逃げた先で。
「…すまんが、どちらか侯爵家に嫁入りしてもらう事になった」
そう言ったのは、渋い顔を益々顰めて一層渋味を増した顔を、執務机に両肘をついて組んだ手の上に額をくっつけて重苦しいため息を吐いた父。
「はぁ……先方はどちらでもええと?」
机の上に無造作に置かれた書簡の封蝋を、じっと見据えながらそう言ったのは、私と同じく父に呼ばれた姉。
「せや。まぁどちらも適齢期やし、ボンボンは二十五や。そう離れてもない。二人で話し合って決めなさい」
「「はぁ…」」
複雑な顔で隣に立つ姉を見れば、姉も「ボンボンて…」と呟きながらも同じような顔でこちらをチラリと見た。
あ、これ同じ事考えてそやな。
「分かりました。一応話し合うとしましょか。失礼しますわ、お父様」
そう言う姉と一緒に執務室を出た私は、静かに前を歩く姉の後ろ姿をなんとも無しに眺める。
姉はとってもデキる女や。
家で経営している商会で姉御と呼ばれ、一部熱烈な信奉者がおるくらいに慕われている。偶に「罵倒してぇ!」とか叫んでハァハァしてる毛色の変わったのも混ざっとるけど。
計算も早く、抜き打ちで帳簿をチェックする時なんか、斜め読みしてるだけちゃうのん?!って位の速さや。
「侯爵家かぁ。面倒そうやね」
ポツリと姉がため息と共に小さく零した。
そこは激しく同意。面倒くさい立場に就く可能性のない女に生まれて、自由万歳!と思っていたんやけどなぁ。まさか3兄達と同じように押し付け合い抗争をせなあかんとは……
…………………………
………………
……
よし、先手必勝逃げるが勝ちや。
こうして私は姉の「若い方がええやろ」という言葉をスルーして「取り敢えず時間も遅いし明日朝に話そ?」と笑顔で遮り、自室へと戻った。
自室へ入るなり私は使用人を下がらせ、衣裳室へと駆け込み、買い付けの時に偶に使うリュックを持ちだした。下町徘徊用の簡素なワンピース二着、男装用の服、針金と……と言った風に着替えや必要最低限の道具などを次々と押し込み、手早く自身の着替えを済ませると、最後にブーツに履き替えた。
部屋の灯りを消して、手元を照らすランプに切り替えると、ベッドの掛け布の下に服やシーツを寄せ集めて形作った。一応時間稼ぎに偽装しとかなね。
ポシェットの男性版みたいな胴体にピタッと沿う斜め掛けの鞄を着けると、中に銀貨や換金しやすい宝石類を入れ込んでいく。
緊急買い付け用にと、小遣いを手元に置いといてほんま良かったわ。
その上に上着を着て、リュックを背負った。
夜中も過ぎて皆が寝静まったやろうと思わしき時間。
そっと窓を開けると、長い組紐で一つにまとめた髪が夜風に揺れた。窓下を見回りが過ぎて行ったのを見て、窓から外へと体を静かに出す。外壁の窓枠の装飾にブーツに足先を掛けて、バランスを取ると、窓をかっちりと閉める。足をかけた装飾の少し下にある出っ張りに足を慎重におろした。
慎重に壁に張り付きながら進むと、近くに太い木の枝が差し掛かり、それを持って一息吐く。ザザッと風が吹くタイミングに合わせて、体重全てを木に移す。
ガサササッ!
割と大きい音が出たが、気付かれた感じはなく、どこも静かなものだ。
ここまで来ると、あとは簡単。山猿よろしくするすると木を降りきって警備に注意しながら駆け出した。
やっとこさ使用人用の出入り口まで辿り着くと、重厚な扉にはもちろん閂と鍵はかかっていた。しかし、そっと長めの針金折り畳んで持ちやすくすると、鍵穴に入れてかちゃかちゃと動かした。
── カチャリ
よっっしゃっ!
