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○●第5話 双子の魔神イリアとオデットです●○



 拝啓、、、お父様、お元気でしょうか?


 少々……いえ、大変な事が起こってしまいました。


《北の監獄》にて、ミラートと呼ばれていた廃村を発見したのですが、その地に封印されていた双子の魔神を復活させてしまったようです。


 ……何を言っているのかわからないですよね。


 私も少し動揺しているのかもしれません。


 大昔、この地上で猛威を振るっていた魔神達の一人(二人?)のようで、話を聞くに、他の魔神や人間達との争いの中で力を奪われ封印されてしまったのだとか。


 その封印を管理していた守り人の一族もこの村から居なくなり、何も知らぬ私がやって来た結果、不用意に封印を解いてしまったようです。


 ……正確には、私のせいなのかどうかはわかりませんが、それでも立ち会ってしまった以上は勝手な事をして人々に被害が発生しないよう、私がこの二人を見張りたいかと思います。


 双子の魔神の名前は、イリアとオデット。


 エメラルドのような瞳と髪色で、やんちゃで暴れん坊な方がイリア。


 アメジストのような瞳と髪色で、クールで無口で偉そうな方がオデット。


 二人とも、大人しくしていれば育ちの良さそうな美男子という風貌なのですが、どうにも口が悪いです。


 流石は魔神。


 きちんと調教したいと思います。


 ……失礼、教育したいと思います。




 ××××××××××××




「……ふぅ、ペンと紙を発見できたのは幸いだね」


 廃屋の二階には書斎と思しき部屋があり、そこでまだ無事な紙とペンとインクを発見した。


 紙はシミだらけだし、手紙というよりは日記……いや、現状を書き残すためのメモくらいにしか使えないが、何も無いよりはマシである。


“なんとしても、自分の置かれた状況を父達に伝える”という目標が、明日を生きる糧となるのだ。


 いずれちゃんとした手紙に書き直し、本国へ送ろう――と、アンリは書き上げた文章を見直し、大事に机の引き出しに仕舞った。


 さて――。


「おい、女」


 二階から一階のリビングへと戻ったアンリの目に、優雅に椅子に腰掛けてゆったりくつろいでいる双子の姿が映る。


「とりあえず着替えたぞ。あんまり、サイズは合ってないみたいだけど」


 ひとまず、あの封印の神殿から帰ってきたアンリ達。


 二人とも服もボロボロで体も汚れているので、お湯を沸かし、体を拭いてもらうことにした。


 ついでに、着ている服も脱いでもらって、一応洗濯。


 今は、火を熾した暖炉の前に干して乾かしている。


 現状、二人はこの家のクローゼットの中に放置されていた成人男性用の服を適当に着ている状態である。


「今はそれで我慢して。洗濯した服が乾いたら、可能な限り針仕事をして返すから」

「……なぁ、女。お前、何が目的だ?」


 そこで、イリアがアンリに訝しげな目を向ける。


「僕達を奴隷にするんじゃないのか?」

「え?」

「僕達に、体の自由を奪う魔法を掛けたんだ。そういうつもりだろ?」

「うーん……別に、そんなつもりはないけど。ただ、捕まえておかないと君達が暴れ出しそうだったから」


 アンリがそう言うと、イリアが目を細めた。


「じゃあ、解除してくれよ。もう暴れる気は無いからさ」

「本当、わかった。はい、解除したよ」

「……ははん、油断したな! 簡単に信用しちゃって!」


 瞬間、イリアが椅子からゆらりと立ち上がり、アンリに向かってほくそ笑む。


「覚悟しろよ、これからお前に一晩掛かりでお礼を――」

「なんて、嘘」


 瞬間、《隷属》の首輪に首を締め上げられ、イリアが呻き声を上げて床に倒れる。


 アンリは現状、双子に《隷属》魔法を掛けて動向を管理している。


 暴れたり逃げ出そうとしたりしたら、《隷属》の首輪を通してキュッと首を締め、お灸を据えられる――というわけだ。


「馬鹿め……」


 と、軽はずみな行動に出た結果、手痛いしっぺ返しを食らったイリアを見て、オデットはボソリと呟く。


「……お前、また僕を囮にしたな」


 そんなオデットを、イリアは床に転がった状態で睨み上げた。


「お前が勝手に早合点して暴走しただけだろう……まったく」


 そこで、オデットは椅子から立ち上がると、アンリの前で恭しく跪く。


「人間よ、俺はこいつとは違う。お前への忠誠をここに誓う」


 どうやら、オデットの方は無駄な抵抗はしないと、大人しくアンリに従う意思を示したようだ。


「あ、うん……」


 その素直というか……慇懃な態度に、アンリは逆に鼻白む。


 ……あまり信用しすぎてはいけないと、直感で思った。


「お前に仕える身として、何か手伝うことはあるか?」

「ええと、じゃあ、この家の掃除を手伝ってもらおうかな。まだまだ、ゴミや廃材が多く残ってるし。これから二人も暮らすわけだから、使える部屋も増やさないといけないしね。ちょっと一緒に来てくれる?」


