○●第15話 アラスカン・マラミュートでもふもふです●○
――港町へと続く道に出没する熊の野獣――もとい魔獣退治を終えてから、数日が経過した。
イリアとオデット、ブレーム達から、半ば強制的に静養させられていた日々が終わり、アンリは久しぶりに家の外へと出る。
「……あれ?」
すると、村の雰囲気が変わっているのに気付いた。
最初の頃、立派な家々や施設があるものの、人の気配がほとんど無く殺風景だったアルビオン村。
しかし今は、村の中を行き交う人の数が増えている気がする。
それは、何というか……彩りが増したような。
「驚いたか?」
隣に立つブレームが、穏やかな笑みを浮かべて言う。
「害獣の被害が減少し、魔獣による危機も去ったことを喧伝した結果、徐々にだが村に人が戻ってきているんだ」
「え……そうなんですか!?」
ブレームの言葉を聞き、アンリは驚く。
「でも、なんだか急ですね。戻るにしても、もっと警戒すると思うんですけど……」
「おお、あなたがアンリさんですか!」
そこで、数人の村人達がアンリの元へとやって来る。
見ない顔――おそらく、この数日間で戻ってきた人達だろう。
「話はブレームさんから聞きました!」
「あの街道に出没していた凶暴な野獣を倒すとは、凄い!」
「それに、家畜を襲って困らされていた害獣も退治したとか!」
「魔法を使うと聞きましたが!」
彼等はアンリへと、口々にお礼を言っていく。
ブレームや他の村人達がどう伝えたのかはわからないが、どうやらアンリの存在が彼等に安心感を与え、この村へ戻ってくる事を決心させたようだ。
「あはは、ありがとうございます」
そんな彼等に、アンリも笑みを返す。
「……でも、私一人の力だけではないんですよ。ブレームさんは当然。それに、彼等、イリアとオデットの協力もあったからです」
言って、アンリはブレームの家のすぐ隣――自分達の家の庭を見る。
「おーい、イリア! オデット!」
「ん?」
「アンリ、もう大丈夫なのか」
家の庭で薪割りをしていたイリアとオデットは、アンリに呼ばれ彼女の元へと向かう。
「怪我は大した事無いって言ってたでしょ。それより……」
「おお、あなた達も熊退治に参加してくれたんですね」
戻ってきた村人達は、イリアとオデットにも感謝の言葉を連ねる。
そんな扱いを受け、二人は驚きの表情を浮かべた。
「べ、別にいいって……けっ、こいつら、俺達が伝説の魔神だってバラしたらどんな顔するかな」
「二人とも、みんなから感謝されてるよ、偉いね」
言って、アンリは背伸びすると、イリアとオデットの頭を撫でる。
「ガキ扱いすんな」
憎まれ口や文句を叩きつつ、イリアもオデットも、皆から感謝されることに満更では無い様子である。
「つーか、オデット。お前は何で素直に撫でられてんだよ」
「別に良いだろう、素直に撫でられても」
××××××××××××
戻って来た村人達が加わり、人口が増加したことにより、アルビオン村は目に見えて活気付いた。
家畜の育成や野菜の栽培なども規模が増え、村の彩りが多彩になった感覚だ。
――そんなある日の事。
「ん?」
チュエリー家の庭で、アローチェと遊んでいたアンリ。
そこで、何やら大量の足音が近付いてくるのに気付く。
「アンリ! あれ!」
アローチェが指さす。
見ると、大量の犬がこっちに向かって走って来る。
「い、犬!?」
「おお、アンリさん!」
先日戻ってきた村人の一人が、犬達の後ろに続いている。
「すいません! 繋いでいたロープが切れてしまいまして!」
彼が言うには、この犬達は犬ゾリ用の犬なのだという。
冬場は貴重な移動手段となるそうで、港町から一緒に帰って来たのだとか。
しかし、そんな説明はアンリの耳には届いていなかった。
何故なら現在、彼女はその犬達に飛び掛かられ、生き埋めになってしまっているからである。
「う、うわぁ……」
みんな、息遣いが大きく、もふもふである。
アンリに鼻先を寄せて、ベロベロと舌で舐めてくる。
体が大きく、狼のような鋭い目付きながら、反して人懐っこく甘えん坊な動作が多い。
「こ、この子達は、なんていう犬なんですか?」
「ああ、あまり馴染みがないですかね。アラスカン・マラミュートという犬種です」
その人が言うには、なんでも大昔に『アラスカ』という極寒の土地があり、そこからやって来た犬種なのだという。
アラスカン・マラミュートは、体が大きくてパワーがあり、北国で生きるのに適した体型をしているそうである。
もふもふなのも納得である。
「どうです、アンリさん。ちょっと、犬ゾリに挑戦してみませんか?」
「犬ゾリ?」
「あ、アンリ、大丈夫?」
現在、大量のアラスカン・マラミュート達に押し倒され、身動きが取れず甘えられるがままとなっているアンリを見て、アローチェが心配そうに言う。
「こんなに力の強い犬達に引っ張られたりしたら……危険じゃないかしら?」
「うーん、でも楽しそうだし……そうだ!」
そこで、アンリは思い付く。
正にこういう時、彼女の魔法は最適なのだ。
アンリは早速、アラスカン・マラミュート達に《隷属》を施す。
「みんな、初めまして。私はアンリ」
話し掛けると、マラミュートたちはビックリしたような顔をして跳び上がった。
「人間さん! 話が出来る!」
「すごい! すごい!」
「遊んで遊んで遊んで遊んで!」
「わんわんお! わんわんお! わんわんお!」
わぁ、凄くうるさい。
みんなとても元気だ。
「うん、みんなで一緒に遊ぼう」
