panic6「Q.無人島旅行で猛獣遭遇イベントはありですか? A.出来るなら、金輪際起こらないでほしいな…」
遅れてすいません!
本編をどうぞ…
「花島さん、後何分くらいで着きそうですか?」
「そうだな~、後十分弱かな。もうそろそろ、寝てる子たちを起こしておいてくれ英人君」
朗らかな顔で僕の質問に返すのは、御年六八歳の花島さん。
祖母の友人の一人であり、スカイダイビングの時の航空機の操縦士でもある。
今回の無人島旅行でも、祖母が借りたチャーター機の操縦士もやってくれている大変懐が広いおじさん。
僕とも何度か面識があり、両親の居ない僕のことを孫のように扱ってくれる人の一人だ。
……花島さん以外にも大勢いるけど。
なにはともあれ、四月二七日の土曜日の朝一一時。
夜中の三時半に集合し、ここまで来た。
約七時間半のフライトである。
目的地は赤道付近にあり、比較的日本からも近い位置にある無人島。
近いと言っても、それ相応の距離があるけど…。
その島の名前は「愛Love英君」。
所有者は勿論僕の祖母である信濃川夏。
十二歳の誕生日に貰ったモノ?で、僕はその島に三日間置き去りにされたこともある。
置いていった理由が「誕生日プレゼントで遊んでほしかった」、とのこと。
流石に責めるに責めきれず、僕がグッと堪えることでその時はどうにかなった。
だが、今回は訳が違うのでもしもの場合は本気で対処しなければいけない。
運が良いのか、あの島に毒を持つ動物や居ないし、食虫植物などの危険な植物も存在しない。
猛獣も今の所確認出来てはいない、と言っていたが油断はできない。
今後の展開は、僕自身も予想出来てはいないのだ。
念のために前回のスゴロクでもらった錠剤は持って来てるし、護身用のサバイバルナイフもある。
……勘違いしないでほしいが、あくまで護身用だ。
基本的には料理で使ったり、木を切ったりするのに使うつもりで決して如何わしい理由はない!
本当だよ?
「分かりました、みんなにそう伝えてきます」
「ああ、頼んだよ」
僕たちは今日も普通の学校生活を送れない。
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操縦室から席の方に戻り、全員を纏めて起こしていく。
目覚めが悪い人が若干名居るかもしれないが、仕方がない。
蓮さんと明夫君に加えて、百合さんと新人君は起きている。
蓮さんは朝の稽古があるためいつも朝早いのだろう。
明夫君と新人君、百合さんは単に寝不足に強いだけだ。
それ以外の人はまだ夢の中なので、起こしていく。
席は二列で前列に四席、後列に六席。
前列左側から僕・勇人・美海さん・ルエルさん、後列は神谷君・新人君・明夫君・百合さん・蓮さん・朝日さんの順だ。
因みに、このチャーター機は非常に小さい為、席が二列しかないので祖母は操縦室に居る。
今こう思っただろう?
「さっきの花島さんとの会話に参加してないじゃん!」、と。
ああ、そうとも参加していないさ。
なんせ、祖母はヘッドホンしながらアイマスク着けて爆睡してたからね。
僕たちの会話でも起きることはない。
なぁに、祖母の目覚めは悪くないし、僕がひと声かければすぐ起きる。
掛けてあったマイクを片手に取り、みんなに声を掛ける。
「あー、皆さん。そろそろ無人島ですので、起きていない方は起きて着陸準備に入ってください。と言うか、飛び降りるのでその準備に入ってください」
『ハァっ!?』
僕の言った最後の一言で完全に目が覚めたのか、みんなが大声を上げた。
数名上げていない者も居るが、まぁ慣れてきた証だろう。
こんな状況に慣れてしまっている自分が恨めしいが、言っていても始まらないので既に諦めた。
さぁて、僕も準備するかぁ!!
