異変
ー1ー
『どうしたの?何かいいことあった?』
優子が朝からルンルンしていたら、母の和子に問い詰められた。
『な、何で分かるの?』
『そりゃ分かるわよ。そんなにルンルンしてたら。』
高志と付き合い始めた時も一発でバレた優子は、母に隠し事は出来ないとその時悟り、今度のダブルデートの事を話した。
昨日の夜に高志と電話で話していた時にダブルデートの事を切り出し、快くOKを貰っていたのだ。
……
『高志さんから電話よ。』
昨日、母から受話器を受け取った優子は、母が気を使ってリビングから出ていくのを確認してからダブルデートの話を切り出していたので、その時は安心していたのだが、もしかしたらお母さんは廊下で聞いていたのかもしれない。と、優子は苦笑いをした。
優子の口からダブルデートの話を聞いたた和子は、
『あら、友子ちゃんにも彼氏出来たのね。
……そっか……だから最近あんまり友子ちゃんと出かけてなかったのね。』
『う、うん。』
『それはそうと……』
優子は『来た!』と思った。
『一体いつになったら、彼氏連れてくるのよ。お母さんは、いつでも歓迎するわよ。』
高志と付き合い始めてルンルンしていたときに、彼氏が出来たことがバレて以来、ことあるごとに、『早く連れてきなさい』と急かされるのだ。
『そ、そのうちにね……』
優子はいつもそう言ってごまかしている。
しかし、そういつまでもはぐらかしていられない。
本当は優子も一日も早くお母さんに紹介したいと思っていた。
初めての彼氏であるばかりか、自分には勿体ないと思うくらいの最高の彼氏なのだから。
中学生の時に父が亡くなって以来、母和子は女手一つで優子を育ててくれた。
そんな母には、『こんな最高の彼氏が出来たよ!』と、すぐにでも紹介したかったが、恥ずかしさが勝って、中々前に進めずにいた。
さっきも和子の方から『早く連れてきなさい。』と言ってくれたのだから、『うん。』と言えばいいだけの話なのだが、その『うん。』が出てくれば苦労はしないのだ。
優子は『はぁ……』と、ため息を着いた。
『どうして私はこうなんだろう……』
と自己嫌悪に陥ったりもするが、そんな優子だからこそ、高志が好きになってくれたとは気付かない。
誰から見ても完璧な女性を、全ての人が求めている訳ではないのだ。
高志が求めるパズルのピースに優子がピタリとはまった。
恋愛とはそういうものなのだと、経験値の少ない優子は気付かない。
それでも、いつか大好きなお母さんに、大好きな高志さんを紹介する日を思い浮かべると、自然と笑みがこぼれる。
『ふふっ。』
と笑った優子は、突然全身の気だるさを感じて、床に崩れ落ちた。
.『え?……』
訳もわからず意識が遠退き、優子は暗闇をさ迷った……
.