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○●第13話 害獣被害から家畜を守ります●○



 拝啓、、、お父様、お元気でしょうか?

 私が《北の監獄》を訪れて、およそ一ヶ月が経とうとしています。

 おかげさまで、この土地で良い出会いを繰り返し、最初の頃の過酷な生活もどこへやら――今では、この北国での暮らしを楽しんでおります。

 お父様達の方は、如何でしょうか?

 ハボット家からの嫌がらせは大丈夫ですか?

 魔獣騒動による国への被害と影響は?

 私は、今日も元気にペンギンさん達や、イリアとオデットと、アルビオン村のお手伝いをしています(イリアはすぐにサボろうとするので、目を光らせています)。

 どうか、私のことは気になさらないでください。

 お父様は、ご自身や大兄様や中兄様、メヌエット伯領のみんなのことを考えてあげてください。

 いつでも、心の中で思っております。

 どうぞ、お健やかに。




 ××××××××××××




「……さてと」


 本日の分の手紙を書き上げたアンリ。

 そこで、彼女は今までしたためてきた手紙が、大分書き溜まっていることに気付く。


「そろそろ、どうにかして手紙を出す方法を探さないとね」




 ××××××××××××




「もう! またあの狐達よ!」


 そんなある日のこと。

 アルビオン村の中を散策していたアンリの耳に、甲高い少女の声が届いた。

 見に行くと、アローチェが怒っている。

 アローチェと、そのお母さんとお父さん――チュエリー家のみんなが、家の前に集まっていたのだ。


「どうしたんですか?」

「あら、アンリさん」


 アンリがやって来たのに気付いたお母さん――チュエリー婦人が、説明をしてくれた。

 なんでも、チュエリー家で飼育している鶏達が、野生動物の被害に遭っているのだという。

 野生の狐が村の中に忍び込み、鶏達を襲うらしい。

 昨夜も、皆が寝静まった後にやって来て、家畜の鶏を襲って奪い去っていったのだという。

 確かに、鶏の数が減っている気がする。


「この地の野生動物は賢く、狡猾で、人間を恐れない」


 そこに、ブレームもやって来た。


「ブレームさん」

「害獣による被害は深刻で、この村から人が去って行った原因の一つでもある」


 そう語るブレームの表情も険しく、チュエリー氏や婦人も同様の表情を浮かべている。

 つまり、実際にそれだけの被害を被って来たのだろう。


「狐か……」


 アンリは呟く。

 確かに、狐は頭の良い生き物だと聞く。

 この北国でも、その習性は変わらないようだ。


「しばらくは家畜の数も少なくなって襲う価値もないと近寄ってこなかったのだが、アンリ達が来たことで村が多少活気づいた。それを察知し、また戻ってきたのだろう」

「……なるほど」

「もう! あたしが一日中見張りになるわ!」


 冷静に状況を分析するブレームとアンリの一方、アローチェは憤慨している。


「ずっと起きているわけにもいかないだろ、アローチェ」


 顔を真っ赤にして怒るアローチェを、アローチェのお父さん――チュエリー氏が宥める。


「他の対策を考えよう」

「……うう」


 そこでアンリは、アローチェが涙を浮かべていることに気付く。

 一生懸命世話してきた家畜を横取りされ、よほど悔しいのだろう。


「チュエリーさん、私に任せてください」


 そこで、アンリがチュエリー夫婦に向き直り、胸を張って言う。


「……何よ、あなたに何ができるの?」


 睨むように目を向けるアローチェに、「やれるだけのことはやってみるよ」と、アンリは微笑みかけた。




 ××××××××××××




 ――その夜。

 アンリ、そしてイリアとオデット達は、チュエリー家を訪れていた。

 害獣の狐が来ないか、見張るためである。

 カーテンを閉め、できるだけ明かりは落とし、窓際に椅子を置いてジッと家畜小屋の方を見詰めるアンリ。


「本気なの?」


 隣に立ったアローチェが、そう問い掛けてくる。


「害獣が戻ってきたのは、私のせいもあるだろうしね。出来ることはやってみるよ」


 魔獣退治を生業としてきたメヌエット家の長女である。

 この程度の見張り仕事、どうってことはない。


