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33 決戦当日

今回は再び三人称視点です。

 ――王都中央区にそびえるデュミトレス教総本山、ザーベルグ大聖堂。


「母神よ、どうか我らをお導き下さい……」


 聖像の建つ祭壇前で祈りを捧げるのは、小聖女マリアンヌ・デュミトレス。

 ステンドグラスから零れる光を浴びた黄金の髪は金糸のような煌きを波打ち、マリアンヌの小さな身体を包み込んでいる。

 纏う衣は上質な絹で編み込まれ、魔法効果を付与された小聖女のみが袖を通すことを許された特別な法衣。

 更に腕輪や耳飾りといった装飾が彼女の身を彩る。

 それらもまた強力な効果を秘めたダンジョンの副産物、アーティファクトである。


「小聖女様、お迎えにあがりました」


 マリアンヌの祈りのため、立ち入りを禁止し無人となっていた大聖堂に、教会の制服を着た一団が現れる。

 前衛職は白い鎧、後衛職は白い神官服を装備し、その全員が女性で構成された小聖女直属の近衛部隊、小聖女聖騎士団の面々だ。


 長い金髪を後ろでひとまとめにくくった美女、聖騎士団団長アルティアナ・アベールがマリアンヌの前に跪き、一拍置いて残りの騎士団員も一糸乱れぬ動きで同じように頭を下げた。

 鎧が擦れる音でさえ和音として響く見事な整列であった。


「アルティアナ」


「は。なんでございましょうか」


 マリアンヌの問いかけに、アルティアナが答える。


「これから61層の階層主を祓わねばならないと思うと、身が竦んでしまいそうです」


「ご安心下さい、小聖女様は我らが命を賭して必ずお守りします故」


 マリアンヌの華奢な身体は不安で震えていたが、胸の奥に秘めた1人の冒険者の姿を思い描くと、自然と震えも和らいだ。

 その冒険者は決して強い訳ではなかった。

 それでもその心は誰よりも強靭で、優しく、全身全霊をかけてマリアンヌを守ってくれた。

 それはまるで子供の頃に読んだおとぎ話の王子様みたいで、マリアンヌ自身をお姫様に投影しては、恥じらうように頬を染めてしまうような日々を送っていた。


 そんな王子様に相応しいお姫様になりたい。

 そんな一心でマリアンヌは覚悟を決める。


「なれば、わたくしはわたくしの役目を全うせねばなりませんね。お母様の期待に応えなければなりませんから」


 現聖女ラファエラは教会と王宮とブラックロータスの共同作戦に、娘であるマリアンヌとその聖騎士団を派遣することを選んだ。

 小聖女ももう13歳。あと数年もすれば聖女の地位を引き継ぐだろうし、この辺りで実績を作り、民衆の支持を得る必要があるだろうという意図からの選抜だとマリアンヌは考察していた。


