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panic9「Q.人体実験を自分の体でするのはありですか?  A.普通、絶対やらないべきだと思うなぁ」

 中間考査終了日、D組のメンバー全員が僕の家に集まってお疲れ様会を開く事になった。

 どうして僕の家なのか聞いたら。



『何か面白い事がありそうだから』の一言。



 みんなは僕の家をなんだと思ってるんだ?

 そりゃあ、地下に研究所はあるけど至って普通だ。

 ……あれ?

 なんかこの時点で既に可笑しい気がする。



 仕方ないか、何せ考査の二日前からほぼ付きっきりで、ルエルさんとテスト勉強してたし。

 一応、付きっきりのテスト勉強のお陰で、何とか赤点は回避した。

 ヤマを張って運ゲーをしたが、今回ばかりは許して欲しい。

 中学生レベルのルエルさんを、進学校と名高いうちの高校レベルにまで上げるのは至難の業だ。



 赤点回避まで持って行ったことを褒めてもらいたい。



「英人〜、一人でぶつくさ何言ってるんだ?」


「いや、何でもないよ。…あれ?て言うか他のみんなは?」


「ルエルが探検に行くーって言って着いてった」


「……待って。それは凄く不味い。地下に行かれたら、死の危険がある!!」



 地下の研究所には研究員の方が沢山いるが、僕の友人だと言えばホイホイ通してしまうだろう。

 そしたら最後、開発途中の機械や薬品に興味本位で触って……ジ・エンドだ。

 今すぐ止めに行きたいが、何処にいるか……



「勇人、みんながどこに行ったか知ってる?」


「…んー。確か地下に降りるための部屋に入って行ったような…」


「バカ!何で止めないの!あそこにある物がヤバイヤツばっかだって勇人は知ってるでしょ!」


「いや、研究員の人だっているし。あいつらだって興味本位で触るほどバカじゃ……いや、一人居たな。興味本位で触りそうな奴」



 ルエルさーん!!

 マジで洒落にならないから!

 一歩間違えたらどころか、一歩間違えなくても害があるヤツいっぱいあるから!

 死が迫ってるなんて比喩表現生易しいレベルで、本当の死が目の前にあるから!



