめっちゃ暑い!PSが熱い。自分よりゲーム機が心配やw
読んでくれた皆様!
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ありがとうございます(*'ω'*)
魔王城で何があったかは分からないけど。とりあえず俺は真桜を治療してもらうために知り合いのいる町まで来た。
「それで?もう治った?」
「傷は治ったよ」
「それはなんで起きないの?何か見落としてたりしない?」
「……治癒もできないくせに、私の言うことが信じられないの?」
「え?うん」
「うわぁ〜やっぱり治療するのやめれば良かった」
「ははは。冗談だって。てか俺はお前以上の治癒師を知らん」
「それは褒めてるの?」
「最高の褒め言葉と思うが?」
ジト目で俺を睨んでくるコイツは、昔知り合った治癒師である。始まりの街から魔王城まで着いてきた腐れ縁みたいな感じだけど。
「てか魔王倒しに城に突撃して、それから突然消えたじゃない?んで突然現れたけど何してたの?」
「あー魔王倒しに行ったんだけど。違う世界に逃されてさ〜」
「え?魔王いなくなったの?ならあんたはもういらない子じゃん」
「言い方よ。そん時に追いかけろって神様が俺も飛ばしてさ」
「へーそうなると最近までは魔王も勇者もいない世界だったのか」
窓際に移動して椅子に腰掛けると、そいつは空を眺めながら……
「束の間の平和……もう終わりか〜」
「空を見て、俺を見て溜息とか。相変わらず失礼だよな」
「あら?貴方の辞書に失礼と言う言葉があったの?」
「本当に口が悪いよな」
「貴方に言われたくないよ」
俺に睨むその目つきは治癒師とは思えない。
―コンコン
「はい。何かしら?」
椅子からスッと立ち上がり、スカートを手で叩き皺を伸ばす。こう言う人に見られるところを意識しているのはすごい特技だよな。
「聖女様。入っても大丈夫でしょうか?」
「構いませんわ。入って下さい」
「失礼致します」
扉を開けて入ってくるのは、修道着を着た神官が1人……また1人……そしてまた……
「何人いんだよ!?」
「し、失礼します!」
「勇者様?少しだけお静かに願えますか?」
「あーそうか。今は猫モードか。了解」
神官達に見えないように俺に満面の笑みを見せる聖女様。それを見た神官達は、頬を少し赤らめる。騙されるなー笑顔の裏では邪魔だどこか行けって言ってんだぞー
ここで何か起こす気はないから、ベットで寝る真桜の横の椅子に腰掛ける。
しかし、猫を被る聖女様は凄いなぁ。俺も初めはこんな完璧な人がこの世に存在するんだって思ったもんだ。
「はい。ではそのように」
「私はこの女性の意識が戻り、様子を見て戻ります。仕事を任せる形になってしまい、申し訳ありません」
「そんな!私どもは頼っていただけることに喜びを感じております」
「そうです!聖女様にはいつも助けてばかりなのです」
「今日はゆっくりして下さい。この建物は人払いをして、近づかないことを皆に伝えます」
「有難う御座います」
そうして神官達は部屋を……
「勇者様。くれぐれも聖女様には手を出さないようにお願いしますよ」
「は?俺がシャムを!ないない。おい、手を出さないと言ったのに何故に睨むんだ?」
「相手にしないと言われると、それはそれで聖女様には失礼です」
「じゃぁ〜手を出せと?」
「「「なりません!」」」
あー耳がキーンってする。どう言ってもダメなんだろ?分かったからさっさと行ってくれ。
「皆様。患者様がいらっしゃいます。お静かに」
「「「は、はい!し、失礼致します!」」」
口元に指を当てて静かにと言うジェスチャー。神官達はその愛らしさに声を荒げて部屋を立ち去っていく。静かにって言ったのに逆効果だな。
そして扉が閉まり、窓際に移動したシャム。窓から神官達がいなくなるのを確認すると……
「はぁ〜これで自由だ……」
「なんか。疲れてんな」
「シュウがいなくなって、聖女の仕事が忙しくてね。ずっとあんな感じだし、寝るその時まで油断できないんだよ。そりゃ疲れるでしょ」
「それじゃ猫を被るのやめればいいじゃん」
「えーチヤホヤされるのは好きだからなぁ。純粋な子の方が可愛がられるじゃん?」
「打算もあったのかよ」
「そのおかげで勇者様にもお近づきになれたしね〜」
あの頃の俺は幻想を追う少年だった。そんな純粋な俺にこんな腹黒い奴が近づいてくるなんて。
「まさかこんなに腹黒いことを考えていたとは……」
「シュウのいた世界では顔の見えない相手に、性別を偽る人だっているんでしょ?それに比べたら私は可愛いもんでしょ?一応生物学上は偽ってないんだから」