 そう言って、アンリは部屋を出る。


「……おい、オデット! お前あんなメス人間の言いなりになって恥ずかしくないのかよ!」


 アンリが出て行ったところで、イリアがオデットに食って掛かる。


 しっかり、声は忍ばせながらだが。


「……仕方が無い。復活したばかりで無力な我々には、あの女に敵う力も無い。大人しく言うことを聞くしかないだろう」

「って言ってもさぁ!」


 そこで、オデットがイリアに耳打ちをする。


「……ここは大人しくしておけ、イリア。考えはある」


 鋭く収斂された双眸の奥で、アメジストの瞳が妖しく光る。


 オデットはイリアの耳元で、自身の“考え”を囁いた。


「……なるほどな」


 オデットの企みを聞いたイリアは、小さくほくそ笑んだ。


「おーい、二人ともどうしたの?」


 そこで、中々やって来ない双子の元に、アンリが戻って来た。


「何か、コソコソ話してるみたいだけど」

「別に、コソコソなんか話してないけど?」

「こいつが、絶対に隙を突いて逃げ出してやると憎まれ口を叩いていた」

「お前!」


 適当なことを言うオデットに、イリアが吠える。


 それを聞いたアンリは、溜息を吐く。


 そして、挑発的な微笑みを浮かべた。


「元気だね、イリア。まぁ、そう簡単に行くとは思わない事ね」

「ケッ、やっぱ生意気な奴」


 そう憎まれ口を返すイリアに、ベーッと舌を出すアンリ。


 ……一方、オデットは黙ってアンリを見ている。


「どうしたの? オデット」

「……人間、我々にも何か暖かい服はないか?」


 アンリの着ている毛皮の服を指さすオデット。


 なるほど、と、アンリは思う。


 今の双子の格好は適当そのもの。


 当たり前だけど、このまま暖房の効いていない家の中を回ったり、外に出たんじゃ寒いはずだ。


「ちょっと待ってて」


 そう言って広間を出たアンリは、しばらくすると、廃屋のクローゼットから服を持ってくる。


 ちょうど、この家に元々住んでいた人達の服で、毛皮の防寒着を二着発見できたのだ。


 イリアとオデットに、それを着せる。


「おー、あったかいな」

「感謝する」


 喜ぶイリアとオデットを見て、アンリも少しだけ微笑ましい気持ちになった。




 ××××××××××××




 その後、双子の魔神――イリアとオデットは、アンリの言うことを大人しく聞いていた。


 アンリと協力し、廃屋の片付けと掃除を終える。


 その後、皆で外に出て狩りをする事になった。


 ちなみに、一緒に掃除を手伝ってくれたペンギン達は、家でお休み中である。


「あっ、兎!」


 雪原へとやって来たアンリ、イリア、オデットの三人。


 そこでアンリが、雪原の中をぴょこぴょこと走る兎を発見した。


 ジャンプ力が高いようで、一足で結構な距離を進んでいる。


 しかも、体も大きい。


 雪国の兎は大きいと聞いていたが、思っていた以上だ。


 などと考えている内に、兎の方が、アンリ達の気配に気付いたのだろう。


 すぐさま、俊敏な動きで逃げて行ってしまった。


「ああ……」

「なるほど、あれを狩るんだな」


 そこでオデットがアンリに提案する。


(あるじ)よ、お前の魔法で俺を強化するといい」

「主ってお前……おい、オデット、こんな人間に傅いてプライドはないのかよ」


 横から茶化してくるイリア。


 オデットは、そんな相方を無視する。


「わかった、じゃあ、ちょっとやってみるよ」


 言って、アンリはオデットを強化するよう意識する。


 アンリの《隷属》魔法のバフ効果は、《隷属》を掛けた存在が元々持っている力を倍数的に強化するというもの。


 つまり、腐っても魔神と呼ばれる存在であるこの双子が、元から持っているパワーを強化したなら――。


