第49話 声が聞こえた気がした魔王
五月病ってきっとあると思う。バッチリ仕事だったけどw
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伊邪那ちゃんに抱き抱えられて、私は戻ってきてしまった。
「もういいわよ」
「……ん?」
恐る恐る目を開けるとそこは、私のよく知る場所だった。
「ここは魔王城?」
「そうだよ。あんまりにも無秩序だったから、奪っておいた」
「へーそうなん…………奪った?」
「そう。私の世界を壊そうとするからね」
「ちなみにどうやって?」
「どうって、そんなの力ずくで!」
眩しいくらいの笑顔にドヤ顔。やってることが祝君と変わらないよ。
「それじゃ入ろうか」
「え?あーうん。お邪魔します」
「はは。自分の家なんだから、遠慮することなんてないよ」
「そうだよね」
……え?今なんて言った?自分の家?
「そんなに警戒しなくていいよ魔王様。殺したりはしないから」
「どうして……」
「それは何の対してかな?どうして魔王って知っているのか?それとも殺さないことに対して?」
「……どっちも」
伊邪那ちゃんがこの世界で神様だってことは、祝君から聞いている。そして魔王を倒すために旅をして、魔王を倒すために現代に行ったことも。
「その顔はある程度シュウから聞いてるってことでいいよね。理由なんてそんなに難しいことじゃないんだ。私は私のために、シュウも貴女も利用するだけのこと」
魔王城に入ってどこに進んでいるかは分からない。伊邪那ちゃんの話を聞きながら、私はただその後ろをついて行くだけ。
前は祝君が攻めて来たから、場内はボロボロだと思ったけど。思った以上に普通だなぁ。
「どこか変な所あるかしら?」
「え?別に何もないよ」
「結構壊れてたから、私が直したのよね。前の内装とは少し違うかも知れないわ」
「やっぱり?祝君が攻めて来たのに、想像以上に普通だなぁって思っただけ」
「あー壊したのは私。ここを奪う時に抵抗して来た奴らが居たからさ」
「え!?」
壊したのは伊邪那ちゃんで直したのも伊邪那ちゃん?どう言うことだろう。祝君なら絶対建物ごと破壊しそうなんだけど。
「……シュウは考えなしに突撃するけど。建物とかは崩したりあまりしないわよ。あまりね」
「え?私声に出してた?」
「真桜は顔に書いてあるから」
「そんなに分かりやすいのかな?」
「そうね。それでシュウに前に聞いたことあるけど。建物破壊して生き埋めにしたら、強い人と戦う機会が減るからとか言ってたわね」
「祝君らしいね」
「戦闘狂だからね」
それは伊邪那ちゃんもだよね?
考えが読まれるかと咄嗟に顔を手で隠したが、伊邪那ちゃんは私を見ずに前を歩いてたから見られなかった。あぶないあぶない。
しばらく歩いて、階段を何個か登ると大きな扉が見えてきた。
「ここは……」
「王の間よ。入るわよ」
―ガチャン、ギギギ……
扉が開くと中に入る。すると伊邪那ちゃんを見るや否や両端に整列。からのすぐさま跪いている魔族達。
「うむ。教育の賜物ね」
「伊邪那ちゃん何したの?」
「ふふっ……何って決まってるじゃない」
すると中央を堂々と歩いて、部屋の真ん中にある玉座に座る。
「この座を貰っただけよ」
「え?」
―パチン
伊邪那ちゃんが指を鳴らすと、後ろの扉が開かれてたくさんの兵士達が入ってくる。私を囲むと腰にある剣を抜く。
「これは……」
どう言うこと?どうして伊邪那ちゃんが私を……って、今はそんなこと考えてる場合じゃない。剣を向けられたってことは、私の言葉ひとつで道が閉ざされる可能性があるってこと。なるべく話を引き延ばして考える時間を作らなきゃ。
「伊邪那ちゃんは何をしたいの?」
「そうね〜知ってる真桜?この世界はね私が手入れをしているのよ。それが勇者と魔王がいなくなったからって、好き勝手暴れる魔族と人族。私がこっちに戻ってきて、まず武力を削ぐ目的で魔族側のこの城に行くじゃない?そしたら見ちゃったのよ」
