第12話 目的を思い出した勇者
朝一直通運転がなくなる中央線。また遅延かと調べたら……運転見合わせの文字。朝から乗り換えが増える(´- `)
ブックマーク、読んでくれた皆様!
ありがとうございます(*'ω'*)
今日は色々あった。そして俺は現実世界の甘い物を食べているうちに、本当の目的を忘れそうになっていた。
「異世界に帰る。そんな目的忘れかけてたな」
家に帰る道を1人歩く。そして学校から出てすぐの交差点にいる。
「朝ここで車に轢かれそうになったんだよなぁ」
異世界転生するって言うと、やっぱりトラックに轢かれるだよなぁ。普段からここには車はあまり通らない。今も信号が青でも車は通らない。横断歩道の信号が変わり、俺はゆっくりと歩き出す。
「まぁ都合よくトラック来るわけないか」
「お兄さん。トラックに轢かれたいの?」
「へ?」
気がつけば横に1人の知らない少女……ではない、桐花が立っていた。今は黒騎士の格好ではないから、知り合いだとバレてはいけない。
「……君はここで何をしているんだい?」
「僕は散歩。偶然人助けしてトラックに轢かれないかなって」
「そんな人生急ぐような事をしてはいけないぞ」
「お兄さんがそれを言います?」
別に俺は死ぬためにここに立っている訳ではない。
「良いんだ。俺は助けても生きているからな」
「僕だって助けても生きていられると思います」
「その自信はどこから来るのさ」
「僕、強いですから」
グッと腕をまくり力瘤を出す。その仕草は可愛らしい子でしかないけど、ステ上のレベルは5だからな。強いと言うのも間違ってはいないかも知れない。
「ってか。何でついてくるの?」
「お兄さんがちゃんと家に帰れるか見守らないと。トラックはあまり通らないけど」
「それは君もだよ。さっきトラックに轢かれないかなって言ってたし。何で轢かれたいの?」
「私、異世界に行きたいんですよ」
「そうか。それでトラックに轢かれたいんだな」
異世界に行きたいならその考え方も納得。ってしないけどな!トラックに轢かれてもきっと行けないぞ。でもこれをどう伝えるか……うーん。
「お兄さんは笑ったり馬鹿にしないの?」
「何をだ?」
「異世界に行きたいって」
「何でだよ。海に出たい海賊がいたり、宇宙に憧れて宇宙飛行士になる兄弟がいる。異世界の行き方が確定してないだけで、憧れて何が悪い。行ける方法を見つけ出したらそれこそ、次元を越える大発見じゃないか」
「あぁ……」
ん?何か俺は間違った事を言ったか?異世界にどうやって行けばいいか俺も分からないけど。異世界はある。この俺自体がその証拠である。でも人にどう伝えればいいか分からないから、それっぽい言葉を並べてみる。
「兄貴!兄貴はどう思いますか?」
「あ、兄貴?ふー別に何でもいいけど。どう思うとは何についてだ?」
「異世界です。どうやったら行けると思いますか?」
「とりあえず言える事は、トラックに轢かれる、電車に轢かれる、通り魔に刺される。定番のワードだが、お勧めしない」
「それは……」
「結果が正解なら万々歳だけど。不正解だった場合は何も残らない上に、誰かを泣かせたり迷惑がかかる」
「それはめぇちゃんに怒られた事ある」
「姉ちゃん?まぁ誰でもいいけど。人を悲しませてまで、目的を達成しても向こうで楽しめないだろう?」
「確かに」
何か手帳を取り出してメモし出した。どうやら桐花の異世界に行きたいはガチらしい。俺もこれくらい熱心に考えないといけないよな。
「ちなみに学校の屋上から飛ぶや、坂道自転車でブレーキかけないなんてのも?」
「君は友達いないのか?あ、これは失礼な質問だよな。忘れてくれ」
「いえ。私にはめぇちゃんがいます」
「さっきの姉ちゃんじゃなくて、めぇちゃんってあだ名だったのか」
「めぇちゃんは文武両道のスーパー女子中学生なんです。私みたいな変わった子と仲良くしてくれます。いつも発言が怖いから、見てないと心配だと言ってくれます」
だろうな。トラックや電車に轢かれるとか、屋上から飛ぶとかどれも自殺志望者に聞こえる。しかし桐花は死ぬ気は一切ない。そんなところが危なっかしくて、その子も放っておけないんだろう。
