〜やり直したい恋ありますか?〜
誰にでも一度は、初恋の経験はあるはず。
だが、恋をすると人を愛するが故に心に様々な感情が芽生える。
愛情や悲しみや痛みや苦しみ。
でも初恋は、中でも一番甘酸っぱくて苦いグレープフルーツのようだ。
何度も生きていく中で恋をしてその度に味わう事になる恋という名の果実の味。
それぞれに違う香りや味がある。
何度も恋をする事で自分の心の中に塔が出来上がる。色々な果実が積み重なって最後には恋から愛になる。
最終的に、愛する人と巡り合い互いに幸せを創り上げていく。それが結婚だ。幸せだけど平凡な日常。
そんな時に初恋の人と久々の再会。もし、あの初恋を実らせていたら人生はどうなったのだろうか?
私、音羽悠は中学時代の同窓会に参加していた。
沢山のクラスメイトが参加をして、久しぶりの再会を楽しんでいた。
「悠、久しぶり!」
「髪型が違うから一瞬分からなかったよ。」
そう声を掛けられて振り向くと仲が良かったクラスメイトの中原涼子がいた。
「涼子、久しぶりだね!そう、髪伸ばしたんだ。大人っぽくなった?」
「悠じゃないみたい、でも綺麗になったね」
そんなたわいもない会話を楽しみながら友人達と談笑していた。
クラスメイトはほとんどあの当時の面影を残したまま大人になっていた。懐かしい雰囲気が漂う会場で私は、無意識のうちに自然とその姿を探していたようだ。
「悠?どうしたの?さっきからキョロキョロして?」
「えっ?!そんな事ないよ。な、なんで?」
「もしかしたら探してる?彼の姿?」
涼子はニヤニヤしながらこっちを見ている。
「違うよ、そんなんじゃないって。ただ沢山来ているなぁって見てただけ。」
密かに胸を踊らせていた自分が恥ずかしくなった。
確かにホテルの一室を借り切って行われた同窓会。来ているか分からないのに、広い会場であの頃とは違う自分が分かるわけないと。
気持ちを知られないように平静を装うしかなかった。その時に、男性のグループから声を掛けられた。
「よう!久しぶり!誰だか覚えてる?」
「久しぶり!覚えてるよ、陸上部の林君!変わらないね。」
涼子がそう言った時に、私はある人に目を奪われた。「あっ、もしかして千川君?」そう心の中で呟くと、目が合った。
「久しぶり、覚えてる?千川だけど…悠ちゃんだよね?」
「覚えてるよ、千川君、元気だった?」
忘れるわけない。
何十年振りに同窓会で再会した初恋の人。
変わらない面影に、その瞬間にふと想いだした毎日がキラキラ輝いて楽しかったあの日々。
一瞬にしてあの頃の様々な記憶が蘇ってきた。
少し彼と話していると、涼子はいつの間にか何処に行ってしまい二人だけになっていた。
後から知ったのだけど、わざと二人にさせたらしい。
涼子と林君が仕組んだのだ。
実は、卒業してから短いけれど恋人として付き合った事があるのだ。
私と千川君は中学の時から両想いであると言うことは、ほとんどの人が知っていたらしい。
あれから数十年が経ちお互いに結婚して幸せな家庭を持っている事が分かった。
家族の事や、今まであった事、そして恋人同士として付き合った頃の話。
「あの時はなんだかごめん。けど本当に好きだったんだ。」
「謝らなくていい。私も同じ想いだったから。」
あまりにお互いを想う気持ちが強く好きになり過ぎて、好きなのにどうして良いか分からなくて苦しくて悩むのに疲れて私から別れを告げた。
告白して付き合えるようになって嬉しくて毎日がキラキラしていたのに、相手を好きになり過ぎて自分が傷つく事、相手を傷つけるのが怖かった。
あんなに顔を見るだけで、近くにいるだけで心臓がドキドキしたのに、今は普通に話が出来ていた。
そんな想い出に浸っていると涼子が戻ってきた。
「お二人さん。そろそろ二次会に行くけどどうする?」
「あっ、もうそんな時間?
