第31話 将来を考える魔王
もう2023年だ。一年があっという間に過ぎてく。そして子供の受験もあと数ヶ月……(*´-`)
このままで行けばきっと……(>人<;)
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ありがとうございます(*'ω'*)
私達は今、伊邪那ちゃんの家にいます。
会わせたい人がいるって、伊邪那ちゃんが祝君を誘って帰ってしまった。そんな私を思ってか、諏訪さんが尾行を提案してくれました。内緒ですって言ったのにバラされてしまいましたが……
「部屋の中は結構綺麗にしているんだな」
「借りているからね。それにお爺様とお婆様に悪いしね」
「ここは4人で暮らしているの?」
「え?あーそうよ。と言っても旅行好きなので、ほとんど家に居る事はないかも」
「そうなんだ」
お爺さんとお婆さんとあの男の方で4人……旅行で居ないって言っているし。って事は夫婦で2人っきり?
「あの!あの男の人がさっき伊邪那ちゃんを……妻って言ってたと思うのですが」
「ええ。旦那よ」
「伊邪那ちゃんは高校生だよね?」
「そうよ。この世界では16歳で結婚出来るんでしょう?何も不思議な事はないわ」
「そ、そうですね!」
なんだろう同じ17歳には見えない。転校して来た時も堂々としていたし。なんか大人の魅力を感じたのは、きっと結婚しているのが関係しているのかも。
「お茶を淹れました。皆様どうぞ」
「俺にもくれるのか」
「礼儀を欠く事は恥である。貴様の罪が消えた訳ではないが、敷居を潜れば客人。おもてなしは当然の事」
キッチンの方で何かしていると思ったら、お茶を淹れてたんだ。そしてテーブルの真ん中に何か丸い物が置かれた。
「これは?」
「これは煎餅だ。お茶にはこれが1番合う。最近の若い娘はあまり好まない者もいるからな。まずは食してみるといい。あ、硬いから気をつけて食べるのだぞ」
ナギさんに言われ、恐る恐る口に運ぶ。
―パクッ…………
硬い。これ全部口に入れるのかな?でもこの大きさは入らないよ。
―バキ、バリバリ……
目の前で祝君が食べている。そうか、噛んで小さくするんだね。
―パクッ………………バキ、バリバリ……
あ、美味しい。口に含んだ僅かな醤油の香り。そしてその後のお茶はほろ苦い感じもするけど、口の中をさっぱりさせてくれる。そして二口目の煎餅の香りを再現してくれる。その繰り返しで……
「あ。もうなくなってしまいました」
「美味いだろう?止まらなくなる組み合わせだろう?」
「はい。とても美味しいです」
「この娘は分かっているな」
「まぁ煎餅は国民に愛された食べ物だからな」
「その通りだ!今では数えきれない数の種類があり、長年味わい続けても終わりが見えない。今も進化し続ける食べ物なのである」
煎餅に対してものすごい思い入れがあるのは、詳しくない私でも伝わってきました。
「はいはい。茶菓子の話はまた今度」
「む。仕方がない。それで今日は何をするんだったか?」
「あなたがシュウを呼んでこいと言ったんですわ」
「あーそうだったな」
ちらっと私と諏訪さんを見るナギさん。
「それじゃ私達はこれで帰りますね」
「え?あ、はい!帰ります。煎餅ありがとうございました」
私達がいたら話しにくい事でもあるのかな。諏訪さんが何かに気がついて、帰ると言ったので私もそれに続く。
「それじゃ」
「うん。伊邪那ちゃんまた学校でね」
「ええ」
「今後も妻と仲良くしてくれると嬉しい。それでは気をつけてお帰り下さい」
「またな。真桜と陽」
3人が伊邪那ちゃん家に残る。あの雰囲気であれば戦ったりしないだろうし。
そして家を出た時に、向かいの家から祝君のお母さんが出てきた。
「こんにちは恵さん」
「あら陽子ちゃん久しぶりね。しばらく見ない間に美人さんになって。真桜ちゃんはこの前のお勉強会ぶりかしら」