―パチン
兵士の1人が後ろから何やら大きな額縁を持ってくる。そこには私とお母さんの肖像画があった。
「この絵は小さい子供なんだけど。どこかで見たことあるな〜って探したら出てきたのよ」
もう一枚出てきた……ってでかいな。4人がかりで運んできた額縁には……
「あーこれは……私だね」
「そうだろうね。過去途中ではあるけど。どこからどう見ても真桜よね」
「それで私が魔王の子だと気がついたんだ」
「そうね」
「それじゃ伊邪那ちゃんは魔王になりたいから、私を殺すの?」
「あら?剣を向けられてるのに冷静ね?もう死ぬ準備が出来ているのかしら?」
「…………」
ここはどう答えるべきかな?口元に手を当てる。いつも祝君が考え事をする時の癖。本人はあまり気づいてないけど、いつも見てる私には分かる。これは口元が隠せるから、魔法を使う時に気取られずらい。祝君はきっと知らない間にも周りを気にしているんだろうなぁ。
それはそうと伊邪那ちゃんの口からあんな言葉が出てくるなんて……死ぬ準備ね。
「お母さんが逃してくれて、知らない世界に行っても親切にしてくれた人がいて。口下手な私でも仲良くしてくれた人達いて、とても恵まれていたと思うの。そして出会ってしまった……」
私は……
「死ねない!レイジングストーム!」
「なっ!?」
「うわぁ!?」
私が知る中で1番暴れん坊な魔法。私以外がどうにかなれば、あとはどうとでもなる!
私の周りを回るように激流が兵士達の剣を奪う。そのまま少しずつ範囲を広くしていく。そうしていけば兵士達も激流に飲み込まれ……
「あとは後ろが出口だった……」
「……ライズ」
透き通るような弱々しい声。私が使う魔法で音なんかかき消されそうだけど、その声はすっと私の耳に入ってくる。その言葉の意味が分からないけど。きっと何かくるのは確実。私は正面に手を掲げる。
―ドゴォォォ!!
私の出した水が一瞬のうちに消え去った。したから迫り上がる土によって。
「よし。ちゃんと見えてる。触れる。それならやるのは一つ!イン〜ジェクション!」
「「「ぎゃぁぁぁ!」」」
―ドガァァン!!
「けほけほ。もう少し抑えてもよかったかな。派手にしすぎた。人の声がしたからこっちが出口だよね」
兵士の声で出口だと思う方向へ走り抜ける。迫り上がった土に水を一点集中で噴射。壊しすぎたか土煙がすごい。
「よし。階段だ。こっちが正か……」
「……ニードル」
―ザキッ
「え?あれ?」
走ろうとしたけど上手く走れず、私はその場に倒れ込んでしまう。右足が突然熱くなったんだ。なんだと思って自分の足を見る。
「何これ……」
靴が真っ赤に染まっていて、足の甲の部分に丸く穴が空いている。
「っくぅ!?」
それが怪我して出た自分の血だと理解するのに時間がかかった。何があったかと周りを見ると、それは地面に咲いていた。
「針が地面から咲いている?」
「ただの棘が地面からでてるだけで、気づかれにくいのと地味に痛いのよね。咲いてるって表現は綺麗ね。今度からはそう言うのも意識してみようかしら」
振り返れば伊邪那ちゃんがゆっくりとこちらに歩いてくるのが見える。
「これじゃもう走れない、か。困った」
「ただで死んでくれるなんて思ってないけど。ここまで暴れるとも予想してなかったわ。また玉座の間を直さなきゃね」
「私の中で周りを巻き込む、1番発動が早くて派手なの選んだんだけど。伊邪那ちゃんはピンピンしてるんだね」
「まぁめちゃくちゃやる人の対処は慣れてるから」
それって祝君のことだよね?伊邪那ちゃんはどれだけ一緒にいたのかな……少し嫉妬しちゃうな。
「ふふ」
「何がおかしいの?」
「ごめん。こんな時なのに私は祝君のことばかり考えてるなって思ったら」
「そうね。でも死ぬ前に楽しいことを思い出すのは、人としてあるらしいわよ」
「そう……」
改めて伊邪那ちゃんの口から死ぬって言葉が出た。分かってはいたけど、やっぱり殺す気なんだな。