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諸々のことはバッサリカットし、島に上陸した。
現在地は島の外側の浜辺。
女子も男子も下に水着を着てきたため、今は着替え中だ。
僕たち男子はすぐに着替え終わったので、雑談をしながら待つ。
その間に、みんなが何を持って来ているかを確認した。
「明夫君はキャンプ道具一式か……ゆ○キャンでも一気見した?」
「そうでござる!拙者もやりたくなってしまい、衝動的に買ったでござるよ」
「勇人に神谷君は日曜大工の工具箱に釣道具か……二人が居て良かった」
「よせよ、別に親父のを借りて来ただけだし」
「俺の方も、ダチが好きでな。偶にやるんだ」
明夫君がキャンプ道具一式に、勇人が日曜大工の工具箱で神谷君が釣道具。
最後に新人君は……
『ノートパソコン・ポケットWi-Fi・バッテリー・充電器と充電ケーブル」
「ポケットWi-Fi!?そんなのここで使えな――」
『お前の祖母が作ったやつ』
「それなら使えるからいいか……いやでも、それで何するの?」
『迷子用。この島全域にWi-Fiが飛ぶらしいから、その辺も問題ない』
なるほど、さっきまでなんか小型の機械を弄ってたのはその為か。
一応だけど、ここに居るみんなは基本的にみんな海パンでチョイチョイ柄が違う程度だ。
僕は夕日が描かれたもので、勇人が迷彩。
神谷君は豹柄で明夫君がアニメキャラが沢山描かれたもの、最後に新人君はシンプルな黒。
神谷君と勇人は上は何も着ていないけど、僕と他二人はラッシュパーカーと言う物を着ている。
分かり易く言うなら、水に濡れても問題ないパーカーだ。
「お待たせ~、中々蓮ちゃんが出て来たがらなくてさ~」
「お疲れルエルさん」
女子軍団の登場。
ルエルさんは、彼女自身の活発さを表すようなオレンジのビキニ。
胸に持っている大きなものの所為で、適度に揺れる為目に悪い。
続いて美海さん、落ち着きのある黒のビキニでルエルさんとは対照的だ。
……胸も対照的に見え――
「英人君?何か失礼なことを想像しませんでしたか?」
「いいや、特には。……その水着素敵ですね」
「そうですか……。すいません勘違いでした」
危ない…危うくこの世ら消されるところだった。
社会的に……。
取りあえず続こう、三人目は百合さん花が描かれたでチェック柄のパレオビキニ、恐らく自分の名前にもある百合の花を使っているのか、彼女に似合っている。
やはり胸は――
「英人っち?失礼なこと考えてない?」
「全然ないです。それより、水着似合ってますね!」
「ふ~ん、まぁいっか。褒めてくれてありがとね~」
……そろそろ、学習することを覚えた方が良いのかもしれない。
四人目は朝日さん、ワンピースタイプで水玉模様の水着だ。
何と言うか……素朴な可愛らしさがある。
最後に出てきたのは蓮さん……色々危なそうなスポーツビキニ。
布の面積は明らかに狭く、このクラスで二番目の果実が零れ落ちそう……。
ルエルさんより目に毒だ。
何か手を打たないと、不味いことになるかもしれないが……このクラスに限ってそれはないだろう。
「はーい!全員揃ったね。まずは持ち物確認!服以外で持って来た物を出してー」
女子組が持って来た物も、案外変わらない――と、思ったけど全然違う。
蓮さんは日本刀で、ルエルさんは鍵盤ハーモニカ(催眠の方じゃない)だし、百合さんはタブレット。
この三人が少し可笑しいだけで、他の二人はまともだ。
朝日さんは、みんなで食べられるように作って来たクッキーと市販のお菓子数種。
美海さんは、ある程度の食料と調理器具や調味料。
「ふむふむ……これとこれはポイッ!」
「ちょっ、夏先生!いきなりなにを!?」
「そ、そうですよ。流石に酷いです!」
流石の美海さんや朝日さんも声を荒げている。
普通は誰でも、こんなことをやられたら怒るだろうし、この程度で済んでるならまだ善い方。
