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○●第17話 スキーです! カレーです!●○



 ――早朝。


「ふわ~……ねむ」

 起床したイリアとオデットは、家の外へと出る。

 大欠伸をするイリアの一方、オデットは庭先にいたアンリをすぐに発見した。


「アンリ」

「あ、おはよう、二人とも」

「それは何だ?」


 オデットは、アンリが何やら液体の入った小瓶を持っているのに気付く。


「ブレームさんにもらったんだけど、歯磨きをする時に使うと良いんだって」


 アンリが説明する。


「アルビオン村の近くの森に、白樺っていう木が生えるんだけど」

「あの、白いヒビ割れだらけの木か」


 寝ぼけ眼で記憶をたどりながら、イリアが言う。


「そう。で、これはその木から取った樹液を加工したものなんだって。なんでも白樺の樹液の中には、口の中を綺麗にして歯を強くする成分が含まれてるそうなんだ。ブレームさんは、“キシリなんとか”って言ってた気がするけど……だから、ここら辺の地域の人達はほとんど虫歯にならないんだって」

「へー」


 早速、アンリ、イリア、オデットの三人は、その樹液を使い、みんなで仲良く歯磨きをする。

 太陽の日を浴びながら、早朝の澄んだ空気を肺にいっぱい吸い込む。

 そうしている内に、だんだんと村の中にも人が出始めてくる。

 家々の煙突から煙が上がり始め、アルビオン村の一日が始まるのである。




 ××××××××××××




 さて――朝食を済ませた後、アンリ達は皆で雪山へと向かった。

 犬ゾリを使わせてもらい、ちょうど良い斜面のある場所へと訪れる。

 今日はここで、ブレームが“スキー”を教えてくれるのだ。


「木の板を足に付け、手にはスティックを持つ。これで、雪の斜面を滑って楽しむ雪国のスポーツだ」


 とはいえ単なるスポーツだけではなく、豪雪等の緊急時には雪の積もった場所を横断するための立派な移動手段にもなる。

 滑り方を学んでおいて損はないはずだ、というわけで学ぶことになったのだ。


「よっと……わわわ、結構難しいね」


 ブレームに教えてもらいながら、アンリ達はスキーの習得に勤しむ。


「怖いのか? アンリ」

「わ、オデット。もうあんな高いところから滑ってきたの?」


 オデットは早々にコツを掴んだ様子だ。

 斜面の角度がきつい上の方から、颯爽とアンリの元へと滑り降りてきた。

 アンリはまだ苦戦しており、初心者コースの下の方で手こずっている。


「仕方がない」


 そこで、オデットがアンリの前面に立つ。

 そして、アンリの持つスティックの先端を掴んで持ち上げた。


「俺が誘導しよう」


 オデットが誘導する形で、滑り方をレクチャーされるアンリ。

 すると――。


「お、お……」


 段々と、バランスが取れるようになってきた。


「ありがとう、オデット。これなら、一人でも上手くいけそう」


 そうお礼を言うと、オデットはフッと笑う。


「お前でも不得意なことがあるのだな」

「うん、いっぱいあるよ。だから、みんなに助けてもらってる事に感謝しないとね」

「うぉおおおおおおお!」


 その二人の横を、雪だるまになったイリアが転がっていった。


「あいつは全くダメだな」

「イリアー、スキー板を横にしてブレーキを掛けながら滑ると良いよー」

「ぴゃー!」


 一方、今回のスキー教室に着いてきていたペンギン達は、腹這いになって雪の上を器用に滑っている。


「あのペンギン達の方がまだ上手だな」

「うるさい!」


 そんなペンギン達と見比べ呟いたブレームに、雪だるまになったままのイリアが吠えた。




 ××××××××××××




 一通りスキーを楽しんだ後、一同はお湯を沸かし、雪山の斜面に腰を下ろしてココアを飲んでいた。


「いやぁ、結構遊んだね」


 意外と汗をかいた。

 スキー、思っていた以上に難易度の高いスポーツである。

 白銀に輝く風景を眺めながら、アンリ達はまったりとした時間を過ごす。


「綺麗な場所だよね……」


 アンリがぽつりと呟く。


「こんな綺麗な場所が、《北の監獄》なんて呼ばれてるなんて……」

「実際に、過酷な環境なのは事実だ」


 ブレームが言う。


「以前にも説明したが、このローレライ領には古い言い伝えが残されている。この土地が、《北の監獄》という異質な雪国になったのには、魔神同士の争いが関係しているそうだ。その影響で様々な異常気象が発生し、この土地は古い原住民達からも“神罰の下された忌み地”と呼ばれるようになった」