足を怪我して走れないし、ここには私の味方もいない。それにこんなお城の中じゃ誰も助けに来てくれたりしない。
「助けて……」
私は無意識に言葉に出していた。一度出てしまった言葉のあとは、ただ願いひたすらに声に出すだけ。そうしたら誰かが助けてくれるような気がする。誰かじゃない……私は期待している。
「助けて祝!」
「残念だけど。シュウはこの時間軸には来れないわ。入口に少し細工をしてね。私が住んでる世界に繋がりようにしたの。時空魔法を使えないシュウに、ここに来る術はないのよ」
「でも来るもん!祝君は私を助けるって約束したから!約束を破る人じゃないんだから!」
もうただ祈るしかない。これでダメなら仕方がない。最後まで祝君のことを考えて死んじゃうなら、それはそれで少しだけ幸せなことなのかもしれない。
「それじゃ……」
伊邪那ちゃんが手を振り下ろすと、周りにいた兵士達が私に向かって走ってくる。
「歩けなくたって……私はただじゃ殺されてあげないんだから」
―ビキッ
「魔王様のために!」
「やぁ!」
「魔王様のために!」
「っく」
魔法で追い返しても、すぐに立ち上がり私の元へ来る。これじゃ時間稼ぎすることしかできない。私の魔力が切れた時が私の最後。
「魔王様は優しいのね。しっかり殺さないと貴女が殺されるのよ?」
「私は……私は……」
「覚悟がない人……それじゃ世界は変わらない。変えられない」
―ビキッ、バキバキ……
さっきから何か割れるような音が聞こえる?伊邪那ちゃん達は気にしてないみたいだけど。お城が崩れそうなのかな?
兵士達を押し返してると、視界に入ってくる空間に謎のヒビ。
「ん?この感じは……」
伊邪那ちゃんも何かに気がついたみたい。
「まさか……そんな!?」
―バキバキ……
……て、撃て!
頭に何か聞こえた気がした。私は兵士達に向けた魔法を誰もいない空に向けて魔法を撃った。
―バリバリ……バリィィン!!!
「え!?」
「魔王様のためにぃぃ!」
あ。間に合わない。
私の視界に剣を振り下ろす兵士の人が見えた。思わず目を瞑り私の人生はここで幕を…………
「いやーギリギリって心臓に悪い。今でもバクバクが止まらない」
「え?」
すっと目を開けるといつも見ていた背中が見える。私を守ると言ってくれたでかい背中が……
「祝君……」
「遅くなってすまん。そんなことより……」
「な、何?」
「さっき俺を呼び捨てにしたのにまた戻ったのか?」
「へ?」
「あーすまん。今はそう言う時じゃないか。状況は知らないけど。あの兵士達は敵でいいんだよな?」
「あー、えっと。これはね」
「まぁ真桜に怪我させたんだ…………」
私が何も言わなくても祝君には、この状況を把握したのか相手に向かって敵意を放つ。私でも分かる。息が少しだけ詰まるこの感じ。
「怪我もしてるなら早く誰かに診てもらわないと……時間はかけてられないならやることは……」
すると目の前にいた祝君が消えた。
「ぐぁ!?」
「ぎっ!?」
「あっ?」
瞬き一つする間に1人、また1人と地面に倒れていく兵士達。その体には頭は……
「うっ!?」
「どうした真桜!くそこんな雑魚どもと遊んでる場合じゃないか!少し揺れる掴まれ!邪魔な屋根だな!吹き飛べ!」
―ドゴォォォン!!!
祝君が魔法を撃った。お城の中にいたはずだけど、目の前のはでかい空が……
「大丈夫か真桜!?」
祝君抱えながら私は思った。
「やっぱり祝君は建物も壊しちゃう人だよね」
「え?」
さっきまで死にそうだった私だけど。気が緩んでしまったか、変なことを言ったなって自分でも思う。
私は綺麗な空を視界に移したあと、暗闇へと意識を落とすのであった……。
真桜「やっぱり祝君は建物も壊しちゃう人だよね」
祝「え?真桜?どうした?建物?どう言うことー!?」
祝「って今はそれより……ここはどこだ?したの建物見たことあんな……魔王城?ってことは、あいつはあそこにいるよな」
祝「待ってろ真桜。お前は俺が絶対助ける」