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○●第4話 双子の魔神の封印が解かれちゃいました●○



 ――翌日。


《北の監獄》へとやって来て、三日目の朝。


「みんな、気を付けてねー」

「「「ぴゃー!」」」


 アンリはペンギン達と一緒に、廃村の外や近くの岩山を探索することにした。


 周囲に何があるのかを知るため。


 そしてあわよくば、何かしら食べられる植物を発見したり、野生動物の肉が手に入れられればと考えたのだ。


 流石に、昨日のシロクマとかを捕まえるのは一苦労かもしれないけど……。


 それでも兎とか狐とか、そういった小動物の生息を確認できたなら、罠を仕掛けて捕まえられるかもしれない。


 そう思ったのだ。


 しかし、廃村の周りはやはり寒々しい雪原と、切り立った岩山ばかり。


 めぼしいものは見付からない。


(……今日もペンギンさん達にお願いして、魚を捕ってきてもらうしかないかな……)


 そう思いながら、アンリはペンギン達と一緒に山肌を歩いていた。


 廃村の近くの小高い岩山で、ここから谷間にある旧ミラート村を見下ろすことができる。


 すると、その途中。


「ぴゃー! ぴゃー!」

「ん?」


 岩山の中腹に差し掛かったあたりだった。


 先を進んでいた一匹のペンギンが、少し先で何やらジャンプをしている。


 見に行くと、そこに洞穴を発見した。


「こんなところに、洞穴が?」


 滑らかに切り出され、補強の跡が見える入り口からは人工的に作られたような印象を受ける。


 何か、妙な予感がする……。


 昨日、廃屋で発見した、あの本の内容が頭を過ぎった。


「確か、魔神が封印されているとかなんとか……」

「ぴゃー!」

「あ、待って!」


 黙考していたアンリの一方、ペンギン達はどんどん洞穴の中へと進んでいく。


 アンリは慌てて皆に《隷属》を掛け、何があってもいいように強化も施した。


「アンリ様、心配しないでー!」

「アンリ様が危ない時には、僕達がまもるよー!」


 ここ数日間、アンリの《隷属》のお陰で活躍する事が多かったからだろうか。


 みんな、自信満々だ。


「うん、でも、慎重にね」


 この謎の洞穴に興味を惹かれたアンリは、ペンギン達と一緒に中へと入って行くことにした。


 洞窟の中は、完全にトンネルのようになっているわけではなかった。


 ところどころ壁に穴が空いており、そこから窓のように日の光が差し込んでいる。


 まるで回廊……いや、神殿のようだ。


 やはり明らかに、ここは人工的に作られた空間だ。


「あ」


 やがて、アンリ達は最奥へと辿り着く。


 そこは不可思議な場所だった。


 広々とした空間の中――石で作られた祭壇に、それに供物台のようなものが見える。


「ここって、やっぱり……」


 アンリは祭壇の奥を見る。


 そこに、巨大な石壁――壁画が聳え立っていた。


 壁の中央には、赤ん坊のように体を丸めた体勢の人型の絵が、二つ。


 その二人の人型を囲うように、見たことのない文字が刻まれている。


「……あれ?」


 そこで、アンリが気付く。


 巨大な石版に描かれた壁画は、ところどころ、ヒビ割れを起こしており、そのヒビから濃い紫色の光が漏れている。


 そして、耳をすませば、カタカタと小刻みに震えているのがわかる。


 この震えは、風の影響とかではないだろう。


 何か……嫌な予感がする。


「なんだろう、これー」


 そこで、アンリはハッとする。


 一匹のペンギンがその壁画に近寄って、恐る恐る翼の先を伸ばしていたのだ。


「あ、待って!」


 慌ててアンリが叫ぶが、既に遅かった。


 次の瞬間、壁画に一気にヒビ割れが走る。


 まるで、ペンギンの接近が影響し、眠っていた何かを起こしてしまったかのように。


「「「ぴゃー!」」」

「ペンギンさん、こっち!」


 大急ぎで帰ってきたペンギンを抱きかかえ、他のペンギン達と一緒に壁画を見る。


 ゴゴゴゴ……と鳴り響く地響き。


 拡大していく壁画のヒビ割れ。


 そのヒビの奥から、濃い紫色の光が次々に漏れ出す。


「ぴゃー! アンリ様ー! こわいよー!」

「みんな、こっち!」


 怯えて震えているペンギン達を《隷属》で引っ張り寄せ、アンリは崩落した岩石の岩陰にみんなで隠れる。


 その岩陰で、抱きつくペンギン達と一緒に振動が終息するのを待った。


 ……やがて、地鳴りと発光が収まる。


 アンリはゆっくりと、岩陰から顔を出した。


 砂埃が漂う空間の向こう――二つの人影が、こちらへと歩いてくるのが見えた。


「げほっ、げほっ……あー、泥臭い。おーい、オデット、生きてるー?」


 先行していた一方の人物が呼ぶと、奥から口元を手で覆いながらもう一人が現れる。


「無論だ、イリア。数百年ぶりか……外気に触れるのは」


 二人とも背が高く、中性的で端正な顔立ちをしている。


 着ているのがボロボロになった衣服ではあるものの、見た目だけなら育ちの良い上流家庭や、貴族の子息という感じが窺える。


 しかし、纏っているオーラというか、発する雰囲気のようなものは、やはり常人のそれとは一線を画す気配がする。


 それを証明するように、二人とも、その頭部には一対の角が生えており、髪の間から存在を主張していた。


 黒い、天を衝くような角。


「あの二人は、まさか……」


 震えるペンギンをギュッと抱き締めながら、アンリは昨夜見たあの文書を思い出す。


 そこに書かれていた言い伝え。


 そして挿絵のように描かれていた、そっくりな双子の魔神の姿。


(……まさか本当に、あの文書通り、この地に双子の魔神が封印されていたなんて)


 そして今、その封印が解かれてしまったのだ。


 ペンギンが触れたから?