次に曲げた針金を伸ばし、閂の片側に軽くひっかけて、外へ出てからグッと引っ張るとゴトッという音と共に閂が落ちる音がした。
念のために扉を押して開かないことを確認すると、鍵を弄ってもう一度閉めたった。
「ふふふ。これぞ完全犯罪や」
ニンマリと笑ってリュックをヨイショと背負い直し、三日月だけの薄暗がりの中、自由を勝ち取るために駆け出した。
***
確か明日朝に隣国方面へと出るウチの商船があったはず。
そう思い出した私は、宿へと動いていた足を港方面へと切り変えて一路直走る。
薄らと地平線が明るく見えだした頃に港が見え、まだ薄暗いと言うのに活気ある掛け声が響いていた。
忙しなく動く人の中で、紙束を手に持って難しい顔した男に声をかけた。
「おはよぉ、エイダンさん。ちょっと寒いねぇ」
「おはよぉぉってジゼルお嬢さん!?」
「やぁ。今回着いて行くことになったから宜しゅう〜」
「へ?!聞いてませんけど」
「昨夜やーっと許可もろたからなぁ。間に合うんやったらイイよって言われてたから、無理矢理に間に合わせてみたんよ」
にーっこり笑って言い切ると、この商船の責任者のエイダンは髪をクシャッと掻き混ぜた。
「はー。それは間に合わんこと前提の話ちゃいますか?」
「せやな。けど間に合ってもうたんはしゃーないよね〜」
まぁ以前から商船乗って各地回りたいって言ってたし、丸切りウソではない。
ただ「いつかな」と、のらりくらりと躱されては先延ばしになっていただけや。
「そうですか、今から……はもう時間が無いですから、あちらの陸に着き次第手紙出してもらえますか?僕からも取り敢えず報告だけはあげますから」
「うん、もちろんや。うちが勝負に勝った。それだけのお話しや。エイダンさんは気にせんでええよ」
ほな続きやろかとにーっこり微笑んで、促すと「おぉっと、そうですね」と慌てて荷物一覧のチェックに戻って行った。
船室はそう幾つもない。
女乗組員用の大部屋に顔を出して、「ヨロシク」と空いていた二段ベッドの上へと乗り込んで占拠した。みんなポカンとしていたが、「気にせんでええよ〜」と笑って手を振ったら慌てていたけど。えへ。
商船ルートはまずは隣国へ行き、最後はそのまた隣の国へ行ってから空いたスペースに買い付けたものを載せて帰るというもの。
大体1ヶ月位の旅程だ。丁度ええやないか?
私は隣国で船を降りて、色々回ってから帰るつもり。日程が合えば帰りの船でもええし、自分のヘソクリで馬を借りてもええし。自由気ままに行こ〜!
船を降りた私は、エイダンから報告書を「ウチのと一緒に出しとくわぁ」と言って受け取り、暫くしてから「特急便」のところを「普通便」で出して街に出た。恐らく一週間くらい多く時間がかかってしまうかも。ふふふ。
小さい村から巡って面白そうなものを買っては試し、遂に王都までやって来た。
勿論こっちにもウチの商会の店はある。
顔を出して、空き部屋をしばらく拠点にした。
帰国まで三週間を楽しむ気満々でおったんやけど、支部を任されているマルコさんが、人好きのする顔をニコニコさせて言った。
「ホンマに丁度ええところに。王宮へ扱っているワインの納入で行かなあかんのですけど、説明できてマナーに問題ない担当が、風邪引いたらしくって。代わりの都合も付かなくて困ってたんですよ」
── 立ってるもんは親でも使え。
これは経営者であろうと気兼ねなく声をかけろという意味であり、ウチの方針の一つでもある。
「はぁ。手持ちの服ないけど」
「ご心配なく。こういう時のための既製品のドレスは有りますので。サイズも問題ないかと」
「……しゃーないな。王宮に病気を持ち込むわけにもいかんしなぁ。明日?」
「ありがとうございます。明日でございます」
柔かにそう言ったマルコさんは、「明日の準備が」と言いながら颯爽と去って行った。
翌朝。
何やら嬉々として女性従業員に「これは新商品のヘアオイルです」とか「真珠のパウダー入り白粉です」とか言われながら飾りつけられた私は、ちょっと憮然としながら馬車に乗り込み、荷馬車を後続に連れて王宮へ向かった。
……マルコさん、広告塔欲しかっただけじゃ。
なぁんて考えながら、景色を眺めつつ王宮へ着くと、商会専用出入り口を通って中へ。
商品の質問や確認も滞りなく終わり、連れてきた従業員が納入作業を進めているうちに、商会の身分証で出入りが許された所や、中庭などを練り歩く。
……折角やし、広告塔もちゃんとこなしとこ。
マルコさんのニンマリ笑顔が、さわやかな青空に浮かぶようやわ。
そんな事を考えながら前をろくに見ずに歩いていたのが悪かったのか、生垣の間から出てきた人影に気づかずに、勢いよくぶつかってしまった。
「っつ!」「ぅわわっ!」
因みに色気もへったくれもない後者の声が私や。
「あいたーー……」
相手が大きかったからか、単に私が軽かったからなのか、跳ね飛ばされるように後ろへと尻餅をついた。咄嗟に手が出せない転倒ってめっちゃ痛い。
「急いでいたものですまない。大事ないか?」
「大事な尻が割れてもうたわ。あいたた……」
あまりの痛さに、いつもの口調で軽口を返してもうた。なんとか自力で立ち上がって打った腰から尻を痛みを飛ばすように撫でた。
「そっちも大丈夫?怪我はない?」
「……あ、ああ」
ぶつかった人物は、綺麗な装飾が幾つも付いた服を来た、青年と言うにはまだ幼さを感じる男の子だった。
「脇見はお互い様や……じゃない、ですわ。怪我がなくて安心いたしました。では失礼いたします」
ペコリと頭を下げてサッサとその場を去ろうとした私の腕を、その男の子がガシリと掴んだ。
「いや待て、怪我をしたのだろう?」
「はい?」
不思議そうに小首を傾げて問い返せば、男の子は眉を寄せて顔を赤らめながらボソボソと言う。
「んん?なんです??」
「〜〜!だから、しっ尻が割れたのだろう?!医務室へ行くぞ!」
…………はぁ??!
