第20話 一般人として戦う勇者
今日もサイレント遅延な中央線。乗り換えがあるのに、乗り換え先は待ってはくれない。
遅延するなら連携してくれ!_:(´ཀ`」 ∠):
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ありがとうございます(*'ω'*)
今日は色々あったな。
朝から変なのに絡まれて、ボートで撃墜したり。何故か歯応えのある卵焼きとジューシーすぎる唐揚げ、そして中身が不思議なおにぎりも食べた。お腹の様子やステータス異常はかろうじて無い。
そして真桜が寝てしまった後に襲いかかる様々な障害。時間もいい時間だからそろそろ帰る時間だな。
「それじゃそろそろ帰るか」
「1日ってこんなに早かったんだね。まだ帰りたくないな……」
「……爺やさんも心配しているだろう?また月曜になれば学校で会える訳だし」
「そうなんだけど。そう言う事じゃないと言うか?」
まだ帰りたくないとか、そんな台詞を聞く日が来るとはな。爺やさんを言い訳にしているけど。実際は少し日和った自分。情けないなって思う。
「まぁまだ時間はあると思うし。焦らなくても大丈夫だよね……んー!」
「ずっと歩いて少し疲れたか?」
「疲れは全然大丈夫。お昼寝もしたからむしろ元気なくらいだよ」
「そうか。何にせよ今日はいろいろあったな」
「あの変な男の子人は出てくるかな?」
「そう言う事を口にすると……」
「ん!」
慌てて口を塞ぐ真桜。
「帰りは行きと違う出口から出ようか。電車に乗らなくても帰れるし」
「電車に乗らないの?そうなると手も……」
もじもじしている真桜の考える事は分かってしまう。さっきは日和ったが、これくらいは許されるよな?
「真桜。手を……繋ぐか?」
「え?……はい!」
驚いてはいたが、真桜は素直に俺の手をとる。そして帰らないとって言ったけど、少しでもこの時間が続くようにゆっくり歩いた。
このまま何事もなく帰れれば良かったんだが。
「フラグって面倒だな」
「私が口にしちゃったから?」
「アイツが暇なだけだろうな」
「待ってたぜ!」
目の前には真桜に寄ってきた男。ボートのところでめちゃくちゃ怒られた腹いせだとか。聞きもしない事をペラペラと喋ってくる。
「それで何がしたいんだ?」
「何ってお前をボコす!」
「言ってる事は子供だな」
「っは。手なんか繋ぎやがって、彼女の前で恥をかかせてやるぜ」
「コイツはボクシングやってるから。油断してるとすぐ終わっちゃうよ。気をつけなよ、おにーさん」
「……(鑑定)」
ボクシングをやっているか。そうなればそれなりのレベルとスキルが……レベル4?思ってたより低いな。格闘スキルもないし、もしかしてこけ脅しか?まぁ全国に行く桐花でレベル5って考えるとそこそこ高いのかも?