しかも、捨てられたのは二人が持って来た食料系。
辛うじて飲料水は残っているが、明らかに十一人が飲んで五日間もつ量じゃない。
赤道近くの所為で炎天下に等しい気温に湿度、太陽の焦がすような日光とサバゲーでも見たジャングルに近い密林。
この現状で、食料を捨てるという行為がどれだけふざけてるかと言うと。
夫が出産中の嫁をほっぽってキャバクラに行くぐらいふざけてる。
例えが意味不明だったら悪いが、それくらいふざけてるのだ。
……当の本人は、
「ふぅ~、だって無人島旅行なんだからサバイバルしなきゃ!楽しもうよ~」
この言いっぷりである。
ここまでくると、呆れを通り越して尊敬も通り越して、怒りが湧いてくる始末。
イライラが収まり着きそうになかったので、いつの間にか白のビキニ着替えた祖母の頬を思いっきり引っ張っといた。
「にゃにするのえいふぅん!」
「自分の胸に手を当てて、よ~く考えると良いんじゃないかな~」
「……英人殿は怒らせると怖いでござるな」
「みたいですね……。はぁ、朝日さんも私も先生を怒る必要はなさそうですね」
「英人君にお礼しないとな……あのクッキー隠しとけば良かったかな……」
その後、密林の中に入って木の実やらを探すチームと釣り&家作りをするチームに分かれた。
女子組は基本的に遊んで貰い、男子に力仕事を任せる。
料理などは女子が主に作ることになった。
密林探索チームは僕と勇人、その他は釣り&家作りチーム。
女子も手伝える者は手伝って欲しいと伝えるのと細々な準備を済ませて、僕と勇人は密林の中に入っていった。
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念には念を入れて、スマホのWi-Fiをオンにしておく。
スマホにパスワードを打ち込み、無事にWi-Fiを使えるようになった。
これで、もし迷ってもみんなと連絡は取れる。
パスワードの書かれた紙を貰っていて正解だ。
スマホを上着のポケットにしまい、反対側のポケットから昨日の内に探しておいたこの島の簡易地図を取り出す。
全員に配っている余裕がなかったため渡せなかったが、もしもの時はこれを写真で取って貰えば済む話。
こうやって、僕が今後の行動について考え耽っていると、後ろから少し大きめの黒いリュックサックを背負った勇人が話しかけてくる。
「なぁ、英人?俺たちは今どこに向かってるんだ?」
「そう言えば言ってなかったね。今は緊急避難場所に向かってるよ、少し遠いけど」
「少しってどれくらいだ?」
「う~ん十分くらいかな。半分切ったら荷物持ち交換するよ」
「サンキュー!これ何入ってるか分かんないけどスゲェ重くて辛かったんだよ」
その後も少し駄弁りながら進み、ようやく緊急避難場所が見えてきた。
緊急避難場所を言えば聞こえは悪いが、本当はただのツリーハウスで僕が作ったもの。
実際は、花島さんに手伝って貰ったりしたが大部分は自分で作った。
ここら辺で、変に一部分だけ木が少ないが、それはツリーハウスの材料になったから。
あまり大きくはないが、案外本格的で柱もしっかりしてるし簡単には崩れない。
だって既にこれを建ててから二年も経っているのだから、実績というか証明は出来る。
中の広さは十畳ほどで、家具は小さめの机に椅子があるくらいだ。
勇人は驚いているのか、目をパチパチさせてツリーハウスをじっと見つめていた。
三〇秒程で元の勇人に戻り、中に入る。
勇人が入ったのを確認し、扉を閉めて背負っていたリュックを降ろす。
リュックには、クーラーボックスが入っている。
これに対しても驚く勇人だが、今度は首を横に振って数瞬の内に元に戻った。
「これ、中に何が入ってるんだ?」
「これ?食料だよ、おばあちゃんがああいう行動取るのは何となく想像はついてたしね。朝日さんや美海さんには悪いことしたけど、こうでもしないと守り通せそうになかったからさ」