「はい!こんにちは」
「2人はこの家の人と知り合い?」
「はい。最近うちのクラスに転校して来た人がここに住んでいるんです」
「遠くにいたって言うお孫さんかしら?祝と同じ年の子がいたんだね。そしてら今度挨拶しておかないとかしら」
「でもお爺さん達は旅行に行ってしまったって言ってました」
「あーそれでここ最近見ないのね。まぁいつか会った時でいいかな。それじゃ私は買い物に行くから。2人ともまた遊びにいらっしゃい」
自転車に乗って颯爽と去っていく。
「恵さんはいい人だよね」
「そうですね。この前勉強会の時も私の蹴りについてたくさん教えて貰いました」
「そう…………蹴り?」
「はい。サンドバックを持っていただきましたし」
「待って待って。え?勉強よね?どうして蹴りが出てくるの?」
「体力が勉強には必要で、勉強の息抜きにスパーリングと言われるものをしました」
「……恵さん変わってるものね」
「そうですか?」
勉強に体力が必要なのは、勉強中に居眠りしちゃうって言ってましたし。そうならない為のスパーリングは、確かに眠気も吹っ飛ぶ効果がありました。
「期末あるし。普通に勉強する?」
「であれば家が近いので、私の家に行きますか?」
「いいわね。あまり人の家に行った事ないから。ちょっと新鮮かも」
「そうと決まれば早く行きましょう!」
「ちょっとそんな走らなくても、私は逃げないわよ」
諏訪さんの手を取り、一緒に自分の家まで走りました。
そして、あっという間に……
「ぜぇ〜はぁ〜……」
「体力ってやっぱり大切よね。これじゃ勉強する体力残ってないわよね」
「ぜぇ〜はぁ〜……」
「ん?家に着いたの?」
喋れない私は、思い腕を上げて自分の家を指す。
「あら真桜ちゃん。おかえりなさい」
「ぜぇ〜ただ…………いま」
「そんな走って。よほど嬉しいことがあったのかしら?」
「ぜぇ〜……はぃ。友……が……」
「そう。女友達が家に来てくれるのが嬉しいのね」
「今のでなんで分かるんですか?」
「ん?真桜ちゃんの顔見てればなんとなく分かるわ。いつも仲良くしてくれてありがとね」
「こちらこそ。真桜さんにはお世話になってます。えっと、お母様?」
「っはっはっは!私はここの大家だよ」
おばちゃんが私の代わりに言葉を代弁してくれる。出会って間もないけど。私もこっちの世界のお母さんって思ってます。この思いを伝えたいけど。まだ喋るのが……
「う!わだ……じ、も」
「嬉しいね。お母さんだと思ってくれるってかい」
気持ちが伝わったので、全力で首を縦に振る。
「なんで今のが分かるの?」
「見てれば分かるさ。真桜ちゃんは分かりやすいからね」
「素直な子ですけど。私にはそこまで……」
「人の顔色を読んだり、目で意思を汲んであげたりは技術がいるかもねぇ。まぁ長く生きれば貴女にも出来るわ」
「そうなんでしょうか?」
そうなんでしょうか?私は顔を見ただけでは、その人がどう思っているか分かりませんけど。諏訪さんもそれは一緒みたいだけど……あ、諏訪さんの気持ちが分かった!これか!
「真桜ちゃんは私が分からない事が、分かったのをこれかって思ってる?」
「え!?凄い!諏訪さんも出来るんだ!」
「おばさま。真桜ちゃんは純粋だから信じちゃいますよ」
「ん?私は本気で言ってるのよ?」
「おや?今帰りですか真桜さん」
爺やが買い物袋を持って帰って来た。
「こんにちは。真桜さんと同じクラスの諏訪陽子です」
「これはご丁寧に。私は真桜さんの叔父で深淵育事です。買い物袋を持ちながら失礼します」
「いえ、こちらこそ足を止めていただきありがとうございます」
「あら?そう言えば爺やさんの名前、初めて聞いた気がするわね」
確かに!私も初めて聞いたかも。なんて言ってたっけ?いく……じぃ?
