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○●第3話 廃屋を手に入れました●○



「みんな、ありがとう!」


 ペンギン達の協力もあって、山積みとなっていた雪の除雪作業は迅速に終わった。


「やったやったー!」


 露わとなった廃屋の玄関を前に、ペンギン達とハイタッチをするアンリ。


 ペンギン達も、アンリが喜ぶ様子を見て自分達も嬉しいのか、またダンスを踊っている。


 喜びをダンスで表現するのがペンギンの習性らしい。


 さて、アンリは早速廃屋の入り口を開ける。


 年季の入った木製の扉だったが、軋んではおらずスムーズに開閉することができた。


「お邪魔しまーす」


 当然、現在中に住んでいる人間はいないが、律儀に挨拶してアンリは廃屋内へと踏み入る。


 そんな彼女に続いて「ぴゃっぴゃっ」と、ペンギン達も入ってくる。


 予想通り、内装には埃が溜まっており、大分長い間人が住んでいない事が伝わってきた。


 しかし、逆に長い間雪の下に埋もれて、野生動物すら踏み入っていないからだろうか――まるで時間が止まっていたかのように、家としての形は十分維持されている。


 これなら、残骸を撤去したり掃除をしたりさえすれば、今からでも問題なく住むことができそうだ。


 さて。


 一通り内部を見て回った後、アンリは一番大きな部屋――おそらく広間と思われる空間へと戻ってきた。


「あ、暖炉がある!」


 壁際に、レンガで縁取られた大きな壁穴を発見する。


 立派な暖炉だ。


「これを使えたら、十分暖まれそう……あ、でも、薪が無いや」


 暖炉には欠かせない燃料――薪が無い。


 どこかで木を切って、薪を作ってこようか?