ぽっかーーーんとあんぐり口を開けていると、グイグイ引っ張られるので必死に抵抗した。
「ちょちょちょちょっと待って!冗談ですから、あんなのよく言う下町ジョークですからぁぁ!!」
軽口でお医者さんに、尻を診察されるなんて流石に笑えんわっ!
この必死の返答に次は相手がぽかーーんとする番だった。
「じょっ冗談…だとっ」
引っ張られなくなり、フゥゥっと息を吐くと、私は掴まれた腕をぺぃっと剥がしてドレスについたシワをパタパタと軽く叩きながら伸ばした。
「ええ。大した怪我はありませんのでどうぞご安心くださいませ」
借り物にシワが…と思いながらおざなりに返事をすると、男の子は押し殺すような声を漏らした。
「ク…クククっ」
どないしたんやと様子を見れば、彼は口元を押さえて俯いていた。
「クククック……ハハハハ!!!!」
はぁ。何やこいつ。
急な大爆笑に怪訝な顔をしてしまうのは致し方のない事だと思う。
「ハハッ面白い」
使い古されたジョークで、ここまで笑うアンタの方がオモロい頭してるけど?
とは口に出さずに、外行き用の微笑みを顔に貼り付けて、私は後退りを開始した。
「お前、名は何という」
「いえ、名乗るほどの者でもございませんわ。オホホ…」
「私が聞いているのだ。話せ」
ぃや、だからお前誰やねん。
これ聞いてイイやつじゃないよね?私商人用許可証で出入りしてるし。嫌な予感するけど、気付かないフリしてやり過ごす。
「フッ、この私を焦らそうとは」
「滅相もございませんわ」
「ますます面白い」
お前の頭がなぁっ!
ともやっぱり言えずに、そのままジリジリと下がっていく。
「こら、そんなに下がってどうする。こっちへ来い」
「恐れ多いことですわぁ」
おかしい。姉直伝の「これで引かなきゃ普通じゃない⭐︎遠慮言葉連発」が効かない。って事はイカれヤロウか!まさかの王宮で遭遇するとは私も運がないっ
「遠慮せずとも良い。さぁ「エディオン様ー!どちらですか〜?!」くっうるさいのが来たか」
どうやらこの男は、あの声が探している「エディオン様」と言うらしい。
「あら、お探しのようですわよ。どうぞそちらを優先なさって?」
「……お前は控え目なのだな」
こいつマジで大丈夫かいな。
シラーっとした目を向けながらスゥッと息を吸い込むと、私は淑女にあるまじき大声を出した。
「エディオン様はこちらですわー!!!」
「なっ!おい、何をっ」
「人の労力を無駄にしてはいけませんわ。お探しと言うことは、あの呼んでいる方にも譲れない用件があるのでしょう」
呼ばれてるんやからさっさと行けば?を遠回しに言ってみたのだが、どうやらまたしても通じないようだ。
「ふっ……自分より他を気遣うとは。本当にお前は控えめだな」
あんたホンマ大丈夫ぅ?
「エディオン様っ此方でしたか!」
ガサガサと生垣をかき分けて、エディオンを探していた声の主が現れた。
エディオンがそちらを振り返り、気を取られたのを見計らい、この心底面倒くさい場から走って逃げ出した。
なんか呼んでる気がしたけど、無視や無視。
そのまま荷物の納入用に充てがわれた一室に逃げ込んだ私は、従業員達が作業する中に入っていく。
「あ、ジゼルお嬢様納品終わりました─って何してるんですか?」
「気にせんで。木箱に蓋してさっさと帰ろ」
「いや、そうじゃなくて…はぁ、分かりました」
そうして呆れ顔の従業員たちは、何も言わずに木箱に蓋をして荷馬車へとどんどん乗せた。そして誰に止められる事もなく王宮を出られたのだった。
***
「……ジゼルお嬢様。何故そんな所から」
「見本品は大人しく木箱に収まっとくもんよ」
「はぁ。まぁ見本品……言い得てますけど。なんかあったんですか?」
「まぁね。面倒そうなのに引っかかっただけや。名乗らんでトンズラしたから安心して?」
マルコは「あー…」とか言いながら額に手を当てて唸っていたけど、知らん知らん。私は代役を恙無くやり切った。文句ないやろ?
