第17話 甘い時間を過ごす魔王
駅に行くのに毎日自転車乗ってたんですけど。必ずと言ってもいいほどチェーンが外れる。
ネットで調べたらチェーンの調整が載ってたからやってみたら、全く外れなくなった( ^ω^ )ネットって調べれば何でも載ってて便利!って改めて思いました。
読んでくれた皆様!
ブックマーク、評価、いいね。くれた方々も。
ありがとうございます(*'ω'*)
服よし!髪よし!お財布にお金も入れたし、朝早くから作ったお弁当もある!
「眠気もない!体調も万全!準備もバッチリね」
「あの男と出かけるのがそんなに楽しみですか?」
「うん!とっても!」
爺やは何を心配しているのか。私のお出かけにあまりよく思ってないみたい。それでも私のお弁当を作るお手伝いはしてくれている。爺やが言うには、料理が出来ないと思われるのが魔王として舐められるからみたいな事を言っていた。別に魔王なら料理が出来なくてもいいのでは?なんて思う。
「いいですか真桜さん。あまり遅くならないように。高校生と言うのは、羽目を外す事が多いみたいですから」
「どこでそんなの見たのよ」
「ファッション誌です」
「何で爺やが若い子のファッション誌を見るの?」
「ただの情報収集です。最近のファッション誌にはここで攻めろとか、煽る記事が多いですから。あの男もこれを読んでる可能性があります」
「神野さんはそんな事しないと思うよ?」
甘い物に対して反応する神野さんであれば、ファッション誌より情報誌とか見てそう。
「真桜ちゃーん!彼氏が来たよ」
おばちゃんが大きな声で私を呼んでくれる。でもおばちゃん!彼氏じゃないの!そんな事言われて私はどんな顔で会えばいいの?
扉をそっと開けて神野さんを見ると、少し顔が赤いような?
「照れてんじゃないよ。シャキッとしな!」
「おばちゃんが突然あんな事を言うからですよ」
「へへ。おはよう神野さん」
「おう。おは……」
神野さんが私を見て固まる。あれ?何か変な所があるかな?
「あーすまん。可愛くて見惚れてしまった」
「!!!」
「はっはっは!中々の殺し文句だ!女をすぐ褒められるのは、偉いじゃないか」
「おばちゃん。そんな叩かれても……」
―ガチャン。カンカン……
「貴方が神野君か」
「はい。神野 祝と申します。今日は真桜さんをお借りします」
「許可は出したくな……」
―ゴスッ
横っ腹に拳を入れておく。余計な事を言わなくていいと目で訴える。
「ぐふっ……真桜さんを……しっかり、守って下さい」
「はい!命に変えても!」
「それはダメだ。命に変えて守ったとしても、その後に真桜さんが悲しむだろう。そんな事は許さん。生きて帰る事が前提だ」
「は、はい!爺やさん」
「ただの公園なんでしょ?命かける場所でもないだろうに」
「ふふ。男の子同士の何かがあるんだよおばちゃん」
爺やと神野さんが握手を交わす。余計な事を言った訳でもないし、仲良くしてくれるならそれにこした事はない。
「……中々鍛えているようですね」
「……目に見える範囲を守れる程度には」
いつまで握手をしているんだろう?そろそろ行きたいんだけど。
「力比べはそれくらいにしときな。真桜ちゃんが待ってるじゃない」
「ふむ。仕方がありませんね」
「それじゃ行こうか真桜」
「……真桜ぉ?」
―ゴスッ
「行こうか真桜……さん」
「爺やは気にしないで。いつも通りでいいから!」
「う、うむ」
「いってきます!」
「いってらっしゃい」
おばちゃんが手を振って見送ってくれる。爺やは脇腹を抑えつつも最後はちゃんと手を振ってくれる。
「爺やさんは良い人だな」
「ちょっと私に対して過保護な気がするけど」
「これだけ可愛い娘であれば仕方ないだろう」
「可愛っ!?」
「あ。すまんつい本音が」
「本っ!?」
私の心臓保つかな?ドキドキし過ぎて止まりそう。
ちらっと隣を歩く神野さんと目が合う。
「どうした?」
「え?な、なんでもない!」
神野さんは随分と余裕そう。諏訪さんとも仲良く話してたし、慣れてるのかな?
「あんまじっと見ないでくれると……」
「あ。ごめんね」
前を向いてしまった神野サンだけど。耳が少し赤いって事は照れてるのかな?ちょっと可愛いかも。
少し歩くと駅が見えてきた。休日と言うだけあって結構な人がいる。
「一つ隣の駅だから140円な」
「神野さんは買わないの?」
「俺はSuicaにチャージしてあるし」
Suicaってカードにはお金を入れておけるみたいで、カードをかざすだけで電車に乗れるみたい。凄い時代なんだな〜
「これでいいんだよね?」
「俺も切符はしばらく使ってないけど。それで合ってると思う」
「えい!」
しばらくすると切符が出てきた。それを恐る恐るとる。
「それじゃ行くぞ」
「あ。待って」
置いていかれないようにすぐ後ろを歩く。そして神野さんがピッと言う音がして、改札口を入っていく。私も真似をして切符をあてる。
―ピンポーン
改札閉まった!何で??
