○●第6話 お仕置きです●○
ベッドの上で完全に寝入っているアンリ。
その無防備な姿を前に、舌舐めずりをする野獣……ではなく、中性的な顔立ちの美男子が二人。
双子の魔神――イリアとオデットは、ベッドの脇に立ち、アンリを見下ろしている。
「さぁて、どうしてやろうかな」
二人の最優先目的は一つ、アンリの《隷属》からの解放である。
となれば、する事は一つ。
ここで、無防備な状態となっているアンリを手に掛けてしまうことだ。
「………」
「………」
しかし、そこで、イリアとオデットは、二人揃って黙り込む。
彼等は、ベッドに横になったアンリの姿を見ている。
すぅすぅと、小さく吐息を漏らす姿は、さながら無垢な天使のよう。
昼間、イリアとオデットを前にしても気圧されず堂々と、そして二人を見下すでも恐れるでもなく、対等に接していた――気丈な風格が嘘のようだ。
女性とは思えない程強く固い意志を宿していた双眸は、今は長い睫のカーテンによって隠されている。
健康的な肌色の中、桃色に染まった頬や目元。
二人は、まるでアンリの美貌に魅了されているかのように、吸い込まれるように見詰めていた。
「ん……んん」
そこで、アンリが小さく声を漏らし、ベッドの上で体を動かす。
その声音を聞き、イリアとオデットは意識を取り戻す。
「……イリア」
そこで、オデットが言う。
「お前、先程『この人間をどうしてくれようか』、と言っていたが、何をするつもりだったんだ?」
「……はぁ? 何って……」
そこで、イリアはチラッとアンリを見て、その後、そんな彼女から視線を外さないオデットを見る。
「……おい、オデット。もしかしてお前、この人間がちょっと良いとか思ってんじゃないだろうな?」
「……下らん。ただ、このまま殺すのも勿体ないと思っただけだ」
オデットは言う。
表情こそ冷静なままだが、その言葉遣いは、まるでイリアの発言を誤魔化しているかのようだった。
「どういうことだよ?」
「我々を奴隷のように扱ってくれたのだ。逆に、この人間を我々の奴隷にしてやるというのはどうだ」
そのオデットの発言に、イリアは少し黙った後、口元を綻ばせる。
「へぇ、それは面白そうじゃん。でも、どうやって?」
「この人間が俺達に何の問題も無く抵抗できるのは、その身に宿る魔力が強力なためだろう。魔神である俺達の放つ存在感に対しても、免疫のようなものがあるところが大きいのだ」
そう、冷静な面持ちと声音で、オデットは語る。
「先程の食事の席で、この人間が自分の身の上を語っていただろう」
「ああ、自分の家族のこととか、王族のレオネス王子? に婚約破棄されたとか、色々喋ってたな」
夕食の時間、アンリはイリアとオデットに自分の身の上を話していたのだ。
それこそ、食卓を囲む仲の良い仲間同士のように。
「聞いたところ、この人間の一族は長年魔獣討伐を行ってきた血族らしい。普通の人間は、魔獣を前にしたら根源的な恐怖心を煽られ戦意すら抱けなくなる。だが、この人間の血族にはそういったものに対する免疫があるのだろう。だから、俺達に対する根源的恐怖心も薄く、精神的にも真っ向から立ち向かうことができた」
だから――と、オデットは続ける。
「今の体力と気力が弱まって、抵抗する力が低下している状態で、完全に屈服させる必要がある」
要は心を攻撃し、ダメージを与え、精神の奥底から『イリアとオデットには敵わない』という認識を強めさせる。
そうして屈服させれば、アンリは二人の奴隷に近い存在とできるのだ。
「と言っても、この人間の魔神に対する精神的免疫がどれだけ強いのかはわからない。だからこそ、徹底的にやるしかない」
精神を屈服させる、心にダメージを与える。
最も効率的な方法は何か?
女相手なら、この方法しかない。
つまりは――陵辱だ。
身も心も、快楽と羞恥でぐちゃぐちゃにして自尊心の欠片も残さず捻り潰す。
体力の低下から深い眠りに落ち、気力の低下によって思考が鈍っている。
言わば、催眠心理状態に陥って隙だらけの今のアンリにそれをするのは容易い事だ。
「なぁ、オデット、こいつどう思う?」
そこで、イリアが尋ねる。
「どう、とは?」
「経験はあるのかな?」
「……確か、王子の婚約者だったと言っていただろう。だとしたら、身も綺麗なままの可能性が高いな」
「……ふぅん、まぁ、どうでもいいけど」
そう言いながらも、アンリから目を離さないイリアの一方、オデットは値踏みするようにアンリの体を眺めている。
「……よし、じゃあ起こすとするか」
言って、アンリに体を寄せようとしたイリア
「待て、今なんと言った?」
そんな彼に、オデットがすかさず言う。
何を言ってるんだこいつは――というような顔で。
「起こす? 馬鹿か、お前は。何故寝入って抵抗もできなくなっている今、起こす必要がある」
「いや、だって、眠ったままじゃ……なんていうか……そう、つまらないだろ。起こさなくちゃ反応が見られないだろうし」
イリアがそう言うと、オデットは深く溜息を吐いた。
「何のために体力と気力を削ったと思っている、間抜け。今の、夢とうつつの境もわからなくなっているような心理状態になっているから意味があるのだろうが」
「まぁ、そりゃそうだけどさ……」
「それよりも、今の内に縛り上げる手伝いをしろ」
「は? 縛る?」
「眠っている内に両手両足の自由を奪う。ベッドの四方に布でくくりつけるぞ」
「嫌だね。道具に頼るなんて女々しいマネ、僕の趣味じゃない」
