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panic8「Q.高校生なのに、中学数学が出来ないのは問題ですか?  A.もう一度、中学生をやり直した方が良いかもしれないな…」

 放置約五ヶ月記念。

 ぼちぼち再開していくので、生あたたかい目で見守って下さい。

『勉強会スタート!』


『おー!』


『お、おー!』



 ルエルさんと百合さんが声高らかに勉強会のスタートを宣言すると、それに乗っかるように勇人と神谷君が声を上げる。

 それ以外のメンバーは、若干遅れながらも乗っかった。

 約一名、無言のままだが……



 いや、無言と言うより、蓮さんの家(ここ)に居ない者が一名。

 言わずもがな、新人君である。

 五月十八日の今日、二日後に迫る中間考査に備えて勉強会を蓮さんの家でやることになって、午前九時に現地集合ーーだったのだが……



 何と、新人君は僕の家のポストにタブレットを入れて帰宅。

 持って行ってくれるとだけメールを寄越した。

 僕を便利な奴と勘違いしているんだったら辞めて欲しい。

 ……いや、まぁ、持ってくけどさ。



『何故そんなに暗い顔をしているんだ?お前はこう言った、普通の友達付き合いは大好きだろ?』


「…どこが?侍女さんが何人も居る武家屋敷。大き過ぎる客間。八人…いや七人の個性豊かな友人たち。タブレットのテレビ電話でこっちの様子を観察しながら、合成音声で喋りかけてくる引きこもり。これでも、普通の友達付き合いで開かれる勉強会に見える?」


『…違うな』



 最早肉声にしか聞こえないほどクオリティの高い合成音声が、タブレットのスピーカーから響く。

 多分、プログラムとか自分でやったんだと思うけど、どうやったらこんなのが出来るの?



「お二人は余裕そうでござるな?」


「まあね…。どうせ、おばあちゃんの所為でまともに勉強なんて出来ないと思ってたから、コツコツ暇な時間でやってたんだ」


「流石は英人!その頭を見込んでーー」


「いや、手伝わないよ?…出来るだけ自分の力でやらないと意味が無いし」



 僕の無慈悲な宣告が勇人の顔を真っ青にした。

 その間にも、明夫君と神谷君はしっかり勉強している。

 ……以外だ。

 てっきり、神谷君も勉強って苦手そうな感じしたけど、スラスラ問題集解いてるや。



 体育会系な感じがしたけど、全然違うみたい。

 …それに比べて、我が親友は……



「…英人、それにくらいにしてやれ。勇人が可哀想だ」


「だね。…悪かったよ勇人。ちゃんと教えるから、先ずは自分で解いてみて?」


「英人~!」



 高校生にもなって、泣いて鼻水垂らしながら友人に抱き着くのは不味い気がするよ…勇人。

 僕たちのコントの様子を見ていたのか、ルエルさんと百合さんは爆笑している。

 逆に、朝日さんと美海さんは苦笑い気味にこちらを見ていた。



 …そろそろ真面目に勉強するか。



(よし、最初は数学から!)



 僕は学校に持って行っているのと同じバックから、数学のワークとノートを取り出して勉強をスタートさせる。

 書かれている数式にざっと目を通して、スラスラと答えを書いていく。

 私立高校故に、公立高校より難しいワークではあるが、解けない程ではない。



 答えを書くシャーペンがワークの上でダンスを踊るように、問題は呆気なく解かれていく。

 その場に居た人物の殆どが、僕の事を見ていた。

 なんで?

 ただ、問題を解いていただけなんだけど…



「英人?一つ聞いていいか?」


「ど、どうしたの蓮さん」


「今やっている数学のワーク。何ページ目だ?」


「えっと、まだ始めたばかりだから五ページ目かな。それが?」


「凄いですね。私や朝日さんはまだ3ページ目ですよ?英人君が始める前からやっているのに」


「…私も、ようやく四ページ目だ」



 何が言いたいのか、この辺りでようやく分かってきた。

「おめぇ、早すぎんだよ!」って感じかな?