「見ていろ」


 自身の身体能力が増強したのを、感覚的に読み取ったのだろう。


 そこでオデットは足下の石コロを拾うと、思い切り投擲した。


 まるで投石機から発射されたような速さの石が、数十メートル先にいた兎に命中した。


「おお! 凄い!」


 見事兎を仕留めたオデットに、アンリは感動して声を上げる。


「まぁ、こんなところだ」

「……はんっ、兎一匹仕留めただけで偉そうに! そんな力借りなくたって、これくらい……」


 一方、イリアはムキになって、自分の力だけで捕まえてやろうと兎を追いかけ回す。


 しかし、まったく捕まえられず、むしろ兎に良いように走り回されているようだ。


「ああ、もう!」

「……ふっ」


 苦戦するイリアに対し、オデットはしたり顔を向ける。


「……くそっ! おい、女! 僕もパワーアップしろ! オデットよりもでかい獲物を捕まえて、今夜はご馳走にしてやる!」


 というわけで。


 その後、アンリのバフ効果を受けた双子は、競うように狩りをする。


 まるで無邪気な子供のように競い合う双子を見て、アンリも、少し呆れながらも微笑ましい気分になった。




 ××××××××××××




 ――流石、北国だけあって日が沈むのが早い。


 そうこうしている内に、もうあたりが薄暗くなり始めていた。


「頑張ったけど、結局捕まえられたのは兎が三羽だけだったね……」

「散々偉そうなことを言っておいてこのザマか」

「なんだよ、お前こそ結局、最初の一匹しか捕まえられてないじゃん!」


 言い争いを始める双子を「まぁまぁ、これだけ捕まえられれば十分だよ」と、宥めるアンリ。


「すまない、主。折角、お前の魔法の力を借りたのに、ほとんど無駄遣いになってしまったようだ」

「いいよいいよ、狩りなんて慣れてないから、仕方がないよ」


 しかし、オデットの言う通り、かなり魔力を消耗した感覚がある。


「今日はお腹いっぱい食べて、早めに休もう」


 捕まえた獲物を持ち、三人は廃屋へと戻る。


 その家の庭で、アンリは獲物を捌くことにした。


 魔獣討伐時代に、兵士達からサバイバル術を学んだことがある。


 その記憶を参考にしながら、自分達の血と肉となってくれる兎に感謝しつつ、食べられるように体を解体していく。


 解体が終わったら、火に掛けて焼き、イリアとオデットと食べる。


「……少しクセが強いけど、食べられないことはないね」


 焼いた兎肉を頬張りながら、アンリはコメントする。


 やはり、野生動物だからだろうか。


 普段食べていた肉に比べて、ちょっと違和感を覚える味がする。


「調味料とかがあればなぁ……」

「そうか? 結構食えるぞ」


 アンリの一方、イリアとオデットは焼いた兎肉をバクバクと頬張っている。


 骨まで飲み込みそうな勢いだ。


 捕ってきた兎は三羽。


 一人につき一羽。


 アンリにはちょうど良い量だったが、双子はまだお腹が減っている様子だ。


「二人とも、よかったら私の分も食べて」


 そこで、アンリはイリアとオデットに、自身の食べかけを差し出した。


「……え? もう要らないのか?」

「うん、お腹いっぱいだから」


 本当はまだ食べられるはずだが、疲れのせいもあって食欲が湧かないのだ。


「それに、兎を捕らえられたのは二人のお陰だから。功労者には、一番食べてもらわないと」

「……そうか」

「……じゃあ、遠慮無く」


 双子はアンリからもらった兎肉をバクバク食べる。


 端から見ても、気持ちの良い食べっぷりだ。


 ――さて、夕食の時間も終わり。


「私、もう寝るね」


 欠伸を発しながら、アンリは立ち上がる。


(……なんだか、こんなに疲れたと言うか、眠たくてしょうがないのは久しぶりかもしれない……そんなに運動したかなぁ?)


