第42話 夢と現実か悩む勇者
今日仕事に行く途中に鶯の鳴き声を聞いた。春なんだな〜って思う(*´ー`*)
寒いから昨日からまたダウンジャケットを出したけど。
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ありがとうございます(*'ω'*)
テストが終わった。3日間で9教科とか訓練より辛かった……特に全教科一夜漬けとか。
「眠い……」
「一夜漬けでテスト受けるからだよ。もう少し復習とか出来ることあったでしょう」
「ここ最近は魔族が出てくるかもしれなくて、訓練とかしてたからで」
「その前からしてなかったけど?」
「……さぁ帰ろうか」
「無理やり話を終わらせたわね。まぁいいけど。ほら、帰るよ真桜ちゃん」
「……もう食べられません」
テストが終わって気が抜けたのか、真桜は机に伏せてすぐに寝てしまった。陽が揺すっても起きる気配がない。
「しばらく寝かしてあげればいいんじゃないか?」
「そうだね……いっくん。真桜を保健室まで運ぶから連れてきて」
「何故保健室?さすがに抱き上げたら起きないか?」
「大丈夫でしょう。ほら行くわよ。荷物は私が持つから」
どうせ寝るなら辛い机ではなく保健室のベットの方がいいだろうと、陽が保健の先生に許可をもらって休ませてもらうことになった。
「一夜漬けで眠いからってベット借りれんだな」
「そんな馬鹿正直に言わないわよ。抱えられて起きない人がいれば、断られたりしないでしょう」
確かに人が抱えられて起きないとか、保健の先生からしたら驚くことだよな。一応脈とか熱はを見てたのは、何もないか念のための確認か。
「それじゃ私は手伝いあるから帰るね」
「え?真桜どうすんだよ」
「いっくん暇でしょ?なら付き添いでいてよ」
「暇だが……」
目の前には目を閉じ眠る真桜。こんな状況で俺は我慢できるか自信ないぞ。
「襲うなら先生来ないか気配は気配りしなさいよ」
「俺が襲う前提なのはどう言うこと?そこは襲うなよって言うところだろ」
「え〜連日一緒に勉強して、無防備な真桜を目の前にいっくんが我慢できると?それこそ無理かな〜あはは」
確かに一緒に勉強してる時も我慢するのがやっとだったことは認めよう。しかしテスト勉強しないといけないし、たまに理事長とか姫ちゃんが扉の外で聞き耳たててたし。
「それじゃまた来週。あーもしかしてまたナギさんのとこに行く感じかな?何かあれば連絡して。それじゃ〜ごゆっくり……ふふ」
最近の陽がうちの母さんみたいにお節介と言うか、発言がおばちゃんみた……
―ブルッ
「急に悪寒が……これは陽なのか?もしかして母さんか?考えるだけでも恐ろしい内容だと言うことか」
おばちゃん発言はやめておこう。本人目の前で言ったらもっとヤバそう。俺の心がおばちゃんと言うワードに黄色信号を出している。直感には従おう。
「…………」
静かだ。保健室は俺と真桜の2人っきり。保健の先生は何故か出て行ったきり帰ってこない。
扉を開けて外を確認する。誰かが聞き耳を立てているかも知れないし……って、別に聞かれて困るようなことはしてないけどな!
「俺の心乱れまくりじゃん……はぁ〜」
真桜の横に椅子を置き、気持ちよさそうな寝顔を眺める。
「寝顔が可愛いな。でもって無防備に寝ちゃって……そい」
頬っぺたをつっついてみる。
「ん……すぅ……」
「危なかった。危うく起こすとこだった」
抱き抱えて運んでも起きなかったから、大丈夫だろうとどこか思ってたのか。それにしてもなんで俺は頬っぺたをつついた?
