捜査
薄暗い裏路地を歩くのは、仮面の女性だ。何故、薄暗いか。ここは大きな建物……倉庫の様なもの……の中に、作られたセットに過ぎないからだ。一見すると、そうとは見えないが。
「お若いの、今日は、暑いね。」
突然声をかけて来たのは、ごみ集積箱の様な物の陰に隠れた浮浪者風の老人だ。
「今日も、暑いですわね。」
「そうか、そうか、『今日も、暑い』か。明日は、天気かのぉ。」
「『明日も、天気』ですわね。」
「そうか。……よっこいしょ。じゃ、しっかりな。お若いな。」
杖を頼りに立ち上がる老人は、そう言って、立ち去った。
後姿が完全に見えなくなってから、毛足の長い上着を翻しつつ、老人の背後にあった扉に近づき、ドアノッカーを無視して、手袋をした手で、ノックする仮面の女性。
「どちらさんで?」
扉の向こうから、声がすり抜ける。
「失礼致します。ライアー様に、お取次ぎお願い致します。」
「アポイントメントは?」
扉は開かない。只、声のみが通過する。
「ご本人様に、ご確認願います。」
「アポイントメントの無い者を、通す訳には、いきませんな。」
また、扉は開かない。
「しかし、そうなりますと、『お叱り』を受けるのは、あなたの方ですわね。そうなりたくなくば、ご本人様に、ご確認すべきです。」
「本当に、アポイントメントは、無いのですか。」
扉は開かない。但し、微妙に口調が変化している。
「ご本人様に、ご確認願います。」
扉は開かないまま、暫しの時間が経過する。
例えて言うなら、『人生で一番長い40秒』と言う所だろう。
「…………少々お待ちください。」
扉の向こうで、足音らしいものが、聞こえた。取り敢えず安堵する仮面の女性。
* * *
次回予告
第83話 捜査~作戦会議
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