第28話 気付かされる勇者
勤務地変わる関係で平日は違う業務。頭と体がついてけない。少し書くペースが遅くなってすいません!でも週一は必ず_(:3」z)_
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雨は憂鬱だ……外に出た時に傘がないと濡れてしまう。そして今、俺は空にいる。
「さみぃ……そりゃ鎧って金属だから、冷たくなるのも仕方がないけど」
雨に濡れたくないから雲の上まで来たが、6月だって言うのに寒く感じる。火の魔法で小さい太陽でも作っちゃおうかな?いやいや、そんな事をすれば2つの太陽がとかニュースになる。
「前にやった雲を消し飛ばすか?でもな〜ただ好きじゃないで自然の恵みを消すとか。それはマナにも嫌われそうだ」
イザナミが言っていた通り、最近のマナはものすごく安定している。以前は重力を操って空に浮いていたが、今はこの翼を作り飛んでいる。
「全身黒い鎧に黒い翼。どこからどう見ても魔王だよな……」
空を飛べるようになって、誰にも話を聞かれないから考える時間も独り言も増えた。通りにいる人を鑑定して魔王を探そうとしたけど。雲の上じゃ範囲外。
「そりゃそうか。そもそも人が見えないもんな。どうしようかな……誰かと相談したいけど」
イザナミが都合よく来てくれればいいが。どんな基準でこっちに来るのか分からない。マナが安定すればこっちに来る頻度も上がるかと思ったが。
「そう言えばあの神は引きこもりだったな……」
余程の事を俺がしない限り面倒だと言って来なそう。そうなると後は桐花に相談するか?でも最近公園で会わないんだよな〜まぁ夜で歩くのは危ないし、雨も降る事が増えたしな。
「向こうの世界だと戦いは1人で言ってたが、相談できるやつはいたからな。今頃何してるんだろう」
―ゴロゴロ……
下の雲が雷を帯びているから大雨になりそうだ。
「そうなる前に家に帰ろうかな」
俺は雨がひどくなる前に家にたどり着く。鎧一式を空間収納にしまう。そしてそのまま自分の部屋に入る。
―ガタン
机に置いてあったてるてる坊主が床に落ちた。
「そう言えばこいつを使って雨止まないかな?」
―コンコン
すると扉がノックされ、返事をする前に扉が開く。
「兄貴。また何か落とし……って何でそんな濡れてるの?」
「え?あー……雨がひどくなったから窓を開けて確認したんだ」
「普通は窓を閉めるんじゃ?」
「ん〜大雨ってテンションあがんない?」
「男って変なところがあるわよね。それに……それまだ持ってたの?」
恩が指差す先のは俺の作ったてるてる坊主。
「これってご利益あったからな。あ、恩に作ったやつは机の中に大切にしまってるからな」
「いや、別にあれは使い終わったなら捨てていいから」
「可愛い妹が作ってくれた、てるてる坊主を捨てられる訳がないだろう」
「そんな大事にされても……」
部屋を出ていった恩。しばらくして戻ると、俺にタオルを投げてくる。
「このタオルもちゃんと机にしまっておくからな」
「……いや、洗え。そして戻せ」
「えー恩のくれたタオルなのに」
「皆と共用のものだから」
保存するのは諦めてもらったタオルで頭を拭く。床を見ると悲惨な事になっている。
「それ、ちゃんと拭いておいてよね」
「あぁ。ありがとう恩」
そう言って恩は部屋を出ていった。我ながら苦しい言い訳だった気がするが、対して突っ込まれる事は何もなかった。ん?それっていつもの俺の行動がおかしいって、妹の恩には認識されていると言う事か……
「お兄ちゃんの信用度やばいか?……今はこのやばい状況をどうにかしよう」
タオルで拭くの面倒だよな……風魔法で吹き飛ばすか、それとも炎魔法で蒸発。
「普通に拭けばいいじゃん」
「それが面倒だと……って来てたのか」
「マナも安定して来たからね。マナをたくさん運ぶ必要がなくなったから」
俺の上をふよふよ浮きながら、床を指差し拭けと指示してくる神様イザナミ。来ないかなと思っていたから、正直言って都合がいい。