 目元を擦りながら、アンリはふわふわとした頭で思考する。


「……あ、この家結構広いし、昼間にみんなで掃除もしたから、好きな部屋を使って」

「ああ」

「りょうかーい」

「あ、それと」


 腹も満たされ、広間でだらだらしている双子に、アンリは思い出したように言う。


「私は、アンリ。アンリ・メヌエット。人間とか、女とか、主とか色々呼ばれちゃってるけど、一応、名前はアンリだから。気さくに、そう呼んでくれればいいよ」

「………」

「………」

「じゃあ、お休み。また明日もよろしくね」


 そう言って、二階に上がっていくアンリ。


「……だとよ、オデット」

「……ふん」


 そんな、彼女の去りゆく後ろ姿を、二人は妖しげな目付きで見据えていた。


「大分、俺達に気を許しているようだ」

「ああ、これなら問題無くいけるんじゃない?」




 ××××××××××××




「むにゃぁ……」


 寝室のベッドで横になるアンリ。


 大してふかふかでもないベッドだが、横になれば一気に体が睡眠に没頭するモードに陥ってしまう。


 どうして、こんなに眠いのだろう。


 確かに今日は双子の魔神が復活するし、廃屋の大掃除もしたし、狩りにも出た。


 体力は使ったが、それでも今まで経験したことの無い程の眠気だ。


「あ……もしかして……」


 そこで、アンリは気付く。


 魔力だ。


 今日はペンギン達だけじゃなく、イリアとオデットが暴走しないよう始終ずっと彼等に《隷属》をかけていた。


 その上、バフ効果も与えたり……。


(……魔神を強化するなんて初めてだったし、どれだけの影響が体に出るか知らなかった……)




 ××××××××××××




 すぅすぅと、ベッドの上で無防備に体を投げ出し、寝息を立てているアンリ。


 どうやら、完全に夢の世界へと旅立ったらしい。


 ――そこで、アンリが眠る寝室のドアが、ゆっくりと開く。


「……寝てる?」

「ああ、簡単には起きないだろう」


 イリアとオデットだった。


 二人は、ベッドで眠るアンリの傍へとやって来る。


「この人間……気付かなかったんだろうな。魔神を《隷属》させるなんて初めてのことだろうし、自分がどれだけの魔力を消耗させられてたのかを」


 そう言って、イリアがくっくっと喉を鳴らす。


 アンリは常にイリアとオデットに《隷属》をかけていた。


 オデットの発案で、双子はその状況を利用し、アンリに大量の魔力を急激に消耗させたのである。


 狩りの最中にバフ効果を与えさせ、イリアなんかは無駄に獲物を全力で追い掛け、オデットもわざと全力の投擲を何度も外したりと、気付かれぬように消費をさせていたのだ。


 魔力の消耗は、そのまま体力と気力の低下に繋がる。


 自覚できない内に体は疲労を蓄え、すっかり寝込んでしまっているアンリ。


 イリアとオデットの狙い通りだった。


 体力も魔力も弱まっているが、しかも、それ以上に魔法を使い続けようとする意識――気力が弱まっている。


「だから、こうやって少し力を加えれば――」


 双子は、自身達の首に光る《隷属》の首輪に指を掛ける。


「――簡単に解除できる」


《隷属》の首輪は、蜘蛛の糸のようにいとも容易くちぎられ、白銀の光子となって空中に散った。


 彼等を縛る鎖は失われ、そこに残されたのは、体力も弱まりぐっすりと眠っているアンリだけ。


 イリアはベッドに腰を落とし、オデットはベッドの傍に立ち、アンリを見下ろす。


「さーて、お楽しみの時間だ」


 イリアは、愉悦に満ちた顔でアンリを眺める。


「これだけ僕達に好き放題してくれたんだ、どうしてやろうかなぁ?」



 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

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[一言] ん〜。 根は悪くなさそうな気はするのだが…
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