全体を把握しようと周りの奴も鑑定でレベルを見てみる。殆どがレベル2か3だった。
「やっぱり多少の問題児は少し高いのかもな」
「何を言ってやがる。ッシュ!」
シャドウボクシングで煽ってくる。しかし俺はステータスを見て知っている。大した事がないか、こけ脅しと言う事が。
「神野さん……」
「あれくらい問題ない。少し大人しくさせてくるから、ここで待っててくれるか?」
「はい」
あまり不安にさせる訳にはいかないから、なるべく派手にしないように速攻で決めるか。手心のスキルもあるからあまりダメージは期待できんが。
「ようやく手を離したか。って事は準備が出来たって事か?」
「チンピラ発言の割には律儀なんだな。問答無用でかかってくればいいのに」
「っは。俺がお前に負ける理由がないんだ。そんな下っ端みたいな事ができるか」
自信だけは立派な事で。周りの奴らも一緒に戦う事はしそうにもない。逃げられないように退路を塞いでいるに過ぎない。
「彼女に手を出さないと思っていいのか?」
「女はお前を倒した戦利品だ。ここでどうこうするつもりはない」
「ここで……って事は是が非でも倒さなきゃな」
「っは!貴様みたいなひよっこに俺が負けるか!」
お喋りはここまでのようだ。全面的に信用はしていないから、他の奴が真桜に近づかないようには気を配る。
―ヒュン
「な?避けただと?」
「そんな右ストレート打ちますよって動作で、避けられないって思っていたのか?」
「ひよっこの割にはなかなかやるみたいだな」
見た目で判断しているあたりは素人同然。一応軽く威嚇のスキルは使っているんだけど。馬鹿には効かないようだ。周りの奴も誰も怯んだ様子はない。逆に一般の人達が怖がって離れていく。
「っは!っしゅ!っしゅ!」
「お前ボクシングやってないだろう?顔を狙うだけのスポーツじゃないからな?」
―ドス
「かはぁ!?」
顔目がけてブンブン振り回す拳を回避して、ガラ空きな脇腹に1発入れる。
「舐めやがって……」
「やっぱりスキルあると拳が軽いな。数発入れて力の差を見せるしかないか?」
「ぶつぶつ何を言ってやがる!」
大振りの1発を回避する為に後ろに下がる。俺に言われたからしっかり体を狙ってきた。
「俺も習った訳じゃないけど」
「お前もボクシング?」
「ただ見様見真似の構えだ。習った事はないと言っただろう?同じ土俵で戦ってやるだけだ」
「そんな真似で出来るほど、ボクシングは甘くない!」
―ヒュン
「くそ!何故当たらないんだ!」
「そんなバレバレな動きをしているからだろう?」
「くそ。お前……何か格闘技やってるな!」
「何もしてないって。ただの一般人。高校生だよ」
「嘘つけ!一般人がこんな避けられる訳ないだろ!」
そんな事を言われてもな〜勇者やってましたって言えない訳だし。この世界での俺は帰宅部で習い事もやっていない。そうなればただの一般人と言うしかない。
―ドス、ドスドス。
「っく!パンチは軽いのに……」
「分かんないの?わざとだぞ?」
「分かってるわ!!!」
―ブン!
心配して見ていたであろう通行人達も、危なげなく攻撃を回避している俺を見てそのまま過ぎ去る。
誰かが通報してくれたらって期待もしていたんだけど。ん?周りにいた奴らが通行人に声をかけている?あーなるほど、通報されないように根回しをしてるのか。大方、スマホで撮影しているとかなんだろうな。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「体力ないなー攻撃に無駄が多すぎるし、足運びも雑なんだよ」
「お前……が……おかし……いんだ」
「だから一般人だって」
もう満足したかな?攻撃は当たらない上に、手加減してますって発言したパンチを受けてる訳で。戦意がなくなってくれるのを待っているんだけど。
「神野さん凄いです!」
「いや、これくらいはな。そんじゃ帰ってもいい?」
「お前ら!」
「「「おう!」」」
やっぱりダメ?最後は全員で囲む作戦?まぁタイマンで勝てなきゃ数を揃えるよな。
「しかしお前にプライドはないのか?少しは仁義がある奴だと思ってたんだが」
「うるせー……舐められて終わる方がむかつくんだよ!」
「えー少し舐めプし過ぎた?仕方がない……」
―ガシ
「そい!」
「ちゃ、うわぁぁぁ!?」
ヘロヘロな男を掴み、仲間の1人に投げつける。カメラを構えている奴はカモフラージュで残しておく。もう1人は……
「っくそ!」
