第27話 自分の現状を知る魔王
体力がマジでなくなったと感じるこの頃。とにかく眠くなるのが早い。レベル上げとかマラソンみたいな作業は、秒で眠くなる_(:3 」∠)_
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ありがとうございます(*'ω'*)
それは突然だった。今日は特に予定がないから、爺やに料理を教えてもらっていただけなんだけど……
―ボォォォ!!!
「今日は火力が強いね。炒飯だから丁度いいのかな?」
「フライパンからこんな炎が立ち上がるとは!?」
「ねぇ爺や?驚いてないで、これをどうにかして欲しいのだけど」
「コンロ火を消して下さい!あとはあとは……どうして炒飯でこんな事に。このままじゃ家が燃えてしまいます」
「あちち。線は消したよ。あとは……火を消すならやっぱり水よね?」
「それなら風呂水利用する洗濯ホースがありました!」
「よし。ここまで伸ばしてかけてみよう!」
コンロの元栓は閉じた。だけどフライパンの上の炎は消えていない。天井に届きそうで届かない高さまで燃えてしまっている。
―カンカンカン……ガチャ!
2人でフライパンから距離をとり、お風呂場からホースを延ばしている最中だった。階段を駆け上がる音と扉が開き、白い影が部屋の中に入ってくる。
「そのホースはダメだよ!油には湿らせたバスタオル!とぉりゃ!」
―ジュゥゥ……
「「おぉ!さすがおばちゃん」」
「全く何をしてるのかね。料理をするって聞いてたから、もしかしてと色々と準備をして正解だったわね」
「おばちゃんはこうなる事が分かってた?」
「唐揚げはやるだろうと思ってたからね。フライパンから炎が上がるのは可能性としてあるかとは思ってたわ」
「しかしおば様はどうしてこのタイミングで?」
「窓を開けてたからね。状況は大きな声で聞こえてきたさ」
私も爺やも落ち着いていたつもりだけど。意外にも大きな声で話していたのかもしれない。
そんな状況でも私は、なぜか冷静に対処出来た。爺やが慌てているのを見ていたからかな?それともこの体が軽いこの状況と何か関係があるのかも。
「とりあえず火は消えたわ。唐揚げもダメにしちゃったけど、次は温度調整をしっかりするのよ」
「唐揚げじゃなくて炒飯なのに」
「え?そんな油をたくさん入れたの?」
「そんなつもりじゃなかったけど。油ってそんな危険なの?」
「油は、温度が300 ℃以上になると油自体が自然発火するという性質があるんだよ。油をいれたフライパンを長時間熱し続けると温度が上がっていき、300℃を超えたあたりで炎があがってしまうはずなんだけど」
よく分からないけど。あまり熱しすぎるとダメって事よね?それなら油は少しだけだし、長時間熱した訳でもない。
「そんな事より!真桜ちゃん火傷は大丈夫かい?」
「火傷?少し熱かったけど大丈夫だよ」
「それはよかったよ。ちょっと片付けるから少し待ってな」
おばちゃんはフライパンタオルをすっと退かし、あんな炎が上がったのが嘘だったかのように台所は元通り。
「魔法みたいだね。あっと言う間に元通り」
「はっはっは。主婦が長いと掃除も上手くなるもんさ。真桜ちゃんも焦らずコツコツと腕を磨く事だね」
「うん。頑張る」
「…………」
さっきから静かな爺や。おばちゃんは後始末を終えると、自分の部屋に戻っていった。居なくなったのを確認してから爺やが口を開く。
「真桜さん……もしかして魔法使いました?」
「魔法?使ったつもりはないけど」
「そうですか……そうなれば無意識で溢れてしまったって事ですね」
「さっきから何を考えてるのさ。私にも分かるように言ってよ。どこか間違った?」
「その体から溢れるマナのせいかと」
爺やに体から溢れているって言われて、自分の腕とか見てみると……
「特に変わってないよね?」
「……そうですね。真桜さんは魔力の使い方とかあまり教えてもらってなかったでしたね」
「学校でも家でも少しは習ったよ。でもセンスはないって言われて習うのやめちゃった」
「真桜さんの場合は無意識に炎の温度に魔力が干渉したからと考えます。料理にしても魔力をきっちり制御出来れば……」
爺やに言われ料理を再開。今度は炎が上がる事はなく、言われた事をやってただけで無事に炒飯は出来上がった。
「あれ。簡単に出来たね」
「ふぅ〜私は爆発しないかヒヤヒヤでしたけど」
「よく分からないけど」
「イメージはこのコンロと一緒です。自分の中の魔力をガスと考えて、消したり弱火から強火に調整する。魔力の制御はやめてしまいましたが、料理はやめたりしないでしょう?」
「それは……食べさせたい人がいるから」
料理の腕を上げて、祝さんに喜んでもらうんだ。前回の初デートみたいにたくさん食べてくれるのは嬉しいです。
「それでは出来たてを少しおば様にお裾分けしましょうか」
「そうだね。私の味見も頼みたいし」
「真桜さん味見は自分がするものなんですよ?」
「おばちゃ〜ん!出来たよ〜」
爺やが何か言っていたけど気にしない。炒飯は温かい方が美味しいもんね!