 いや、触る寸前に壁画の崩壊は始まった。


 もしかしたら、ペンギンが纏っていた《隷属》の魔力に反応したのかもしれない。


(……だとしたら、封印が解けたのは私の責任かも)

「クソッ、あの人間共め。《射手の魔神》と結託して、卑怯な手で僕等の心臓を奪った上に、こんなところに封印してくれちゃって」


 考察するアンリの一方。


 魔神の片割れが、そう忌々しそうに呟いたのが聞こえる。


 彼等がやって来た空間の奥の方――あの巨大な壁画は、今は崩壊してバラバラに散乱していた。


「お前が油断し、隙を作ったのが原因だろう、イリア」

「あん? そう言うお前だっていいようにやられちゃってんじゃん、オデット」


 感情表現豊かで行動的な方がイリア、冷静沈着で無表情の方がオデットというらしい。


 見た目はそっくりな双子ながら、性格は真反対のようだ。


「まぁ、いいや。こうしてめでたく封印は解けたんだ。さぁて、僕達の《心臓》はどこだ? 探しに行かないと」


 イリアが、愉悦の籠もった視線を薄暗い神殿の中に巡らせる。


 その目は、昆虫や小動物を前にした子供のような、残酷な無邪気さに通ずる色彩を放っている。


「うう、それにしても寒いな……近くに人間共の住処はあるのかな? 久しぶりに大暴れして、適当に人間共を下僕にして貢がせるか。とりあえず体を温めたいし、腹も減ったことだし」

「させないよ」


 瞬間、イリアとオデット、二人の首に白銀の光が走り、巻き付いて首輪のような形を形成した。


「ああ!? なんだ!?」


 岩陰から《隷属》を放ちつつ、アンリが現れる。


「あなた達のことはよく知らないけど……何やら不穏な発言も多いし危なそうだから、先手必勝で捕らえさせてもらったよ」

「……おい何だ、この人間。どこに潜んでた」

「……魔法の類いか?」


 アンリの姿を視認し、イリアが見下した視線を向ける。


 一方、オデットは黙って、自身の首に巻かれた白銀の首輪に触れている。


「僕達を捕らえるだって? 随分生意気だな」


 イリアは顔に怒りの色を浮かべ、アンリを睨む。


 臆すること無く相対するアンリ。


 岩陰で、ペンギン達が「アンリ様~……」と、震えながら状況を見守っている。


「おい、オデット、見るからに細くて食う場所は少ないけど、お前は腕とかでいいよな?」

「……どういう意味だ?」


 瞬間、イリアがアンリに襲いかかる。


「まずは腹ごしらえだ。こいつを食っちまおう!」


 しかし、そこでアンリは《隷属》の力を発動する。


 彼女が意識を向けると、首輪はキュッと伸縮しイリアの首を締め上げた。


「うっ!」


 いきなり首を絞められ、イリアはバランスを崩しその場に転がる。


「な……くそっ! なんだ、これ!」

「《隷属》の魔法。君達の体の自由は私が奪ったから。変な行動を起こしたら、こうやってお仕置きも可能だからね」


 横たわり咳き込むイリアに向けて、アンリがそう言い渡す。


「ぼ、僕達が……なんでこんな人間なんかに、容易く……」

「気付いていないのか、馬鹿め」


 そんなイリアに、後方に立つオデットが言う。


「俺達は封印が解けたばかりの身だ。まだ本調子ではない。《心臓》を失い、かつて持っていた莫大な魔力も奪われてしまった。ある程度の魔力が回復するのにも時間がかかるだろう」


 確かめるように首輪に触れながら、オデットはそこで、アンリに視線を向ける。


 そこでアンリは気付いたのだが、この双子、見た目はそっくりなのだが髪と目の色が違う。


 オデットはアメジストを思わせる髪色と瞳をしており、一方のイリアの髪と目は、エメラルドっぽい色彩だ。


(……綺麗)


 と、こんな緊迫した状況ながら、アンリは向けられたオデットの瞳の色を見詰め、そう素直に賛美してしまった。


「……なんだ、人間?」

「あ、いえいえ、続きをどうぞ」


 見惚れるようにジッと見てくるアンリを、オデットも不思議に思ったようだ。


 慌てて誤魔化すアンリ。


 促され、少し気後れを見せながらも、オデットは続ける。


「加え、この人間の使う魔法はかなり強力だ。今の俺達では対処が難しい」

「つまり手も足も出ないってことか!? そんなことを偉そうに説教するな!」


 イリアが寝転がったままバタバタと暴れる。


 駄々っ子のようである。


「くそっ、お前っていつもそうな! まず僕を先に行動させて、危険が無かったら後に続く! この臆病者!」

「臆病では無い、慎重なだけだ」


 オデットはイリアの傍に近寄ると、膝を折ってしゃがみ込む。


 ……そして、声を潜め、アンリには聞こえないくらいの声量でイリアに囁いた。


「イリア、ひとまず大人しくしろ。今の我々では、こんな人間一人にも勝てない……だが、必ず脱出する」

「……くそっ、数百年ぶりに封印から復活して、初っぱなからこんな感じかよ……」


 とりあえず、現状どうしようもないと判断したのだろう。


 双子の魔神は大人しくなる。


「さて、どうしよう……」


 そんな感じで彼等を降伏させたものの、この後どうするべきか……。


 アンリは腕組みし、うーんと唸る羽目なった。



 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

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