○●第18話 アンリ、仲間とともに本国へ帰ります●○
「………」
「どうした? アンリ」
イリアが左側から、項垂れたアンリの顔を覗き込む。
「浮かない顔をしているな」
オデットが右側から覗き込み、そしてアンリの表情を見てコメントした。
――それは、ある晴れた日のこと。
――遂にその日――港町を経由して、アンリの元に父からの手紙が送られてきたのだ。
当初、定期的に様子を見に行くと言っていたのだが、郵便局の局員がわざわざ最速で届けてくれたのである。
「アルビオン村の噂は、最近よく聞く。アンリさん、あんたのこともね。とても凄い人だそうじゃないか」
立派な角を生やしたトナカイにソリを引かせ、アルビオン村へとやって来た郵便局員の男性が、アンリへ手紙を渡しながらそう言った。
「最近あんた達の村から輸出されてる牛肉、俺も食ったがとても美味かったよ。この辺鄙な雪国を、どんどん盛り上げてくれよ」
「わざわざありがとうございます」
善意ある人の温かさに触れ、アンリは感動する。
しかし、そんな気持ちは直後、父からの手紙の文面を読んですぐに消えてしまった。
待ちに待った、父ガルーダからの手紙。
そこに――現在のルークレイシア本国を襲う未曾有の危機の状況が、まざまざとしたためられていたからだ。
「………そんな」
アンリは、強大な魔獣被害により人々が苦しめられているという現実を知らされたのだ。
「……アンリ」
「何があった」
いつもと違い、明らかに不安そうな表情を浮かべているアンリ。
そんな彼女の様子に気付き、イリアとオデットが静かに語り掛ける。
「……イリア、オデット、ごめん。村のみんなを集めたいから、手伝って欲しい」
片手に父からの手紙を握り絞め、項垂れ震えていたアンリは、そこで顔を上げる。
その顔に――その目に、強い決意の籠もった眼差しを宿し。
「二人にも、みんなにも、伝えておきたいことがある」
××××××××××××
――数分後。
アンリは、イリアとオデットに加え、広場へと集められたブレームをはじめとしたアルビオン村の住人達を前に、事情を話した。
「歴史上類を見ない凶悪な魔獣の大規模発生……そんなことが起こっているのか……」
アンリの話を聞き、ブレームが眉間に皺を寄せる。
「……はい」
動揺の混じった表情を浮かべるアンリを見て、ペンギンとマラミュートの子犬が心配そうに足下へとやって来た。
「アンリ様、元気がないよー!」
「僕をもふもふしてー!」
「ぴゃー!」「わーん!」と、悲しげな顔をする二匹。
「話はわかった……けどさ」
そこで、イリアが口を開いた。
「別にいいんじゃないの? お前を見捨てて苦しめた連中が、自業自得で困ってるだけだろ。放っておけばいいじゃん」
「それはできないよ」
アンリはイリアへと受け答える。
「王侯貴族達はともかく、苦しんでるのはもっと多くの人達。魔獣の被害で住む場所を追われ、食べ物も困窮してる。その人達を救わないといけない。それに、魔獣の被害は確実に広がってる。いずれ、この北の大地にまで被害が及ぼされるかもしれない。その前に、なんとかしないと」
「……どうしてお前がそこまでするんだ、アンリ」
アンリの真っ直ぐな視線を受け、オデットが問う。
「………皆さん」
アンリはそこで、その場に集まったアルビオン村の皆を見回す。
チュエリー一家、牧場主、マラミュート達の主人……先日、自分がこの村にやって来た事を歓迎し、祝ってくれたみんな。
そんな皆に、アンリは頭を下げる。
「今まで黙っていたけど、実は私、無実の罪で追放された人間で、本国では罪人扱いなんです」
アンリは、今まで有耶無耶にしていた自分の身の上を、ハッキリと告白する。
島流しにされ、《北の監獄》を開拓しろという命令を受け、ここに来た。
その事実を聞き、皆が驚いている。
「そんな身分なんです……けれど、なんとか国の危機を救いたいと考えています」
頭を上げ、アンリは沈黙する村人達を見回す。
「許されるかどうかわからないけど………私も、王都に向かいたいと思います。危険な状況です。何が起こるかわかりません。私も……魔獣との抗戦で命を落とす……いえ、それ以前に王の判決に逆らった事で捕らえられ、何らかの刑を執行されるかもしれません。もしかしたら、もう帰ってこれないかも。だから、先にお伝えしておきます」
悲しげな微笑みを浮かべ、アンリは言う。