ネトゲとかの話か?そんなこと前に話したか?まぁいいか。どこの世界でも有利な状況を作るだけの話。しかしこいつはよくそんなこと覚えてたな。
「それよりこの子はどこで拾ってきたの?」
「……やらんぞ?」
「え?何それ?勇者様が特定の人を!?しかも女性!」
「驚くことか?」
「それはそうよ。私には一切手を出してこない上に、周りは男ばかりだったじゃん」
「そんなことはないだろう。シャムにイザナミがいたじゃないか」
「イザナミちゃんは神様なんでしょ?そんな人に手を出すバカじゃないなら、私しかいないじゃん」
「お前はよっぽど自分に自信がおありで」
「え?私は可愛くない?」
まぁ確かに容姿で言えば、男が好む体型に整った顔立ち。可愛くないと言えば嘘になる。だけどな〜こいつは……
「ん……」
「真桜!」
「ちょっと私が可愛いって話は〜?」
「今はそんなことどうだっていいだろう」
「あらあら。勇者様は本気なようね」
「祝君?ここは?」
「ここは俺の知り合いの街だ。魔王城ではないから安心しろ」
「そっか……」
ベッドから起きあがろうとする真桜を支える。枕を背に置き背もたれを作る。
「お優しいこと……」
「この人は?」
「こいつはシャム。昔の知り合いで治療師だ」
「初めまして。私はシャーロット・ムーン・ネコット。僭越ながら治療をさせていただいた者です。痛いところや気分はいかがですか?」
「あ、はい。大丈夫です。少し頭がくらくらしますが、魔力が回復すれば問題ないかと思います」
「意識もはっきりしてますし。受け答えも十分ですね。私の力では魔力?えっと……魔力を補うことは出来ませんので、しばらくこちらでゆっくり養生して下さいね」
「ありがとうございます」
初めて会うんだから仕方がないかもしれないが。こんな口調で喋るシャムを前にすると寒気がする。
「お嬢様。勇者様をお借りしても宜しいでしょうか?部屋や注意事項を話しておきたいのです」
「あ、はい。大丈夫です」
「おいシャム何をそんなに……」
「失礼致しますわ」
そう言うとシャムは俺を引っ張って部屋の外へと連れ出す。
「なんだよ。そんな急いで説明する必要もないだろう?」
「あるわ。何あの子?魔力ってどう言うこと?」
「魔力がどうした?」
「そうか。あんたには常識が欠けてたわね」
「何を言う。こんな常識人を捕まえて」
「冗談はいい。単刀直入に言うけど。魔族よね?しかもかなり上の種族よね?」
「……え?」
なんで突然そんなことを言うんだ?治癒をお願いしただけで何か分かるものなのか?単刀直入ってことは、かなり確信を持っている。これは下手に言い訳したら、もっと面倒なことになりそうだな。
「やっぱり聖女って凄いのな。少し見ただけで気がつくなんて」
「当たり前よ。私は聖女なんだから、あの子が魔族の孤児って……」
「魔王だって気がつくなんて」
「そうそう。魔族の王で魔王……は?」
「え?」
「魔王?」
「それに気がついたんじゃないのか?」
「ははは。だから冗談は…………その顔、本気?」
俺はやってしまったのかも知れない。
「あーもういいか。シャムなら信用できるだろう。そう真桜は魔王だ」
「魔王は魔王?」
「あーじゃなくて、治療してもらったの女の子が真桜って名前で」
「名前が真桜で魔王?」
「そうそう」
頭を抱えるシャム。何かやばいことでもあるのだろうか。
「聖女が魔王を治癒?しかも匿うようなことをするって言うの?」
「ああ。だからここに来た」
「正直、シュウが巻き込んで怪我をさせた子だと思ってたのに……」
「巻き込んでないはずだ。真桜の位置は把握した上で屋根をぶち抜いたからな。あの怪我は俺じゃない魔王城でつけられた」
「やっぱり何かぶっ壊してるじゃない。じゃなくて!」
「ん?何か問題があるのか?」
「問題しかないでしょう!?あーだめだ。シュウと話すとまとまる考えも吹き飛ぶ。ちょっともう一度彼女と話すわよ」
「いってらっしゃい」
「は?あんたも来るんだよ」
再び引っ張られて部屋に入る。それを見ていた真桜が少し驚いている。
「貴女は魔王なの?」
「はい。一応そうだと思います。名乗ったことはありませんけど」
「ちなみに貴女の名前は?」
「真桜です。深淵 真桜って言います。この度は治癒してくれたみたいで、ありがとうございます」
「これは丁寧に……シャーロット・ムーン・ネコットよ。この街で聖女って呼ばれているわ」
「聖女様だったんですか!?馴れ馴れしく喋って申し訳ありません!えっと、どうしたら……」
