panic2「Q.自己紹介って難しくない? A.大丈夫!難しいと思ってるのはあなた一人じゃないから」
連・日・投・稿!
もう失踪したりしないんだから!
一年生の教室がある階には、一つだけ空き部屋がある。
その教室は教材の置かれている物置みたいになっていた。
でも、今僕の目の前にある物置だったであろう教室は……先程まで居た教室と大差ない普通の教室になっている。
何だか、ここまでくると祖母の行動力に感心するしかない。
出来るなら、良い年なのでそろそろ控えて欲しいんだけど?
「なぁ、この教室で間違えないんだよな?」
「ああ、その筈だよ。だって1-Dって書いてあるし」
勇人に返事を返しながら、恐る恐るドアを開ける。
そこに居たのは、既に学校でも有名人な八人の生徒。
……僕、ここでやってけるのかな……
-----------
一時間目のチャイムが鳴るのと同時に、教室のドアが勢いよく開けられる。
そして、聞き慣れた声が僕の耳に響いた。
おいおい、そんなことありか。
「ハーイ!皆さんおはようございます、このクラスの担任の信濃川夏で~す」
「いやいや、可笑しいでしょそれは!大体、おばあちゃんは理事長でしょうが」
僕は周りのことを忘れてついついツッコンでしまう。
不味い、みんなに変な目で見られる。
だが、クラスのみんなは僕のツッコミはスル―して祖母の話を待つ。
「はいはい、英君のことは気にしないで授業を始めるよ。一様、初対面の人も多いから自己紹介からよろしくね。まずは勇人っちから」
「うっス」
クラスの座席的には、僕が一番前で勇人がその後ろ。
勇人は僕にサムズアップしながら、黒板の方に向かって行った。
手早く自分の名前を黒板に書き、自己紹介を始めていく。
「浅野勇人って言います。そこに居る英人とは親友で、理事長の夏さんとも知合いです。誕生日は八月八日。趣味はギターを弾くこと。特技もギターかな、これからよろしくお願いします」
みんなは拍手を返す。
ある種の型を使っての自己紹介だった。
火の打ち所の無い完璧な自己紹介だろう。
そして次は、
「柿沢ちゃん、お願い~」
「お任せあれ!」
柿沢と呼ばれた女子が、勇人と入れ替わりで黒板の方に行く。
白い髪はサイドテールにしており、蒼色の瞳と黒いフレームの眼鏡が似合う女の子。
顔面偏差値六〇は固いだろう、身長は一四〇程で胸は……貧にゅ(ry
名前を書いて、話を始める。
「 柿沢 百合。誕生日は九月二七日。趣味は企画考案で特技は電卓の早打ち。一年間よろしく」
簡潔に済ませているが、彼女についてはもっと語るべきことがある。
柿沢百合、一五歳にして大手物流企業であるリリィ・ロジスティクスの社長。
父親も貿易会社を営んでおり、その会社も大手も良いところだ。
その父から一四歳の時に小さい会社を跡継ぎの為に任されたが、彼女の商才は最上級であり。
一年弱で大企業にまで上り詰めた、敏腕社長なのだ。
ねぇ、僕もう帰っていいかな?