「何がしたいんだろうな俺は……」
魔王である女の子を守って、一緒に学校で勉強してたりするし。
始めは魔王を倒して異世界に戻ることばかり考えてたけど。いつの間にかそれも考えなくなったよな。最近は魔法も使えるし適度に戦うこともある。向こうみたいに暴れたりはできないけど、いいガス抜きにはなっていると思う。
「……なんか俺も眠いな」
平和なこの時代に慣れてきてしまっている自分がいる。今は魔族が突然来ることがあるから、気を抜きすぎるわけにはいかな…………
♢
いよいよ魔王城。ここまで長かっ……
「いや。俺、最速で魔王攻略してんじゃね?」
「何を1人で突っ込んでるの?」
「ここまで長かったなって思ったけど。俺がこの世界に来てからそんな日は経ってないなって」
「そうですね。歴代でも勇者2年目で魔王城来る馬鹿はいなかったかと思うわ」
「おいおい。馬鹿とはなんだ。優秀な勇者様で神様も鼻高々だろう?」
「ふん。仲間を作らず1人で突き進んだせいで、この私自ら前線に出てるんですけど?」
「何を言っているんだ。イザナミは好きで戦ってるんだろ?」
隣でぶつぶつ文句を言うイザナミ。初めのうちはなんで私がって叫んでたけど。今では俺の後ろについてきて敵を殴り倒している。
自称神様と始めは疑ったりもしたけど、割とこの世界の深いところまで知っていたから本物だろう。分からないことをスマホで調べられる世界じゃないから、知恵袋的存在は役に立った。
「それで?ここには魔王がいるんだよな?」
「いるけど。1人で攻略した勇者はいないし、先代勇者は5人の仲間を連れても失敗してるわ」
「へぇ〜失敗とかあるんだ」
「当たり前でしょう。仲間がいるから俺は負けないとか、ただサボる口実だったし」
「手厳しいね。まぁその点、今回の勇者はちゃんと1年修行して偉くないか?」
「極端なのよ。仲間を大事にする勇者もいれば、全く仲間を作らない勇者。どうしてこんな癖強いのかしら?」
頭を抱えるイザナミ。別に好きで仲間を作らなかった訳じゃない。決して俺が友達を作るのが苦手だからと言うことではない。違うぞ?
「こらーシュウ!お前はまた単独で進んでるんじゃない!」
「なんだ。いたのか騎士団長様」
「ずっと後ろからついてきてたけど?」
「振り切ったけどな!」
「振り切るな!残党処理しながら進むこちらの身にもなれよ」
「ちゃんと倒しやすいように間引いてたはずだけど?」
「イザナミちゃんがな!」
「えっへん!」
俺の後ろから怒鳴ってきたのは、王都の騎士団長。何日か前に魔王城行って来るわ。って言ったら慌てて軍を整備。2、3日待たされたけど、俺について来る部隊を作り上げた。正直言ってこの人数を集めて指揮を取るって、かなり優秀なんだと思っている。
「あ、ちなみにイザナミはただ敵を殴りたかっただけだからな」
「そんなことある訳ないだろう。どれも異常付与をする魔物や殲滅系魔法を使う魔物と、倒すのに苦労する魔物ばかりだったぞ。後ろから来る私達を気遣っての間引きじゃないか」
「ちっちっち。少しでも経験値が入りそうな魔物だけを狙ってるだけだ」
「そんなことないだろう。シュウと違ってイザナミちゃんは良心があるんだ」
「えっへん!」
「神様だからって何かチートでも使ってんのか?」
「なんだって?」
「ナンデモナイ」
良心くらい俺にだってある。ちゃんと進行に邪魔な魔物は一掃しているし。進みにくくならないよう爆破系魔法は使っていない。地形が変われば歩きにくくなるからな。
「さて。騎士団も到着するってことで、俺は城の中で暴れて……揺動してくる」
「今、暴れてくるって……」
「私も城の中で勇者を見習い暴れて……揺動します」
「あぁイザナミちゃんが侵されていく……」
「では行くぞ!」
「一応聞くけど作戦は?」
「中央突破!」
そして俺は剣を抜き駆け出す。今回は全身黒いフルメイル。動きを阻害しない上に素早く動ける神装備。剣は漆黒の大剣を肩に担ぐ。
「しかし、見た目だけは勇者とは思えんな」
「なんだ?黒いフルメイルカッコいいじゃん」
「どこぞの暗黒騎士か?」
「それカッコいいな」
「相手も一瞬同族かと悩む程だと思うわ」
「それは好都合。一瞬の迷いが俺には致命傷だと気付かせてやろう。まぁ気づいた時には終わってるけどな。……今の台詞カッコよくない?」
「黙って前の魔物と戦え」
イザナミと話しながら魔王城を真っ直ぐ進む。口を動かしているようで、手は常に剣を振り回している。
「あそこだけ魔族が多いな」
「シュウは中央突破だと魔族にも作戦がバレているんだろう」
「誰か内通者がいるのか!?」
「いや、全てシュウが行ってきた所業だ」
「ふむ。武勇伝って広まるの早いんだな」
俺の戦いが各方面に話が言っているんだろうか。そうだとしたら俺はもう有名人か?なんか悪くない。
「さぁここを抜ければ魔王との戦闘だぜ!」
「嬉しそうだな。もう魔王はいないのに……」
「え?」
すると足元が急になくなった。足を踏み外し俺は暗い闇の中に落ちる…………
♢
あんなところで足元がないとかどんなトラップだ?
