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30 第4次深層遠征報告会

今回はちょこちょこ出てきたホビット族のサーニャたんに焦点を当てた三人称視点です

「――以上が第4次深層遠征の報告となります。つまるところ現状に置いて人類が61階層を攻略するのは時期尚早と言わざるを得ません。今後も慎重に捜索を進め、冒険者全体の能力の底上げに注力するのが重要かと思われます」


 王都の中央にそびえる王城。

 広大な敷地内に設えられた一室。

 強い緊張感が張りつめられていた。

 4人の要人へ報告を済ませたサーニャ・ゼノレイは、ダンジョンの方が快適だと思う程に、この重たい空気にげんなりとしている。


「それは困るな」


「困る、と申されましても……」


 ホビットであるサーニャはヒューマンの目からすれば10歳にも満たないベビーフェイスを引き締め、同じ円卓に付いた要人の返答に身構える。


 サーニャの着いた席を時計の12時とした場合、4時の位置に2人、8時の位置に2人。

 計5人の人物がその部屋にいた。

 4時の位置に座るのは王都の軍政を司る軍務卿ガーランド・ジィビと財政を司る財務卿ヴェート・パトリミシアン。

 共に初老に差し掛かった男性だ。


 8時の位置に着く2人はデュミトレス教――教会に所属する勢力。

 1人は聖女ラファエラ・デュミトレス。

 緩やかに巻いた黄金の髪を豊かに伸ばした美女であり、40歳に差し掛かった妙齢にも関わらず、その美貌は全盛期から殆ど霞んでおらず、今もなお圧倒的な美に充てられた軍務卿と財務卿に厭らしい視線をチラチラと向けられている。


 聖女の隣に座るのは教会に君臨する教皇の補佐に当たるミザハ・ザクレイ枢機卿。

 教皇及び聖女が教会の象徴であるならば、彼は実務を担当し教会全体を円滑に運営する裏の功労者と言える。

 老齢の男性で腰も曲がり顔には深いシワが無数に刻まれているが、その眼光の光は今なお衰えていないドワーフ族。


「…………」


 王宮と教会、国を支える2つの陣営に挟まれているのが、王都最大の冒険者ギルド、ブラックロータスのギルドマスター、サーニャ・ゼノレイであった。


「我が国は20年前に運河による輸送に代わる画期的な物資輸送手段として、魔導機関の開発に成功し、その魔導機関を人間の移動手段としても運用しようとしていることは、貴殿には既に話したかと思うが」


「は。存じております」


 財務卿の言葉に恭しく返答するサーニャ。

 魔導機関とは敷いたレールの上を移動する貨物列車を魔石によるエネルギーで動かし、それにより大量の物資を素早く遠く離れた場所へ届ける王都の物流を支える重要なインフラの1つであった。


 王宮はその魔導機関を人間の移動手段として流用するべく、魔導機関の増産を提案していた。

 だがそれには1つ問題があり、現在ダンジョンから持ち帰られる魔石量では、これ以上の魔導機関の増産及び運営を賄うには少なすぎる。

 人がより豊かな文明を営むには、更に多くの魔石が必要となってくるのだ。

 故に王宮はトップギルドであるブラックロータスに、より上質な魔石の供給量を増やすべく深層の踏破を急がせているのであった。


「(どうしてあなた達の都合にブラックロータスが利用されなといけないのかしら……いや、それはもうずっと昔からか……私が生まれた頃から、既にブラックロータスは協会と教会に良いように使われる手足になっていたわね……)」


 先日もダンジョン内犯罪の取り締まりに駆り出されたのを思い出すサーニャ。

 これが貴族の務めであるのなら、貴族とはなんて窮屈なものかと、彼女は心の中で深いため息を漏らす。


「魔導機関の増産と、その運営を十全に行うには、今年度は8%、更にそれ以降は毎年3%ずつの魔石の採掘量を増やして貰わねばいかないのだ」


「となると、半年に1階層の踏破ペースが望ましい」


 財務卿の言葉を軍務卿が続けるように補足する。


「しかしながら申し上げますが、61階層はそれ以前と比べ、攻略難度は桁違いに跳ね上がります。その開発計画の見直しを進言します」


 サーニャの反論に財務卿の眉が歪む。


「口を慎みたまえ。貴殿に政治について口出しされる筋合いはない。貴殿はただ、言われた通りダンジョンの攻略に専念していればいいのだ」


「それに隣国であるラン王国のダンジョンは、既に63層まで攻略済みだという情報が入っており、逆側の隣国スぺイサイド王国も、60層の階層主を討伐し61層へ到達したとのことだ。このままではランだけでなく、スぺイサイドにまで後れを取ることとなる」


「そうだ。5年前まで我らザーベルグ王国は、常にダンジョン攻略においても技術力においても三国のトップに君臨していた。にも関わらず、既に我が国は10年もの間、61層で足踏みしているのが現状だ。それについて何か申し開きはあるか?」