思考を切り替えて、私は持って来た服に着替えて夕暮れに染まりつつある街へと繰り出した。
***
その一団が訪れたのは、翌日の昼過ぎだった。
明らかに質は良いが家紋のない黒くて艶々した馬車が、無遠慮に店先に止まったかと思うと、屈強そうな男が数人中へと入ってジロジロと睨みを効かせた。
何だ何だと皆目を丸めつつ、従業員に呼ばれて奥から出てきたマルコは優しげな顔にシワを寄せて笑顔を作りつつも、冷ややかな雰囲気は隠さずに他の店員へと指示を飛ばした。
屈強な男たちが店舗の一角を客を居ない状態にすると、ようやく馬車の扉が開き、1人の青年が降りて来た。
「ようこそおいで下さいました。本日はどのような商品をお求めでしょうか」
恭しく頭を垂れて、礼をするマルコは気にせず先に声をかけた。
「ほぉ……納入している商品以外にも色々扱っているようだな…………」
「何かお探しでございますか?宜しければ個室でお伺いいたしますが」
「……いや。先日こちらから城へ納品の際に同行した女性は─ 、居ないようだな」
キョロキョロと見回す客に、マルコはそうとは思わせずに観察する。
入場リストをこんなに早く参照できるということは、役職者……若いから違うな。と言うことは、無理を押し通せる王族だろう。そう当たりをつけたマルコは、心の中で“厄介”とレッテルを貼り、笑顔を崩すことなく応える。
「えぇ、彼女は臨時(のお手伝い?)でして。(ここに)常駐しているわけではないので、不在でございます」
「そうなのか?……そうか。いつなら居るんだ?」
「それは(色んな意味で)何とも……(本拠地の隣国では)買い付けを主にしておりますので。今日は早朝から(仮住まいの部屋からふらっと)出たと伺っております」
「ふむ、そうか。働き者なのだな」
「あの……彼女が何か粗相でも?」
「いや、先日城で偶然出会ったのだが、また話がしたくてな」
偶然遭遇して、また話がしたいだけで馬車を横付けして、店の一角を無断で占拠するという店側からすると暴挙に等しい事をしでかし、「お忍びとは?」と首を傾げたくなる忍びっぷりでやって来たこの青年に、マルコは心の中で“面倒くさい”のレッテルを重ね貼りした。
「そうですか。必要でございましたら商品の説明にあがらせますが?」
あくまで商品とその説明のために、時間を限ってなら伺わせますけど?とマルコが問えば、男は「うむ」と鷹揚に頷いた。
こうして厄介そうな一団は、何を買うこともなく騒がせるだけ騒がせて去っていったのである。
そしてその日の夕刻に届いた書簡にサッと目を通したマルコは、帰宅(?)した私に笑顔のまま手渡した。
「何コレ?」
書簡を指先で摘みながら問うたら、マルコは「ふむ」とか言いながら考えこむ。
「……デートのお誘いでしょうか」
「はぁぁぁ?なんで?誰から?!」
「夢の王子サマ⭐︎から、我らの姫、ジゼル様に」
「何でやねんっ」
「知らんがな。と言いたいところですけど、先日納品に行った際に、隠れて帰ってきた原因の人物…と言えばお分かりでしょうか」
「あー……」
心当たりがありすぎる。「あのボンくらかいな」と呟きながら思わず項垂れていると、マルコさんは「ホッホ」と笑いながら口を開いた。
「あくまで商会としての呼び出しですから、あんまり気負わんでええでしょう。時間も区切られてますし。適当に躱しながら良い商品を王族にアピールして来てください!」
なぁ、マルコさんよ、最後のん本音が漏れるどころか剥き出しでっせ?
「ハイハイ、ほなお返事書いて時間決まったら新商品も合わせて用意して」
「お任せください」
渋々と簡潔にお返事を書いて出すと、とっぷりと夜もふけた頃に、日付の指定などの書かれた手紙が返ってきた。
わざわざ騎士に頼んで送らせるとか。なんかスンマセン。
そして指定された日。
前回と同じように、馬車と荷馬車の二台で登場した私は、スルリと門を潜り抜けてあっという間に奥へと案内された。
庭が望める応接室は、王族居住区にも近いらしく、警備も前回と段違いで厳しい。
厳重な荷物チェックが入り、やっとこさ応接室で並べた商品を前に一息つくと、見計ったようにエディオンは大股で入ってきた。
あれ?ノックって?あ、客じゃないって事か??
取り敢えず、深々と頭を下げて待つことにする。
「やっと会えたな、顔を上げて楽にしてくれ」
そう言われて顔を上げると、やはりいつぞやに見た「エディオン様」がニヤリと笑いながら胸を逸らして立っていた。その後ろにはいつぞやに見た男性も。従僕さんかな?