「うわぁ。びっくりした。起きちゃったかな?」
可愛らしい声に気がついた俺。俺はいつの間にか寝てしまったのだろうか?
「起きた?起きてないよね?なんか凄いびくってなったけど」
あー夢で階段から落ちたりするとそう言う反応になるよな。今回は足元が抜けるやつだけど。
「ふふ……祝君の寝顔見れるなってラッキだな私」
なんだろう。凄く起きづらい。目覚した段階で周りの状況を感じる前に起き上がればよかった。俺は今どうなっているんだろう。手は投げ出されたように降ろしている。頭はふかふかしたベットに……俺は気を失ったのか?ってくらい椅子からベットにお辞儀したみたいになってる。
「祝君の疲れちゃったのかな?寝かせてあげたいけど、動かしたら起きちゃうかもだし。そうなったら寝顔も見れなくなるし……このままでいよう」
いっそ動かしてくれれば起きるタイミングなのに、真桜はそれをやらずに見守る選択肢をとった。寝顔を見られてると思うと……緊張する。
「さっきは私の寝顔見てたって言ってたし。おあいこだよね?本当は頬っぺたつついてみたいけど。それやったら起きちゃうよね……むぅ」
真桜はいつから起きてたんだ?頬っぺたつついたのなんて、割と寝かしてからすぐの話じゃないか?
「…………祝君寝てるよね?」
「…………」
なんだか申し訳なくて、俺は寝たふりを続ける。寝顔を見られるのは恥ずかしいが、不自然に起きるのはもっと恥ずかしい。
「頬っぺたって柔らかいのかな?自分でつついてみてもよく分からないなぁ」
真桜と俺じゃ肌の柔らかさは全然違うと思う。それよりつつかれたことそんな気になるのか?
「……少しならいいよね?」
どうやら俺はつつかれるらしい。まぁこれで起きれば不自然さはないだろう。それに俺もやったからこれでおあいこ……
―チュッ
…………え?
「お、起きてないよね?」
今何が起こった?指でつつかれる感覚とは違い、真桜のふわっと香る花の匂い。頬っぺたに触れる柔らかい何か……いや、耳元で聞こえたあの音は何か。俺はそれが何か見なくても分かる。分かってしまったから動けず、起きることもできなかった。
これは……夢かな?そうだ。そうに決まってる。
「あードキドキした。起きてないからって大胆だったかな?でもいいよね?私、勉強中はずっと我慢してたし。嫌じゃないって言ったのに、祝君は何もしてこなかったし」
なになに?めっちゃ喋るじゃん。勉強中も我慢してた?真面目に勉強するって選択肢は間違いだった?そんな訳ない!真桜は真面目な子だし、勉強以外に気が入ってしまってテストがやばくなるかも知れなかったし。
「でもおかしな話だよね。私、魔王なのに勇者に恋しちゃってる……」
こここっ!?いや、落ち着け俺。これは夢だ。俺がなって欲しい未来が理想が、こ、ここにあるだけ。いかん、頭の中でも大パニックだ。夢かどうか確認しようにも頬っぺたをつねる訳にもいかない。頬っぺた……
「ん〜ちょっと眠ったら調子良くなったなぁ。祝君はまだ寝てるし、どうしようかな……」
じっと見られてる気がする。こんな状況で夢かどうか確認も出来ない。でも頭はものすごく冴えている。真桜が言うことを聞き逃さないように。
「つついてみようかな。でも起きちゃうかな?」
真桜はじっと待つことに飽きたのか。今度こそ俺の頬っぺたをつつこうと考えだした。
「でも勿体ない。寝顔見る方が貴重かな。頬っぺたは、起きた時にお願いしてみようかな。でもどうやってお願いしよう。触る機会なんてそうそうない気がするけど」
やめるんかーい!?こうなるといよいよ起きるタイミングがわからない。ん?誰か近づいてくるぞ。
―ガラガラ
「起きました?って今度は神野君が寝てるの?」
「はい。寝ちゃいました」
「ふーん。健全な男女を2人っきりにした私の気遣いを無駄にしたのね」
先生?貴女は一体何を仰っているんですか?