「やったー! やったやったやったやったー!」
「遊ぶ遊ぶ遊ぶ遊ぶ遊ぶーーーーー!」
「わんわんお! わんわんお! わんわんお!」
マラミュート達と意思疎通をしたアンリは、早速犬ゾリに挑戦してみることになった。
「そりゃ!」
犬ゾリの操作は初めてのこと。
初心者には難しい……と言われたが、マラミュート達と会話ができるアンリにとっては朝飯前だった。
「みんな! イッセーの、で右に曲がるよ! イッセーのっ!」
「「「「「わんわーん!」」」」」
牧場の一角を使って行われた初犬ゾリ。
アンリは華麗な指示で、見事にマラミュート達を操縦していた。
瞬く間に犬達を使いこなすアンリに、見物に来ていた村人達も「おお……」と、どよめく。
「あー、楽しかった」
「アンリ……凄いわ!」
一通り走り回ったところで、ソリを降りたアンリ。
そんな彼女へ、アローチェが羨望の眼差しを向ける。
そこで――。
「わーん!」
「え!?」
何やら、小さくて丸い毛玉のようなものがこっちに向かって走ってくる。
いや、ちゃんと走れていない。
途中でこけて、何度もコロコロと転がりながら。
そして、勢いよくジャンプして、アンリの足に飛びついた。
「わ! 何この子! かわいい!」
「そいつは、この前生まれたばかりの子犬のマラミュートだ」
わふわふ、と、アンリの足にしがみつく子犬に目を輝かせるアンリに、犬達の主人が説明する。
マラミュートの子犬。
小さい(といっても、抱きかかえるほどはあるが)体で、もふもふ感もすごい。
まるでぬいぐるみ……いや、毛玉のかたまりのようだ。
アンリは早速、その子犬のマラミュートに《隷属》をかける。
「わーん! ぼくもあそんであそんでー!」
体の大きさに対し、足がとても短いからだろうか。
普通にとてとてと歩き回るだけで、すぐに転んでしまう。
(……でも、その、もふもふころころとした姿がまたかわいい!)
マラミュートの仔犬の愛らしい姿に、すっかり癒やされるアンリ。
すると。
「「「ぴゃー!」」」
「わ!? ペンギンさん達!?」
どこからやって来たのか。
ペンギン達が、アンリの体に抱きつく。
「アンリ様ー!」
「アンリ様アンリ様ー! 僕達を忘れないでー!」
「もふもふとばっかり遊ばないでー!」
どうやら、犬達と仲良く遊ぶアンリの姿を見て、嫉妬した様子だ。
「大丈夫だよ。ほら、この子も良い子だし、仲良くしてあげて」
「わーん!」
瞬間、マラミュートの子犬が嬉しそうに、ペンギン達へと飛びかかる。
「わーん! ペンギンさん! ちいさい! あそんであそんでー!」
「ぴゃー!」
一匹のペンギンが捕まり、舐め回される。
その様子を他のペンギン達は震え上がりながら遠巻きに見ている。
うーん……仲良くなるには、ちょっと時間が掛かるかな?
××××××××××××
――さて、そんな感じでかわいい動物達と触れ合った、その日の夜。
「おお、結構速いな」
「中々の機動力だ」
「ねー」
アンリ、そしてイリアとオデット達は、犬ゾリに引かれ山の斜面を走っている。
アンリ達の前には、ブレームを乗せた犬ゾリが先行している。
何故今、彼女達がそうしているのかというと、ブレームからお誘いがあったからだ。
「連れて行きたい場所がある」――のだという。
「君達が来てから、村にも活気が戻り良いことばかりだ。そのお礼というか、お祝いというか、だ」
そう言われたのだ。
「なんだろう?」
疑問符を浮かべながらも、アンリ達はブレームについていくことに。
そして――辿り着いたのは、その小高い山の頂上付近。
「こんな寒い中、何があるんだよ」
「ブレームさん?」
ソリを降りたアンリ達は、そこに立っているブレームの元へと行く。
そして、彼と同じように空を見上げ――気付く。
「……わぁ」
天空にたなびく、赤色のカーテン。
これは、聞いたことがある。
――オーロラだ。
「……綺麗」
何とも幻想的な自然の神秘を前に、目を輝かせるアンリ。
「へーえ……」
「荘厳だな」
イリアとオデットも、心なしか感動しているようだ。
皆でしばらく黙って、オーロラを眺める。
やがて……。
「………」
イリアとオデットが、オーロラをうっとりとした表情で眺めるアンリの顔に気付き、いつの間にか彼女の方をジッと見詰めていた。
まるで、見惚れるように。
「……うう、寒い」
そこで、イリアがアンリに体を寄せた。
肩に手を回し、アンリの左側から体を密着させる。
「え……ちょ、ちょっと、イリア」
「なんだよ、いいだろ寒いんだし。アンリも暖かくなるし、一石二鳥だろ」
なんだか、イリアは先日の一件から妙にアンリへの押しが強い気がする。
「アンリは俺が暖める。お前は一人で丸まっていろ」
そこで、オデットも右側から身を寄せる。
ここぞとばかりに引っ付いてくる二人に挟まれ、むぎゅっとなるアンリ。
「おい、お前くっ付きすぎだぞ」
「お前こそ」
「あうあう」
イリアとオデットは、互いを押し離そうとする。
そんな二人に挟まれ、アンリは気恥ずかしげに顔を赤らめる。
「わーん!」
すると、そこに同行していたマラミュートの子犬が飛び込んでくる。
ちょうど三人に抱きかかえられるような感じに、スポッと入り込む。
実にもふもふだ。
「なんだ、この子犬」
「子犬にしては大きいな」
「わーん! これでみんなあったかいよー!」
「あはは」
何はともあれ、みんなでぬくぬくである。
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