 …しょうがないでしょ、前からちょこちょこやっててやり方分かるんだから。



 補足すると、先程も言ったようにワークの問題は少し難しい。

 基本が出来なきゃ、先ず解くことができないし。

 基本が出来ても、応用する頭の柔らかさがなきゃ答えまで辿り着けない。

 つまり…しっかりと勉強している人でも、解くのには時間が掛かるのだ。



「みんな、勘違いしてるかもだけど。僕はそんなに頭良くないからね?これが出来るのは、コツコツやってたからであってーー」


「そんなのどうでもいい!重要な事じゃない!」



 いきなり大声で僕の言葉をかき消したのはルエルさん。

 机に顔を伏せたまま叫んでいた。

 もしかしたら、余計なことをやってしまったのかもしれない…

 急いで、ルエルさんの顔を上げようと机に身を乗り出して、肩を叩こうとするとーー



「私にも、勉強教えて!」


「……へっ?」



 今にも泣きそうな顔で懇願された。

 ……ズビーズビーと鼻を鳴らしているあたり、泣きかけているのだろう。

 話を聞くと、これまで音楽一筋で生きていたため勉強は二の次三の次だったらしく、全く持って問題の理解が出来ないらしい。



 その理解力の低さは、勇人と比べても月とすっぽんレベルで差がある。

 勇人の頭の良さは中の下と言った所だが、ルエルさんは下の下を通り越して地面にめり込んでいる。



 一応、中学一年で習うレベルの簡単な問題を出してみた……



「X+4=7。この式のXに入る数字は?」


「…むむむ、うむむむむ、ふぅううう」



 何とか理解して解こうとしているのか、唸る事数分。

 限界点を超えたのか「ボン!」と音を立てて、ルエルさんは後ろに倒れた。

 顔を真っ赤で、目はぐるぐると回っている。

 …アニメでしか起こりえない現象だと思ったけど、案外現実でも起こるらしい。



「…英人さん。どうしましょうか?」


「テストまで二日ある。…赤点回避ぐらいまでならいける……かな」


『…後で、お前のパソコンに簡単な問題集を送っておいてやる』


「ありがと、助かるよ」



 基本人に関心がない新人君にも同情させるなんて……

 ルエルさん、恐ろしい子!!(別の意味で)



 結局、その日一日はルエルさんと勇人への簡易授業で終わった。


 -----------


 時刻は夕暮れ時、みんなが帰ろうと準備を始めると、英人が待ったを掛けた。

 何か言いたいことがあるのだろう、少し気難しそうな顔でこう言った。



「無人島で、おばあちゃんが銃を持ってた理由を教えたい」



 美海達から聞いていたが、本当の事だったのか……

 私は不思議と驚いてなかった。

 家にも真剣は有るし、私だって所有している。



「…どんな理由なんだ?」


「だね。私も夏っち先生が(あんなの)持ってる理由気になる」


「拙者も同感でござる」


「私も少し……」


「理由があるなら、はっきりさせるのは良い事だと思います」


「美海の言う通りだな。俺だって、気にならない訳はない」


『興味を引かれるか引かれないかで言われたら……引かれるな』


「早めにゲロっちゃった方が楽なんじゃない?」


「あの事を話すのが辛いならーー」


「大丈夫。ありがとね勇人」



 みんながみんな、気になっている。

 …勇人は理由を知っているみたいだな。

 短くはない付き合いだったと言っていたし、聞いていても不思議ではないか…



 私としては、英人が嫌なら…辛いことを思い出すくらいなら、話さなくても良いと思うが……

 でも、今後夏先生を本当の意味で信じる為には、理由を知る事は必要不可欠。

 誰もが心配そうに見つめる中、一人美海だけが怪訝な視線を英人向けていた。



(美海……?)


「僕が小学校低学年くらいの頃、アフリカのある発展途上国に行ったんだ。そこでは、政府軍と反政府軍の紛争が絶えなくて、おばあちゃんは戦争に巻き込まれた病人や怪我人を助けるためにそこに向かったんだ」


「……まて、夏先生は医学にも心得があるのか?」


「あぁ、言ってなかったっけ?おばあちゃんは、医者、政治家、科学者、教師、建築家、etc……。挙げていったらキリがないほど、専門的な知識と技術を持ってるんだよ。元々、本職は科学者だしね。……でも、専門知識もその方面の方々を圧倒するレベルであるよ」



 改めて聞くと、夏先生がどれだけ凄い人物が想像がつくな。

 数えたらキリがないほどの専門知識と技術をその身一つに修めているとは、敬意を表さずにはいられない。



「…とと。話が逸れちゃったね。…ええと、話を戻すと、おばあちゃんが仕事中僕は暇だったんだ。だから、おばあちゃんに何も言わず散歩に出た。…そこで、一人の男の子と出会ったんだ。体中ところどころ怪我しててさ、おばあちゃんがやってたのを見様見真似でやって応急処置したんだ」


「…被害者…か」


「うん。言葉が分からないけど、その子が何かを怖がっているのが分かってさ。一緒に居てあげたんだ。…そしたら、武器を持った軍人が僕たち居た部屋に入って来てーー男の子を殺したんだ。何でも、後々知ったんだけどその子の家は反政府軍に属していたんだって、だから殺した。何の慈悲も、躊躇もなく」


「酷い…です」


「それで、その子を匿っていた僕も殺されそうになってね。もうダメだって思った時、おばあちゃんが助けてくれたんだ。素手て銃を持った軍人たちを全員倒して、僕を助けてくれた。…その一件以来、おばあちゃんは常に銃を隠し持ってる」



 紛争地域では有り得ないと言えない、惨い話だった。

 無関係とは言えないが、子供を躊躇なく殺すなんて…。

 理解が出来ないし、理解したくもない。

 人が持つべき道徳を全く持ってない者の行動としか思えなかった。



(だが、私たちがそう言えるのは平和な日本居るから…)


「なるほど、事情は分かった」


「私も、なんとなくは…」



 私と朝日に続いて、他の者たちも悪くない返事をした。

 みんな、ちゃんと英人を慮ってくれているのだろう。

 可笑しなクラスではあるが、不思議と本当に悪い奴は居ないクラスだ。



「…さて、テストは明後日。明日も頑張ろう!」


『おおー!』



 中間考査が迫ったその日、私たちの仲は少し深まった。

 一学期も折り返しに差し掛かろうとするこの頃、バラバラに見えたこのクラスは少しづつ和を築いている。

 本当の自分たちを出し会える日は、案外遠くないのかもしれない。

 次回もお楽しみに!


 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!


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