「………」


 アローチェは無言で部屋を出て行く。


「生意気なガキだな」


 と、その後ろ姿を見ながらイリアが呟いた。

 ――すると、数分後。

 チュエリー婦人の入れてくれた熱いお茶を飲みながら見張りを続けていると、 リビングにアローチェが戻ってきた。


「……はい」


 その手には、木製の器が。

 器の中には、紫色の木の実――ベリーが盛られていた。


「これは……」

「村の外の森で採ってきた木の実。酸っぱいから、眠気覚ましになる。あ、でもそのまま食べると酸っぱすぎるから、砂糖をかけてね」


 そう言って、砂糖の入った小瓶も差し出す。

 どうやら、差し入れを持ってきてくれたようだ。


「ありがとう」

「……期待はしてないけど、頑張ってよね」


 そう言って、アローチェは再び部屋を出て行った。


「やっぱ生意気なガキ」

「そう? かわいい良い子じゃん」


 アローチェからもらったベリーを口に含みながら、アンリは小さく微笑んだ。




 ××××××××××××




 ――その後。

 交代しながら見張りを続けていたのだが、夜が更けてきても狐は一向に現れない。

 そんな中、イリアが誰よりも先に寝てしまった。

 チュエリー家のみんなも、アンリに「無理をしすぎないでくださいね」と言って床につく。

 やがて、限界の訪れたオデットも入眠し――。


「……んん」


 明かりが消され、静寂に満ちたリビングにて。

 アンリは、アローチェからもらったベリーを食べながら、見張りを継続していた。

 しかし、時間は既に深夜を回っている。

 流石に、彼女もウトウトとしてきた。

 意識が朦朧とし、夢と現実の境が徐々に曖昧になっていく。


『アンリ様! アンリ様!』

『ぴゃー! ぴゃー!』


 ……一瞬、ペンギンさん達と雪原で雪合戦をしている夢を見てしまった。

 それでも、アンリはなんとか意識を途切れさせぬよう、気合いを入れて頬を叩く。

 と、そこで、窓の外を見詰めていたアンリは、ハッと違和感に気付く。


「……来た」


 闇夜に紛れ、複数の小さな影が柵の下を潜り、跳び越え、チュエリー家の敷地に入ってくる。

 月光の明かりを受け、その姿がハッキリと見えた。

 灰色の体毛に、四足の足。

 尖った耳と鼻先、狡猾そうな双眸。

 家畜の鶏達を奪いに来た、狐の群れだ。


「イリア、オデット」


 すかさず、アンリは密かに動き、イリアとオデットを起こそうとする。

 その時だった。

 一匹の狐が俊敏な動きで鶏小屋へと走る。

 隙間から小屋の中に入り、寝静まっている鶏を早速仕留めようとしているのだ。


「危ない!」


 すかさず、アンリは動く。

 すぐさま窓を開け飛び出すと、疾駆しながら魔法を発動。

《隷属》の光の糸が伸び、鶏小屋に到達していた狐の首に巻き付いた。


「キャンッ!?」


 体の自由を奪われた狐は、その場で横転。

 自身の身に何が起こったのか理解できず、混乱している。

 そこで他の狐達は、アンリが居ることに気付きすぐさま逃げ出した。


「アンリ!」

「狐が来たのか」


 アンリの後を追い掛け、イリアとオデットもやって来る。


「追い掛けよう!」


 チュエリー家から飛び出し、アンリ達は逃げた狐の群れを追い掛ける。


「どうするんだ? 全員狩るのか?」

「うん、それも考えたんだけど……」


 イリアと会話をしながら走るアンリ。

 まずは、狐の群れに追い付かないといけない。

 しかし、やはりというか――狐達の足は結構速い。

 俊敏な動きで地上を駆け抜け、正直このままでは追い付くことはできないかもしれない。


「仕方がない」


 そこで、オデットが走りながら、不意にアンリをお姫様抱っこした。


「きゃっ! え!? オデット!?」

「この方が速いだろう」


 その通りだった。

 魔神としての力が戻りつつある彼の脚力は、正に人間離れしており、アンリを抱えたまま一気に加速していく。

 アルビオン村を囲う城壁を越え、瞬く間、狐達へと追い付いた。


「ありがとう! オデット!」


 アンリは、狐達に向かって《隷属》魔法を発動する。

 白銀の首輪が掛けられ体を操られた狐達は、意思に反して動く体に困惑する。

 そして、されるがまま、次々に石や木の幹に衝突。


