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○●第7話 アンリは他の人間とは違う気がする――と双子は思います●○



 アンリと、彼女を女神様と慕うペンギン達。

 そして、封印から解放されアンリの支配下となった双子の魔神イリアとオデット。

 みんなで力を合わせ過ごす、《北の監獄》の日々が開始した。

 今日もアンリと双子は、狩りで食事の確保に当たる。

 しかし、イリアとオデットに関するアンリの《隷属》を使用したパワーアップは禁止になったため、現状かなり苦戦を強いられている様子である。

 そんな中でも、少量ではあるが、なんとか今日も新鮮な獲物をゲットすることができた。


「ぴゃー!」

「ぴゃっ! ぴゃっ!」

「あれ? ペンギンさん達、どうしたの?」


 廃屋へと戻ってきたアンリ達に、ペンギン達が群がってくる。

 ペンギン達が大きな鉄の鍋を運んでくると、中には魚が入っていた。


「今日も捕ってきたんだ、凄いね」

「「「ぴゃー!」」」


 アンリに褒められ飛び上がって喜ぶペンギン達は、そこでイリアとオデットにどや顔を向ける。


「なんだ、この鳥モドキ共。偉そうだな。先輩面が鼻につく」

「ぴゃっ! ぴゃっ!」


 そこで、ペンギン達がアンリに何かを伝えようとしている。

 アンリは《隷属》の魔法を掛けて、ペンギン達の声を聞く。


「アンリ様ー! 食べて食べて!」


 どうやら、捕ってきた魚をアンリに差し出そうとしているようだ。


「え、でも、これってみんなの分でしょ?」


 近郊の海で捕れる魚の量は、決して多くない。

 初日こそアンリにもわけ与えられる程の量が捕れたが、その後の捕獲量はまばらで、最近はペンギン達が食べる分くらいしか捕れていないのだ。

 なのでアンリは「ペンギンさん達の分はペンギンさん達で食べて。私達は、私達で自分の食糧を確保するから」と言って、彼等とは食事を分けるようにしていたのだが――。


「アンリ様にあげるー! ……ゴクリ」

「僕達は大丈夫だからー! ……ゴクリ」

「だいじょぶだいじょぶー! ……ゴクリ」

「……本当に?」


 とは言いつつも、みんな鍋の中の魚をキラキラした目で見詰めて、涎を飲み込んでいる。

 説得力皆無だよ。


「大丈夫だよ、みんな。みんなの分はみんなで食べて」


 アンリは、その優しさだけもらって、魚の入った鍋をペンギン達に返す。


「ぴゃー、でもー……」

「じゃあ、明日は久しぶりに私とみんなで漁に行こう? そこで、前みたいに協力していっぱい魚を捕ろう!」


 アンリが言うと、ペンギン達は「賛成ー!」というように「ぴゃー!」とジャンプする。


「じゃあ、イリア、オデット。今日の獲物を捌いてくるから、ちょっと待っててね」


 先日同様、アンリは庭で今日捕ってきた兎を捌く。


「ふぅ……」


 戦場で兵士達から教わったサバイバル知識があるし、何度か見学させてもらったこともあるので、不快感はない。

 捌いた肉に火を通し、食卓に並べる。


「いただきます」


 捕ってきた肉は、ちょっと生臭かったり、クセが強い味がする。

 やっぱり、家畜として飼われてる動物の肉とは全然違う――と思うが、文句は言っていられない。

 自身の血肉となってくれる命に感謝しながら、今日も皆で平らげる。

 しかし、アンリにとっても、当然イリアとオデットにとっても、この量ではいまいち足りないようだ。


「ああ、腹が満たされないな。おい、オデット、お前の分も寄越せ」

「何故無駄飯ぐらいのお前に食料を分けねばならない。我慢しろ」


 互いの肉を取り合って、二人が喧嘩を始める。


「もう、ストップストップ。ほら、私の分をあげるから」


 そこで、アンリは自分の皿に乗っていた肉を二人にわける。


「……いや、それだとお前が全然食べれない事になるぞ」

「大丈夫。明日はペンギンさん達と、今日よりもいっぱい獲物を捕れるように頑張るから」


 そう言って、アンリは双子に笑顔を向ける。


「………」

「………」




 ××××××××××××




「じゃあ、お休み」


 そして、夜が訪れる。

 二人に就寝の挨拶をし、アンリは二階へと向かう。


「二人とも、温かくして寝るんだよ」

「………」

「………」


 イリアとオデットが、アンリをジッと見詰めている。


「……? どうしたの?」

「……いや、別に」

「良い夢を」

「うん、お休み」


 ……しかし、やはり双子の視線が気になる。

 二人とも、アンリに対して思うところがあるような……なんだか、釈然としない表情をしているのだ。


「もう、どうしたの?」


 たまらず、アンリは二人に問い掛ける。


「……なぁ、アンリ」


 そこで、イリアが質問する。


「どうしたの? イリア」

「どうしてさ、僕達を殺さないの」

「いきなり凄い質問してくるね。なんで?」


 一瞬驚いたアンリだったが、イリアに続きを促す。


「俺達は、昨夜お前を襲おうとした」


 それに対し、引き継ぐようにしてオデットが続ける。


「確かに命こそ奪うつもりは無かったが、女としての尊厳に触れ、著しく汚す可能性のある事をしようと考えていたのは事実だ。そんな俺達を、どうして生かして傍に置いておく。お前の《隷属》の魔法を使えば、俺達の首を締め上げるなり、もしくは操って崖から身投げさせるなり、容易く命を奪えるはずだ」

