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虚構と現実  作者: 東堂 アカリ
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猫川家の場合

 キクはテレビを消すと、ゆったりとした足取りでキッチンに紅茶のポットを取りに行った。ティーカップはキクお気に入りの有名ブランドのものだ。ダイニングのインテリアもキクがこだわり、輸入品のソファとテーブルは高級品で来客は皆褒めてくれる。

 以前ならキクは友人たちとのランチや観劇、百貨店での買い物などで忙しく過ごしていたが、ここ最近は予定が埋まることがあまりなくなってきた。子育てが終わり、夫も数年前に亡くなっているのでせっかく自由に過ごせるのに。

 今日も何をして過ごそうかと思っていたが、気に入っている紅茶の茶葉が少なくなってきたこともあり百貨店に買い物に行こうと思った。


 イツコシ百貨店につくと、思ったよりも混みあっている。紅茶の店に行くだけで人が多くてなかなか進まない。店も混みあっていて、いつものようにゆったりと店員さんとのおしゃべりをする暇もなく買い物を終えたキクは、疲れてぐったりとしてしまった。

「少し休もうかしら…」

キクはエレベーターに乗ると7階で降りて『お得意様サロン』のドアを押した。

「猫川様、いらっしゃいませ。」

「こんにちは。少し休ませていただけるかしら。あと、馬飼さんはいらっしゃるかしら。」

「申し訳ありません。馬飼はお休みをいただいておりまして…ご予約はされていましたでしょうか?」

「あら、この間もお休みだったのに。予約しないといけなかったかしら。」

「申し訳ございません。ご存知かと思いますが、予約をしていただけたら確実ですのでよろしければ本日お取りしますが…。」

「そうねぇ…でも、まだ先のことは分からないでしょう?」

以前だったら会えたのにねぇ、と言うと、カウンターにいる従業員は「申し訳ございません」と言って頭を下げた。


 キクがサロンの奥の席に座ると、従業員が「ごゆっくりお過ごしください」と言ってコーヒーとカタログを置いて去っていった。心地よい音楽とゆったりとした時間はキクのお気に入りで、用事がなくてもここに来てしまう。

 カタログをゆっくりめくっていると、ふと違和感を感じて顔を上げた。

 キクがいつもサロンの奥の席に座るのは、入り口から誰が来たかわかりやすいからだ。友人も多くがイツコシ百貨店のお得意様なので、会えば話もできる。

 それなのに、今日は自分以外の人がサロンにおらず、サロンの扉を開く人もいない。それどころか従業員もいつの間にかいなくなっていて、サロンにはキク一人だ。キクは何となく居心地が悪くなり、黙って席を立った。


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