真桜に向かって走っていく。悪役ならではの人質か?シナリオ通りならそのまま見ていてもいいんだが……
「それは認めない」
「は?さっきまであそこに!ごふぅ!?」
吹っ飛ばした仲間の上にもう1人積み重ねる。
「すまん。少し怖かったか?」
「全然!神野さんが助けてくれると思ってましたし。それに私だってただじゃやられませんよ?っしゅ!」
パンチをして強いところを見せようとする真桜。腰は入ってないし、とても強いとは言えない。レベルだってきっと1だろう……
気になって真桜を鑑定してみた。
「え?マジか」
「ん?何が?」
「あ、いや。なんでもない。アイツらも満足しただろうし帰ろうか」
「うん」
真桜を鑑定したらレベル5もあった。あのボクシング野郎よりも高いだと?見間違いかと思ってもう一回見てみる。
「……」
「どうしたの?じっと見て。何かついてる?」
「あ。いや、気のせいだった」
「そう?」
やっぱりレベル5ある。妹の恩や父さんはレベル1だったのに、レベル5って事は空手で優勝する桐花と一緒?見た目で判断するなんてって言ってたけど。この世界は分からないもんだなぁ。
「なぁ。真桜は何か格闘技とかやってたりするのか?」
「え?さっきのパンチの事かな?あれは真似しただけ。本当は戦うとか武器持ったりもした事ないよ」
「そ、そうだよな」
武器は持った事ないと言っているが、剣術スキルがEあるのが気になる。それと調理スキルEランク…………料理苦手なんだろうな。
見てしまえばいろいろな事が分かってしまう。でも鑑定をして知っているだけで、どうしても知ってるのって疑われないようにしないと。突然知らない事を言われたら気味が悪いからな。
「ちなみにだけど。剣とか持ってたりする?」
「剣?あー私専用の武器があったわ」
「え?」
「ピンクで先は丸まったやつで可愛いんだよ?今日のお料理でも使ったんだ。えい!ってね」
シルエットと料理で使ったってワードで、包丁だと言う事が分かる。だがしかし、一刀両断する動きは包丁で使うはずがない。いや、調理スキルと剣術スキル…………包丁って剣術スキルとれんの?
異世界では剣が当たり前のようにあったから、そんな条件で取得できるとか知らんかった……普通は調理スキルしか上がらないと思ってた。
「でも私が包丁使うのは、爺やが見ている時だけって言われているの。1人だと危ないって言うんだよ?私だって料理くらい1人で出来ると思うんだ」
それは爺やさんに従って欲しい。手元ミスって指を一刀両断とか洒落にならない。
「今度また料理した時は、美味しいのを作るからね!」
「あーうん。でも必ず爺やさんと一緒にやるんだぞ?」
「神野さんもそう言うこと言うのー?」
「あれだ……1人でやるより2人の方が楽しいだろう?料理は黙々とやるもんじゃないって事だ」
「確かに!お湯が沸くのじっと待つのも退屈だもんね」
「そうそう。お湯?」
今日の料理にお湯を沸かす必要のある調理があったか?きっと違う工程を想像しているんだろう……たぶん。
「この辺見た事ある景色だね」
気がつけばいつもの通学路近くに来ていた。
「帰るまでが遠足だからな。車とかに気をつけるんだぞ」
「大丈夫。神野さんが手を握っててくれるから」
気が付かなかったけど。自然と手を繋いで歩いていた。
「ふふ。今日は楽しかったね」
「ああ。また一緒に行こうな」
「うん!」
今日はこのまま真桜を送って解散なるだろう。
そして家に帰った俺は妹に一つの動画を見せられる。あの公園で絡まれた時の映像だった。
「これ兄貴?」
「さ、さぁ?似てる人なんてたくさんいるだろう?」
「服も全く同じで?まぁ怪我はないみたいだから、別にいいけど」
「心配してくれるのか!」
「違うし。あまり問題起こさないでよねって事!」
「あー気をつける」
「やっぱり兄貴なんだ。格闘技でも始めたので?」
「…………風呂入ってくる!」
これ以上聞かれないようにその場を退散した。まぁ食事の時に母さんと妹に事情聴取されたんだがな。
爺や「どうでしたか?」
真桜「お弁当は喜んで全部食べてくれたよ」
爺や「彼に異変は?」
真桜「何それ?別に何にもなかったよ」
爺や「それは……胃袋強めな方で良かったですね」
真桜「変な事言うのね。神野さんは少し歯応えがある卵焼きに、ジューシーすぎる唐揚げだったって食べてくれたわ」
爺や「殻に油を切ってなかったか……私が見ていたのに?」
真桜「おにぎりは何が入ってるか予想できないって楽しんでくれたわよ」
爺や「……少し彼が可哀想になります」