「とにかく友達がいるなら、必ずその子に相談しろよ」
「うん!分かった兄貴!」
「それでよし。良い子にしてたらチャンスはいつか来るかもしれないよ」
「チャンスですか……出来ればクラスメイト全員で異世界が理想ですね。そうすればめぇちゃんとも一緒に行けますし」
「そうそう。そんな事もあるかもしれないよな。自分から命を投げ出すやり方より希望があるだろう」
「しかし、過去のニュースにもクラスメイトが集団でいなくなると言う記事なんて……」
「そう言うのは表向きは隠蔽されるもんだ。そう簡単に情報は掴めないさ」
「確かに!勉強になります」
こう考えると異世界に行く方法って、結構世の中に転がっているよな。俺は部屋にいたら神に強制召喚された口だけど。
そうなれば神様の言う、魔王討伐が1番異世界に戻る近道な気もする。
「「うーん」」
2人でどうやったら異世界に行けるか頭を悩ませる。
―ダダダ……
どこからか足音がする。この足音は……
「恩か!お兄ちゃんに飛び込んでおい……」
「死ね!」
「ごふぅ!?」
―ドゴォ
妹である恩の気配を感じとり、抱きしめようと両腕を広げただけなのに。思い切り脇腹にボディブロー。
「な、なぜだ恩。お兄ちゃんはただ抱きしめようとしただけ」
「まずそれがキモい。それと私の親友に近づかないで」
「し、親友?」
「めぇちゃん!」
めぇちゃんって恩の事か。めぐちゃんとかもっとあるだろう。てか、そんなヒントで妹にたどり着くなんて……
「文武両道のスーパー中学生が他にいる訳ないか!確かにめぇちゃんで気がつくべきだったな」
「私のめぇちゃんは凄いんだ!」
「ははは。君は間違っているぞ。俺の恩だ」
「「はぁ?」」
何だコイツ。俺の恩に向かって自分のだと?これは分からせてやる必要があるみたいだな。
「強いと言っても所詮は中学生。そんなやつに恩は……」
「舐めないで!っし!」
「桐花ちゃん!?」
俺の脳天目掛けて綺麗な蹴りが飛んでくる。妹の愛のボディブローはくらってあげたけど。他人の攻撃を受けてあげる程、マゾと言う訳ではない。
―パシッ
「っち」
「中々鋭い蹴りをするな」
―ビュン!ビュン!ビュン!
「容赦ない蹴りだな」
「桐花ちゃん!」
「はぁぁぁ!!!てりゃ!」
初撃を防いだ事でスイッチが入ってしまったらしい。こんな道のど真ん中で、俺は中学生に襲われています。反撃する訳にもいかないし、当たったら痛そうだから全て回避する。
「恩よ。本気で止めてくれ。俺はこんなところで変態扱いされたくない」
「変態って……まさか兄貴!桐花のパン……」
「見ていない!見ないように目を瞑っているだろう!」
「確かにそうだけど……」
「目を瞑っている?私の蹴りを全て避けているのに?」
攻撃が止んで良かった。しかし初撃の蹴りから予想していた。見えたら恩に怒られると。
「僕の攻撃を全て見ないで回避したと言うの?」
「結果的にはそうなってしまったな」
「そんな……僕は強い。いや、自惚れていただけか」
その場に膝をつき落ち込む桐花。
「何でこんなに落ち込むんだよ」
「桐花は去年、空手の全国大会で優勝したんだよ」
「日本一!凄いじゃん」
「でも見ないで避けられた……」
「桐花〜兄貴はその……変だから!」
妹よ。それは何のフォローにもなっていない。そしてただただ俺を貶しているだけだ。
「そう落ち込むな。俺は高2で君は中3だ。2年も違うんだから」
「そう?」
「日本一だからってどこか調子に乗ってなかったか?いいか。上には上がいる。初心を思い出して己を鍛えるがいい」
「は、はい!兄貴!いや、師匠!」
「何を偉そうな事を……」
「それではさらばだ!」
恩が余計な事を言う前に、俺はこの場を後にする。後で聞いた話だけど、俺の言った2年と言う歳の差。兄である新が巻き込まれ、サンドバックになったとか……話を聞いた時は他人事のように全力で聞き流した。
「ふぅ〜危ない危ない。桐花は恩に任せておくとして……」
強いと思っていたけど。まさか空手の全国大会優勝ね。そりゃレベルが5あってもおかしくない。ん?って事は、母さんも何かしらの格闘技でもやっていたのかな?