 財務卿と軍務卿からかけられる圧に、サーニャは小さな胃袋をズキズキと痛ませながらも、凛とした表情を崩すことなく2人の顔を見据える。


「面目次第もございません。全てはブラックロータスの不甲斐なさ故、ひいては当代のギルドマスターであるわたくしめが無能であるからであります」


「そうですわねぇ。確かにサーニャ様も奮闘されているとは思いますが、あなたのお父様に比べると、少し頼りなく見えてしまうのも確かですわねぇ……」


「…………」


 頭を下げるサーニャ。

 今度は反対側から声がかかる。

 聖女ラファエラ。先日ダンジョン内で顔を合わせた小聖女マリアンヌの母だ。


「10年前の61層の階層主討伐作戦には、わたくしも参加させて頂きましたがぁ、イヴァン・ゼノレイ様の雄姿は今もなお、わたくしの目に鮮明に焼き付いておりますわぁ」


「恐悦でございます、聖女ラファエラ様。そう仰って頂けると父の死も報われます」


「だからこそ、イヴァン様の蘇生に失敗したことは、今も悔やんでおりますのよぉ。改めて、お詫びしますわぁ」


「滅相もございません。それが母神の意向なれば、受け入れるだけでございます」


 サーニャの父は先代のブラックロータスのギルドマスターであったが、10年前の61層の階層主討伐作戦の際に死亡している。

 戦線が崩壊し撤退を余儀なくされた際、危機に瀕した当時20代の聖女へ下された、階層主の攻撃から身代りになったからだと聞いている。

 ダンジョンの深層攻略が遅れているのも、その作戦で有能な団員が多数亡くなり、10年前まだ4歳だったサーニャが次代のギルドマスターに相応しいステータスになるまでレベルを上げる必要があったからだ。


 サーニャの父であるイヴァン・ゼノレイは聖女の身を庇い殉職したことで世間では美談として語られているが、それでも当時まだ4歳のサーニャは父の死を受け入れられず、聖女に対し反感を抱いていた。


 せめて父の蘇生が成功していれば。

 どうして教会は父の蘇生を成功させてくれなかったのか。

 サーニャの教会への不信感はその時に芽生え、今もなおその芽を伸ばしている。


「軍務卿、財務卿、わたくしからも進言させて頂きますわぁ」


「はい。聖女様、なんでございましょうか?」


「次の階層主討伐作戦、教会からも騎士を派遣いたしますわぁ。わたくしの娘、小聖女マリアンヌとその護衛を務める小聖女騎士団を」


「なんと、小聖女様が……」


「はい。わたくしはもう引退しようと考えておりますのぉ。10年前も死にかけましたし、ダンジョンに潜るなんてもうこりごりですわ。娘ももう13歳。この辺りで民衆へのお披露目もかねて、討伐戦に参加して貰おうと思いますのぉ」


「で、ですが聖女様……!」


「確かにもしサーニャ様が死んでしまった場合、ゼノレイ家の1000年続いた直系の継承が途絶えてしまいますわねぇ。もしあなたが男性だったら、ダンジョンに潜る前に子種を残していけるのですが……まあ、混銀の血統に直系もありませんでしたわね。それに人類最強とも呼ばれるサーニャ様が61層で倒れるとも思いませんわ。期待していますわよぉ」


「聖女様の血を引く小聖女様の回復魔法に、人類最強と言われる貴殿の武力があれば、61層の踏破も容易と言えよう。貴殿もそう思うだろう?」


「しかしながら卿」


「…………なにか、問題でも?」


 問題ならいくらでもある。

 10年前の討伐作戦でサーニャの父と聖女が参加して既に失敗しているのだ。

 その娘であるサーニャとマリアンヌが参加しても、いくら10年分の情報があったとしても勝てる見込みはない。

 既にサーニャは4回も実際にこの目で、61層の階層主を偵察しているのだ。

 それで現状勝ち目がないと判断しているのに、王宮も教会も聞く耳を持たない。

 特に王宮の2人組に関しては、自国の利益のことしか考えておらず、実際に命を賭ける冒険者の命を軽んじていた。


 だがこの1000年の間、ブラックロータスは常に王宮の命令に忠実であった。


 だから――


「いえ、問題ございません。必ずや61層の階層主を討伐してみせます」


 ――と、答えてしまった。


「(腹をくくるしかない。今までなんとかのらりくらりと先延ばしにしてきたけれど、今回は本気でやらせる気だ。拒否させる気などさらさらない。多分、隣国のスぺイサイドにまでダンジョン攻略を抜かれそうなのが原因なのだろうけども……)」


「貴殿ならそう言ってくれると信じていたぞ」


「うむ、検討を祈る」


「ええ。わたくしも皆様が無事魔物を祓い、戻ってきてくださることをお祈りいたしますわぁ」


「(い、いけしゃあしゃあと……)」


 サーニャの胃袋は既に限界だった。

 自分が従える部下が何人犠牲になるか、万が一小聖女の身に何かあったとき自分がどのような糾弾を教会から受けるか、攻略後も魔石採掘量を増やすために次は62層、63層を攻略せよと言われるに違いないので、誰一人として戦力を失う訳にはいかないし、自分のせいでギルド団員が死ねば、その遺族に申し訳が立たなくなる。


「(それも全て、彼らの無理難題を断りきれなかった私に責任がある……私が、沢山の人を殺すことになる……だから、私はやらないといけない。パパでさえ倒せなかった61層の主を……倒さないと……)」

王宮と教会は別の組織です。

王宮は政府、教会は国を代表する大企業みたいな感じです。

ブラックロータスは下請けみたいな感じです。

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