それにしても、やっぱめんどくさそう……
「遠慮するな。こっちへ来て好きに座れ」
「ありがとうございます」
エディオンが大きなソファーの中心へどっかりと座るのを見てから、私はローテーブルを挟んだ向かい側へと浅く腰掛ける。
「む、それでは遠いだろ」
「……はぁ」
「ここへ座れ」
ぽんぽんと叩いて示すのは、同じソファーの空いた座面。
……なんでやねん
「ふふ、滅相もございませんわ。本日は商品のご紹介をということで、直接お声かけいただき、恐悦至極にございます。我が商会はワインやブランデーなどの嗜好品だけでなく、美容品各種取り揃えておりますが」
「いやそれよりも……そうだな。私は第三王子エディオンだ。まずはお前のことを教えてくれ」
「……ああ、大変失礼致しました。レブンズ商会の買付担当、ジゼルと申します。我が商会の商品を、日頃お使い頂き誠にありがとうございます。本日お持ちしたのは─」
「それはよい、今日はジゼルの話を聞きたい」
「……ぇえ、尊き王族の方に、私のような者から特段お話しするようなことは、何もございませんわ」
あらやだ。と口元を隠してホホホと笑えば、エディオンはしかめっ面を隠そうともしない。ぶすーーっとしよった。
後ろに立って控えている従僕さんは、まだハラハラした顔してるけど。
あれ?貴族って国が変わればハードルも変わるんか?ポーカーフェイスで微笑み装備は、こっちは無し??
「何でもいい、普段する事でも何でも話せ」
でた。命令形。
何でも命令すりゃいいってもんじゃないやろうに。
「はぁ、本当に何もございませんが。
そうですね…この国では彫金や、細工師の技術職人が多いので、我が商会で扱っている、化粧品などの入れ物に何か良いものがないかと、方々の工房へお邪魔しております」
「ふむ、そうか。『この国』と言うことは、他にも行くのか?」
「ええ。暫くは(多分)此方におりますが」
本拠地はあっちやしなと、微笑んで応えればエディオンは、ムッと口元を小さく尖らせよる。
「では、話相手として毎日あがれ」
「ほほ、ご冗談を。本日はサンプルを幾つかお贈りいたしますので、宜しければお使いくださいませ」
「フッ…やはり、君は珍しいな。この私が誘えば、普通は皆頬を染めて喜んで侍ると言うのに」
そりゃ、王子サマ大好物な肉食系令嬢ならそうでしょーよ。
「権力?ナニソレ美味しいの?」がモットーのウチの家には、微塵も刺さらん誘いやで。
「お可愛らしいご令嬢が多いのですね。是非そちらの方々にお声掛けされては如何でしょう?」
「つまらんのは要らん。ジゼルが良いと言っている」
「殿下……」
小声で発した従僕さんは、鬱陶しそうに振り向いたエディオンに首を振って咎めた。それをエディオンは「ッチ」と舌打ち。
……行儀悪いな王子サマ。
こう言うの、「オレ様」って言うんだっけ?と、恋愛小説にハマっている女性従業員の熱すぎる解説を、チラッと思い出してげんなりとした。
「まぁ、日を決めて上がれ、良いな?」
いいな?じゃねぇよっ
従僕さん、片手で顔を覆って俯いてるやん。大きなため息、聞こえてるやん。丸無視か??
「恐れ多い事です。ご辞退申し上げますわ」
「そう遠慮するな」
……ブ チ ノ メ ス ゾ ?
っっは、いかんいかん。腐ってもアレは王族。ここは落ち着かな。スーハースーハーーー。おっし。
「申し訳ございません、決して遠慮してお断り申し上げているのではございませんの。日々忙しくしておりますゆえ、此方に上がるのは“無理”なので、心よりお断り申し上げておりますの」
「なっ……ジゼル、俺の誘いが嫌だというのか!」
「殿下、落ち着いてっ」
ガタッと音をならせて立ち上がりかけたエディオンを、従僕さんは慌てて押し留める。
はーぁ。可哀想に従僕さん。しゃーないし、きっちり線引きしたろかな。
「不敬かもしれませんが、殿下。お話ししても宜しいでしょうか?」
「……良い。許可しよう。話してみろ」
よっしゃ、言質とったぞ!と、内心でニンマリ笑った私は、一つ咳払いをして姿勢を正した。
「私共は、生活する為のお金を稼ぐために、自分に割り当てられた仕事を、日々こなしておりますの。
その仕事を放り出して、殿下の“お話相手”に時間を使うことなど出来ませんわ。
そんな事をしてしまえば、誰が放り投げた仕事をこなしますの?」
「……他に人はいくらでも居るだろう?其奴らにやらせれば良い」
「ええ、従業員はそれなりにおります。しかし、他の従業員にもそれぞれ別の仕事があります」
「……それなら新しく雇えば良いだろう。人は幾らでも居る」
「…………お話になりませんわね」
「なんだ、間違っていないだろう?!」
「あのねぇ、王宮と違って、商会の従業員は平民や。ある程度の躾とノウハウを叩き込まれて居るお貴族様じゃないんよ?