 しかし、その為には手間と時間が掛かる。


「そうだ。他の廃屋の、壊れた木材を持ってきて燃やすのはどうかな?」


 閃いた――というように、手と手を打ち鳴らしてアンリは呟く。


 おそらく薪に比べて燃焼時間は短くなってしまうと思うが、背に腹は代えられない。


 だが、それらを集めるならまず先に、何か手軽な防寒着が欲しい。


 今は解除しているが、外を出歩く際には自身を《隷属》で保護していないと体が耐えられない。


 流石に、自分自身に常に《隷属》を発動させて寒さを凌いでいては、魔力も精神力も消耗してしまうので。


「何か、身に纏える防寒着みたいなものは……」


 再び廃屋の中を再び探し回るアンリ。


 すると、二階の寝室と思しき部屋のクローゼットの中に、毛皮の防寒着を発見した。


「わあ! 毛皮のコートだ!」


 他の衣服はボロボロになってしまっているものも多いが、この毛皮のコートは流石、かなり丈夫にできているようだ。


 早速、それを纏ってみる。


「はぁ、あったかい」


 肌身に刺さるようだった冷気は遮断され、ふわふわとした毛皮の毛先が首元や手首など、空気の進入口を塞ぐ。


 期待通り、かなりのぬくぬくである。


「はー、助かったー」


 雨風を凌げる家に、体温の消耗を防ぐための毛皮の衣類。


 北国で暮らすための重要なアイテムを手に入れ、ひとまず安心したアンリは、再び広間へと戻る。


 そして、そこに置かれている椅子に腰掛けた。


「アンリ様ー!」


 すると、ペンギン達が集まってくる。


「邪魔になりそうなものとか、あぶないものは家の外に運んだよー!」

「ちょっと掃除をしておいたよー!」

「え!? そんなことしてくれてたの?」


 確かに、ちょっと掃除をすれば住めないこともない――と呟いていたかもしれないが、ペンギン達はそんなアンリの思惑を察知し、先読みして働いてくれていたようだ。


 なんて優秀なお手伝いさん達なのでしょう。


「みんな、ありがとう」

「どういたしましてー!」


 ペンギン達は、アンリに甘えるように彼女の体に身を寄せてくる。


「わー、ふわふわ~」

「ぬくぬく~」


 みんな、アンリの毛皮にモフっとくっ付いてくる。


「えへへ、お疲れ様。ありがとうね」


 毛皮に包まれ、ペンギン達に抱きつかれ、アンリは段々とウトウトしてくる。


 そして気付けば、ペンギン達と一緒に夢の世界へと旅立っていた――。




 ××××××××××××




 さて。


 廃屋の中でしばらく睡眠を取った後、アンリとペンギン達は廃村の中の探索に向かった。


「やっぱり、ほとんどの家が雪に埋もれちゃってるなぁ……」


 アンリの思った通り、相当長い間、この土地には人が住んでいない様子だ。


 ほとんどの家が崩れかけの上、まったく生き物の気配を感じ取れない。


「あ、川だ」


 しばらく歩き進んだところで、アンリは村の中に川が流れているのを発見する。


 澄んだ綺麗な水が流れていて、最悪、火を熾して鍋で煮沸すれば、飲み水は確保できそうだ。


 先程の廃屋の中のキッチンに、最低限の調理器具は既に発見できている。


 ただ、現在それよりも心配なのは――。


 クゥー……。


 アンリのお腹が鳴る。


「お腹が空いたなぁ……」


 この《北の監獄》に来てから、アンリはまだ何も食べていない。


 流石にお腹が減ってしまった。


「あ、あれって……」


 そこで、アンリはある建物を発見する。


 家というよりも、見た目は倉庫に近い。


 おそらく、あれは村の備蓄庫かもしれない。


「もしかしたら……」


 可能性は低いが、何か食べ物があるかもしれない。


「ペンギンさん達、ごめんね。また手伝ってもらえるかな?」

「「「ぴゃー!」」」


 アンリはペンギン達に協力してもらう。


《隷属》によるパワーアップ効果をもたらし、みんなの力で倉庫の周りに積もった雪を除雪。


 そして、入り口の扉を開ける――が。


「わ!」

「ぴゃー!」


 勢い良く開けようと力を込めたら、腐った扉がバキバキと音を立てて倒れてしまった。


 その衝撃で、備蓄庫の中から土埃が吐き出される。


「ケホッ、ケホッ……」


 舞い上がった土煙から顔を守りつつ、アンリは中を覗く。


 ペンギン達も、アンリの足下に逃げ込むようにしながら、恐る恐る中を覗き込む。


「うーん……ダメだ」


 アンリが備蓄庫の中を見回すが、中にあるのは何に使うかもわからない器具や、正体不明のゴミのようなものばかり。


 食べ物らしきものは見当たらない。


「どうしよう……」


 落ち込むアンリ。


 こんな事をしていても、お腹は減る一方だ。


 そこで、そんなアンリの姿を見ていたペンギン達が、顔を見合わせ頷く。


「アンリ様ー!」

「僕達に任せてー!」

「え?」




 ××××××××××××




 ペンギン達が「付いてきてー!」と言うので、アンリは彼等についていくことにした。


「ぴゃっぴゃっ! ぴゃっぴゃっ!」


 おいっちに、おいっちに、というリズムで歩き進むペンギン達。


 アンリは、そんな彼等の歩幅に合わせ、ゆっくり後に続く。


 廃村を出て、昨日目の当たりにした雪原を横断し、やがて辿り着いたのは――。


「わぁ! 海だ!」


 そこは、波が打ち寄せる岸壁。


 その崖の下には、大海原が広がっていた。


「凄い、海がこんなに近かったんだ……」

「ぴゃー!」


 目前に広がる海に感動しているアンリ。


 そんな彼女の足を、ペンギンがツンツンとつつく。


「アンリ様、僕達をまたパワーアップしてー!」

「食べ物を取ってくるよー!」

「食べ物……あ、うん、わかった!」


 そこで、ペンギン達の目的がわかったアンリは、《隷属》魔法を使い、彼等にパワーアップを施す。


「それー!」


 力が湧いたと理解した瞬間、ペンギン達は我先にと海に飛び込んでいく。


 ――数分後。


「とりゃー!」

「おまたせー!」