「やっぱり、孫ってだけはあるな」
「よし!食料はここに置いていこう。基本的な食料は釣りや木の実で、本当に不味くなったらここの食料に手をつけるってことで」
「りょーかい!ここのことは夏さんには内緒にするんだろ?」
理解の良い親友のお陰で心が晴れやかな気分になり、気持ち良く頷いた。
ここに長居するのも面倒なので、勇人を連れて外に出る。
「帰りがてらに、木の実を採っていこう。場所はこれに描いてあるし」
そう言って勇人に地図を見せながら、僕たちは元の浜辺の方に戻っていった。
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時刻は午後九時を過ぎた辺りだろうか、辺りは薄暗いし虫の鳴き声がして少し煩く感じる。
現在地点は、島の中央辺りにある洞窟の前。
この時間までは、みんなで遊んだり家を作ったり、釣りしたりご飯を作ったりと案外濃密な時間を過ごした。
何でも、ここの洞窟で肝試しをやるらしい。
ルールは洞窟の端に居る夏っちに会って、握手をする。
洞窟はどれだけ足が遅い人が歩いても、片道三〇分程度だとか……
正直凄くワクワクするので、早く行きたい。
組み合わせは私・神谷っち・明夫っちと蓮っち・朝日っち・新人っち、最後に英人っち・勇人っち・美海っち・ルエルっちというもの。
行く順番もこのまま。
「英人っちもういい~~!!」
「うん、おばあちゃんも洞窟の奥に着いたって。行っても大丈夫だよ。三分したら蓮さんたちで、最後に僕らが行くから」
「分かった。足元には気を付けるよ」
「拙者も行ってくるでござる」
一応捕捉しとくと、一チームに一個懐中電灯がありそれを使って洞窟の奥を目指す。
でも、私が期待していたようなことは何もなく、体感的に十分程歩いて奥まであと半分の所まで着いた。
ぶーたれながら、神谷っちと明夫っちと歩いていると、私の期待していたものとは違う事件が起こった。
目の前に、狼が現れたのだ。
体の大きさは優に一メートル半はあり、小さく開いた口から犬歯が顔を覗かせる。
背筋が凍るような感覚だった。
逃げようとしても足が上手く動かない、唯一動く口で大声を上げた。
それが精一杯で、私は情けなく尻餅をついた。
私が体験してきたどの修羅場とも違う。
今まで体験してきたものも、それぞれに別のベクトルで危険はあったが、これはそれとも違う気がした。
命を狙われていることによって生まれる、人間の本能的恐怖感。
じりじりと迫り寄ってくる狼。
私はそっと、目を閉じた。
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百合さんの悲鳴が聞こえて一分が経過した。
念のために持って来ていた錠剤の内の一つであるピンクの錠剤を飲み、勇人に美海さんとルエルさんを任せた後に走り出した。
既に蓮さんたちのチームは抜かして、もう少しと言う所まで迫っている。
途中で拳大の石を拾い、また走り出す。
奥に光が見えてきたことから、そこに居ると判断しスピードを上げる。
予想通り、尻餅をついた百合さんと狼と睨み合っている神谷君、石を投げて牽制している明夫君が見えた。
「二人とも伏せて!」
「へっ?りょ、了解でござる」
「おう」
伏せたことを確認した後は、思いっきり振りかぶって石を投げた。
石の速度は凄まじく、風を引き裂く様な音を上げながら狼の足元に向かっている。
数秒の間に着弾し、狼は着弾した時の音に驚きすぐさま奥の方に逃げていった。
こういう野生の動物、特に野良犬や狼は大きな音に敏感なので今やったように大きな音たてる方が良い。
そうすれば、相手が勝手に逃げてくれる。
プチ事件は終わったので、みんなを回収しながら洞窟を後にした。
この後、祖母が僕に怒られたのは言うまでもない……
次回もお楽しみに!
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