「そんな気を使わなくていいわ。ここにはシュウしかいないし、私も畏まるの疲れるから」
「はい。ありがとうござ……ありがとうシャーロットさん」
自己紹介も終わったみたいだな。それにしてもシャムは何をそんなに慌ててたんだろうな。
「って!貴女もシュウと同じ属性持ってるの!?何をこんなに溶け込んでるのよ」
「属性?私は水系統が得意だけど。何か溶かすようなことはしてないよ」
「俺は土とか闇だな。水も使えなくはないけど」
「そう言うことじゃなくて。その人のやる気を削ぐと言うか、気を抜く状況を作り出すって言うことなんだけど」
「「そう??」」
「似た者同士!あー話が脱線していく」
再び頭を抱えるシャム。
―パカパカ……
家の外に何かの足音がする。窓に向かって歩き、外を確認する。すると懐かしい顔が馬に乗ってこっちに来る。
「おー本当にシュウだ。久しぶりだな。今までどこにいた?」
「レト?お前こそなんでここに?」
「私が呼んだのよ。勇者がいても護衛は絶対必要だって教会が煩いから。人数割かれても私が落ち着かないから、こいつ1人いれば十分だって言ったのよ」
「聖女様の力一つでパシられる騎士団長って」
「職権濫用だよなー。でも俺も久しぶりにゆっくり出来るし、シュウがいるって聞いたからな即承諾したんだけどな。馬はここに繋いでおくからな」
「ええ」
木に馬の手綱を結び、窓から部屋に入るレト。
「うわぁ。誰か入ってきた」
「おう?こりゃ……シャーロットのこれか?」
「私じゃないわ。シュウのこれよ」
「いや、それは……その」
「あのシュウに素敵な人が出来て俺は嬉しい。初めましてお嬢さん。俺はレト・リーバーだ。この街の騎士団の団長をしている」
「深淵 真桜です。えっと、一応現魔王です。名乗ったことはこれが初めてですけど」
「そうか。勇者を落としたのは、魔王様ってことか。まぁこんだけ可愛くて大きいなら仕方がないな。はっはっは!」
「叩くな。普通に痛い」
見た目は小さいけど、騎士団の団長ともなればしっかり鍛えている。バシバシ俺の背中を叩いているだけでも、普通の人だったら骨を折そうな勢いだ。
「はっはっはぁ?これはなんの冗談だ。俺はお前のパートナーってことで驚いてるんだが。この上に魔王だと?」
「そうみたい。魔王って絶世の美女って話だけど。その噂も嘘じゃなさそうだし」
「確かにな。可愛い顔してるな」
「えぇ!?」
「おいレト。近いんだよ。距離感考えろ」
「おっと!勇者様がヤキモチ妬かれてしまうな。これはすまない」
こいつは人懐っこく、誰に対してもこんな感じで接してくる。昔は勇者様と腫れ物を扱うような兵士達にうんざりしてたけど。それで救われたところも正直あるが……
「真桜に近づくなら話は違う!」
「いやいや。心の中の声を出せっていつも言ってるだろう。自分で解決した答えだけを、俺に言われても分からないって」
「分かれ」
「相変わらず勇者様は横暴だ!昔となんも変わってない」
「お前もな!」
「2人ともお子ちゃまよね。私を見習いなさい」
「「お前が1番変わらねーよ!?」」
「そんなことは!胸は1センチ大きくなったのよ!」
「「ちっさ!?」」
―ドス!!!ドス!!!
「「げはぁ!?」」
相変わらずで何より……しかし、前衛の男2人を地面に伏せさせるって。聖女のくせにどんな腕力してんだよ。肺が空気を欲している。息を吸わねば。
「皆さん仲が良いんですね」
「腐れ縁ってやつよ。変わらないから、私はこいつらと……」
「げほげほ。すぅーはぁー」
「……俺の死体は海に撒いてくれ」
「か弱い女の子の拳で死なないわ。だから私の別宅で治安の悪くなりそうな話はやめて」
ここまで色んなことがあった。でもこいつらはいつも通りだった。
だから俺は迷うことなく真桜を連れて来れたし、もしかすれば今後の戦いのは仲間が必要になるかも知れない。
魔王城で何かが起きている。変わるかも知れない世界のは、変わらない奴らが必要だし。
「すまん。貧乳に触れるのは禁止だった……げはぁ!?」
必要……だよな?
シャム「ホント男はデリカシーがないよね?」
真桜「あーうん。そうかも」
シャム「…………」
真桜「あの〜?じっと何を……」
シャム「神様ぁ!こんなに盛らなくても良いでしょう?なんで!なんでーーー!!!」
真桜「ひゃぁ!?揉まないで下さい!」
祝「……」
レト「アイツも大概デリカシーないよな」
祝「……」
レト「おい。見過ぎだ。止めないと嫌われるぞ」
祝「はっ!?絶景に思考が止まってたわ」