「効率を考えろ。もし、最中に一瞬でも正気を取り戻し反撃されたらどうする。それに、趣味というなら俺は縛って目隠しをさせて感覚を鋭敏にさせるのが趣味だ」
「うっせぇヘンタイ、お前とはやっぱり合わないな」
睡眠中のアンリを目前に、イリアとオデットは喧嘩を始める。
二人とも当初の目的を忘れているのか、それとも別の思惑が働き始めたのか――中々、アンリに手を出そうとしない。
「あーもー、どうでもいい! 僕は僕のやりたいようにやらせてもらうからな!」
散々言い争った後、むしゃくしゃした様子のイリアがアンリに体を向ける。
「ぴゃー!」
するとそこで、イリアの目前に何か、黒いものが飛んで来た。
「わっ、なんだ!?」
「ぴゃー! ぴゃー!」
イリアの顔に、一匹のペンギンが張り付いている。
気付くと、アンリの寝室の中に入ってきたペンギン達が、アンリを守るように彼女にしがみついていた。
その内数羽のペンギン達は、アンリに危害を加えようとしている双子に飛び掛かって邪魔しようとしている様子だ。
「なんだ、こいつら! いつの間に!」
「長々と言い争っていたからだ、馬鹿め」
暴れるペンギン達に苦戦する双子。
「おい、騒ぐな! こいつが起きちゃうだろ!」
「もう起きてるよ」
「あ」
瞬間、イリアとオデットの首に白銀の糸が巻き付く。
そして即座、《隷属》が掛け直され、キューーーーッと二人の首が締め上げられた。
声にならない悲鳴を上げ、双子はその場に倒れる。
「な……お前……起きてたのか……」
「どうせこんな事だろうと思ってたよ」
寝入る寸前、自身の気力と体力の消耗があまりにも極端過ぎると考えたアンリは、まさかと思い、罠を仕掛けた。
簡単に言うと、狸寝入りだ。
強烈な眠気に負けないように必死に寝たふりをしていたら、予想通り、イリアとオデットがやって来た。
そして彼等の話を聞くに、やはりこの消耗はイリアとオデットがアンリの《隷属》から解放されるための策だったようだ。
予想外だったのは、逆にアンリを支配するために、とんでもない行動を起こそうとしていたことだったのだが。
「……もう、二人揃って何変なこと話してるの……」
アンリは恥ずかしそうに顔を赤らめながら、二人にお仕置きを執行する。
回復したなけなしの魔力を駆使し作った、《隷属》の首輪。
それを、力の限りギュウーッと締め上げる。
「ぐぁああ!」と、悲鳴を上げのたうつイリアとオデット。
「もう、この首輪は絶対に外さないからね!」
この日、《北の監獄》の夜空に、双子の魔神の悲鳴がしばらくの間響き渡ったという――。
××××××××××××
「こうなったら、何が何でも寝るわけにはいかないかな」
その後。
イリアとオデットは散々絞られ、ほぼ失神状態で別室の床に寝転がされた。
きついお灸は据えたが、いつ復活するかわからない。
万全ではない今の状態でまた寝込みを襲われても困るので、アンリはすぐに対処できるよう寝ないことにしたのだ。
「ぴゃー! ぴゃー!」
しかし、気力と体力の消耗が激しいアンリはフラフラ。
そんなアンリを、ペンギン達が心配して取り囲う。
「アンリ様、寝た方が良いよー!」
「あの魔神達は僕達が見張るよー!」
横たわったイリアとオデットの上に「ぴゃっ!」「ぴゃっ!」と、それぞれペンギンが一匹ずつ乗っかった。
「変なうごきを見せたら、すぐに起こすよー!」
「そ、そう……みんな、ありがとう……」
ペンギン達に感謝しつつ、アンリはベッドの上で浅い眠りにつくことにした。
(……流石に、警戒を解くのに早すぎたかな……)
そう、反省しながら。
――翌日。
「ふわ……」
ペンギン達のおかげで、熟睡とは行かなかったがひとまず休息を取れたアンリ。
寝室から降りてくると、既に広間にオデットとイリアがいた。
「アンリ……いや、主よ」
先に口を開いたのは、オデットの方だった。
アンリの怒りを警戒してか、そんな呼び方に変えている。
「昨夜は申し訳なかった」
そう言って、深く頭を下げ謝罪する。
「………」
そこで、オデットは隣に立つイリアの脇腹を肘で小突き、彼にも謝罪を促す。
「ああ、ええと……僕もやり過ぎた。ごめん」
イリアは、昨日から一転し、しおらしい態度で言う。
灸を据えたのが利いたのだろうか?
「もう、お陰でぐっすり寝られなかったよ」
はぁ、と溜息を吐くアンリ。
そして、どこかピリピリした雰囲気の二人に、「ああいうことはもう止めてね」と言う。
「……え?」
「それだけ、か?」
その発言に対し、双子は驚きの表情を浮かべる。
なんだろう……もっと盛大に怒られるとでも思っていたのだろうか?
確かに、改めて警戒心は高めた。
《隷属》の首輪もしっかり掛けているし、しばらくは大人しくしているだろうし、アンリとしては別にこれ以上何をする予定も無い。
「気にしてないっていうわけじゃないけど、怒ったってしょうがないから。但し、今度同じようなことしようとしたら、昨日の夜どころじゃないからね。もっと強く首を絞めるから」
油断すれば、いつまたアンリに反旗を翻してくるかわからない。
目は光らせておかないと。
そう思い、アンリは二人に注意した。
「………」
「………」
一方――イリアとオデットは、そんなアンリの様子に、ちょっと拍子抜けしたような顔をしていた。
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