「次は佐藤ちゃんだよ~」
「は、はい」
祖母に佐藤と呼ばれた女子も前に出る。
黒髪ショートで黒目の少女。
至ってどこにでもいる普通の女子高生、それが彼女の特徴だ。
顔面偏差値五五と言った感じで、スタイルも中の中。
「佐藤朝日です。誕生日は七月十日。趣味はお菓子作りで特技は……すいませんが特にありません。どうかこれからよろしくお願いします」
彼女を例えると、普通の中の普通。
けれど、普通過ぎるが故にこのクラスに呼ばれたであろう、一番の被害者。
ごめんよ佐藤さん、帰ったら出来る限り僕も祖母に言っておくから。
何とかこのクラスでも強く生きて欲しい。
「まきで行こう、次は神明君だよ」
「拙者ですな、わかりますた」
次は神明と呼ばれた男子が黒板に向かう。
容姿は僕とあまり変わらない感じで違いは眼鏡くらい、しかし彼からは物凄い陰の気を感じる。
「拙者の名は神明明夫。誕生日は十月三〇日。趣味は読書やアニメ鑑賞で、特技は先読みと言ったところですな。一年間、よろしく頼みます」
彼は所謂オタク。
だが、そんじょそこらのオタクとは一味違う。
来季アニメの予想から、グッズ販売の予測。
その悉くを的中させていることから、ネットやクラスではオタク王とも呼ばれているらしい。
何とも個性が濃い人物だ。
あれ、そう言えば神明君の前に僕の自己紹介なんじゃ……
まさか、祖母は僕の自己紹介を最後に持ってこようとしてるんじゃあるまいな!
どうしよう、最後とか少し緊張するんだが。
ハァ、諦めようその時はその時だ。
「ネクストタイムイズ、ミス成山!」
「はい」
神明君の次は成山さん。
綺麗な黒髪はショートボブに、瑠璃色の瞳が特徴的。
身長は一五〇後半あたり、言っちゃ悪いが貧にゅ(ry
顔面偏差値は勇人と同じ余裕のカンストであり。
美少女を自称しても良いほどだ。
「成山美海です。誕生日は十二月二四日。趣味は雑貨屋巡りで特技は裁縫ですかね。一年間、よろしくお願いします」
声も鈴の音のような優しさがあり、この高校に入ってから告白された回数は十回以上。
けど、未だに交際まで至った人は居ないとのこと。
あれが俗に言う高嶺の花だ。
……嘘か真実か分からないが、何でも猫被りらしく本当は腹黒いとかなんとか。
ぶっちゃけ、僕からしたら聖女のように慈悲深い人に見える。
「春凪く~ん、よろしくぅ!」
「あいよ」
少し低い声の後に一番後ろから、百八〇はあるだろう大柄な男子が前に来る。
佐藤さんや神明君、成山さんは名前を書かなかったが春凪君は丁寧に名前を書いていく。
少ししたら書き終わり、自己紹介を始める。
「春凪神谷だ。誕生日は一月十二日。趣味は人助け、特技は――これといってないが腕っぷしには自信がある。この一年、よろしくな」
春凪君はこの学校の番長。
僅か一週間足らずで、この学校のトップになった男。
顔は強面だが決してブサイクなわけじゃないし、髪も染めたりはしていない。
何でも、小学生の時から大人にもケンカで勝っていたらしく、先程の自己紹介は間違っていない。
だが、彼は任侠があり。
番長になったのもここら辺一体のヤンキーを取り締まる為だそうだ。
そのお陰か人望は厚く、少し素行が悪い所も多めに見られている。
勇人と同じでクラスの中心に居るタイプの人間。
「まっちー、自己紹介お願い」
まっちー、町博君のことだろう。
中性的な顔立ちで、焦げ茶色の髪と赤褐色の瞳が特徴。
身長は一六〇程で、その中性的な顔立ちの所為で女子に見間違えられることもしばしば。
顔面偏差値は六二か三あたりだ。
「町博新人。誕生日は五月一日。趣味はプログラムで特技も同じ。これからよろしく」
町博君は、基本的に無口で知られている。
授業中の会話や意見もメールで済ませてしまうほどだ。
彼は大手のIT企業からスカウトを受けているが、殆どと拒否。
作ったソースコードはネットで有料配布しており、天才プログラマーの名前を欲しいがままにしている。
実際は、本当に趣味でやっているだけで、彼にとって収入は副産物に過ぎないらしい。
「陸ちゃん、カモ~ン」
「はい」
凛とした声が、教室に響いた。
祖母が陸ちゃんと言ったのは陸原さん。
成山さんと似た綺麗な黒髪に青墨色の瞳。
髪は短く、その短い髪をさらに纏めてポニーテールにしている。
身長は僕と同じくらいで一六五か六位、身体つきも出るとこが出ていて美女と言う言葉が相応しいだろう。
顔面偏差値は、言わずもがなカンストしている。
黒板に書かれた字も、大変綺麗だ。
「陸原蓮。誕生日は二月二八日。趣味は剣術で特技も剣術。これから一年間、よろしく頼む」
少し男口調にもにたものがあるが、仕方ない。
彼女は侍ガール、由緒正しき陸原流剣術の師範代。
三歳の頃から竹刀を握り始め、五歳の時にやった練習稽古の時に当時師範代だった父親に白星をあげた。
そこからは、練習でも試合でも負けなし。
天才少女として、幼い頃からメディアで報道される程の逸材。
もう一度言うが、僕帰っていいか?
