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○●第19話 アンリ、本国帰還です●○



 ――メヌエット伯領。

 この地に対する魔獣の被害は、魔獣討伐のプロ達の手によって比較的最低限に抑えられている。

 といっても、油断ならない状況には他ならない。


「父上達が王都へ出向いている今、我々でこの領地を守らねばならない」


 メヌエット家の敷地内に併設された、兵団本部。

 そこで指揮を執っていたメヌエット家長兄バルトールと、階級の高い兵士達が同時に頷く。

 皆、眼光に気合いが宿っている。


「ば、バルトール様! バルトール様!」


 そこで、彼等のところに伝令兵が駆け込んで来た。

 その慌てっぷりを目の当たりにし、本部内に一気に緊張が走った。


「どうした! 魔獣か!?」

「いえ、アンリ様です!」


 咳き込みながら叫んだ伝令兵の言葉に、バルトール達は一瞬言葉を失う。


「アンリ様が、お戻りになられました!」

「な……なんだと!?」


 報告を聞くや否や、バルトールと兵士達は伝令兵と共にアンリの元へと向かう。

 メヌエット伯領の屋敷の前。

 そこに、既に人だかりが出来ていた。

 本部の護衛をしていた兵士達が集まっているのである。


「アンリが帰って来たというのは本当か!?」


 バルトールは、その人混みをかき分け中心へと向かう。

 そして――。


「大兄様! お久しぶりです!」


 大量の荷物と、それを引く犬やら馬やらペンギンやら、色んな動物達。

 加えて、何人かの男達と一緒に、アンリはそこにいた。


「アンリぃぃぃぃぃ!」


 遂に帰還を果たしたアンリを前に、バルトールと兵士達は歓喜の雄叫びを上げる。

 跳び上がって喜ぶその姿に、アンリと共にやって来たアルビオン村の住人達も驚いている。


「も、戻って来たのか! しかし、どうやって!?」

「えへへ、色々な人達の力を借りまして」


 ローレライ領を出た船は、二日を掛けてこのメヌエット領に最も近い港へと到着を果たした。

 そこからは、ソリでは無く荷車を犬と馬の力で引っ張ってもらい、ここまで順調に戻って来られたのだ。


「途中、もしかしたら邪魔が入るかとも警戒していましたが……どうやら、もうそれどころじゃないという感じなんですね」


 ハボット家が何かしら横槍を入れてくるとも考えていたが、どうやら本当にそれどころではないのだろう。

 アンリの発言に、バルトールや兵士達も深刻な表情で頷く。


「大兄様、お父様達は?」

「……父上とレーシェ、そして我が領の兵士の半分は王都に向かった。魔獣討伐に参戦するためだ」

「……わかりました」


 呟き、アンリは振り返る。


「アンリ、どこに行く? 長旅だったのだろう、まずは体の疲れを――」

「大丈夫です。その前に、やらなくてはいけないことがあります」


 心配する彼等に対し、アンリは微笑みを見せる。


「まずは領地内を巡って、民の皆に顔を見せて来ないとといけません。皆を、安心させないと」




 ××××××××××××




「おい、アンリ様が帰ってきたぞ!」

「え、アンリ様!?」

「アンリ様! お戻りになられたのですか!」


 アンリは領地内を巡り、久しぶりに再会を果たした領民達に顔を見せていく。

 彼等も大喜びだ。

 大人も子供も、老いも若いも関係なく、皆がアンリを好んでいる証拠だろう。


「アンリ様が追放されたという知らせを聞いた時は、心臓が止まるかと思いました」

「アンリ様、どうかもうこの領からいなくならないでください」

「王侯貴族の言うことなど聞かなくて構いません!」

「我々も全力でお守りします!」


 皆、アンリのことを心配してくれている。

 真剣な眼差しを受け、アンリも心が温まる思いだ。


「みんな、ありがとう……でもね」


 そこで、アンリはブレーム達に手伝ってもらい、近くにあった木箱を重ね、その上に乗って集まった皆に姿が見えるようにする。

 見回すと、数百にも及びそうな数の領民達が、この街中に集まっていた。

 後ろの方の者は、アンリの姿が見えていないだろう。

 でも、アンリはその場に集まった皆に聞こえるように、喉が裂けそうなほど声を張り上げる。


「みんなに、この国の状況を救うために手伝って欲しいんです!」


 アンリの声が、人々の間を駆け抜ける。


「みんなも大変な状況だっていうのに、ごめんなさい! でも、こんな時だから、できるだけ多くの人を助けたい! 大兄様から状況を聞きました! 今、住む場所や食料を失った人々が、魔獣から追われる形で王都に集まっていると! 私と戦える人達で魔獣は絶対に倒してみせます! だから、困っている人達に食料と安心を与えたいんです!」


 アンリは、懸命に自身の願いを叫んだ。

 他者のことなど考えていられない、明日には自分達が危機に陥るかもしれない。

 そんな状況下で、なんて甘いことを言うのかと嘲笑と怒りを向けられかねない発言だ。

 しかし、アンリが叫ぶと――。


「アンリ様が言うなら当然だ!」


 領民達の間だから、次々にそんな声が上がる。


「メヌエット伯領からもできる限りの食料と人手を集め、全員で王都へと向かおう」――と、相談を交えた人々が、すぐに決断を示してくれる。

「みんな……」


 無論、この状況は当然のことでは無い。

 全て、アンリの人徳の成す業だ。


「やったな、アンリ」


 隣に立つ兄バルトールも、続々と行動を開始する民衆を見ながら、誇らしげな表情を浮かべている。


「そういえば、アンリ。手紙に書いてあった、例の双子の魔神とやらはここにいるのか?」


 そこで、バルトールが尋ねる。

 心なしか、ちょっと険のある表情と雰囲気を醸し出している。

 殺気立っているというか……。


(……あ、そうだ。手紙の中で、結構色々と困らされたことを書いてあったんだった……)


 それを思い出し、アンリは内心で安堵の溜息を吐く。

 ある意味、不幸中の幸いだったかもしれない。


「イリアとオデットは、今ここにはいないんだ」


 実は二人には、メヌエット領に到着すると同時に“ある極秘のミッション”をお願いしてあったのだ。


『えー、なんで僕達が』

『お願い。二人にしか頼めないんだ』

『……しょうがないなー』

『気は進まないが、アンリが言うなら』


 難色を示していた双子だったが、アンリの願いを聞き入れ、“目的地”に向かってくれた。


「そうか……ん?」


 そこで、バルトールは、アンリに手を貸し木箱で作ったステージの上から降りる手助けをする人物――ブレームを見て、呟く。


「……あの御仁……どこかで見たことがあるような?」



 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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