「それはそうと引きこもりの神様がまた来たのは、何か急な要件でもあったのか?」
「別に。シュウが魔法の確認であれこれ楽しそうだから来た」
「暇なんだな」
「向こうの世界には魔王がいないからね。数年は平和じゃないかな」
俺が魔王城に乗り込んだ事で、魔族は静かになっているらしい。まぁトップが不在であればそれも仕方がない事。そうして勇者である俺の功績は無駄ではなかったと言う事。
「あーでも何人かうるさい人もいるよ」
「平和な世界でうるさい人ってなんだ?」
「シュウはどこだと毎回尋ねてくる魔導士や騎士団の連中がね」
俺に用がある魔導士や騎士団に心当たりがない。戦闘の面では基本は俺1人で戦ってたからなぁ。
「関係ないだろうとか思ってます?」
「え?うん。だって戦いは基本1人だし」
「はぁ……シュウが1人で突っ込んでる裏には、住人の避難や逃亡する魔族を倒す者もいたんですよ」
「俺、魔族を見逃したりしないけどなー」
「あんな堂々と正面切って動けば、頭の良い魔族や権力者は裏から逃げるものです。それでも戦いを挑む馬鹿は、自分の力に自信があったりするか考えなしの馬鹿です」
そんな馬鹿馬鹿言ったら可哀想だな。裏でコソコソするやつより挑んでくる奴らの方が俺は好きだ。
「そんなシュウだから、魔王に転移で逃げられるんですよ」
「ぐふ……痛いとこを突いてくるな」
「戦いは正面突破だけが正解ではありません。仲間を募り、適材適所で相手を殲滅。兵法と言う言葉をシュウも知っているでしょう?」
「あーまぁ戦略ゲームが世の中にあるくらいだからな。そうか頭を使うね……苦手だわ」
「今、考える事をやめましたね?そこが悪い癖です」
そう言ってもなぁ〜戦略とか頭脳派のする事じゃないか。大体は軍師がいて、それを実行する兵隊がいる。そこに一騎当千の武将がいれば、一気に戦場を掌握出来る。
「そうか。俺に足りないのは軍師。そう言う訳で頼むぞイザナミ」
「神様に対してその扱い?私だってそんな暇じゃないのよ?」
「でも今も俺の相談に乗ってくれてるじゃないか」
「これ相談だったんだ」
「え?なんだと思って聞いていたんだよ」
「え?愚痴?ただの話し相手?」
うーむ。意思疎通は難しいな。俺の意を汲んでくれる奴が欲しい。この世界で誰か俺を理解して頭の切れるのは…………陽くらいか。しかしあいつに魔王を倒す戦略があるだろうか。
そうなると異世界に詳しい桐花……は絶対兵隊向きだな。そうなると兄の勇志か。それと部活で指示出しとかに慣れてる新か。真桜は……戦闘って言うよりヒーラー的ポディションだな。
あとは……あとは……
「俺、友達少なくね?」
「何を考えたか当てましょうか?この世界でシュウを理解している者を軍師にって考えたでしょう?」
「おう。それが1番の近道だ」
「それって自分が勇者で異世界の体験をしたと話すのですか?」
「あ。それも話さないといけないのか。絶対頭がおかしいと思われるじゃん」
「よくお分かりで」
いきなり詰んだ。
「あ。シュウ。今すぐ電話を持ちなさい」
「え?あぁ。持ってどうす……」
―ガチャ
「兄貴なんか話し声が……って電話か。もう夜なんだから大きい声で喋んないでよね」
「お、おう。悪いな」
「さっきのタオルって、まだ床がびちゃびちゃじゃない。早く拭きなさいよね」
「……」
俺は空中に浮いているイザナミを見る。そして恩を見る。
「何?天井なんて見てどうしたのよ。いいから早く拭いてくれない?」
「お、おう」
どう言う事だろう。恩にはイザナミが見えてないのか?頭に疑問を抱きつつも、言われた通り床を拭いてタオルはそのまま恩に回収される。
「独り言する変な兄と認識されなくて良かったですね。さすがは神。人族への気遣いも完璧ですね」
「そこは感謝するが。イザナミって俺以外に見えてないのか?」
「常に周りを警戒してますから。見られたら面倒なので空間認識阻害と隠蔽魔法を使いました」
「さらっとすごい事するんだな」
「見られて説明する面倒を考えれば、これくらい大した事ではありません」
