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港町盗難殺人事件~聞き込み(1)

 若い時は、美人だったのだろうが、病的な程痩せ細った中年女性だ。それが、ブラン倉庫検査官の奥様に対する第一印象だ。

「あの……本日は、憲兵さんから、色々聞かれたのですけど……まだ、何か……」

「それが、部署が違うもので、聞きそびれた事があるのですよ。お手数ですが、お願いします。」

「……はぁ……手短にお願いします……」

「実は、ご主人のご自宅でのご様子を、伺いたいのです。特に、家を出発帰宅する時刻です。」

「……はぁ……いつも、そんなに変わりません。いつも、仕事の日は、お城で鐘を鳴らす時刻に、合わせて出かけています。……それが、何か……」

「と言う事は、ご主人は、奥様の手料理を、食べて毎日の仕事の活力になさっていると、羨ましい限りですなぁ。はっはっは。」

「……妻として、当然の務めです。……それが、何か……」

 これは、常識だ。時計は確かに存在するが、高級品。庶民が、簡単に購入可能な物ではない。だから、1時間おきくらいに、鐘を鳴らすのだ。なら……

「では、もう1つ。ご主人は、家でお仕事の話をされますか。」

「……いいえ、話しません。明日は、早朝出勤だ。とか、明日は夜遅くなる。程度です……」

「ご協力感謝します。では、本日はこれで……」

 そう言って、振り返ったスート班長だった。その瞬間……

「最後に1つ、質問があります。1つだけ、1つだけですから。」

「何だ! その手垢のついた『推理物』のパクリみたいな質問は! これはファンタジーだろ!」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界に存在しない。

「……はぁ……一体何でしょう……」

 人差し指で、「1」を作りつつ、振り返って、顔を近づけるスート班長に、やや気圧される感じの奥様だった。

「昨晩、ご主人は何を食べたのでしょう。」

「……さぁ、知りません。」

「は? 『知らない』ですか。毎日、あなたが食事の準備を、なさっているのでしょう。」

「……ええ、何しろ、私の母が、体調を崩して看病に行きました。主人には、外食して貰うように、頼みました。……それが、何か……」

「そう言う事でしたか。では、お母様の、お住まいを教えて頂けますね。これも『確認』の為です。……有難うございました。失礼致します。」

 そう言って、住所を教えてもらい、ブラン倉庫検査官の自宅を後にした我々だった。


 * * * 



次回予告

第133話 港町盗難殺人事件~聞き込み(2)

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