俺は参加するけど、悠ちゃんは?」
「ん〜参加したいけどそろそろ家に帰らないとね」
「そっか、家族が待ってるよね。もう少し話たかった。そうだ、帰りは?途中まで送るよ。」
「悠、ラッキーだね、そうしなよ!」
「涼子ったら、何言ってるのよ。もう。」
「千川君、いいよ、二次会に遅れちゃうしすぐ近くだから平気よ。」
「分かった。なら、今度また集まって飲もうよ!」
「なら、二人ともお互いに連絡先交換したら?」
涼子が言った。
「うん、そうだね、そうしようか。」
メールアドレスを交換して涼子にロビーまで送ってもらった。
寒い冬の空から降り注ぐ冷たい空気を感じ、寒さと酔いで少し頬を染めながら家族の待つ家路を急いだ。
冬の香りを全身で感じるように懐かしいあの頃の想いに浸りながら……
家に着くと夫が起きて待っていた。
「悠、おかえり。同窓会楽しかった?」
「ただいま、とても楽しかったわ。
ありがとう、子供達を見ててくれて。」
「たまには悠も羽伸ばさないと。いつも僕が迷惑かけているからね。」
「じゃあ、先に僕は休むよ。明日はいつも通りだから。おやすみ。」
すると、寝室に向かう夫がそっと悠にキスをした。
「今日は、お酒の味がする。柑橘系?グレープフルーツかな。」
「そう、当たり。流石ね。おやすみなさい。」
悠は、お酒とキスの余韻に浸りながらバスルームへと向かい、バスタブに身を委ねた。
お風呂から上がると日付も変わりそうな時刻になっていた。見ると、スマホにメールが届いていた。
一通は、涼子から、もう一つは千川君だった。
涼子 「おつかれ〜 楽しかったね!
また飲もうね★」
千川「遅くにごめん。今日は会えて楽しかったよ。
またみんなで飲みましょう。」
悠「こちらこそ楽しかった。うん、またみんなで集まって飲もうね!」
二人に同じメールを送り、何気につけたテレビ見ながらあの頃の事を思い出していた。
確かに毎日学校で会えるのが嬉しかった。
ただ単純に好きだと言う気持ちだけで毎日を過ごした日々。
恋の駆け引きや苦さも知らないでいたあの頃。
ふと目あるCMに目が釘付けになった。
あなたには、やり直したい恋はありますか?
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「えっ?何それ?!」
急いでスマホで検索して見ると、特殊なカプセルに入りやり直したい恋の瞬間を思い出すだけで当時の姿になり過去の恋の修復が出来ると言うのだ。
あくまでも恋のやり直しが出来て、気になっていた恋の結末を知る事が出来て気持ちに区切りがつけられるというもの。
過去の恋に囚われ過ぎて新しい恋に進めない人や、
初恋が実らなかった人達を助ける為のサービスらしい。
なんだか怪しい、体験する事で、今までの自分や相手の人生が塗り替えられてしまうのでは?
まさか、本当に過去の時間に戻って恋をやり直しなんてできるの?
そんな事を考えながら悠は子供達が眠る寝室へと急いだ。
次の朝、早く目が覚めると何ら変わらない毎日が戻っていた。
「ママ、おはよう。」
「おはよう、景、凛。ちょうどパンが焼けたわ。」
悠の家ではホームベーカリーで焼き上げたパンを朝食として出していた。子供達は毎日楽しみにしているようで早く起きるようになった。
「わぁ、いい匂い。今日はどんなパン?」
「今日はオレンジピールのパンよ。」
悠は、子供達と夫が食べるスクランブルエッグとスープを用意しながら言った。
その時に夫が起きてきた。
子供達が駆け寄って朝から戯れている。
「おはよう。ほら、早くご飯を食べて学校に行かないと。」
「では、いただきます!」
みんなで囲むいつもと変わらない朝の食卓。
「うん!今日のパンも美味しいね。ママ」
「ありがとう、沢山食べてね」
朝食を済ませ夫は仕事前に必ずシャワー浴びてから出掛ける為、新しい下着とタオルを準備して子供達を見送る為に家の外に出た。
寒い朝だけど、子供達は元気に登校していった。
姿が見えなくなるまで手を振っていざ家に帰ろうとした時だった。
「あれ?!悠ちゃん?」
「えっ?千川君⁈何でここに?」
「最近、家族で引っ越してきたんだ。これから会社に行くところ。」
「そうなの?ご近所さんになるなんて凄い偶然。」
「うわぁ、こんな偶然あるんだね。んじゃ、俺行くわ。」
「いってらっしゃい、気をつけて。」
そう言って家に戻ると、夫がちょうど出勤する時だった。
「行ってくるね、あっ、今日は夜ご飯は食べられないかも。
さっき、トラブルがあったみたいで。ごめんね。」
「そうなの、気にしないで仕事頑張って。
いってらっしゃい。」
そういうと悠は、軽く頬にキスをして夫は仕事に向かった。
いつもの朝のはずなのに、何故だか悠の心は揺れていた。
次に続く。