「姫ちゃんから話を聞いていたけど。放課後真面目に勉強してたみたいだし。今の学生は皆そうなのかしら?」
「先生何を言っているんですか?」
「え?あぁピュアな女の子の視線に耐えられない。もう少し大人になったら分かることよ」
「私はもう子供じゃないです」
「ふふ。そうね。立派なレディに失礼だったわね。ごめんなさい。何もしてないことにもどかし過ぎて、つい本音が出てしまったわ」
何言ってんだこの先生は。
「命ちゃんが面白い生徒だと聞いていたのに」
「命ちゃん?」
「あー理事長よ。昔からの友達なの」
それでこんな下世話な性格してるのか。でもさっき陽と話してる時は、普通の先生だったと思うんだけど。
「……ちょっと失礼。せい!」
―スパーン!
「いったぁ!?」
「起きた?それじゃ荷物まとめて下校しなさい。私もテスト終わりで早く帰りたいの」
「え?何?何が起こった?」
―コツコツ
保健室の先生の手にはスリッパが握られている。そうか、俺は叩かれたんだな。てかスリッパって履いてないけど、どこから出した?
「おい。ヘタレな少年」
「誰が……」
「寝たふりするならもっとちゃんとしろ」
「!?」
な!?
「心配するなあの子は気づいていない。ピュアな心の持ち主だからな」
俺にだけ聞こえるように話してくれる先生。
「それじゃ帰りましょう祝君!」
「あぁ……そうだな」
「それではまた来るといい。多少ベッドに皺がつくくらいのことは見逃してやるぞ。だがシミはやめてくれ。新しいのを買うと予算申請する言い訳がめんどくさ……」
「あんたは何言ってんだよ……」
「どう言うこと?」
どう言うことって……言えん。そんなこと。
「説明してもいいが。それは保健体育の先生か親に聞くといい」
「だから!」
「怒るな神野君」
「なんで俺の名前を」
「命から聞いているぞ。この学園で君だけが予測不能な行動をして楽しませてくれると」
「そんなことはないと……思いたい」
「はっはっは。心当たりはあるだろう。おっと、もうこんな時間だ。それでは帰りたまえ」
理事長の友達って言ってたし、類は友を呼ぶってこう言うことだよな。
「あ。ベッド借してくれてありがとうございました!えっと……」
「神倉だ。神倉三葉。みーちゃんと呼んでくれて構わん」
「ありがとうございました!みーちゃん先生」
「本当に呼ぶのか……ピュアとはすごいな」
「あんたが自分で言ったんだからな?」
俺も軽く挨拶をして保健室を後にする。保健室の先生があんな人だったとは。印象が強烈過ぎて、真桜が保健室でやってきたことを忘れそうだよ。
そして帰路は何事もなかったように一緒に帰った。真桜もいつも通りだったし、俺も寝ていたから何もなかったかのように振る舞う。
ヘタレな少年……神倉先生に言われたことだけ、頭の片隅でいつまでも残りそうだけど。
真桜「保健室の先生は良い人で良かったね」
祝「そうか?あの理事長の友達って言うのも、納得が行きすぎるくらい性格ぶっ飛んでそうだけど」
真桜「え?理事長先生も良い人だよ?」
祝「あの人、先生って言うか友達ぽいんだよな」
真桜「あーそれは思うかも。親しみが持てる先生達だよね」
祝「親しみねぇ……」
命「クシュッ!誰か私の噂をしてるな」
三葉「命は理事長らしくないからな。各方面から色々と苦言が来てもおかしくないからね」
命「みーちゃんが言う?下世話な保健室の先生が?」
三葉「失礼な。私は年相応のヤンチャを許す寛大な先生よ?」
命「左様ですか」
三葉「そんなことより今日はどこに飲みに行く?」
命「いつものとこで」