「真桜。切符はタッチしてもしょうがないんだぞ。そっちの入れるとこがある改札に行くんだ」
「これ?ここ?合ってる?」
前に電車に乗った時は爺やの真似をしたから何とかなった。でも今回は私1人が切符で通る。
―ガタン
切符が吸い込まれて、改札が開く。これは進めと言う事だよね。
「真桜。切符とって」
「あ。そうだね」
「なんか見てるこっちがドキドキする。その切符を落としたりしないようにな」
「そう言われると落としそう……」
「財布に入れとくといいぞ。ポケットやカバンに入れておくと、何処にしまったか分からなくなるからな」
「はい!」
言われる通り財布の小銭入れの中にしまう。これで財布を無くさない限り切符落としたりしない。
「電車って本当に乗らないんだな。前に住んでた所で電車は乗らなかったのか?」
「基本的には送り迎えあったから」
「まぁそれなら電車とか乗らないか」
あんまり外に出てないって言うのもあるけど。基本は転移門みたいなので送り迎えされてたから、乗り物に乗ったとしても馬車だったし。
「電車は……あっちだな」
「人がいっぱい迫ってきます!?」
後ろからも人が入ってくるし、改札の中は広めの広場に何ヶ所か階段がある。そんな中、私は人の波にのまれて移動できずにいた。
―パシ
「こっち」
神野さんが私の手を引いてくれる。すると神野さんを避けるように人の道が分かれる。何で皆避けて歩くの?お互いぶつからないとか凄い。
「1人じゃ絶対辿り着けない自信があるよ」
「そんな自信はいらないから。まぁ電車に慣れるまでは付き合ってあげるよ」
『まもなく〜……』
「それじゃずっと慣れなくても……」
「ちょうど電車来るみたい。ん?何か言ったか?」
「なんでも、ないよ」
私はギリギリ聞こえなさそうな声で呟いてみた。駅のアナウンスでうまく聞こえなかったみたい。でも聞こえていたらどんな反応するんだろう?
そして引っ張ってくれた手は今は離している。少しだけ寂しく感じるけど、いつまでも握ったままはおかしいよね?
一つ隣の駅で降りる私と神野さん。目の前にはもうすでに公園が見える。さっきまで色々考えていたけど、目の前にこうえんがあると思うとドキドキが止まらない。
「早く行こう!」
「今日は団体もいるから人が多いな。ちょっと待っててチケット買ってくるわ。あ。迷子になるからここを動かないようにな」
「迷子になんかならないよ!」
「はは。それじゃパパッと買ってくる」
神野さんがチケットを買いに行ってくれている。あ、買う物なんだと気がついてお金を渡そうとしたけど。ここを動くなって言われたし。
「お姉さん」
「……」
「そこの黒髪の綺麗なお姉さん」
「……」
「無視しちゃって〜1人?」
この人はもしかして私に声をかけている?左右を見たけど黒髪の女の人は私だけだ。
「私ですか?」
「そうだよ姉ちゃん。俺と遊ぼ……」
―パシ!
「触るなよ」
「あぁ?」
私に触れようとした手を掴んでくれたのは、チケットを持った神野さん。
「ごめんね。混んでても1人にするべきじゃなかった」
「大丈夫だよ。何もされてないから」
「爺やさんの言う守れってこう言う事なんだね。花に虫が寄ってくるのは自然の摂理ってか?」
「誰が虫だって?小僧……って。動かない!?」
神野さんは手を掴んでるだけで、私の前に立って守ってくれる。ピンチだったけどこの状況は嬉しかったりする。なんか漫画の中のお姫様みたいじゃない?