 海の中から、ペンギン達が帰ってくる。


 そのくちばしには、ピチピチと元気に跳ねる魚が捕らえられている。


 そう、ペンギン達は魚が主食。


 自分達で魚を捕まえられるのである。


「凄い! でも、どうやって持ち帰ろう……」


 そこで、アンリは思い出す。


 廃屋のキッチンに、金属製の鍋があったはずだ。


 アンリは足早に廃村へと戻り、早速鍋を持って帰ってくる。


 そして、その中にペンギン達が捕まえた魚を入れていく。


「結構捕まえたね」

「アンリ様のおかげだよー!」

「パワーアップしてくれたから、アンリ様の分もふくめて、いつもよりいっぱい捕れたよー」

「みんな、ありがとう! よし、じゃあ、おうちに戻ってご飯にしよう」

「「「ぴゃー!」」」




 ××××××××××××




 自分のために魚を捕ってくれたペンギン達に感謝しつつ、アンリ達は廃屋へと戻る。


 早速、キッチンの竈に外から拾ってきた廃材を入れて火を熾す。


「よし……こうやって……」


 ちなみに、こういった環境での火の熾し方を、アンリは知っている。


 魔獣討伐で戦線に立つ際、戦いを共にする兵士達を気に掛け、積極的にコミュニケーションを取ってきたアンリ。


 そんな中で、色んな環境で鍛錬を積んできた兵士達から、様々な知識を教わることもあった。


 とある兵士から教わった、サバイバル術を思い出したのである。


「できた!」


 摩擦で火を熾し、少しずつ大きくしていく。


 小さな火種は、やがて十分な焚き火になった。


 その火で串焼きにした魚を、アンリはハムハムと食べる。


 流石に味は気にしていられないけど、これで少しはお腹が膨れた。


「ぴゃっ! ぴゃっ!」


 ペンギン達も、生魚をパクパクと食べている。


 ちなみに丸呑みである。


 これが、この土地に来て初めての食事。


 仲間達と食卓を囲んでの夕飯だった。




 ××××××××××××




「ふぅ……」


 ご飯を食べ終わった後、暖炉に廃材を放り込んで火を付け、暖を取る。


 家の中に、運良く壊れていないロッキングチェアを発見したので、それに腰を下ろす。


 暖炉の火によって徐々に明るさと暖かさで満たされていく部屋の中、キィ、キィと、ロッキングチェアを揺らしながら、アンリは考える。


 寒さと空腹を克服したことで、少しは心と思考に余裕ができた。


 さて、どうしよう――と、これからのことを考える。


 ここで暮らしていく為には、色々とやらなくてはならないことばかりだ。


 こんな状態のままじゃ、開拓はおろか父達に手紙を送ることも、故郷に戻ることも難しい。


 けれど、諦めたわけじゃない。


《北の監獄》へとやって来て二日目にして、当初不安視していた食べ物と寝床問題を早速解決できた。


 ペンギンさん達という、頼もしい仲間もできた。


 絶望ばかりじゃない。


 未来を切り開く可能性は、諦めない限り、探せば絶対にあるのだ。


 その為のどんな些細な切っ掛けだって、見逃さず掴み取ってみせる。


 ぐっと、力強く拳を握るアンリ。


「ぴゃー!」


 そこで、一匹のペンギンがアンリの元へとやって来た。


 見ると、その手(翼)に、何やら本のようなものを持っている。


 家の中に転がっていたものだろうか?


 アンリは早速、彼に《隷属》を掛け(不要な状況ではできるだけ《隷属》は解除している。節約である)、問い掛けてみる。


「ペンギンさん、これは何?」

「あのねあのねー、家の奥の方の部屋の奥の方の、壁の奥の方の奥の方の固い木の箱の奥の方の奥の隅っこの方にあったのー!」


『奥の方』がもの凄く多いのは気になったけど、つまり、それだけ見付かりにくい場所に厳重に保管されていたもの、とも考えられる。


 何か、ここでの生活を送る上でヒントになるような事が書かれているかもしれない。


「ありがとう、ペンギンさん」


 と、頭を撫でると、そのペンギンは「ぴゃー!」と嬉しそうに両翼をパタパタする。


「どれどれ……」


 アンリは早速、その本を開けてみる。


 中を見てみると、内容はきちんとこの国の言葉で書かれていた。


 見た目こそ古文書のような感じもしたが、昔から受け継いで来た情報を今の時代の言葉や文章で書き直したもの、といった感じだ。


 アンリは、その本の内容を読み進めていく。


 ……どうやら、この村ができた経緯が書かれているようだ。


「えーっと……このミラート村は、凶悪な魔神の封印を守護する者達の村……魔神?」


 内容は、かなり回りくどい上に複雑に書かれているが、要約するに、この村の近くには恐ろしい“双子の魔神”が封印されており、この村(ミラート村と呼ばれていたらしい)は、その“双子の魔神”の封印を守護する守人達が暮らす村だったらしい。


「魔神が、封印……」


 アンリの膝の上に体を預け、「ぴゅー……ぴゅー……」と寝息を立てているペンギンの頭を撫でながら、アンリは眉を顰める。


 手にした文書には、その“双子の魔神”に関する数々の悪行も記されている。


 曰く、多くの人間を力と恐怖で支配し、下僕のように従わせていたとか。


 曰く、面白半分で天変地異のような災害を起こし、慌てふためく人間を眺めて楽しんでいたとか。


 曰く、とても強欲で、大量の家畜や食料、それに美しい女性を貢ぎ物として差し出させていたとか。


 そして最後は、力を合わせた勇気ある人間達の行動により、無事封印がされたという。


「本当かどうかわからないけど……」


 この手の伝承は、後世に伝わることを見越して、書き手側(この場合、人間側)を美化して記されることが多々あるらしいけど。


 もし、ここに書かれている内容が本当なのだとしたら、その“双子の魔神”という存在は、どこに封印されているのだろう?



 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

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