「それは失礼いたしました。それよりこんなところで何をしていたのですか?」
「おばちゃんが私の心を代弁してくれて。人の顔色とか目の仕草を読みとるんだって」
「ほう。それは凄いスキルですね」
「爺やは私が今、何を考えているか分かる?」
「ふむ…………」
爺やが私を見て考えだす。爺やは小さい頃から私を知っているから、きっと何を考えているか分かるはず。
「今日のおやつはなんだろうですか?」
「違うし!」
「爺やの荷物を持とうかな?でしょうか」
「違うし!って、持つよ」
「大丈夫です。卵もありますから、先に戻ります。お友達もよければお茶でも飲んで行って下さい」
「あ、はい。ありがとうございます」
そうして爺やは階段を上がっていく。結局私の事は当たらなかった。まぁスキルが足りなかったのかな。
「引き止めて悪かったね」
「いえ。お邪魔します」
「おばちゃん!またね!」
おばちゃんと別れて、私達は部屋に入る。
「お邪魔します」
「どうぞどうぞ」
お部屋に招待するってなんかすごく仲の良い友達みたいだよね!祝君に続いて2人目。今度は伊邪那ちゃんも誘ってみようかな。
「生活感ないくらい綺麗ね」
「爺やは綺麗好きだから。鞄とかその辺置くなーとか、制服脱いだらハンガーにかけなさいとか。結構細かいんだよね」
「真桜ちゃんは意外に大雑把だもんね」
「え?私って大雑把?」
「大雑把って言うか、豪快って言うか……」
「豪快?」
「っぷふ!?いや、失礼」
爺やが話を聞いていて吹き出した。なんか失礼だな〜
「真桜さんがどの辺りが豪快だと思ったのですか?」
「爺や。変な事聞かないでよ」
「いいではないですか。あの青年に聞くのはなんだか癪なので……おっと。同姓のお友達から聞きたいではありませんか。真桜の学校の話は、8割以上が彼の話ですし」
「爺や!?」
「彼って、いっくん?」
「はわわ!内緒ですよ諏訪さん!爺やも変な事言わないでよ〜」
勉強するつもりで家に呼んだけど。結局は私の学校での話で終わってしまった。とっても恥ずかしかったけど。嫌ではなかった。なんかお友達ってこんなに良いものなんだと、改めて再認識した日でした。
時間はあっという間。気がつけば何時間も経っていた。
「それじゃ私は帰るわね。勉強は次の機会にでも」
「はい!また来て下さい!」
「爺やさんによろしくね」
「伝えときます」
諏訪さんが帰った後の部屋に1人。心はとても暖かいけど、少しだけ寂しさがあります。
「もう以前みたいな生活も出来ないかもしれない……」
私は勇者に殺されそうになる前に、お母さんがこの世界に飛ばしてくれた。最初はどうしてとか、死ぬなら一緒になんて考えた事もあった。でも爺やが居てくれて、おばちゃんに拾ってもらって。
「祝君……」
そして彼に出会ってから、私の人生は確実に色付き始めた。今は学生をしているけど。いつ何が起こるか分からない。もし勇者と出会ってしまったら?考えなしで魔王城に1人で立ち向かってくる人だから、大切な人を傷つけられたりするかも知れない。
「守ってくれるって言ってたけど。戦いになったら…………私が守ってあげたい」
今日みたいななんでもない日を守りたい。
こんなに将来の事を考えるなんて、魔王城に居た時には考えもしなかっただろうな。
「私、頑張るよ……お母さん」
そうもう居ないお母さんに心の中で決意を伝えた。
真桜「私、頑張るよ……お母さん」
育事「頑張って下さい真桜さん」
おばちゃん「どうしたんだい?扉の前で立って」
育事「いえ。少し入るタイミングが……」
おばちゃん「お友達が帰って少し寂しくなっっちゃったかね?」
育事「そうかも知れませんね」
真桜「あ。爺や。ちょうど帰って来たところなのね?そろそろ夕飯の準備をしましょう」
おばちゃん「若い子は切り替えも早いのね。それじゃ」
真桜「おばちゃんまたね!ほらいつまで外にいるの?」
育事「……はい。ただいま」
真桜「おかえり爺や!」