「……よし、こんなところかな」


 しばらく痛い目に合わせたところで、アンリは《隷属》を解除。

 狐達は、振り返ることなく一目散で森の奥へと逃げていった。


「いいのか? 逃がしちまって」


 アンリ達に追い付いたイリアが問う。


「うん、多分大丈夫だと思うよ。この《北の監獄》に住む野生動物は、過酷な環境で暮らしてるだけあって恐怖に敏感だから。もう私達には敵わないって、理解しただろうし」


 それに、深手を負って逃げ帰った狐達の様子を見て、他の野生動物も恐れて近付かなくなるだろう。

 アンリはひとまず、チュエリー家を困らせていた害獣達を追っ払う事に成功したのだった。




 ××××××××××××




 ――翌日。


「本当にありがとうございます! アンリさん!」


 害獣の狐達は、アンリによって追い払われた。

 チュエリー家の皆が、彼女へ感謝の気持ちを示している。


「あ、ありがとう……」


 アローチェも、おずおずとお礼を口にする。


「ごめんなさい……前にあなたのこと、変な人みたいに言っちゃって」

「いいよいいよ」


 魔法を扱い、魔獣と戦ってきた貴族。

 経歴だけ見れば、アンリは相当変人寄りの人間なので。


「そうだ、アンリと僕達にもっと感謝しろよ、生意気なガキ」

「お前は何もしていないだろう、阿呆」

「あんたは何もしてないでしょ」


 何故か偉そうなイリアに、オデットとアローチェが同時に言う。


「しかし、《隷属》魔法の力は凄いな。もしかしたら……」


 そこで、その場に同席していたブレームが不意に呟いた。


「アンリの力があれば、また港町にも行けるようになるかもしれないな」

「港町?」


 その発言に疑問符を浮かべるアンリへ、ブレームが説明をする。


「ああ、少し距離はあるが、ここから海の方に行くと、そこに港町があるんだ」

「え!?」


 そこで、アンリは思い出す。

 川に流された際に紛失してしまっていたが、旧ミラート村の廃屋で見付けた地図にも、そんなようなことが描かれていた気がする!


「港街――デリンズ港は、ローレライ領の中でも最も栄えている街だ。この村にいた人間も、そこに暮らしの拠点を移した者が多い」

「港に行けば、色々な物資や食料とかも豊富に仕入れられますよね? この村で作ったものを売ったりもできますし。どうして、活用しないんですか?」

「問題が発生している」


 疑問を口にするアンリに、ブレームは深刻な表情を浮かべた。


「しばらく前から、港町に続く道に恐ろしい野獣が出没するようになった。なので、気軽に港町に行けなくなったんだ」

「野獣……」

「凶悪な、“熊”の群れだ。その凶暴性は並大抵の野生動物の比ではなく、一匹一匹が強力。数も多く、神出鬼没だ」


 ブレームでも手を焼いている問題なのだという。

 その為、港町への往来は禁止にしており、村の中で生活をせざるを得なくなってしまっていたのだ。

 しかし――。


「……つまり、私達が協力してその野獣を追い払えたら、また港町にも行けるようになる……ということなんですね」

「ああ。しかし、危険度が高い案件だ。無理には――」

「ブレームさん、手紙は出せますか?」


 そこで、アンリはブレームに確認する。


「港に行くことが出来たら、本国に手紙を送れますか?」

「手紙? ああ、当然船も出ているからな。郵便局もある」

「是非やりましょう!」


 その言葉を聞き、アンリは意気揚々と答えた。

 逆にブレームが動揺するほどのテンションである。


(……港町に行けば、手紙が送れる……お父様達に、手紙を届けられる!)


 希望の宿った眼差しで、アンリは蒼穹を見上げた。



 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 手紙かあ。うまいこと偽装しないとインターセプトされて嫌がらせに使われそうな気もしますが。長く続く貴族家なら、アヤしい通信方法(単純なものだと『偽の宛先』とか)も幾つかは持ってそうな気もします…
[一言] 毛皮にするのかと思ったけど、しないか。
[一言] 次は熊退治ですね! 狐も一匹くらい仲間入りかと思ったのに…(笑)
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