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港町~捜査協力

「こらこら、ここは今、関係者以外立入禁止だ。立ち去りなさい。」

 陸軍小隊長の制服に、憲兵の腕章をつけたおっさんから、注意された。

「おや、私は通りすがりなのですがね。憲兵の出番となると、何ですか。犯罪でしょうか。」

「い・い・か・ら! さっさと、立ち去りなさい! 君、旅行者か。あまり、外国の事情に、気安く首を突っ込むんじゃない。」

 私に、接近し人差し指を突き付けるおっさん憲兵。そろそろ、頃合いか……

「ガウッ!」

 リードを持つ手が、緩んだ隙をついて、飛び出すのは、上質な黒毛の狼だ。

「グゥォォォォォォッ!」

 狼が、鋭く咆えると、怯えてその場を、飛ぶようにその場から後ずさり、遠巻きに狼を見つめる憲兵達だった。

「みぃ~~てぇ~~るぅ~~だぁ~~けぇ~~。」

 憲兵の「あっ、あれ狼じゃないのか。」は、「みぃ~~てぇ~~るぅ~~だぁ~~けぇ~~。」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。

 某CMとも無関係に相違ない。

 先程まで、憲兵達が調べていた、倉庫の匂いを嗅ぐ狼。あちこちを、巡り巡る。分解され、折り畳まれたベッドの様な物が、隅におかれた以外は、目を引く物も無い。

 そして、出入り口付近で、狼は、咆えた。

「先程、小耳に挟んだのだがね。この倉庫で窃盗事件が、あったそうじゃないか。その解決に、『協力』できそうだな。どうかな。貴公。」

「あんた! リードを持って無かったのか! ありゃ、まさか狼じゃないだろう……協力?」

「そうだ。彼女は、嗅覚で足跡を発見した。勿論、この場にいる誰かの者では無い。つまり、『窃盗犯』の物であろう。ついでに、言えば昨日の天気は、どうだったかな。」

「天気……って、あ! 雨か。強めの雨が、匂いを洗い落とした。だが、日没頃上がった。」

「そう、匂いが残っていると言う事は、昨晩出入りした者の物だ。ならば、そいつが『窃盗犯』である可能性が高い。違うかな、貴公。」

「しかし、庶民ばかりか、狼を捜査に加えるなど、前代未聞。事が公になれば、大変な……」

「おひおひ……この期に及んで、自己保身かよ……事件だって解決させなきゃ、意味ねぇだろ。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界に存在しない。

「まあまあ……そんな物、黙っていれば誰も分かりはしませんよ。それに、ほら。」

 ここで、狼を呼びつけ、頭や、おとがいを、撫でてやる。気持ちよさそうな貌の狼。

「これ程、人に懐く『狼』が、いる訳ないでしょう。それに、早く決断した方がいいですね。何しろ『匂い』は、消え去るのが早い。折角の『手がかり』が、消えてしまいますよ。」

「これは、あれか。『アレ』を使う気か。それとも、使わずに『落とす』気か。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界に存在しない。

「しかし……君ぃ……本当に、この事を内密にするのだろうね。」

「勿論です。神に誓いましょう。ですが、むしろ憲兵の皆さんの方が、心配ですね。」

 ここで、リードを拾い上げる。

「そうだな。いいか、お前達、この件を口外したら、同罪に問われるからな!」

「では、参りましょう。そうだ、まだ名乗っていませんでしたね。私、ウィリアム・ユーロックと言います。あなたは?」

「小官は、憲兵隊所属捜査2班班長ウィシュリー・スート。」

「では、スート班長、出発しましょう。日が傾いて来ました。」

「分かりました。ご協力感謝致します。ユーロック殿。」

 こうして、茜色になりつつある空の下、私達は、匂いを辿った。


 * * * 



次回予告

第130話 港町殺人事件~騎士と死体

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