『新しく雇えば』って簡単に言いますけどねぇ、勉強も躾もしてない小さな子供を連れてきて、侍女や騎士の制服着せて、さぁやれ!って言うのと一緒や」
あーーーー。堪えとったのにー。
ここまで来たらしゃーないっ!開き直ろ。言質あるしっ
「この国の識字率は良くて三割。運良くええ子を採用できても、そこから店のやり方を教え込んでも齧り付いてモノに出来るのは、半分おったらええ方や。賢い子やったら最低限こなせるようになるのは凄く早くて半年。まぁまぁ見れるのは一年はかかるわ。
……ほんで?あんたのお話相手?毎日?その間代わりに仕事させる人の賃金、ウチが負担とかほざいちゃいます??アハっ…ねぇ、本気で言ってんの?」
装備した微笑みを消して、据わった目、低い声で凄むようにそう言えば、顔色の悪くなったエディオンは、ソファーの背面に背をくっつけて口元を戦慄かせている。青い顔した従僕さんは、警護で室内に居た騎士さんに、留まるように指示した。
「お、お前っそれが本性か?!」
「そーですけど?」
「ふ、ふけ」
「不敬を許可したのは、其方でしたよね?」
「っく、もう良い、下がれっ!二度と来るな!」
「ええ、ご命令承ります。しかし、レブンズ商会は関係ない事です。そこの所、お間違いなきよう」
わざと釘を刺した私に、予想通りニヤリと嫌な笑みを浮かべたエディオンは、腕を組んで鼻を鳴らす。
「そうだな、泣いて謝罪して懇願するなら、取引はそのままにしてやっても良い」
ハィ出た、小物感満載なお言葉〜!のせやすいな王子サマ。
「謝罪する必要、ありました?この国の一般的な平民のお仕事事情を、分かりやすく言っただけですけど?そもそも、何度言っても無茶を通そうとしたのは其方ですよね?私、何度も断りましたよねぇ?」
「貴様っ!」
「それでもそう仰るなら、此方も上にも勿論、何処にでも事細かに説明しますよ?」
「っは、貴様如きが話したところで何になるっ」
「そうですねぇ。まずこの国からレブンズ商会は撤退して、取引の一切を無くしましょう。そして説明の際にキチンと申し上げましょうか。『王族であるエディオン殿下が、担当でも何でもない一従業員の娘を、王宮へ無理に呼び寄せ、お話相手を命じられ、断ったらお怒りのあまり取引を断られた。あまりの横暴さに、この国の常識と従業員を大事にするウチとは合わないようなので、撤退する事に致しました』こんな所でしょうか?」
苦々しい顔で睨みつけるエディオンを、笑顔のまま言い募れば、まだ引き下がる気配は無いよう。
「恐れながら、殿下に代わり謝罪いたします。もちろんレブンズ商会へは、殿下は口出し致しません。この度の呼びたても、レブンズ商会の新商品のサンプル説明と言うことだけで、納めてください」
無かったことにしてくれと、暗に言う従僕さんに、私も従僕さんを見て頷く。
「少々説明に熱が入り、口が過ぎましたわ。申し訳ございません。これからも良いお取引を致したいですわ」
「お前、何を勝手に!」
締めくくろうとした私たちに、オレ様王子サマがお怒りで声を上げた。
もー、空気読もうよーと、内心でため息を溢すと、従僕さんが堪らずといった風に口を開いた。
「殿下、隣国の名門伯爵家が主のレブンズ商会がこの国から撤退するとどうなるか分かってるんですか?!」
「ッハ、伯爵家如き、痛くも無いだろう?」
気にも留めないエディオンに、従僕さんはソファーの背面から前のめりになりながら、鬼気迫る勢いで続けた。
「痛いどころか、大損害になる事間違いなしですよ!かの家に助けられた貴族、今や大きくなった商会、工房諸々がどれだけあると思っているんですか?!納品されている陛下も大変好まれているワインなんて、あの商会の独占販売ですよ!圧なんて掛けたら、即撤退待った無しで、陛下からの叱責だけで済むなんて本気で思っているんですか?!!」
「……え?お、大袈裟だろう」
「事実ですっ!『私のせいであのワインが飲めなくなって、商会もいなくなっても平気ですよね?』とでも聞いてみてくださいよっ!良くて期限付きで軟禁ですよ!」
良くお勉強されている従僕さんは、商会の影響力をご存知の様子。そして、王サマの愛飲ぶりも。話では、納品している三分の一は王サマが消費しているとかなんとか。
「ですから、今日ハ何モナカッタ。良いですね、殿下?!」
おおぅ、目力凄いな従僕さん。血走ってるーぅ。
「……わ、わかった」
エディオンはそのままブスくれたまま黙ってしまったので、従僕さんが代わりに対応してくれた。お互い再び微笑みを装着して、サンプル品は全てお任せして、礼をし合ってお開きとなった。
***
数日後に従僕さんが一人で、富裕層の平民風を装って来店してくれた。
「先日は申し訳ありませんでした」
店舗二階にある、商談用個室に通した従僕さんは、挨拶をして椅子へと腰を落ち着かせると、深々と頭を下げた。
一応同席してもらった、隣に座るマルコさんは、急な謝罪に無言のままで目を白黒させている。
