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虚構と現実  作者: 東堂 アカリ
8/8

犬山家の場合 ーsideアキラー

 「ただいま」

アキラが仕事から帰ると、リビングのソファでサヤがうたた寝している。テーブルには、おかずとごはんがラップされて置かれていた。きっと、アキラを待っているうちに疲れて寝てしまったのだろう。

 アキラが電子レンジで料理を温め、食事を始めると、サヤが目を覚ました。

「ごめんね、寝ちゃった。」

「いいよ。ごはんの用意、ありがとう。今日はパートだったの?」

「そうなの。少し疲れて寝ちゃったわ。」

「…パート、しんどかったら辞めてもいいからな。給付金も貰えるし、俺も働いてるから子供たちも何とかなるだろ。」

サヤは、アキラの前にお茶を置くと、にっこり笑って言った。

「大丈夫よ。週に2回だけだし、気分転換になるから。」

サヤは、下の子が小学生になってからスーパーでレジのパートを始めたが、最初は家事と仕事で大変だったことをアキラは知っている。子供が体調を崩したり、学校の行事があったりすると、サヤ自身もぐったりして話もできないことがあった。

本当は、自分自身の稼ぎだけで生活できたらどれだけ良かったかと思ったが、子供たちの学費や家のローンのことを考えると余裕のある生活は出来ない。

サヤは「どこの家も大変だから」と言ってくれているが、もっと楽をさせてあげたいといつも思っていた。


 そんな時、ベーシックインカムが導入された。

ひと月、一人当たり20万円が導入された。アキラの会社も、仕事を辞める人が何人もいた。

 都会では仕事をしないと生きていけないが、田舎なら生きていけるからと、移住する人も多い。

また、以前は都会に集中していた人口も地方に動き、大規模なマンションの建設がいくつもストップしている。

 スーパーやコンビニのレジは人手不足で急速にセルフレジ化が進み、サヤの勤めているスーパーも機械化が進んで、今は商品の補充と入れ替えをしたり、総菜を作ったりパンを焼くのがメインの仕事らしい。サヤは業務が少なくなって楽だし、人手不足で時給も上がったので週に2回勤務している。

「ローンを返し終えたら辞めようかと思っていたけれど、続けようかと思っているわ。」

「そうか…」

最近のサヤは楽しそうで、アキラも「まぁいいか」と思った。きっと、家にいるだけの生活よりも刺激があるのだろう。

 

 「そうそう、今度の旅行のことだけどね…」

サヤは嬉しそうにパンフレットやガイドブックを取り出す。

以前は余裕がなく旅行に行きたいとも言えなかったが、お互いの仕事が落ち着いたので前々から子供が行きたがっていたテーマパークに行く予定だ。


 サヤが楽しそうな顔を見て、アキラは付き合い始めたころを思い出して胸が温かくなる。

 あの頃と変わらない笑顔を見せてくれるサヤに、アキラは(次は、子供じゃなくてサヤの行きたいところに行こう)と思い、微笑んだ。


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