panic7「Q.担任の先生が――を持ってるのはありです? A.ええと、なしだと思います。」
お待たせしました!
無人島旅行も三日目。
二日目は特に何かが起こることはなく終わったのだが、今日は朝から祖母が美海さん・ルエルさん・百合さん・明夫君・勇人を連れて島の探検に行った。
いや、行ってしまったと言うべきだろう。
何故なら――
「なーんで、地図を忘れるどころか破って行ったんですかね」
「さぁ、それは俺たちにも分からん」
「でも、大丈夫じゃないでしょうか?」
「だな、夏先生はしっかりしている」
『結局、用心するにこしたことはない』
朝日さんと蓮さんが庇っているが、新人君の正論過ぎる意見で場が沈む。
まぁ、何とかなるだろう、とこの時の僕は甘く考えていた。
その考えがいつも壊されているのを忘れているかのように。
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あれから数時間、お昼を過ぎた辺り。
お昼ご飯は昨日の内に採っておいた果物や、先程釣った魚を焼いて食べたのだが……。
遅い、明らかに遅い。
幾ら探検に出たとはいえ、流石の祖母でもお昼を過ぎた辺りで一旦中断するだろうと思っていた。
一応、食料の数を確認したが全くもって減っていなかったのだ。
減っていたのは水くらいのもの。
となれば、祖母たちは今現在、水以外何も食べないまま結構な炎天下の中で密林を探検していることになる。
嫌な予感がしてきた。
だけど、迂闊に探しに行くわけにはいかない。
入れ違いになるだけなら良いが、僕が帰ってくるのが遅くなればここに居る神谷君たちも密林に探しに来かねない。
その為、動くに動けないという訳だ。
あれ、確かそう言えば……。
そうだ!
すっかり存在を忘れれいたが、新人君ならみんなのスマホのGPSから現在地を調べられるかもしれない。
善は急げ!
「ねぇ、新人君。みんなの――」
『無理だ』
僕が何かを言う前に遮った。
いやいや、なんでさ。
もう一度聞きなおす為に、驚いて閉じてしまった口を開けた。
「ええと、みんなの――」
『お前の祖母がGPSの方に細工して、パスワードを変えられてる。現在地の調べようがない』
「誠に申し訳ございませんでした」
土下座をする日が来るとは思わかった。
すいません、家の祖母が迷惑かけてホントすいません。
……でも、本当にどうしよう。
あっ!?
GPSを切っただけなら、電話は出来るんじゃ……
急いで、電話を掛ける。
こういう時は、真面目な美海さんにしよう。
祖母は面倒くさい言い訳をされる気がするのでパス。
ルエルさんに百合さん、勇人と明夫君は多分祖母を庇うのでパス。
消去法的に連絡を取ってまともに帰って来そうなのが美海さん。
コール音が二回目に入ったところで、美海さんが電話に出た。
それも、酷く焦った様子で。
『英人君ですか?!急いで助けに来てください!』
『ちょちょ?いきなりどうしたの?』
『今密林の中で迷子状態なんです!それに加えて、食料も無くて……』
……どうせこうなるだろうとは思った。
何で僕はあの時あんな甘い考えを持っていたのだろうか……
頭を抱えながら、美海さんい周りの状況を伝えて貰う。
出来る限り詳細な情報があれば、僕が救出に行くのも簡単に済む。
『何か目印になりそうなものってあるかな?』
『目印…目印……あっ!近くに広い池があります。あと、池の真ん中には変なオブジェみたいな岩が』
『了解!場所は分かったから、そこを動かないでね?』
『言われなくても、動こうにも動けませんよ』
その後プツンと電話は切られた。
マイクにして話していたので、周りのみんなにも聞こえている。
取りあえず、面倒ごとは避けたいので行くのは僕だけで他のみんなにはここに残ってもらおう。
場所は、一日目に行った洞窟の近くなのだが、美海さんたちが居る場所は普通は行くことが出来ない。
だって、そこに行くには密林の中でも、視界が他の場所より悪い上に地面が常時ぬかるんでて足を取られるのだ。
常人ならまず、行きたいとすら思わないだろう。
常人なら……ね。
「ごめん、みんなにはここで残っていてもらいたいんだけど?いいかな」
「良いぞ、俺たちが行ってもなんか出来る訳じゃねえしな」
「ああ、英人に任せる」
「が、頑張ってください英人君」
『サポートくらいはしてやる』
「ありがと新人君。それじゃあ行ってくるよ」
ピンク色の錠剤を一つと、水色の錠剤一つを持って駆け出す。
それとは別で、もう一錠づつを行きながら飲む。
今日の夜も、祖母への説教が確定した瞬間である。
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英人君から電話が来てから五分程。
夏先生に対する怒りと、暑さによるイライラで頭がパンクしそうだった。
英人はまだ来ないのかと、無関係と言っても良い彼にキレ始めるまで私の脳は臨界点に達していたのだ。
それに加えて、今の状況は最悪。
迷子?遭難?どうでもいい。
今目の前で起こっている問題に比べれば……。
今私たちの目の前に居るのは、映画でしか見たことのない――拳銃を構えた夏先生が居た。
「ふぅ……、もしもの時はこれでどうにかすればいいか」
「夏……先生?」
「夏さん、しまえよ。止めろって言われたんだろ?」
「夏っち先生、なんでそんなの」
「夏先生!如何したんでござるか?!」
みんなが叫ぶ中、私は少し納得していた。
いつもお茶らけているようで、多分相当計算づくの人だ。
信濃川夏という人間は……。
私に似ているようで、少し違うな。
きっと私は、あの人より歪んでいる。
誰にでも好かれないと気が済まないなど、歪んでいる証拠でしかない。
緊張の状態が続く中、ようやく英人は現れた。
……この時、私だけが思ってたであろう言葉。
それは、遅いぞ英人だ。
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目の前で拳銃をくるくると手で遊ばせている祖母には目もくれず、僕はクラスメイトととの帰還を優先した。
今回の無人島旅行で起こった事件はこれが最後だった。
これ以外は特に何もなく、五月一日の帰宅の日まで過ごした。
だが、みんなと祖母の間には少し溝が出来ていたようだ。
まぁ、普通あんなのを見せられれば誰だって距離を置く。
置かないのは、僕や勇人のようにそれを持つ理由や経緯を知っている者だけだ。
次の日からは、ゴールデンウィーク返上で授業が行われたが極々普通のものだった。
そして、あれよあれよと時が過ぎ、五月十八日。
中間考査二日前まで迫っていた
焦る者も居る中その日、蓮さんの家で勉強会が行われることに。
これが吉とでるか凶となるか、あやふやなまま時は進んで行く。
僕たちは三歩下がってからようやく二歩進むことが出来た。
普通の学校生活、いや学生生活に。
次回もお楽しみに!
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