 僕は勇人を引っ張りながら、地下に行くための部屋に直行した。

 リビングを出たら左に曲がり、突き当たりが件の部屋だ。

 本来、指紋認証と虹彩認証の二重プロテクトだけど、新人君が居ればそれは意味をなさない。

 祖母は偶にいい加減な所があるから、そこまで強いプロテクトにしてない。



 と言うか、下手したらクラスメイト全員分のパスを勝手に作ってるかもしれない。

 …今度、認証システム新しく作り直そう。

 今回の騒動を機に、僕はそれを決意した。

 部屋の扉を開けると、そこにはまだみんなが居た。



 ルエルさんと百合さん、それと新人君以外の全員が、気不味そうな顔をしている。

 しょうがないだろう、だって新人君が僕の目の前で認証システムをクラッキングしてるんだもの。

 ルエルさんと百合さんが気不味そうな顔をしてないのは、好奇心故だろう。

 新人君は……僕の登場を何とも思ってないと言った所か。



 多分、彼にとって僕が現れるのは必然だし。



「ストップ!新人君!辞めないと、割と強めに殴るからね!?」


『…お前がそこまで焦るなんて珍しい。分かった、潔く引く』


「ちょっ!それはないでしょ新人っち!」


「そうだよ!それじゃあつまんなーー」


「…二人とも辞めとけ、英人が見たこともない顔してるぞ」



 怒りの青筋をこめかみに浮かべる僕。

 僕の表情や発言で分かる通り、危険だと言っているのに囃し立てる彼女たちが悪い。

 今この場で、全員にどちらが悪いか問いかけたら。

 満場一致で彼女たちが悪いと証明されることだろう。



 でも、流石に怒りすぎかな…

 僕の研究室だったら比較的安全なモノが多いし、研究資料や作ったヤツを見せれば満足してくれるでしょ。



「はぁ…。待ってて、今開けるから」


「良いのか?英人」


「れ、蓮ちゃんの言う通りですよ。大丈夫なんですか?」


「拙者も少し心配があるのでござるが…」


「私も、あまり乗り気はしませんね」



 …比較的常識のある蓮さんたちは反対してるけど、好奇心がある連中は瞳を輝かせている。

 ここまで言ってしまったのだ、撤回するのは良くない。



「大丈夫。僕の研究室は比較的安全なモノが多いし、勝手に変な機械に触れなければ大丈夫だよ。……行っておくけど、死にたくないなら変な機械に触らないでね?」



 念を押すようにみんなを見つめたあと、僕は認証システムをパスし、地下へのエレベーターを呼ぶ。

 一分程でエレベーターは着き、中に入る。

 少し手狭ではあるが我慢して欲しい。

 重量オーバーにならないだけマシだ。



 エレベーター特有の不思議な感覚を味わいながら、地下に降りていく。

 映画とかだと、エレベーターをガラス張りにして、地下の施設が見えるようにするなどかあるがここではそんな事していない。

 もっと頑丈な物で造らないと、()()()備えられないからだ。



 また、一分程で地下にエレベーターが着き前にいる僕から外に降りる。

 地下の研究所は、どこか近未来的な作りになっており厨二心を擽られるが、今は置いておこう。



「…確か、この辺に……」



 所内無線の位置を探していると、エレベーター近くの研究室の自動ドアが開き中から初老の男性が現れた。

 白衣を着ている初老の男性はどこか紳士的な雰囲気を醸し出しており、柔らかい印象を持たせる。



「ちょうど良かった。無線で呼ぼうと思ってたんです。笠原(かさはら)さん」


「所長代理。どうしたんです?…後ろに居るのは学友さんですかね?」


「ええ。少しここを案内ーーいや紹介したくて。僕は研究資料や研究で作ったモノを保管庫から取ってくるので、僕の研究室まで案内してもらってもいいですか?」


「構いませんとも。少し行き詰まっておりましてな。気分転換には丁度いい」



 人のいい笑みを浮かべて、笠原さんは了承してくれた。

 この人は、祖母の親友であり、右腕とも言える存在。

 僕が産まれる前から、祖母のハチャメチャな生活に付き合ってた人でもある。



 聖人もびっくりなくらい人当たりがよく、祖母の傍迷惑な行動も笑って許している。

 偶に自分も参加しているのを見るので、案外息があっているのかもしれない。

 祖父は早くに亡くなっており、僕にとっては祖父でありもう一人の家族にも近しい存在だ。



「それじゃあ、よろしくお願いします」


「分かりました。ゆっくりでいいのでお気を付けて」



 僕は笠原さんにみんなを任せて、保管庫に急いだ。

 道中、研究員の方々と少し世間話をしてしまったが、特に問題は起こっていなただろう。

 ……多分。


 -----------


 英人が保管庫に行くと言って走り出したあと、私たちは笠原?さんに続いて英人の研究室を目指していた。

 …私、何となく思うんだけど、英人って普通に天才の部類に入るんじゃないかな?

 私も良く音楽の神に愛された天才ピアニストって言われるけど、英人の方が神様に愛されてる気がする。



 …ううん、違うな英人の場合夏先生に愛されてるのかな。



「ねぇ、笠原さん?英人って研究所(ここ)ではどんな感じなの?」


「所長代理ですか?そーですね、恐らく皆さんと居る時と変わりませんよ。所長に振り回されて、色々な面倒事に巻き込まれてます。まぁ、殆ど何とか解決していますが」


「それって、英人っち一人でですか?」


「いえいえ、流石に私たちも手伝ってますよ。ただ……彼は正義感と言うか…そう言うのが強いので一人で解決したがりますね。結局、手の負えない時は迷わず頼ってくれますけどね」



 ハハハと笑う笠原さんは、どこか嬉しそうだ。

 …そう言えば、夏先生の旦那さんって……

 それに、英人の親御さんも……

 見た事がない。



 何か事情があるのだろう。

 話したくなったら、きっと言ってくれる。

 そんな事を考えていると、いつの間にか研究室に着いていた。

 中は、廊下と同じで、どこか近未来を思わせる不思議な雰囲気がある。



 室内の機械はどれも見た事がないモノばかりで、興味を唆られる。

 触って見たい!

 私が手を伸ばそうとした瞬間、ガシッと笠原さんに手を掴まれた。



「ダメだよ、あまり勝手に触っちゃ。ここにあるモノが幾ら安全な部類に入るとしても、万が一が起こり得る」


「……はぁーい」



 私は、渋々触るのを諦めて英人が来るのを待った。

 笠原さんが室内を出て五分程経っただろうか。

 資料らしき紙束や見た事のない薬や機械が、山のように入った段ボールを持った英人が室内に入って来た。



 私は紙束より先に、薬や機械に飛びついた。

 手に取りながら、薬や機械を見る私に英人は呆れながらも笑った。



「ルエルさんは食い付きがいいね。…取り敢えず、色々話していこっか」


「じゃあ!じゃあ!これ何?私メッチャクチャ気になる!」


「あぁ、そのカプセル剤ね。……性転換薬、効果は服用から一週間。特殊な水を飲む事で効果を消す事が可能。分かり易く言うと、ざっとこんな感じかな?」



 性転換薬?