「まぁまぁ、『何モ無カッタ』んですから、謝らないでください」
私がそう言うと、困った顔で「有難うございます」と小さく会釈した従僕さんは、その後の顛末を話してくれた。
***
エディオンは、あの後ブツクサ言いながら部屋に戻った。しかし、従僕さんの言う事が本当かが気になり、晩餐の席で何気なく父である国王陛下に尋ねた。
「父上、そのワインお好きですね。でももう他の物に代えても良いんじゃないですか?他の商会のワインなんかどうです?」
すると、和やかだった晩餐の席は一瞬にして凍りつく。
「エディオン、今なんと言ったか?私がこよなく愛するこのワインが……この芳醇でかすかにヴァニラを思わせる香り。滑らかで蕩けるような舌触り、まるで私が愛する妻の様な完璧でいて、慈愛に満ちたこのワインを置いて、他の得体の知れぬ女を勧めると、そう言うたか?」
この凍った空気にも怯まず…と言うか気付いてないのか、エディオンはそこで下がらずに続けた。
「っっっは、そんな大袈裟ですよ、父上。偶には他の味を見るのもどうかなぁと……」
「他のものも口にしない事もない。この王宮での夜会でも贔屓しすぎは良くないからな。しかし、私はなに分一途な質でな。天の巡りで出会った気に入りを、手放す気はない。……ところでエディオンよ、ここ数日チョロチョロと動いていた様だが……余計なことはしていまいな?」
「も、勿論ですよ父上!兄弟で一番可愛がられている私が、余計なことなどするはずがありませんっ」
「……そうか。貴様は順位も低く、王太子も既にあるし、負担は掛けなくとも良いだろうと思っていたのだが、兄達と同等の教育が必要の様だ。明日からは、私が定める水準に達するまで一切の自由を禁ずる。分かったな」
「えっっそれはどういう……」
「おいっ!誰か此奴を部屋へ戻せ。私の許可なく外へは出すな」
陛下の呼びかけに騎士と数人の男性使用人が部屋に入り、エディオンの両腕を持って立たせて半ば引きずるように連れて行こうとした。「やめっ、父上!」と抵抗するエディオンに、同席していた第二王子が小声で言う。
「お前、父上の不可侵を知らないのか?!」
「兄上っっふか??」
「そうだ、国と母上とワイン。何者も不当に手を付けて荒らしてはならない三つだぞ?!」
「父上は時に過剰ではあるが、非情ではない。大人しく反省して受け入れろ。でなければ先はない」
最後に末の弟に噛んで含める様に言ったのは王太子だった。いつも優しい兄から、初めて向けられる凍りつく様な眼差しに気づき、やっと従僕さんと兄達の言っていたことや、現状の危うさを理解し、エディオンは青褪めた。抵抗を止めて大人しく部屋へと戻ったエディオンは、翌日から物凄く目溢しされていた教育をがっちりみっちり、一から入れられて、従僕さんの言う通り、ある意味“期限付きの軟禁“となったそうだ。
「──という事で、圧力や下手な横槍は入らないので、ご安心ください」
「そうですか、まぁ……此方としましては一安心でございますね」
話し終えた従僕さんに、マルコさんが「おやまぁ」という顔で感想を述べた。それに私も取り敢えずと口を開いた。
「そうですねぇ。エディオン殿下にはご自愛下さい?とお伝えくださいませ」
「ふふ、そうですね。その様な意味合いで伝言いたしましょう。さて、顛末は以上ですが、ジゼル嬢はいつまで此方に?」
従僕さんは、先日のように「ジゼルさん」ではなく、「ジゼル嬢」と敬称を変えて呼んだ。私が商会主の家族と知って、呼び替えたのだろう。
「……あら、いつお気づきに?明日本拠地に向けての商隊が出ますので、便乗する予定ですわ」
「左様でございますか。では良ければご一緒しても?」
「…………何故でしょうか?」
「婚姻の申し入れをしようと思いまして」
「誰が?」
「私が」
「誰に?」
「ジゼル嬢にでございます」
「……うふふ、またまたご冗談を」
「いえ、本気でございます」
「いやいやあんた、エディオン殿下の従僕さんやろー?!」
「ああ、ちゃんとしたご挨拶もなく申し訳ございませんでした。ローデイル侯爵家次男、ヨシュアルトと申します。是非ヨシューとお呼びください」
「侯爵家?!!てか距離詰め方早っっ」
「エディオン殿下とは乳兄弟でございます。殿下の公務の手伝いをする秘書官として務める予定で、お側に居ました。ですが、この件で、今後の状況が読め無くなったことと、ジゼル嬢の見識の深さと啖呵に心を鷲掴みにされまして」
「それだけで、家とさいならとは行かんでしょー?!」
「幸い跡継ぎは他にいますし、両親と陛下は応援してくださってます」
「ちょっ、今なんか親以外の誰かに応援されてなかった??!」
「陛下ですよ」
「何でっ」
「ワイン効果でしょうか?陛下の腹心である父の息子が、お気に入りのワインを取り扱う大商会とお近づきになる。それはそれは目を輝かせて応援してくださいました」
おっっっおおさまぁぁぁぁぁぁ!何してくれとんじゃぁぁぁぁぁ!!!