 実際はマリアンヌの美貌に嫉妬したラファエラによって仕組まれたダンジョン内の暗殺計画のためだとはつゆ知らず……。


「参りましょう。斯く在るべき姿で、斯く在るべき場所に還る為」


「は。斯く在る姿で、斯く在るべき場所に還る為に」




■■■




 一方。

 大聖堂と比べてしまうと老朽化が目立つこじんまりとした小さな教会では……。


「ふんふんふーん。今日はエドさんと夜ごはん~♪」


 ルカ・カインズは自身が所属する東教区第4教会、その正門前の中庭で鼻歌交じりに箒をかけて落ち葉を集めていた。

 建物自体は古いが、中庭に植えられた花や生け垣は丁寧に手入れされているのが見て取れる。


「エドさんと一緒に過ごすのも久しぶりだな~。エドさん1人で強くなっちゃって、最近はもう一緒にダンジョン探索してくれないんだもん…………ん? なんか騒がしいな」


 掃き掃除を続けるルカは、教会の前に華美な教会服を纏った一団が訪問してくるのを認めた。


「失礼。ここの神父を務めるニルヴ司祭と所属シスターのルカ・カインズという者に用がある」


 ルカは手を止め顔をあげる。

 所属を表す記章は中央教会、しかも聖女直属の聖女聖騎士団のものであり、ルカは驚いて箒を落としてしまう。


 なぜこんな場末の教会にエリート聖騎士団が? とルカは疑問に思ったが、いつまでも呆けているのも失礼だと思い我に返る。


「はい! ニルヴ司祭とシスターのルカ・カインズですね! すぐに呼んできます!」


 ルカは慌てて教会の扉を開け司祭とそのシスターを探す。

 そして気付く。


「…………それ、ウチじゃん」




■■■




 他方。

 王都最大手ギルド、ブラックロータスのギルドハウス。

 普段は食堂として使われる広間にはほぼ全ての団員が集められており、広い面積を誇る広間が今日に限ってはいささか手狭な印象を与えている。


「みんな、集まってくれてありがとう。知っての通りついに61層の階層主の討伐作戦が開始される」


 団員の視線を一手に浴びるのは弱冠14歳にして人類最強の2つ名で呼ばれるホビット族の少女、サーニャ・ゼノレイ。

 副ギルドマスターのテティーヌの用意した台の上に立ち、高所から構成員を見下ろしながら演説を始めた。


「本作戦には教会から派遣された小聖女聖騎士団との合同作戦になる。けれども奴らが私達を手伝ってくれるとは最初から期待していない。むしろ作戦の邪魔にさえなると思っているわ」


 サーニャの教会批判に隣に控える青髪のエルフ、テティーヌが「そうだそうだー!」と野次を飛ばし、習うように残りの構成員が「教会のクソ野郎がー!」「くたばれー!」「団長の方が聖女より100倍可愛いですー!」と同意する。


「10年前に私の父やテティーヌの父である先代のギルドマスターや副ギルドマスターを始め、沢山の優秀なメンバーが61層の階層主に挑み、そして死んでいった。あなた達の中には実際に参加した生き残りや、その家族がいるかもしれない。正直に話すと、今回の作戦も10年前の二の舞となる可能性が非常に高い、博打に近い戦いになると思っているわ。そんな戦いにあなた達を巻き込むことになってしまい、ギルドマスターとして本当に申し訳ないと思っている」


「そんなことありません!」


「団長は我々の誇りです!」


「地獄までお供します!」


「待機組も団長のために温かい食事を作って待っております!!」


 サーニャは自分の不甲斐なさを責めるように自嘲するも、返ってきた言葉はどれも温かく、親の跡を継いだだけの七光りである自分が、こんなにも団員に慕われていることが申し訳なくなる。


「ありがとう。こんな私に付いてきてくれる部下を持って私は幸せだわ。この作戦は王宮の自分勝手で利己中心的な開発計画と、10年間停滞していた61層の攻略が小聖女の活躍によって成功したと民衆に発表することで教会の権威を更に強めるという横暴な企みに私達が巻き込まれたと言っても過言ではないわ」


 他でもないギルドメンバーらの期待に応えなければと、サーニャは熱くなった目頭を部下たちに悟られないように話を続ける。


「でも、例え王宮の言いなりになろうと、教会に手柄を奪われようと、私達がやることに変わりはない。この国に住む全ての人々の安全と幸せのために、私達は剣を取り、ダンジョンに潜り続ける。私はあなた達ギルドメンバーを家族だと思っている、だからこそこの戦い、誰一人欠けずに成功させてみせる。そして前人未到の62層に足跡を付けに行きましょう。今までのブラックロータスがそうであったように、私達は常に冒険者の先頭に立ち、道を切り開く者だから」


 ブラックロータスのギルドハウスはかつてない熱気に包まれる。

 団員の声援を浴びながら、サーニャは改めて覚悟を決めた。


「見事な演説でした、サーニャ様」


 台から降りたサーニャを労うようにテティーヌが脇に立つ。


「ありがとう。さ、行くわよ」


 テティーヌがサーニャの肩に、黒いファーを蓄えたアーティファクトのコートをかける。


「(誰一人死なせない。例え、この身を犠牲にしたとしても)」

マリアンヌちゃんの髪の毛は足首まで伸びているので、膝をつきながらお祈りをすると確実に髪の毛が地面につきますが、清潔魔法があるのでいつも綺麗な状態です。

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