おばちゃんにお裾分けをして家に帰ってきた。
「少し時間がかかりましたね。おば様はどうでした?」
「ん〜まあまあって言われた」
「それなら成功と言えるでしょう。さぁ私達も食べましょう」
「うん。何でこんなに美味しそうなのにまあまあなのかな〜?」
―ガリ……
「ガリって?今回は卵の殻は気をつけたんだけど」
「これはご飯が少し硬いだけですよ。これくらいは許容範囲です」
「そうなると……もぐもぐ。味薄くない?」
「私には丁度良いですよ?」
「もぐもぐ……何だろう。普通だわ」
「これが料理の第一歩です。私は美味しいと思いますよ」
「次は隠し味にシロップを」
「絶対やめて下さい」
えー甘いものが好きな祝さんも喜びそうなのに。甘辛って感じになれば絶対美味しいと思うんだけど。
「食べたら少し魔法の確認をするために外に行きますよ」
「んぐ。ん?」
「こんな昼間にです。この世界のマナの流れを見に行くんです」
「ん〜!ごくん!そしたら公園行こう!」
ご飯を食べ終えた私は爺やと公園に出かけた。
「爺やと公園って初めて?」
「そう言えばそうですね。1人で散策には来ましたが、2人で来る事はありませんでしたね」
「1人で来るなら誘ってよ。まぁ爺やの事だから何か別の考えもあるんだろうけど」
「勇者がいたら危ないから呼ぶつもりはなかったんです。大穴空いた所を調査するくらいでしたし」
「そんな大穴もあったね。誰かが空を飛んだって噂も出てたよね」
「はい。マナの残滓はありましたから、勇者である可能性は高いです。それに……」
難しい顔で歩く爺や。せっかくの散歩なのにこの自然を見ないで歩くなんて勿体無いわよ。そして爺やが歩くのを止めた。
「ここ……マナの残滓があります」
「さっきから言ってる残滓って何?」
「魔法を実行するには、自然界のマナを使わねばなりません。それは分かりますよね?」
「うん。それは分かる」
「残滓とはこの場所に留まったマナの流れの事です。他の場所と違いここは少し濃いです」
目に見えないし、匂いがする訳でもないから濃いと言われてもね。とりあえず留まっているのなら払って仕舞えば良いんじゃないかな?私は何気なく手を振ってみる。
―ビュゥゥゥ!!!
「真桜さん!?」
「え?ただ仰いだだけだよ?これどうしよう。止まれ!」
―ビュゥゥゥ!!!
もっと酷くなった。あわわ!
「その手を止めて下さい!マナをかき乱してますから!」
「ほへ!?止めます!」
手を振るのを止めれば、風はピタって止んだ。少し面白いから空中に指で横に一線引っ張ってみた。
―ッピ!
「あや?」
「真桜さん!?何もしないで下さい!あーもう遅いか!」
「あ、ちょっと!?」
爺やが私の手をとりその場を後にして走り出す。訳も分からず走っていると。
―ズシィィィン!!!