 …文字だけで判断するなら、性別を変えちゃうお薬って事だよね。

 それって、凄くない?

 世紀の大発明じゃない?

 て言うか、これを英人が作ったの?



 やっぱり、私より天才でしょ。

 と言うか、天才の中の天才と言っても全然過言じゃないでしょ?



「これ、英人が作ったんだよな?…実験はどうしたんだ?」


「勿論やったよ。……自分の体で」


「じ、人体実験したんですか?!自分の体で!?」


「だって、実験して成功しなきゃ、薬としての効果を検証できないし。机上の空論やシミュレーションじゃあ、分からない部分も分かるかもしれない。副作用だって、実際に体験しないとどれくらい辛いかも分からないでしょ?」



 ……思ってたより驚いてるかも、私。

 まさか、自分の体で実験してるなんて……

 でも、ちょっと待って……人体実験って犯罪なんじゃあ…。



 私と同じ事を思ったのか、百合ちゃんがみんなを代弁するように言った。



「ちょい待ち英人っち。…それって、バリバリ犯罪なんじゃ」


「何言ってるの百合さん。……バレなきゃ大丈夫なんだよ?知らなかったの?」


「黒い!黒すぎるよ!何時もの笑顔が物凄く黒く見えるよ英人っち!!」


「と言うのは冗談で。本当は政府の方から許可を貰ってるんだ。おばあちゃんのコネでね。この研究所内だったら、どんな犯罪紛いの行為をしても黙認される。……まぁ、基本的にここでの人体実験は僕が買って出てるから、被害者は今のところ笠原さんぐらいしか居ないよ」



 …今、隠れて凄いこと言わなかった?

 ここでの人体実験の全てを買って出てるって言わなかった?

 英人大丈夫なの?

 多分、常人じゃなくても死んじゃうレベルの実験も含まれてる気がするんだけど?!



「心配しないでいいよ?僕、ある一件以来薬物の人体実験はやってないから」


「ある一件、なんでござるか?」


「私も気になるところだな」


「俺もだ、ここまで話したんだから、話さないって事はないんだろ?」


「わ、私も、失礼ながら気になってしまいます」



 …やっぱりかぁ。

 みんな、気になる所は一緒だよね。

 私だって、メッチャクチャ気になる。

 多分、教えて貰えなかったら気になり過ぎて、夜しか眠れなくなっちゃう!



「…ここの設備って凄くいいんだ。薬物の研究もしてるからバイオハザードが起こっても良いように、完全防御壁なんてのも設置されてる」


『その程度なら想像がつく』


「…僕、そんなの使う機会なんてないって思ってたんだ。ほんの数ヶ月前まで……」


「……あったってこと?」


「そう言う事。…ある日、おばあちゃんが唐突に、某ゾンビゲーに出てくるヤベーイウィルスを作りたいって言って作り出したんだ。完成出来ない筈はなくてさ、最後は実験をして終了ってなった。…ここまで言えば分かるでしょ?僕が実験をやる事を買って出た。笠原さんもいい歳だしね、他の研究員の方はあまりやった事がなかったから、消去法で僕しか残らなかったんだ」



 …あれ、私、オチが何となく想像出来てきた。

 これ、あれでしょ。

 夏先生が実験に成功した所為で英人をゾンビにしちゃって、それを機にやらせなくなったって事でしょ?

 へっへーん!

 このくらいだったら私でもーー



「けどさ、驚く事にヤベーイウィルスを注入されても僕はゾンビにならなかったんだ」


『…………はっ?!』



 全員が目を見開いた。

 あの新人君でさえ、口をあんぐりと開けていた。

 彼は、私の想像の斜め上を通り越して、駆け上がって行ったのだ。



「詳しく調べると、僕の体の中に自然とウィルスの抗体が作られていたんだ。なんの前触れも無く、勝手に。……それ以外にも、あらゆる感染症や致死性の病気に耐性や抗体が出来ていたんだ。それで?おばあちゃんに英くんじゃ実験にならないよ〜!って言って僕は薬物投与の実験が出来なくなったんだ」


「ぷっ、はははは!やっぱり英人って面白いね!!想像をぴょんぴょん飛び越えて行くんだもん」


「ルエルは色々と不謹慎だが、俺も英人の凄さや面白さを実感したな」


『お前は面白い、興味が尽きないな』



 他のみんなも笑っていた。

 可笑しい話なのに、恐ろしい話なのに。

 信濃川英人と言う人間には、それさえも笑い話に変えられるモノがあった。



 ……ここに居るみんなとだったら、私は本当の私を出していいのかもしれない。

 私の音楽を笑わないで聞いてくれるかもしれない。

 その時が来たら、信じても……良いよね?

 次回もお楽しみに!


 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!


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