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生命ーいのちー  作者: ヒロっぴ
3/8

ー2ー






夏休み後半、優子は友子と二人で図書館に勉強に来ていた。




とはいえ、二人は進む学校が違うので、勉強内容も異なる。




近くには座るが、友子が理系の参考書を中心に勉強しているのに対し、優子はデッサン書等を参考に絵を描いていた。




チラッと横目で見た友子は、小声で





上手うますぎて気が散る。』




と理不尽な事を言い出した。





『ちょっとユウコ……』





と反論しようとすると、友子は口に人差し指を当てて『シッ!』と言った。




『理不尽だ……』





優子達は一番壁際のテーブルを使っている。



友子は中央に近い方の席に座り、優子は斜め前の反対側の席に座っていた。



優子の後ろには大きな窓があり、中庭を見渡せるようになっている。


窓の下には腰くらいの高さの本棚があり、その上に観葉植物が飾られていた。




その本棚には子供向けの絵本等が置いてあるので、優子の後ろの通路はあまり人が通らない。……はずだった。





中学生らしい女の子が窓の外を見ながら優子の後ろに来たとき、優子の描く絵が目に入った。




『うそ!』





口元を押さえて小声でささやいた彼女は、本棚の奥で本を物色していた数人の友達の所へ戻ると、小声の身ぶり手振りで、優子の絵について伝えようとするが、うまく伝わらずに『何いってんの?』と苦笑いされた。




『いいから見てきて!』





と本棚の陰から優子を指差す。






渋々と窓の外を見る振りをしながら優子の絵を見た一人が戻ってくると、最初の子と同じ反応で次のコに見に行くように促す。






そんな感じで優子の絵を見に行く中学生達を見ていた人たちが、同じように興味本意で次々と優子の後ろを通るものだから、落ち着かなくなって、予定より早く優子達は図書館を後にするはめになってしまった。





『やっぱり優子の絵が上手すぎるからいけないんじゃない。』




友子が誉めてるのか、けなしてるのか分からない言い方で文句を言った。




『そんなこと言ったって……』





優子は友子が誉めてくれているのは分かっているので、笑いながら答えた。





『やっぱり絵の勉強は家でやらないとダメかなぁ。……キャッ!』





優子が先を歩きながら振り返って友子に話していたら、路地から出たところで人とぶつかってしまった。




優子のカバンからデッサン画やイラストが飛び出て歩道に広がった。





『すいません。大丈夫ですか?』




ぶつかった男性から声をかけられる。




『こちらこそごめんなさい。前をよく見てなかったので……』





落ちた絵を広いながら顔を上げると、一緒に絵を拾おうとしてくれていた男性の顔が目の前あった。





優子の顔はみるみる真っ赤になり、固まってしまう。





『ちょっと優子、大丈夫?』





友子に声をかけられ、ハッとして男性の顔から視線を外した。





その男性は拾った絵を手にしたまま、固まっていた。




『あの……』





優子が声をかける。





『……この絵は……あなたが描いたんですか?……』





『……そう……で……す……けど……』






そう答えたとたん、両手で手を握られた。





『素晴らしい!こんな絵が描けるなんて!』





優子はビックリして、その手を振りほどいてしまった。






『あ!すいません。!俺ったらなんて事を……』



『いえ!……そ、そうじゃなくて……た、ただ、ビックリしただけで……』





そんなやり取りを見ていた友子が声をかける。





『何やってんのー?二人で?……なんかドラマの撮影ですかー?』




おどけたようにそう言われて、二人はパッと距離を取った。





『あ、ゴメン!気にしないで!……さ、続けて続けて。』



『もう!ユウコったら!』




そのやり取りを見ていた男性が『クスクス』と笑いだした。





『あ、ゴメン。……君たち仲がいいんだね。二人とも同じ名前なの?』





そう言われて優子が答える。





『あ、私は優しい子って書いてユウコなんですけど……』




それを引き継いだ友子が続ける。





『私はトモコなんです。友達の友に子って書くんですけど、中学時代から音読みでユウコって呼ばれてて……』





『あー、なるほど。それでダブルユウコなんだね。』






そう言われて、二人揃って、『何で分かるんですか?』と、真顔で迫った。





『いや、なんとなく……』





『私たち、学校でダプルユウコって呼ばれてるんです!』




友子がそう言うと、その男性は多少引き気味に答えた。




『そ、そうなんだ?……君たちいいコンビなんだね?』





今度は優子が食いついた。





『そうなんです!私たちバレーのセッターとアタッカーで、有名なコンビだったんです!』





『……は、はは……そうなんだ?』





苦笑いしながら手にした絵の事を思い出すと、優子に手渡しながら言った。





『でも、君は美術部なんだと思ったよ。』



優子は手渡された絵をカバンにしまいながら、




『もうバレーは引退したんで、大学は美大を目指してます。』





と言った。それを聞いた男性は嬉しそうに目を細めた。





『良かった。君の絵の才能は絶対に埋もれさせたらいけない。本格的に絵の道に進むんだね?』




見ず知らずの男性にそこまで言われて優子は照れた。





『あ、ありがとうございます。昔から絵を描くのは好きだったんで、それに集中出来るのは凄く嬉しいんです。』





『良かった。陰ながら応援してます。……出来れば表でも応援したいくらいです。』




男性は多少伏せ目勝ちで、後半の台詞は尻すぼみになっていた。





『なぁに?さっきから私を無視してまた二人の世界?』




友子が冗談ぽくう言うと、優子は『もうっ!』と言って顔を赤らめた。




男性はそっぽを向いて照れ隠しをしている。




『せっかくだから、名刺かなんかもらっといたら?』




友子がそう言うと、男性はこの機会を逃してはならないとばかりに名刺を取り出した。




『失礼しました。俺、渡辺と言います。』




優子に渡したあと、友子にも差し出した。




『え?私も?』




『勿論です。このお詫びはいずれ。』





そう言うと男性は、優子に目を向けた。





『あなたの絵は、ぜひゆっくりと見させて頂きたいと思っています。』





そう言って手を差し出し、握手をすると男性はスマートに帰っていった。







ボーッと後ろ姿を見送る優子に




『アンタ、一目惚れでしょ?』




と友子が言った。





『べ、べ、べ……』




『ベイシティ・ローラーズ?』




『ち、ちが……』




『茅ヶ崎?』




『もうっ!』




優子は顔を真っ赤にして抗議していた。








その日のうちに渡辺から電話があり、優子は緊張しながらもデートのお誘いを了承した。






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