心の中で絶叫していると、マルコさんが「ホッホ」と笑って静かに席を立って部屋を出ようとする。
「マルコさんっ!何で無言で出ていくん?!」
「お嬢、これは馬に蹴られてしまう案件ですわ。食べ物と恋の恨みはしつこいですからね。被る前に撤退が私めの教訓ですわ。ほな、仕事戻りますね。お気張りやす」
ヒラリヒラリと捕まえようとする私の手を掻い潜ると、マルコさんは部屋からそそくさと出て行った。
「そんな……」
「悲観なさらないでください、ジゼル嬢。私、とてもいい物件だと思いますよ?」
「は??」
「まず商売に必要な読み書き計算ができ、基本マナーと帳簿付け、3ヶ国語を習得。スケジュール管理や身の回りのある程度の準備も可能。一時期軍にも所属しておりましたので、野営も経験済み。あの方に付いていただけあり、忍耐力と交渉術、各種根回しには自信があります」
「…………た、たしかにお得な上に即戦力間違いなしやね」
「身分は元々次男ですしどうなろうと気に致しません。という事で、人生を一緒に致しましょう」
「『ということで』の後が、壮大過ぎるわぁっっっ!」
「では一先ず、ご実家までご一緒で如何でしょう?」
「それくらいならっ── て頷きそうになるけど、あかんあかんっ」
「ご安心ください。頷いていただけるまで、今よりお側を離れませんので」
「何か来るだけにしては大荷物と思ったら、それ、お泊まりグッズ?!!」
「ジゼル嬢、お慕いしております。是非結婚してください!」
「いや、ちょっっっ回り込んでくるなや!手を握るなっ!」
そして従僕さん改め“ヨシュー”は、宣言通りに四六時中私に張り付き、逃げ出そうにも逃げ出せず……
実家行きの商隊に相乗りして、伯爵家に戻ってきてしまった。
そうして現在私は、伯爵邸応接室に挨拶を一通り済ませ、父の向いにヨシューと並んで座っている。
「……うむ。何故か三日前にエイダンからの報告書が“普通便”で届いた。今更お前がどこに行ってたかは聞かん。ロザリアがちゃーんと結婚したしな。なんやマルコからも、“良い広告塔ぶりでした”って報告も来とるし。まぁ、ちぃとばかり罰は必要とは思うがな」
「さいですか。勝手しましたし、甘んじて受けます。ごめんなさい、お父様」
「うむ。───で?嫁入り危機から一抜けて、婿を連れて帰ってくるとは、流石のワシでも予想つかんぞ」
「仰る通りで。私もですわ」
「ご丁寧に釣書も頂いたし、あちらの陛下のプライベートなお手紙もある状態で、お前、ワシに何を言えと言いたいの?」
父は呆れた顔を隠しもせず、私に向ける。
私達と父の間にあるテーブルには、その二通が並べられている。
「…………えっと。そのプライベートなお手紙は私も知らんかったというかー…?」
伯爵邸に着いて出迎えた執事に渡した二通が、まさかの釣書と陛下からのお手紙なんて、わかるわけないやろ〜(泣
「はぁ、しゃーない。ヨシュアルト君」
「はいっ」
「婚約期間は一年。その間に色々見させてもらおう」
「ありがとうございます!下働きでも何でもお受けいたします、お義父様!」
「お父様、認めんの?!」
「逆に聞くけど、断る隙がどっかにあるか?」
「うぐぅっっ」
「ヨシュアルト君。皆、言葉も荒いしキツいと思うけど、気張ってくれ。部屋は一応客間を用意させる。寮もあるけど、都合がいい方を選んでくれてええ」
「ご配慮感謝いたします。取り敢えずお言葉に甘えて客間を利用させていただきますっ」
「展開が早いっっ、突っ込む隙もないっ!」
「あっちの王様に返事書かなあかんよなー」
「あ、それでしたらあのワインの葡萄で作られたジュースを、お酒にあまり強くない王妃様に。陛下には今年の出来立てを、記念品扱いで一緒に送ると言うのは如何でしょうか?」
「ああ、それは良いな。そうしよか」
和気藹々と話し始めた二人に、私は力なく肘掛けへと項垂れたのだった。
逃げたはずが捕まり、家族どころか商会の皆からも祝福されて結婚式をあげるのは、もう少し先のお話。
お読みいただきありがとうございました。
宜しければ、政略結婚を受けた姉のお話「別に要りませんけど?」もお読みいただければ幸いです。
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