「我が弟子ルエル!前に来なさい!」
「ハーイ、夏先生」
跳ねるような明るい声を出しながら前に出るのはリーバさん。
金髪碧眼の巨乳美少女。
昔からよくアニメで聞く単語を、自分で言うことになるとは思わなかったが……
リーバさんはまさしくそれだ。
人懐っこい笑みが印象に残る。
髪はツインテールで、腰あたりまでありキューティクル凄まじい。
多分女子でも男子でも触りたくなるほどの、綺麗さだ。
顔面偏差値?カンスト勢に決まってるじゃん!
何なんだよこのクラス‼‼
普通なのって僕や佐藤さんだけじゃん。
「ルエル・リーバです。誕生日は六月三日。趣味はピアノで特技もピアノ。これから一年よろしく~!」
えらいテンションが高いな、しかも日本語ペラペラ。
まぁ、それもそうだろう。
彼女は元々日本に住んでいて、祖母にピアノを教えて貰っていた。
今では、世界中の色々な楽団がスカウトをしに来てるようだが全部断っている。
なに?このクラスの人たちはそういうの断るの好きなの?
理由としては、師匠である祖母が居る日本を離れたくないというもの。
祖母よ、あなたは一体何者なんだ?
孫である僕でさえ、全くもって祖母の過去を知らない。
十五年間一緒に居るが、謎が多すぎる。
僕がこんなことを考えていると、祖母が僕の名前を呼んだ。
「英君、君の番だよ。さぁ、張り切って自己紹介していこう!」
「あ、うん」
僕は席を立って前に出る。
少し緊張するが、今更この程度でウジウジしていられない。
黒板にスラスラと名前を書き、前を向く。
みんなが見ているが、一度深呼吸をして言葉を紡ぐ。
「信濃川英人。理事長である夏の孫です。誕生日は十一月十七日。趣味も特技もこれと言って特にありません。これから一年間よろしくお願いします」
良かった、何とか言えた。
噛まずに言えたことに安堵し、小さく息を吐く。
みんなが拍手をする中席に戻り、僕が席についてそう経たない内に授業の終わりを知らせるベルが鳴った。
「ありゃりゃ、一時間目はこれで終わりだね。二時間目は体育だからね~」
「おばあちゃん、でも体育着持ってない人もいるんじゃ……」
「ああ、大丈夫!これ、用意してあるから」
祖母がそうやってみんなに渡していったのは……迷彩服。
「何故迷彩服?」
誰だか分からないが、僕の言いたいことを代弁してくれてありがとう。
何故か高鳴る心臓の鼓動を抑えて、祖母の言葉を待つ。
「だって、二時間目にやるのはサバゲ―だからね♪」
……今日三度目だが、悪いけど僕帰っていいか?
こうして、D組としての僕たちの有り得ない学園生活が幕をあげた。
因みに席順は男子列、英人・勇人・明夫・新人・神谷
女子列、美海・ルエル・朝日・百合・蓮の順です。