「あら。祝おかえり」
噂をすると母さんとばったり会う。
「ただいま母さん」
身長は女性の平均よりは高いけど。格闘技やっていたようには見えないんだよなぁ。レベル7って事は、もしかしたら世界選手権で何位とかになっているのかも。
「ん?お母さんに何かついている?」
「あ。いや、そこで恩とその友達にあってさ。その子が空手の日本一らしくて」
「桐花ちゃんの事かしら?あんな小さいのに凄いわよね〜」
「あぁ。びっくりだよ。だからかな、もしかしたら見た目で分からないだけで、母さんも何か格闘技やってるのかなって」
さぁ聞いたぞ!母さんの謎が今ここに……
「あは。私はそんなのやってないわよ。学生時代も帰宅部だったし」
「え?そうなの?でもそのレベル……」
「運動全般は得意で体育の成績はいつも5だったわよ」
そう言う事?レベルって、その人の運動神経に直結してるの?
―ブォーン
前からバイクが一台。
「あら、祝バイクが来るわよ」
母さんに言われて俺は道の端に寄る。するとバイクはこちらに近づいてきて止まる。え!?俺ら何かした?
「おはようございます恵さん!」
「おはよう。少しバイクの音が大きくない?」
「はい!すいません!」
「街の人に迷惑かけるような事……してないよね?」
「勿論です!安全第一で走行しています!」
「そ。じゃ、バイクのメンテナンスはしっかりお願いね」
「はい!それでは失礼します!」
「ちょっと」
なんか怖いお姉さんが母さんにずっと頭を下げる。どう言う関係?
「私の息子なの。挨拶は?」
「し、失礼致しました!おはようございます!」
「あ、はい。おはようございます」
「礼儀はしっかり……ね。それじゃ安全運転で気をつけて」
「はい!お心遣いありがとうございます!それでは失礼致します!」
―ブロロ……
さっきまでのエンジン音が嘘のように静かに、何もなかったかのように走り去っていった。
「…………母さん今の人は?」
「ふふふ」
「いやいや。笑って誤魔化さないでよ」
「ふふ。ちょっとした知り合い……よ」
目が怖い!これは聞いてはいけないと、俺の細胞達が全身で訴えてくる。
「そう……ですね。では僕は家に帰って勉強致します」
「偉いわ〜でも変な言葉遣いが気になるわ」
「さっきの方に影響されただけです!じゃ、先帰る!」
「車に気をつけるのよ」
母さんと別れる。今でも心臓はバクバクと大きな音を出す。
「レベル100の勇者が聞いて呆れるな。桐花に言った言葉だけど、上には上がいるって事だな。俺も異世界に行く目的達成のために、初心忘れず鍛え直す必要があるな」
目的を思い出した俺は、自分の歩む道を踏み外さないようしっかり考える。そう心に誓った日であった。
祝「この世界は不思議な事で溢れている」
桐花「はい!師匠!」
祝「見た目では分からないその人の強さ」
桐花「師匠みたいな人ですね!」
祝「……俺もそう見られていたのか」
桐花「はい!とても格闘技をやっているようには見えません!」
祝「でもまぁ妹を守るために鍛えただけだからな」
桐花「その強さはめぇちゃんを守るため!?私もめぇちゃん守ります!」
祝「頼んだぞ桐花。学園では頼りにしている」
桐花「おっす!」
恩「私は誰から狙われているのよ?」