「今まで、ありがとうございました。皆さんに出会えて、本当に良かった」
そんな彼女を、村の皆は困惑しながら見詰めていた。
××××××××××××
さて。
早速、アンリは出立の準備を始める。
「とりあえず、持てるだけ荷物を持って……」
大荷物を抱えている余裕は無い。
今この時にも、本国では魔獣の被害が拡大しているのだ。
急がねば、と、アンリは家の外へ飛び出す。
すると。
「え? みんな……」
そこに、イリア、オデット、ブレームが待っていた。
「俺達も当然ついていくぜ」
最初に口を開いたのは、イリアだった。
「……本当に?」
「当たり前だろ。というか、何お前一人で帰るのが当然みたいに決めつけてるんだよ。お前にはカリとか恨みとかいっぱいあるんだから、簡単に逃がさないよ」
「我々もまだ完全復活をしていない。不完全な存在だ」
イリアに続き、オデットが声を発する。
「だがアンリ、お前と共にいれば良い方向に転ぶかもしれない。その点を考慮しての判断だ」
「隠遁してそれなりの時間が経ってはいるが、私も王都で働いていた元兵士だ。何かあれば、私の顔もそこそこ利く。何かの役には立つはずだ」
そう言うブレームの足下から、「「「ぴゃー!」」」と、ペンギン達も飛び出してきた。
「アンリ様ー!」
「僕達もいくよー!」
「また置いてきぼりはやだよー!」
「みんな……」
「それと、だ」
ブレームが振り返る。
「アンリに協力的なのは、俺達だけじゃない」
「え? ……あ」
ブレームの視線を追い見ると、アルビオン村の入り口で、村人のみんなが集まり色んなものを用意してくれていた。
可能な限りの食料をいっぱい持ち寄って、それを幾つものソリに積んでいる。
野菜、肉、加工乳製品、保存食……凄い量だ。
「みんな!」
慌てて、アンリが皆の元へ駆け寄る。
「ああ、アンリさん。食糧難で困ってるなら、これを配るといい」
「量的には焼け石に水かもしれないが、この過酷な《北の監獄》で、アンリさんのお陰でこれだけの作物を手に入れることができたと言えば、あんたの罪も多少は軽くなるんじゃないか?」
「いいんですか?」
アンリの問い掛けに、村人達は深く頷く。
「あんたが無実の罪でこの地に追放されたのなら、あんたにはそいつらを救う義務なんて無いはずだ」
「でも、あんたがそうしたいなら協力するよ」
「アンリ」
アンリへ、アローチェがおずおずと近寄る。
「これ……」
手渡されたのは、袋に入ったクッキーだ。
アローチェが焼いたのだろう。
「頑張ってね」
「……ありがとう、アローチェ」
アンリは、顔を上げる。
「みんなも、ありがとうございます!」
その顔は、晴れ晴れとしていた。
自分は一人ではない。
この北の大地で、仲間を作り、人のために努力し、そして、恩恵を返してもらった。
その結果が、アンリに勇気と自信をくれる。
不安と焦燥に包まれていた心が、すっかり楽になった。
「よし、行くぞ!」
村中から、可能な限り人手を出してもらい、総力を挙げて港まで荷物を運ぶ。
馬車、それに、犬ゾリも使って。
「がんばるぞー!」
「おー!」
「わんわんお! わんわんお!」
アンリ達と食料を乗せたソリが、アルビオン村より出発した。
××××××××××××
そこからの流れは、迅速だった。
雪原を駆け抜け、皆で港町デリンズへと到着。
港町の人々は、突如現れた犬ゾリや馬車の行列に度肝を抜かれていた。
「まず、私のお父様達……メヌエット領のみんなと合流すべきだと思います。きっと、力強い仲間になってくれます」
「よし、では船を使い、まずはメヌエット伯領へと向かうことにしよう」
この港町でも顔の利くブレームが、船乗り場で事情を話す。
できるだけ早く向かいたいと伝えたところ、気の良い船の船長が、特別に船を出してメヌエット伯領から一番近い港へ向かってくれることになった。
「ありがとうございます!」
イリア、オデット、ブレーム、それにペンギン達と犬達、他にも協力してくれた村人達。
皆で船に荷物を運び込み――船は出港する。
「……待っててね、みんな」
過ぎ去っていく港の風景を見送り、そして、懐かしい家族達の顔を思い出しながら。
アンリは、船のデッキの上で決意を新たにした。
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