「まぁ、僕達のせいっていうのはその通りだな」


 イリアとオデットが目線を合わせる。


「僕達は、他の魔神と結託した人間どもの卑怯な手によって罠に掛かり、強大な魔力を宿す《心臓》も奪われ、体と心臓で別々の場所に封印されたみたいだからな」

「あのミラート村は、この双子の魔神を封印し、その封印を見守る一族のみが暮らす土地だった。しかし、封印の一族はいつしか魔神の封印を迷信だと信じなくなり、過酷な環境にも耐えられず、この土地から去って行ったようだ」

「そうだったんだ……」


 アンリは考える。

 先日の港町に続く街道に出没していた魔獣もそうだが、この《北の監獄》は、そんな感じで魔神の影響のせいもあって過酷な環境になっている。

 ならば逆に、その魔神の影響を解決できたなら、この土地はまともな状態に戻せるのではないだろうか?




 ××××××××××××




 ――そんな風に、刻々と時は流れていく。

 先日、アンリ達の歓迎パーティーでも振る舞われた熟成肉。

 あの熟成肉が、港町に持って行ったところ、色んな仲介業者の目に留まり高値で取引されるようになったそうだ。

 結構なお金も手に入り、そのお陰でアルビオン村は裕福になりつつある。

 備蓄になりそうな食料もいっぱい買い込まれ、各家々に分配された。

 暖房器具が充足していない家にも、ストーブ等が支給された。

 毎年、冬を越えるのも一苦労だったが、今の状況なら寒さに凍える日々を過ごさずに済むかもしれない。

 村人達が、そう言って喜んでいた。

 ――さて、本日。

 ――アンリは、港町で手に入った香辛料を使い、ある料理に挑戦していた。

 メヌエット伯領にいた頃にも作った経験がある。

 ニンジン、ジャガイモ、タマネギなど、野菜をいっぱい刻み、それに、ゴロッと大きな牛肉も加える。

 小麦粉と香辛料を混ぜ合わせ味を調え――やがて出来たのは、カレー。

 この寒い国で、体を温める最適な料理だ。


「美味い!」


 アンリの作ったカレーに舌鼓を打つイリアとオデット。

 アンリは、いつものように自分の料理に満足してくれる二人を微笑ましげに見詰める。

 そして、窓の外へ視線を向ける。

 村の明かりの数は、今も尚増えている。

 徐々にではあるが、これは開拓が進んでいると言っても良いのではないだろうか?

 そう、アンリは考える。

 可能なら、王城の役人を招いて、判断してもらってもいいかもしれない。

 もしかしたら、少しは罪が雪がれる可能性もある。


(……なんて、レオネスやハボット家の人達が許すとは思えないけどね)

「あ、雪だ」


 そこで、イリアが呟いた。

 空から、チラチラと雪が舞い始めている。

 それを眺めながら、アンリは思う。

 自分がこの《北の監獄》へとやって来て、もう何ヶ月も経っている。

 メヌエット伯領は、王都は、本国の方は、どうなっているのだろう?

 魔獣討伐の処理が上手く進められず、その上、ハボット伯が好き勝手やって滅茶苦茶になっているとか、そういうことになってなければいいのだが……。


(……まぁ、心配のし過ぎかな)




 ××××××××××××




 ……アンリの心配は、最悪の形で現実になっていた。




 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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[一言] ハボット伯は愚物を絵に描いた様な方ですからねぇ〜(笑)
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