木が倒れた。
「きゃ!?」
「何してるんですか真桜さん」
「私はただ……風を操れるかなって。指でこう、ピッと横に一線しただけで。その……ちょっとした好奇心でして」
「はぁ……貴女は魔王なんですよ?指で指示を出せばそうなるんです」
「指示って?別に私は何もしてないよ?」
「真桜さんが無意識でも、マナは勝手に反応します。それが魔王なんです」
「へー面倒なんだね」
そもそも魔王って何なんだろう。手を振れば突風が起きて、横に指をなぞれば木が切れる。そんなの面倒以外にない。
「……これは家でマナのお勉強が必要ですね」
「え?この前テスト勉強したばかりで頭パンパンなんだけど」
「このままだと学校行けなくなりますよ?」
「え!?」
マナの勉強と学校がどんな関係があるの?そんな事より倒れた木に人が集まり始めた。
「見つかれば厄介です。一刻も早くこの場を後にしましょう」
爺やに手を引かれて公園を後にする。そして入れ違いに人が来る中をかき分けて、私達は無事にアパートに到着する事が出来た。
「おや?真桜ちゃん」
「おばちゃんはお買物?」
「今公園で何かあったの知ってる?今さっき速報ニュースやってて、買物前に見に行こうって」
「そうなんだ」
「おば様。あまり噂に振り回せれないよう。気をつけて下さいね」
「大丈夫さ。後輩も誘ったから。何かあっても何とかなるさ。それじゃね!」
おばちゃんは公園へと走っていった。
「さぁこれで静かに勉強が出来ますね。これは真桜の今後どう生活していくか。とても大切な事です。きっちり覚えて下さい」
「覚えられるかな……」
「覚えられなければ今の学校もお友達ともお別れに……」
「え!?それはやだ!」
「はい。では頑張りましょう」
「はい!」
今の学校や友達ともお別れ。そう聞いたら頑張らない訳にはいかない。
「魔王とは魔に愛された王。魔とは魔法の根源であるマナ」
「ふんふん」
「簡単に言えば真桜さんがこうしたいと願えば、マナ達は可能な限りそれを叶えようとします」
「面倒とか言ってごめんなさい。凄く便利じゃない」
「しかしマナには言語が通じる訳もなく、その場の雰囲気とマナの質で行動を変えます」
「どう言う事?」
「マナが理解出来るように的確なイメージを読み取ってもらう。そしてそれに対するマナを適量集めるのです」
「つまり?」
爺やの目が少し細くなる。そんな目をされてもなぁ〜言ってる事が難しすぎて考える事すら出来ない。
「……料理が出来上がった所を想像して下さい」
「ん〜それは誰かが食べる?」
「……神野君が真桜さんの作ったホットケーキを食べるシーンを思い浮かべて下さい」
「ん」
「そのホットケーキはレシピ通り作ったから、神野君は美味しそうに食べてくれます」
「良かったぁ〜」
「では作る過程で砂糖の量を間違えて、食べれないくらい甘いとします。どうですか?」
食べれないくらい甘い……あ、神野さんの顔がピクってなった。そして顔色が悪くなる感じがする。でも祝くんは優しから全部食べてくれる。
「可哀想……吐きたいのに全部食べてくれる」
「あー彼ならそうなりそうですね。そして絶対体壊します」
「それは困る!」
「だから適量を入れなければなりません。そして質において、砂糖ではなく塩をホットケーキに入れたらどうなりますか?」
塩っぱいホットケーキ?それはもうホットケーキではない。そして甘いと思ったホットケーキが塩っぱい時の祝さんの反応は?
「最悪ですね」
「そう。最悪なんです。分かりましたか?」
「何となくだけど。私、祝さんに喜んで貰いたいです!」
「彼に頼る事はあまりしたくなかったですが」
「何で?」
「いえ、何となく。娘を取られるようでモヤモヤしているだけです。しかし今はそうも言っていられない。マナは今も増えていってます。それは世界の危機と言っても過言ではないのです」
私ってそんな危険な存在なんだ。今はとにかく少しでも美味しいものを作れるように頑張ろう。私はそう思った。
真桜「さっきの炒飯は成功したって事。失敗したら焦げたり食べれなかったり、もしかしたらおばちゃんのお腹を壊してしまう可能性があった」
爺や「まぁそう言う事です」
真桜「そしたら料理で驚きを追加する事と、マナに驚きを追加するのは繋がる訳ですね」
爺や「あーそこまで深刻と言う訳では……」
真桜「んーん。私の料理が世界を救うって事。理解出来ました」
爺や「世界……まぁ今はこれでいいでしょう。私の胃も守られると言うのは良い事ですよね。きっと……」