いやー大した事だろうよ。なんの為に俺が全身フルメイルで夜徘徊してると思っているんだ?人に見つからないようにする方法があるなら、初めからそう言う魔法を教えて欲しい。
「あ。マナを使いすぎました。帰ります」
「どう言う事だし。せめて今の魔法の使い方を教えてくれ」
「人は五感でそこにあるモノを認識するんです。音や匂いに関しては空気の振動、姿の認識には光の屈折などを計算する必要があります。それは人が動けば計算に計算を重ねななければ出来ません」
「変わる状況に適応するか。なんか聞いた感じは簡単に聞こえるな」
「簡単に言ってますからね。やりたいならまずは空気の流れ、そして人が認識する五感を意識しなさい。そしてマナは私がここに来るのと同じくらい使うわ」
「燃費悪かった〜」
とは言えこんな複雑かつマナも使う魔法をさらっと使うイザナミは、やはり神様なんだと改めて認識する。
「あ、言い忘れてた。私これから……」
何かを言いかけてイザナミは消えた。本当にあの魔法の燃費悪いんだな。俺のこの世界で活動が楽になるかと、少しでも期待したんだけどな。
「てか、最後何か言いかけてたような……まぁいいか。用があればまた来るだろう。今日は寝よう」
ずぶ濡れだった服を着替えて、シャワーしてから寝た。
色々と考える事があった気がするが、それは明日考えばいいかと俺は意識を投げた。
翌朝、俺は何事もなかったかのように学校へ向かう。昨日の雨が嘘のように快晴である。
―ブゥゥン
目の前に大きなトラックが止まる。
「すいません!本日作業で少し車を停めます。邪魔であれば窓にある電話をお願い致します!」
「ご苦労様です。うちは車を出す事もないので、気にしなくて大丈夫ですよ」
「ありがとうございます!」
作業員に手を振り俺は歩き出す。
「中々の好青年だったな。人への配慮も出来ていて、素晴らしい人格者だ……っは!?彼を軍師に!」
いやいや、そんな都合よく軍師候補が現れる訳ないか。異世界の理解をしてもらわないといけないんだ。もう少し慎重に行動するか。
「考えるって面倒なんだな。数学みたいに答えが決まってれば楽なのに」
しばらく歩くと真桜のアパート前。
「もう行ったかな?」
「おや?祝君じゃない。真桜ちゃんならまだ行ってないわよ」
「そうですか」
何も言ってないのに、おばちゃんは俺の気持ちを察して教えてくれる。
「真桜ちゃーん。彼が迎えに来たわよ〜」
彼ではない。
「祝君!すぐ出ます!少し待ってて下さい!」
扉から少しだけ顔を出して、俺は手を挙げて合図する。するとまたすぐに部屋に戻って行った。
真桜は軍師じゃないよな。そう言う事なら爺やさんの方が適任な気がする。でも真桜の叔父さんに変な目で見られるのも……
―カンカン……
「お待たせ!」
「おう。行こうか」
おばちゃんに挨拶をして、アパートを後にする。
「どうしたの?何か考え事?」
いつもより歩くのが遅かったか、俺を追い越して少し屈んで見上げてくる。
「何か考えていたけど、真桜の笑顔見たら忘れた」
「ふふ。なにそれ?」
何この可愛い仕草。考え事とか吹っ飛んだわ。
「今日も勉強頑張りますか!」
「おー」
ダメだ。全部が可愛い……あ、思い出した軍師。俺の隣を歩く真桜は軍師じゃなく、守るべき姫様だよな。
すまんイザナミ。俺はしばらく魔王を探すのをやめようと思う。心でそんな事を思っていた。
教室に行くまでは……
恵「どうしたのめぐちゃん?」
恩「兄貴がこの大雨で窓開けたり、大声で喋ってるんだよね。どこかで頭でもぶつけたのかな?」
恵「さっきゴンって音聞こえたわよね。それかしら?」
恩「あれは……呪いのてるてる坊主よ」
恵「何それ?お母さん怖いわ」
恩「大丈夫よ。顔は可愛く描いたから」
恵「なら平気ね。そのてるてる坊主ここに飾りたいわ」
福「恵さん……飾るなら窓際だぞ」
恩「いや、兄貴の部屋でいいから。あんなのリビングに飾って欲しくない」
祝「よし。これで明日は晴れるかな!頼むぞてるてる坊主」