「どうすればいいか分かるか?」
「っく!?わ、分かった!だから離せって!」
手を離すと私に声をかけてきた人は、後ろによろけて尻餅をついた。
「さ。行こうか」
「うん。早速守ってもらったね。ありがとう……あ」
「人が多いから。今日はしっかり守ってエスコートしないと」
そっと私の手をとり先導してくれる神野さん。私は今日が混んでて良かったと思った。
公園の入口から中に入る。
「あ。そう言えばチケットお金かかったでしょ?返すよ」
「いや。誘ったのは俺だし。ここは俺が出すよ」
「でもおばちゃんが、相手に出させるだけの女にはなるなって」
「はは。おばちゃん言いそう。そしたら今度何かある時は半分こな」
「うん!」
「それより見てみなよ。ここだとまだ桜は満開だ」
周りを見ると桜の木がたくさんある。学校の桜は少しずつ花が落ちちゃってたけど、神野さんの言う通りまだ満開状態。
「綺麗……」
「そうだな」
どこを見ても桜が目に入る景色を見ながら歩く。通路も広くなっているけど、手は繋いだままで……
しばらく何も話さず。ただゆっくりと歩くだけの時間が続く。時々吹く風が私の髪をそっと撫でる。少しだけ肌寒くも感じるけど、繋いだ手だけはずっと暖かい。もしかしたら暑くて汗かいちゃうかも。
「真桜。湖だぞ」
歩いていると大きな湖についた。これはあの公園にもない景色。
「おっきいね!泳げちゃったりするのかな?」
「4月だぞ?沖縄でもないしって、そもそもこの湖は泳げるのか?ボートはあった気がするけど」
「ボート?」
「せっかくだし乗ってみるか?」
「よく分からないけど行ってみたいです」
「乗り場は……あっちか」
すぐ近くにあった乗り場に行くと、おじさんが声をかけてきた。どうやら乗る事は出来そうです。
「せっかくだし乗ってみるか?」
「うん!」
「どっちがいい?」
ただの桶みたいなのに棒が二つついたボートと、屋根のついたアヒルのようなボート。どっちも水の上に浮く乗り物みたいだけど……
「どっちも安全?」
「はっはっは。お嬢ちゃんボートは初めてか?ボートで立ったり暴れなきゃ沈むような事はないから安心しな。もし落ちても隣の彼氏が助けてくれるだろう」
「いやいや。落とすような事はしないし。真桜もはしゃいで立ち上がったりするなよ?」
「しませんー!」
「はは。それじゃどっちにする?」
「んー空の景色も見やすそうだから、こっちのボートで」
「あいよ。ローボートだな。1時間で800円だ。超えると30分で400円だから、時間管理はしっかりな」
「今度は私が払う!」
結局半分こで払った。これは2人で決めた事だからと、なんか説得されたような気もするけど。後で絶対何か奢るんだから!
―チャプン
「グラグラするよ!あわわ」
「俺が先乗るよ。ほら手を貸すから」
「絶対離しちゃダメですよ!あ!待って下さい!立つと落ちるんですよね?でもそうすると乗れない?」
「俺がバランスとるから心配するなって。ほら」
「きゃ!」
引っ張られてボートに乗る事は出来たけど、勢いで神野さんに抱きついてしまった。
「ほら大丈夫だろう?そしたらゆっくり座ろうか」
「う、うん!」
これ本当に沈まない?こんなグラグラしてたらひっくり返りそう。それに比べて神野さんは冷静だなぁ。色んな人と乗って慣れているのかな?手をとってもらって、ゆっくりと座る事に成功。このドキドキは神野さんに抱きついたからか、それともボートが揺れて怖いからか。
「怖がり過ぎだろう。おじさんも言ってたけど暴れなきゃ落ちないって」
「落ちたら……助けて下さいね。私、泳げませんから」
「さっき湖見て泳げるか聞いてきたのに?」
「はい。こんな広い水辺は泳ぐ所だと聞いてましたけど、私はこう言う場所には連れてってもらえませんでした」
「そうなのか……怖いならいつでも戻るから言うんだぞ」
「今は大丈夫です。ぷかぷか浮いてるのも空を飛んでるみたいで、何だか気持ちよく感じます」
「これここ置いとくな。ボートは俺が漕ぐから、真桜は景色でも見ててくれ」
これって私が作ったお弁当が入ったバスケット?あれ、そう言えば私はずっと持ってなかった。え?いつから??
「神野さんはいつから持ってました?」
「ん?出発する時に爺やさんにもらったぞ?大事なものが入ってるから、慎重に扱えって」
始めから!?私は今まで思い出しもしないで、爺やが渡してくれなかったら完全に忘れてました。
「気にすんなって。荷物を持つのは俺の役目だ」
「ごめんね。ありがとう。危うく忘れるところだった」
「それより周りを見てみろよ。せっかく晴れたんだから、今はこの景色を楽しもう!」
ボートの中央に置かれたバスケットから視線をあげる。
目の前には神野さんが居て、その後ろには桜が見える。
空は私の作ったてるてる坊主のお願いが聞いたか晴天。遠くの雲が何か横切ったみたいに半分になってるけど。
「なんか手を伸ばせば雲がとれちゃいそう」
「そうだな。今日はそれくらい綺麗に晴れたな。てるてる坊主が効いたかな?」
「神野さんも作ったんだ。私もあの後でおばちゃんに聞いて作ったんだ」
「そしたら2人分のお願いが効いたんだな」
ぷかぷかと浮かぶボートの上。世界に私達だけしかいないってくらい静かだ。
ずっとこんな時間が続けばいいな……
真桜「この国の電車は凄いよね。何で皆当たらないように歩いているんだろう?」
祝「そうか?慣れだろう」
真桜「そんなもの?私は皆が神野さんに道を譲っていると思ったくらいだよ」
祝「そんな事ないぞ。ちゃんと右側に寄って歩いたし」
真桜「私はそんな事教えてもらった事ないよ」
祝「気がつけば右側を歩くって知ってたな。母さんに聞いたのかな?」
真桜「私は堂々と歩きなさいと教えてもらっただけだなぁ」
祝「真桜は身分の高い家だったのかもな。そう言う国や家の違いがあるんだろう」
真桜「そうなんだ。あ、皆並んでる」
祝「順番を守りましょうは幼少期に叩き込まれるからな」