「そもそも、僕達を《隷属》で縛ったのも、僕達が暴れ出したりしないように見張るためなんだろ? だったら、とっとと始末しちゃった方が効率的じゃん。こんな、ただでさえ食料も無駄に掛かって、しかも自分に危害を加えるかも知れない奴等、どうして?」


 なるほど――と、そんな質問をぶつけてきた二人を見て、アンリは納得する。

 先日、あの夜の件があった翌朝――自分が彼等を容易く許したことに対し、どこか驚いたような反応を示したのは、これが原因だったのか。

 つまり、アンリの処遇が、あまりにも優しすぎると。


「……んー、そうだね、どこから説明しようか」


 アンリは額に手を当て考えると、二人に言う。


「まず、イリアもオデットも、実はそこまで強くないよね?」

「ああん?」

「強がっても無駄だよ。《隷属》の魔法を通して、なんとなくわかってるから」


 アンリはここ数日、双子に《隷属》を掛けていてわかった。

 確かに魔神と呼ばれるだけあって、通常の人間に比べればかなりの身体能力はあるようだが、まだまだ魔力の方はからっきしだ。


「……チッ」

「バレていたか」


 イリアとオデットは嘆息を漏らす。


「復活したばかりの頃にも言ってたけど、多分、奪われた力がまだ完全に戻ってないんだよね? 過酷な環境だし、栄養もまともに摂取できないから、回復も遅れてるのかな。だから、今のそんな状態の二人を解放して、どっかに放置したりなんかしたら、この《北の監獄》じゃ死んじゃうかもしれない」

「願ったりじゃん」

「放置しておけばいいだろう」

「だから、だよ。そんな二人を、見捨てるわけにはいかないよ」

「………」

「………」

「それに、私は二人がいてくれて楽しいし、心強い気分だよ」


 アンリは微笑む。


「ペンギンさん達もそうだけど。この地に来て、正直ひとりぼっちで心細かった。そんな中で、初めてできた仲間だから。大切にしたいな、って」

「………」

「………」

「じゃ、なんだか恥ずかしくなってきたから、お休みね。あ、でも、もう一度言っておくけど。だからといって、また勝手にあの夜みたいなことしようとしたらお仕置きだからね」


 そう言って、アンリは二階に上っていった。


「……どう思う」

「変な女」


 オデットに問われ、イリアは机に突っ伏した。


「……僕達、封印されたのって何百年前だっけ?」

「五百年前だな」

「あの頃さ、僕達魔神って人間から凄い嫌われててさ……今みたいに力がちゃんと覚醒する前の幼体だった頃とか、人間の奴隷だったじゃん」

「ああ、酷い扱いを受けていた」


 イリアとオデットは、当時の事を思い出したのか――苦い表情になる。


「食べ物なんてまともに与えられなかったし、毎日のように暴力振るわれたりしたし」

「泥水と残飯しか食べさせられず、その様子を見て嘲笑われていた時期もあったな」

「僕、熱した鉄の棒を体に押しつけられまくったこと、いまだに忘れてない……」

「………」

「……だから魔神として覚醒したら、逆に人間共を支配下に置いて扱き使ってやったけど」

「……最終的には、他の魔神と結託されて罠にはめられ、封印されたわけだが」

「だからさ、僕ってまだ人間が嫌いなんだよ」

「無論、俺もだ」


 そこで、イリアはそれまでエメラルドの瞳に浮かべていた、憎悪の意思をふっと解く。


「……僕さ、人間から食べ物をわけ与えられたのって、初めての経験かもしれない。しかも、自分が食べる分を、わざわざ僕達のために、さ」

「……ああ」


 先程の食卓での出来事。

 イリアとオデットに、笑顔で自分の分の食料をわけ与えたアンリの姿を、二人は想起する。


「アンリって、五百年前に見たどんな人間とも違う気がするんだよな」

「………」

「……まぁ! どうせ、単なる脳天気の甘ちゃんなんだろうけどさ!」

「……そうだな」


 そう強がるように言うイリアに、オデットも溜息交じりに言う。


「………」

「………」


 二人は、そこで黙り込む。

 テーブルの中央に置かれたランプの火だけが、静かに燃えている。


「……今夜は、どうする?」


 少しして、そうオデットが口を開いた。


「どうするって……どうせ襲ったところで、魔法を掛けられてるんだ。この前の二の舞でしょ。やるなら、あいつがまた弱ってたり隙を見せた時。それまでは、様子見だろ」

「そうだな」

「……寝るか」

「ああ」


 言って、二人は、その場で横になった。



 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

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